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終電も逃し、どうするかと途方にくれていた男。
そんな男はタクシーを見つけた、是が非でもないチャンス。
これを逃すまいと必死に声をかけつつ駆け寄る。
それに気づいたのかどうかはわからないが、そのタクシーは微動だにしない。
男がもうタクシーの傍まで来るとドアが開いた。
これで帰られると男は安堵した。
男はどこに行きたいかを運転手に知らせ、それを聞いた運転手は車を走らせる。
男は暇をもてあます。すると男が話しかけてくる。

「お客さんずいぶん遅いね」

「少し残業がありまして」

「それはそれは…」

それで会話は終わった。また沈黙が舞い降りる。
何の気になしに車のラジオから流れてくる音に耳を傾ける。

『今日都内の刑務所から囚人が一人脱走しました』

都内、一応ここも都内だ。
出会わなければいいのだけれど。

「物騒ですね」

「困ったものです」

その後もラジオに耳を傾け続ける。
その男はかなり屈強で、残忍で、人を殺すのが好きだそうだ。
しかもあっさり殺すのではなくじわじわ嬲って殺すのが好きらしい。
逃走はおそらく車ではないかとラジオは言っていた。
最後にその男の左頬には傷跡があるそうだ。
俺はついつい口から感想をこぼしてしまう。

「こういうバカはさっさと死刑になればいい」

「そうですか?」

「ええ、だって社会にいてもなんの役にも立たない、むしろ害悪。さっさと死んだほういいですよ」

「お客さん、結構いいますね」

「だって本当のことじゃないですか、どうせロクな親に育てられてきてないんでしょうね」

「ハハ…」

運転手が一息ついてまた始める。

「ああ、すいません。少し寄るところがあるのでいいですか。すぐに済みます」

「お金は?」

「その間の料金は請求しません、なんなら千円引きでいいですよ」

「それはありがたいです、どうぞどうぞ」

「すいません」

そういって運転手はどんどん人気のないところへと行く。
こんなところに用などあるのだろうか?あったとしても何の?
男はずっと不思議に思っていた。
そんなときに車は止まった。とても用がありそうな場所ではない。

「どうしてとまるんです?」

「ここらでいいんですよ」

「ここらで、いい?」

「ああ」

その顔がこちらを振り向くとき笑った。その左頬には傷跡があった。
よく見れば屈強そうでもある。

「悪かったな、社会のゴミで」

「あっ…あっ…」

運転手は車から降りる。男は恐怖で動けない。
ゆっくりとゆっくりと運転手は歩く。そして後ろのドアを開けた。
その夜、泣き声か鳴き声か判別できぬ叫びがどこぞで木霊した。


数日後、男の死体は発見された。
その近くにタクシーはなかった。
2009.10.26 Mon l 小説 l top ▲
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