久々に伊織。
「いやあ、らぶChu☆Chuしてよかった」
「またその類のゲーム?」
「伊織もやるか、ちゅっちゅするか?」
「しなわいよ、なんで私がしなきゃいけないのよ」
「こんな可愛い子達とちゅっちゅしないなんてとんでもない!」
「どこぞの道具屋みたいなこと言ってないでよね」
「…」
「な、なによ?」
「伊織も俺の言っているネタがわかるようになったなーと思って」
「そりゃ、あんたが懲りずに何度も言うからでしょう」
「ごもっとも、でも嬉しいな」
「嬉しい?」
「いやさ、前の伊織だったらくだらないの一言で一刀両断ではい終わりだったのにさ、俺なんかの言葉ちゃんと聞いててくれてるんだと思ってな」
「…話くらい聞くわよ」
「本当に俺のつまらない話でも聞いてくれるなんて。なあ伊織」
―――彼女になって欲しい。
―――俺の妻にならないか?
―――ずっと一緒にいてくれ。
―――幸せにする。
―――結婚して欲しい。
違う。彼は、こいつはきっと。
「お前はいい女になったな」
―――いい女になったな。
「…当然、水瀬伊織の進化はまだまだ止まらないわよ」
「おおこわいこわい」
「ていうかいたいけな少女捕まえていい女ってどうなの?そのうちでセクハラとかで捕まるんじゃない?」
「俺は事実を言っただけだ!」
「それがセクハラにならないとは限らないわよ」
「…これからは十分言動には気をつけます」
「それがいいわ」
結局あれは私の妄想。
そうなればいいと思う、自分勝手で、弱い自分の幻。そうなって欲しいという願い。
でも私は諦めない。この自分勝手で、弱い自分の幻を幻で終わらせない。
妄想で終わらせなんかしない。
願いは、かなえるためにあるんだから。
いつか、いつの日か、言わせてみせる。
だからこそ私の進化はまだ止まらない。
あいつのために人生をかける自信はあるの?
弱い私がそう呟いた。だから言い切る。
他に人生をかけるに値するものなんてないわ。
「…い、おーい、伊織?」
「…」
「うおっ、いきなりなにいい顔してんだ?」
「別に、ほら行くわよ」
「お、おう」
「ああそうだ、あのね、私―――」
「ん?」
「あんたのこと、嫌いじゃないわ」
「はあ?」
「たまには裏を考えてみなさい」
「はあ…」
「それじゃ先行くわね」
事務所を駆け下りた。なぜって、それは。
「…伝わったかしら?」
顔が、もう真っ赤だったから。
でも私にしては上出来じゃないかな。
素直じゃない私にとってこれが今踏み出せる最大の勇気。
あと、言わせてみせるのもいいけど、いつかは。
「好き…」
いま呟いた言葉をあいつに言いたいな。
「裏に考える、ね。嫌いじゃないの裏、好きってことか?それじゃ…あんたの裏ってなんだ?」