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ssフィールド、全開!
その後もいろいろ部屋を見回ってみたがどこもかしこも見慣れるのものばかりで困惑したため広い部屋にあった椅子に掛けていた。そのまま只管ぼーっとしていることしかやる事がなかった。いつしか外は暗がりに近づき、静寂が永延続くかと思われたその時。
 ピンポーン。
 さてはてまた謎の音だ。あの謎のめざましを出していたものとは違う。連続しないしさほど耳障りでもない。ちょっと愛着がわくような音だ。と思ったら。
 ピンポンピンポンピンポンピンポーン!
 連続ではなく今回は断続的なものなのかもしれない。それにしても一体いくつの音に悩まされればいいのだろうかと頭が痛くなってきた。頭を抱えながらどうするべきかと考えていると声が聞こえた。
「おーい!中にいるんだろーあけてくれー」
 彼女の声だ。今朝ほどはっきり聞こえない。その原因が起こりうる可能性を考えたところ一つ思いついた。だから私は今朝彼女を見送った扉の前へと向かった。
「あーけーてー」
「自分で開ければいいのではないのですか?」
「今朝急いでて鍵を忘れたんだよー!いいからあけてよー!」
「鍵、ですか?」
「そう、だから扉のかぎ掛けてないの」
「それだとなにか困るんですか?」
「ええ?いやだから鍵がないから入れないの」
「どうして?」
「そりゃだってしまってるもん」
「そうなのですか?」
「だって鍵忘れてかぎかけてないからそりゃ当然閉まって…あれ?」
「?」
 彼女の声が止まって代わりに扉が開く。入ってきたのは今朝みたままの彼女だった。
「…なんか勘違いしちゃってみたい」
「はあ」
「ま、まあこんなこともある!なんくるないさ!」
「…面妖な」
 なにはともあれ、彼女にはいろいろと聞いておきたい。ここがどこなのか、なぜ私と一緒にいるのか、見知らぬものについても質問は山積みだ。そんな私の心はお構いなしに靴を脱いで廊下に上がってそのまま広い部屋へと消えていってしまった。私はというと扉の前で置いてけぼりをくらってきょとんとしている。
「素通りとは、なかなか心にくるものがありますね」
 それだけ呟いて彼女のあとを追う。部屋に入れば今朝と同じ位置に彼女は立っていた。なにやら長い筒状の中身を確認しているようだ。
「何をしているのですか?」
「ん、ああ。今朝慌てて確認できなかったから、すぐにでもってずっと思ってたんだ」
「何か入っているのですか?」
「うん、自信作のカレーがね」
「かれえ?」
「…今朝から思ってたけどいまいち話が噛みあわないぞ」
「ああ、それについてなのですがいろいろ質問してもいいでしょうか」
「あそっか。自己紹介もろくにしていないよね」
「いやそれはいいのですが…」
「自分の名前は我那覇響。響って呼んでくれたらいいさ」
「はあ、私の名前は四条貴音です」
「はへー、なんだか綺麗な名前だな」
 この名前は一般的な名前だから安心して使うといい、と記憶のどこかで覚えていたのでそれをそのまま使った。でも私の名前は四条貴音ではなかったような気がする。というか先ほどから全ての記憶に靄がかかっているようにはっきりとしないことばかりだ。誰に言われたのか、どうしてそう思うのか、それが思い出せない。
「それにしても驚いたよ、君そこらの道端に突拍子もなく倒れてたんだから」
「私が、ですか?」
「うん、最初死体かと思って逃げちゃった」
「どうして帰ってきたのです?」
「んーもしかしたら生きてるかもしれないって思ったらさ、怖いって思うよりも助けなきゃって思うようになって、それで戻ったら君は普通に寝ているだけだった。さすがにこのまま放置というのも酷いから家に連れてきたってわけ」
「そんな経緯があったのですね…つまり響は私の恩人、ということでしょうか」
「い、いやいや!そんな大したものじゃないから!」
 とは言うもののなんとなく照れているように見える。可愛らしいものだ。そして私はこの笑顔に見覚えがあるような気がするがやはり記憶は役に立ってくれない。思い出すことはできなかった。
「ともかく、ありがとうございました」
「ど、どうってことないさ、あはは!」
「でもどうやって私運んだのですか?背負って、というのもかなり骨が折れそうですけれど」
「ああ、それはこの子に礼を言ってあげて」
「この子?」
 指されたほうを見ると四速歩行の毛むくじゃらの生き物がそこに座っていた。白く、かなり大き目のその生き物はずっと私を見てくる。なんとなく不気味だ。
「自分が飼ってる犬で、イヌ美って言うんだぞ」
「いぬのいぬみ?」
「うん!すっごく頭が良くて、おまけに体もでかいからすごいんだぞ!」
「はあ」
「この体の大きさを活用して君、じゃなくて貴音を運んでもらったんだ」
「そうなのですか。ならばお礼を言わなくてはなりませんね」
 ただどう礼を言えばいいのか、果たして通ずるのかよくわからない。だがこの生き物に助けられたのは本当らしいのでやはりお礼はするべきだろう。
「お礼なら頭をなでなでするとすごく喜ぶよ」
「そうなのですか、では失礼して」
 少し戸惑いながらもそっーと手を頭へとやる。その間ずっと手を見られるのでいささか怖かったが無事に頭へと手を置いた。そのままニ~三度頭をさすると、イヌ美と呼ばれたこの生き物はとても気持ちよさそうに目をつぶりながらくぅーんと鳴いた。これは。
「かわいい…うふふ」
「やっぱりイヌ美はかわいいんだなーほーらよしよし」
 響も手を伸ばしてイヌ美の頭をなでるとまたも気持ちよさそうに鳴いた。それを二人で聞いて向かい合って笑った。
「それよりも、もしかして君、じゃなくて貴音って記憶喪失だったりするのかな」
「記憶喪失、ですか」
「普通の人なら知っているようなものとか全然知らないようだったからもしかしたらって」
「確かに、記憶に靄がかかっているように思い出そうとしても思い出せないこともあります」
 とは言ってもそもそもこのイヌ美に関しても家に関しても知らないことのほうが圧倒的に多いのだがここは記憶喪失っということですべてまとめておいたほうがごちゃごちゃしなくて済むだろう。あながち記憶喪失というのも間違いではなさそうだし。
「んーそれじゃ自分の家とかわからないのかな」
「残念ながら、そのようです」
 これに関しては嘘ではなく本当に思い出せなかった。
「それじゃ家に帰るのもままならないね…」
「そのようです」
「落ち着いてるね」
「その現状が信じられなければ信じられないほど落ち着くものです」
「なんとなくわかるけどね、でもこれからどうしようか?」
 響の言うとおりだ。これからどうするのか、さっぱりわからない。なにか目的があったような気がするのだが例のごとく思い出せない。そして帰る家もわからず、にっちもさっちもいかない八方塞状態だ。
「ともかくいつまでもここの厄介になることは悪いですね」
「悪いってことはないけどね、しばらくはいてもいいさー」
「そこまでされるほど私は貴方と仲が良かったのでしょうか?」
「いいやまったく赤の他人だけど、困ってる人をほっぽりだすのも気が引けるしさ」
「お人よしなのですね」
「こっちの人が冷たすぎるだけさ」
 こっちの人の意味はわからなかったがどうやらここにしばらくはいてもいいとのことらしい。素直に響に感謝すべきだろう。
「ではお言葉に甘えて、しばらく居候させていただいてもよろしいでしょうか?」
「なんくるないさー!」
「助かります」
「ちょうど部屋も余ってたし、丁度よくなったよ」
 そう言って笑う響の姿をどこかで見たような気がしてならない。ただの既視感だろうか。
「そうだ、貴音お腹減ってない?」
「いえ特には…」
 くぅううううう
「…減っているようです」
「あはは、倒れてたときから何も食べてないだろうしそりゃ減るよ」
「すいません」
「謝ることじゃないぞ、それにまたまた丁度カレーを作りすぎちゃってね。一人でどう処理しようか悩んでたところさ」
「かれえ、ですか」
「料理の名前とかも覚えてないのかな?」
「ええ、恐らくは」
「それは大変そうだな…まあ自分のわかる範囲でいろいろ教えてあげるからなんくるないぞ」
「恐縮です」
「でも難しい言葉とかは覚えてるんだね、あはは」
 そう言ってまた長い筒状の物体の前に戻った響が手招きするのでそれに従う。
「これがカレー、まあ食べ物だよ」
 かれえと言われた食べ物はかなり濃い匂いがするもので最初は鼻にツーンときたが慣れてくるとても食欲をそそるものへと変わっていった。
「どう?美味しそうじゃない?」
「はい、とても」
「そうでしょそうでしょ!よーしそれじゃいまからよそるからそっちのテーブルで待ってて」
「はい」
 言われたとおりてえぶるの椅子に腰掛ける。先ほども腰掛けていたのでほんのりと温かい。丸型のてえぶるの真ん中にはイヌ美によく似た物体が置かれていた。なんとはなしに撫でてみたが反応はなかった。
「それは人形だからイヌ美みたいには動かないよー」
「にんぎょう」
「さすがにそれ以上説明しろと言われても自分にはできないな」
「いえ、なにからなにまででは迷惑でしょうから簡略的で構いません」
「そうだと助かるぞ、ちなみにそれ自分が作ったんだぞ。モデルはもちろんイヌ美!」
「そうなのですか、お上手なのですね」
「えへへ、それほどでもあるぞ!」
 照れながらに響はてえぶるの上に二つ、かれえがよそられたお皿をコトンと置いた。かれえだけではなく白い粒のようなものも盛られていた。
「この白いのは?」
「お米も覚えてないのか?カレーと一緒に食べるもので日本人の主食だよ」
「にほんじん、ですか」
「貴音は外人なのかもね、日本人っぽくないし」
「そうなのですか」
「うん、だからお米自体を知らないのかも」
「ふむ、ともかくこれは一緒に食べればいいのですね」
「うん」
「でもどう食べるのでしょう?」
「そこからかーまるで赤ちゃんみたいだな」
「すいません」
「ああ責めてるわけじゃないよ、ちょっと面白くてさ。それで食べ方だけどその銀色の、あるでしょう」
「これですね」
「そうそう、それスプーンって言うだけど、えっーと…実際に自分が食べるから真似して食べてみてよ」
 そう言って響はすぷうんを手にとってかれえとお米を一緒に掬ってそれを口へと運んでぱくっと食べた。その後美味しそうな顔でほっぺを抑えてうーんとか唸っている。
「おいしいー我ながらいい出来だぞ。っとまあこのように食べるのさ」
「が、がんばります」
「あはは、そんなにがんばることじゃないって」
「では、参ります」
「どうぞー」
 同じようにすぷうんをもってかれえとお米を掬ってそのまま口へ運ぶ。口の中に広がる味はいつも食べていた木がする質素な味ではなく少し刺激的というかそんなものに近い濃い味だった。美味しい。素直にそう思った。そして私は慌てて、ほっぺを抑えた。
「ぷっ、あははは!」
 響が急に笑い出した。何か間違いでもあったのだろうか。気分が一向に落ち着かない。
「ほっぺを抑えるまでは真似しなくてもいいんだよ、掬って食べるまででいいんだぞ」
 咀嚼を繰り返して、その間も刺激的な風味は衰えることはなかった、少し名残惜しいが胃へと飲み込んだ。お腹のサイレンが少し弱まった気がした。
「そ、そうだったのですか」
「でもまあ笑わせてもらったよ」
「響を笑わせるためにやったのではないのですが…」
「細かいことはいいからさ、これで食べ方はわかったよね」
「はい」
「それじゃ改めて、いただきますをしよう」
「いただきますとは?」
「食事をする前にするお祈りみたいなものさ」
「それをしないと食べてはいけないのでしょうか」
「しなくても食べれるけどなんとなく、習慣って言うのかな?」
「ふむ、では郷に入りては郷に従え」
「ほんとに難しそうな言葉だけはやけに知ってるよね、ハーフなのかな」
「ハーフ?」
「外人と日本人との間に生まれた人のこと」
「はあ」
「まあ知らなくてもいいんじゃないかな、とりあえずいただきますしようか」
「わかりました」
「それじゃいただきます!」
「い、いただきます!」
2010.10.23 Sat l 小説 l COM(0) l top ▲

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