上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.-- -- l スポンサー広告 l top ▲
一方がそう思うとき、もう一方もまたそう思っていることは多い。

「ねぇ、プロデューサー」

「何だ?」

「やけに素直に聞き入れるのね」

「真面目に話を聞いて欲しいとき伊織は俺のことをプロデューサーって呼ぶからな」

「…よく知ってるのね」

「伊達に水瀬伊織という暴れアイドルを乗りこなしてないからな」

「あはは、そうね」

「話と言うのは竜宮小町の件だろう」

「うん」

「結論から言うなら社長の言ったことに反対する気はない」

「つまり私に竜宮小町に入れってことね」

「そうだな」

「それは」

「プロデューサーとしての判断だな」

「…そう」

「…竜宮小町は可能性、確実性と共にトップクラスのトリオになるだろう。プロデューサーも律子と来てまさに鬼に金棒状態だ。俺が社長の立場でもそうせざるをえない」

「遊びじゃないものね」

「そうだ。お前達アイドルも俺達プロデューサーや事務員、765プロ全体は遊びなんかじゃなく営利目的をちゃんと持っている会社だ。遊びであるはずはないな」

「そう、ね」

「だからこそプロデューサーとして言う。伊織、竜宮小町の件は受けろ」

「…」

「ソロでは体験できない難しさ、楽しさも味わえる。それはアイドル水瀬伊織にとって更に輝けるアイドルライフの軌跡になるはずだ」

「うん」

「竜宮小町の件についてプロデューサーからは以上だ」

「…」

「何か質問はあるか?」

「…」

「…」

「…でも」

「…」

「でも、もうぞのみぢに、ぐずっ、わたじのきぜきにはあん、たがぁいないっ」

「…」

「わたじだってそうじなきゃっておもっ、ずっ、おもってる、けどぉ、ずぅっ」

「…」

「あたまでばわがっでい、いいでぇもぉっごごろが、ぁみどめでくれなぐでぇ」

「…」

「わだぢは、わだ、ぢばぁ!みなじぇいおりはぁっ!あなたといっじょにずっどがんばっでいぎだいでずっ!」

「…」

「うぅ、あああああ、うええんぅ、ああああああああ」

「…そうか」

「ぞう、でずぅぅううぅぅ」

「だけどやっぱり今伊織は竜宮小町に行くべきなんだ。俺はこれは避けて通っちゃいけない道だと思う」

「でもおぅずっ、でぼぉおおぉお」

「俺と伊織は長くいすぎた、熱湯もいつかはぬるま湯になる。伊織はそれじゃだめなんだ」

「でもやっばりぃ!」

「伊織!」

「うっ!?」

「これは、超えていかなきゃいけない壁なんだ。水瀬伊織が水瀬伊織として認められるためにはこの壁を越えなきゃならない。だが一歩さえ踏み出してしまえば伊織は壁を超えられる。だから今一番重要なのはその一歩を踏み出すことなんだ」

「うぅ、ずっ、ううぅ」

「いつかは見慣れた風景、光景から旅立つときがある。伊織の場合はまさにそれが今なんだ。だからこそ伊織、ここがお前のアイドル人生のターニングポイントだ。自信も勇気も、これまでのお前の全てを持って堂々と胸を張って新たなステージに立ってこい」

「あらだな、ずでーじ…?」

「そうだ。俺とお前じゃ見れなかったステージを見てくるんだ。そこから見えるものは俺じゃ見せてやることができなかったすばらしい光景が広がってるはず。より俺が求めていた水瀬伊織に近づけるはずなんだ」

「…」

「だから頼む。竜宮小町に行ってくれ、伊織」

「…」

「そして…また帰ってきてくれ」

「ぇ」

「これは我侭な俺の意思だ。願望だ。思いだ。行けと行った後に帰ってきてくれなんていう頼みがお門違いなのは百も承知だ。だがそれでも、また帰ってきて欲しい。その時は今度こそ一緒にトップに行こう」

「ほ、ほんど?」

「ああ」

「じゅっ、ほんとにぃ、ほんと?」

「ああ」

「ほんとのほんとのほんど?」

「ああ」

「…うん、わかっ、た」

「ありがとう。こんな我侭な俺の言葉まで受け取ってくれて本当にありがとう」

「う、うん。わたしはそのことばが聞けて、ほんとうに嬉しい。こころの底からあなたの口から聞けてよかった」

「そうか」

「…うん。うん、私、がんばってみる。あの三人と一緒に竜宮小町であなたとじゃ見れなかったもの、あなたの分まで見てくるから。だから待ってて」

「ああ」

「絶対、絶対帰ってきて、パーフェクト水瀬伊織になって帰ってきてまた一からあなたとやり直す。だから私のこと見てて、待ってて」

「ああ」

「絶対だよ?」

「いろいろ守れなかったものもあるけどこの約束は何が何でも守る」

「…うん!それじゃ私社長に伝えてくる。竜宮小町に入るって、その後またあなたとやり直すって」

「ああ」

「だから最後に、しばらく会えないから今の私とあなたの最後に、手を握って欲しい。痕になるくらい、痣になるくらい、骨が砕けてしまうくらい強く」

「ああ」

「…」

「…」

「うん、これでもう大丈夫。もう行ける」

「ああ」

「じゃ今の最後は笑ってお別れしようね、とびっきりの笑顔で」

「ああ」

「…プロデューサー」

「何だ?」

「…まだねっ!」

「…また、な」


初めて見た伊織だった。プライドも何もない只管に子供のように泣く伊織。
戸惑っていたと言われればそうだし、動揺したと言えばそれもそうだ。
だがなんとかこういう形で無事に終わった。自分を褒めてあげたいくらいだ。
なのに、なのになぜだろうか。涙をせき止めることがもうできなかった。
伊織の前、という前提が破綻した途端に涙が止まらなかった。
泣くまいと思っていた。彼女が去っていた後も、絶対に。
だが…

自分の力じゃ伊織をトップにさせることができなかったことが。
悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて。
最後の最後で本心を吐露したことを言う必要があったと自分で慰めていることが。
悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて。
何よりも。
伊織を。
傷つけたことが。
泣かせてしまったことが。
悔しかった。

泣いて泣いて、永延泣いた。
ただ一つだけ泣きながらも決意した。
伊織との最後の約束。
絶対に破らない。
絶対に、守ると。
涙と共にそう誓った。
2010.11.09 Tue l 自作小説 l COM(1) l top ▲

コメント

お礼に
う~ん、二度と伊織をプロデュースできないんですけどね~。

伊織がなぜ嗚咽する姿に萌えるのでしょうかね~。
慟哭、号泣、 悲嘆――伊織は純白だから涙が美しいのでしょうか。
ポエティックな形式、表現がいいですね!
2010.11.12 Fri l 月の輪P. URL l 編集

コメントの投稿












       
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。