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増量中、といっても大した量じゃないですが。追記は、ss並みの短さですが長編アイマスです。
「私のプロデューサーになりなさい」

「断る」

 ここから始まる一つの形。それは二人の物語。
 二度と始まることはない伝説の始まり。

 冬を超え生命の息吹芽吹き、活発になる四月。そこらにはちらほらとコートだったり半そでだったりとしている。その中に男が一人。そこだけが冬から抜け出れなかったと錯覚を起こすほど彼の周りは暗かった。だから皆彼を無意識のうちに避けるのだ。誰も春の季節に陰気に近づきたくないのは当然だ。
 行く当てもないのかどこへも行かぬ、行けぬ足取りで前進する。あれを前進というにはあまりに不自然だが。どこへ行きたいのかその目的すらないものに前進の二文字はあるのだろうか。それでも男は歩くことを諦めず、うつろな瞳を両の目に宿して漂う。生ける屍。
 
 それは何時間たったのだろう。休むことなく絶えず漂い続けた男が辿りついたのは彼にとって過去の場所。周りに立ち並ぶ高層ビル群に負けず劣らず大きくなった事務所があった。そこでふと立ち止まる男の目は、活力を取り戻すこともなかった。ただ無表情で、そこにはなにもない虚空を見つめるがごとくそれを見ていた。その男を見て不気味だなどという声が聞こえてくる。またこんな声も。

 なんであいつが…。

 その声がした方向にゆっくりと顔を動かす男。その視線の先にいたのはスーツを着た会社員らしき男二人だった。男の視線が不気味だったのか、はたまた別の理由があるのか男達は目を逸らしそそくさと事務所の中に逃げていった。ここでの彼の扱いは亡霊のようではなく亡霊らしい。この場所でなにを亡くし霊になったのか。
 やがて彼はまた歩き出した。もう居場所も用もないこの場から立ち去ろうとしたとき後ろで大声が聞こえた。若く、十六、七の少女の声。男にはそれが一発でわかった。それと同時に彼の足がここにきてやや早くなったのだ。
「私はやめる、こんなところでやっていられないわ!」
「そんなこと言わずにさぁ…お願いだよ~」
「お断りします、それじゃ」
 そう言って踵を返した少女が歩く方向には男がいる。後ろから舌打ちも聞こえていたであろうが男を見た少女にはなにも聞こえなくなっていたし見えなくなっていた。途端駆け出し全速力で男を止めた。が、前に立たれても男はなにもなかったように歩く。それならと言わんばかりに肩を掴む。さすがの男もこれには内心驚いていた。
「…なにか?」
「…」
 人を捕まえておきながら何も言わず黙しこむ。少女と亡霊の構図があまりにも滑稽で周りの人間達は口々を押さえながら笑いを漏らしていた。あまりにも長い黙考なので歩き出そうと男が足を踏み出そうと無意識にしたときだ。
「あなた、私のプロデューサーになりなさい」
「断る」
 即答する。理由はある単語に反応したから。それにだけは二度と関わらないと男は決めていた、だから即答できたのだ。
プロデューサーなどもう真っ平ごめんだったのだ、彼には。
もうそんなものに関わりたくない。関わる気もない。どんなに金を積まれようとどれだけいいアイドルのプロデュースだったとしてももうやらない。
 軽い吐き気を覚えた。暗い憎悪が膨らんできた。
 それを知らずとて勇ましく男を引きとめようとする少女。あまりにしつこい。その少女は決して引きはしない。顔は見ていないが男にはそれがわかった。それと同時にこうも思った。

 こいつはアイドルでもなんでも、成功する。

 と。
 そう思ったことに重度の嫌悪感を覚えた。そんなことを考えることはない、考えたくもないのに体が、脳が勝手に計算する目測する感ずる。反吐がでる。
 そんな自分を振り払うため、その場から逃げるために男はまた歩き出す。無論、少女の申し出に応じるつもりもない。少女ほどならば誰がやっても大そうなアイドルになる。だから構わないし、構って欲しくないのが男の本音。
 歩き出してからすぐに少女の声は聞こえなくなった。諦めたか、と思った矢先男の体を衝撃が走った。腰を中心として上下が反り返る。何が起きたかわからなかった。そのまま前のめりに倒れそうになるのを腕でカバーしようとするが腕が動かない。結局そのまま抵抗することもできず盛大に顔を打った。
 頭の中で嫌な思い出がフラッシュバックした。ああなんて最悪の日なのだろう、客観的な感想しかわいてこなかった。いっそこのまま息絶えるのも悪くはない、とさえ思った。
 しかし死ぬことはならず多量の鼻血を出している以外はなにもなかった。悪運も考え物だ。
不慮の事故で死ねたらそれはどんなに幸運か、いやいまはそれどころじゃなかった。いきなり体当たりをしてきたこの少女をどかさなくてはいけなかった。腕が動かなかったのは腕ごと抱きつかれた状態で体当たりされたからだ。
「どけ」
「いや」
 短いやりとりだった。両者互いに簡潔に述べたがゆえ、それ以上の会話はなかった。二十歳にも満たない少女と亡霊のような浮浪者のような男の組み合わせはそれは言葉では表現しきれない不自然さ、不気味さを持っていた。
 それでいて、お似合いだった。
 男が無理やり少女を引き剥がそうとする、それに抵抗して少女は余計に腕の力を強める。いい加減うんざりそうな男はそれでもそれ以上力を込めようとはしなかった。それは何故か、自分自身でわかったとき虫唾が走った。まだそんなことを考えてありする自分自身がたまらなく嫌になった。
「不器用な人」
 心を見透かされた気分になった。この少女は只者じゃないと男は直感した。だからこそこうも思った。この少女に近くづくのは危険、自殺行為。危ない、危ない危ない危ない危ない。心がおかしくなりそうだった。あれはそれほどのトラウマだったんだろうか。
「じゃ今日はまだいいわ。連絡先だけ教えてよ」
 見ず知らずの、それも年上の身なりも整ってない男にあまつさえ連絡先を教えろ、と。いろんな感情を押しのけて男は心の中で笑ってしまった。それは薄く儚くすぐにでも消える笑い。その笑いがどれだけ久しいものか、彼自身にもわからなかった。それに男には考えがあった。ここで連絡先を渡してしまえば今は解放されるのだ。今さえ終わればあとはどうということはないだろう。これでやっと終われるのだ。
「とりあえずこれが私の連絡先ね」
「いらん」
 受け取りを拒否し、自分の連絡先を後ろのポケットに入った紙とペンでさっさと書いてぶしつけに押し付けた。その連絡先は偽りではない。偽りを書いて渡せば。
 無機質な着信の音が聞こえた。
「どうやら本当の番号みたいね」
 いつ出したのか、自分の携帯から男の携帯に電話したようだ。こうなることは、それはきっと必然だろうと予測した上で男は本当の番号を教えたのだ。これ以上ここでこじれるのもうんざりだった。
「電話の電源はなるべく入れておいてよね、それじゃ」
 さっきまでの怒涛の追撃は嘘だったかのように少女はその場から去っていった。あれの神経の太さは並ではないだろう。どれくらいか、アオダイショウほど太いか、あるいはもっとか。ともかくとして男もその場を後にした。二度と来ないと誓って、決してそこに足が向かわないように祈り誓った。

 あれは少し私でも驚いた、自分自身に。
 でも見つけたそのときから、視界に入った瞬間から私は動いていた。きっとこれは私の直感。
 もう、くることはないという直感。
2010.04.27 Tue l 自作小説 l COM(0) l top ▲

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