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「ちょっとは長物なんだから名前の一つや二つつけようぜ?」

「一人ツッコミは健在だね」

燃え滾るソウルがどうしても突っ込まなきゃいけないと俺に訴えたんだ。
俺はそれに答えただけ。こうなることは運命だったんだよ。

「わけの分からなさも相変わらずだね」


お互いに大学生である二人の男女はそれぞれに何かを思いここにいる。
それが何なのかは本人たちにしかわからない。
彼らも今年で大学を卒業する。大学生としてこれが最後の春。
最後の春、と大層に言ったところで彼らにとってはさして重要ではない。
大学生として最後の春とは確かに感慨深いものがあると言える。
しかし彼ら自身、その最後の春でなにをどうこうしようという気はない。
なぜなら来年の春も、再来年の春も一緒にいるだろうから。
春だけない、夏も、秋も、冬も一緒だろう。
季節など関係なしに彼らは彼らだろう。彼と彼女はそういう人種なのだ。
特別なことをしなくともいい。
いつもの喫茶店で、いつもの無駄話で、いつもの二人で。
それだけで最後の春のそれの何倍もの喜びを感じるのだから。
いつまでもあの二人にはそんな二人でいて欲しいものだ。さて。
ずっとここに通っていてくれたお礼だ。コーヒーでもサービスしようか。


「あー苦かった」

「そうかい?苦さだけでなく、言葉では表現しきれない何かを感じたけどね、僕は」

「生憎俺は砂糖と牛乳が入ってるコーヒーが好きなんだ。そこまで余裕に味を楽しめるほどブラックは好きじゃない」

「君らしいね、しかし今度店長にはお礼の意を込めてたんまり注文をとろうじゃないか」

「店長じゃなくてマスターだろ」

「ああ、これは失敬」

数十分前、店の店長がコーヒーをサービスしてくれた。
とびっきりのブラックだったが厚意がブレンドしたあのコーヒーを断れるわけなく。無論断る気にはなれなかったし。
素直に「どうもありがとうございます店長」と二人でカウンターに消えようとする店長に声をかけると顔だけ振り返り笑顔で
「店長ではなく、マスターと呼んでくれないかい?夢なんだよ」
と言いそのままカウンターに消えていった。俺は初めて、これが大人の余裕なのか、と思った。

「君の憧れかい?」

「冗談。それに関しちゃロム専だ。俺はバカやってるくらいが丁度いい」

「…そうだね。君はそれが、丁度いい」

少しはダンディーな俺も見てみたいとかあるんじゃないか?
結局俺はバカやってるのが一番似合ってるってことか。
まあ異論はないけどな。

「とりあえずどうしてだかここにきたわけだ」

「本当に驚きだね。二人で同じところを目指していたのかな?」

「俺はただ歩いてただけなんだが」

「偶然だね。僕もなんだよ」

例の公園だ。夏の夜。数年前。そして去年。
俺たちがいろいろと甘酸っぱいなにかしらをやりあったここ。
桜も咲いて同じ公園だとは思えないここ。

「綺麗だな」

「そうだね」

言葉数も少なに、じっとその公園を見る。
桜の綺麗さだけがここに留まらせているのではなく。
俺たち以外の思い出がここには無数にあるだろう。それが足を止めているのかもわからない。
あの桜の花の数だけ思い出があるのだろうか?

「意外とロマンチストじゃないか」

「たまにはな。いつも俺が俺だったらエンストする」

「なら今の君は君じゃないのか?」

「どうかな。お前にはどう見える?」

「君だろうね」

即答。
メジャーリーグの投手も真っ青な速さの即答。

「そうか」

「ちなみに今の僕も君と同じような状態なんだけど、どう見えるかな」

「お前だな」

即答。
音速も光速ものろまに見えるほどの即答。

「そう」
「…そう」

そう。

「「それくらいが丁度いい」」

盛大にハモり、お互いに少し笑顔になって、それでもまだ公園を見ていた。
ずっとそんなことをしてるもんだから近隣の人たちにからかわれあいつが顔を真っ赤にして逃げるように立ち去ることになったのはまた別のお話し。
そういえば風があれだけ吹いていたのに二人でハモった後から風がなくなったのはなぜだろう。
…きっと空気でも読んだんだろう。あの夏の日と同じように。














「あの二人はわしが育てた」
2009.04.05 Sun l 自作小説 l top ▲
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