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2010/12/07 (Tue) 隣に…

そうしていた私は、そうされることに慣れていなかった。

いつの日か。秋の夜、少し肌寒い風と乾いた空気が一層この辺り一帯を現実とさせていたその日、月だけは幻想的だった。
角一つ無い丸みに痣のような模様は今日もこの生々しい世界を照らしていた。
その光はその生々しさを浄化することはない、ただただ照らすだけだった。
そんな薄く広がったスポットライトの下、一人銀髪の少女が立っていた。立ち尽くしていた。
そこから動いてはいけないと母親に言付けされた子供のように動く気配も揺らぐ気配は毛ほどもなかった。
時たまそよぐ風に幽霊を思わせる動きで銀髪が流れる。
その様はとても同じ現実のものと同視することは出来なかった。
絶対的、圧倒的なまでの存在感のその少女はしかし泣いていた。
それは更に彼女を人間離れさせている様に感じさせる。
だけど、気がつけば私はその少女を抱き締めていた。
話しかけず気づかれもしないうちに両腕と身体で出来うる限り優しく力強く抱き締めた。

おっかなびっくり抱き締めた。

四条貴音、少女の名前はそう言うらしい。
普遍的なものでありながら彼女が身にまとうことでどこか高貴な名前のように感じられる。
私は何故泣いているのか、聞かず名前だけを聴いた。
それに答えた彼女の口からは、透き通るという生半可な言葉すら似合わない声で四条貴音、とだけ紡ぎだされた。
ずっとずっと遠くまで泣いていた四条貴音、そして名前を応えてくれた四条貴音とはその日それだけだった。
本来なら彼女と私の縁はここで断ち切られていなければおかしかったのかもしれない。
でも私はもう一度、彼女と出会った場所へと、気がつけば、いた。
不思議なことに彼女はその場所にいないことはなく、私がいると彼女も必然の如くいたのだ。
待ち合わせも、さほどの面識もないのに私達はずっとそこにいることを共有しあった。
時に彼女は泣いていてそれを私は思うこともなくただ抱き締めた。そうしなくてはならない、と強迫観念にも似た思いと共に。
髪の毛だとは思えないさらり艶やめかしい頭を毛髪を撫でながら、安らかに眠れるように優しく頭を預けさせていた。そんなことがもう一ヶ月も続いている。
突然だけど、私はそうしてもらうことがあまりなかった。
その異常な一ヶ月でも、そうすることはあっても、そうされることはなかった。
理由もないのだから当たり前といえば当たり前。そうされる前提がないのにその過程や結果があるのはおかしな話だ。でも今日の私は違ったらしい。気づいたら、いや彼女にそうされるまでわからなかった。私は抱き締められていて
泣いていた。
知らず泣いていたのだ。
そこにいられるのに耐えられなかったかのように零れ落ちる大粒の涙は頬を伝い顎へ導かれそうして落ちる。そうなってしまったことに、皆目検討もつかない私はただ唖然と彼女の胸の中で目を見開くことしか出来なかった。
彼女の抱きしめ方はぎこちない。私のようにきっと上手くないだろう。考えて、わかって、顔が、歪んだ。
呆然としていた私の顔はぐしゃぐしゃに歪んで、歪みからは歪な嗚咽が漏れ出した。
生きていた中で間違いなく一番の嗚咽を、名前しか知らない少女へと、自然に漏らしていた。
今の私はどれほど汚く、醜いかわからないが少女はそれでも私を抱き留めた。ぎこちなさは拭えなく抱き留めた。でもそれは上手下手とかではない。
確かに私は彼女よりも誰かを上手に抱き締めることが出来る。けどそれが何だって言うんだろう。
抱き締めることに意味があるのに、上手や下手に意味はないのに。安心させるのが上手とか下手?
でも私はこのぎこちなさの果てが見えそうに思える抱き締め方で心底安心している。だから自分が気づかないうちに涙だって流れていたんだから。
でもいつからか私は抱き締めるのが上手くなっていた。
そうすることが単に多かっただけだから、と言えばそれまでだけど私自身それを望んでいたかと言うときっとそうでもない。
ただ私の周りにはそうする人がいなくて受動的に私はそれを受け持っただけ。それにも気づけず、知らずの間に私は私が嫌いになっていたんだ。
他人を嫌うよりも私を嫌うことのほうが私にとっては楽だったから。自分でも気づかないうちに崖の淵でふらふらと踊るほどの危ういところまできていた。
そこで出会ったのが彼女、四条貴音。あの日、私は知らずの間に彼女を抱き締めていた。自分が出来うる限りの最大限の優しさと力強さ、つまり上手さで。
やろうと思わなくても骨身に染み渡るその動作を。ただ一つだけ違っていた。
抱きしめたのは受動的にではなく、自分の意志だった。
確かにそうだった。自分で彼女を見つけて、観察して、想って、歩み寄って、抱き締めた。
そこには他の概念、思想はなく自分の意志だけが充満していた。いくら観察して、想ってみても彼女が何故泣いているのかわからなかった、けれど歩み寄って抱きしめたのはそうしなきゃいけないと自分の心で決めたから。
あれは他者による強迫観念ではなく、自分で自分を動かそうとした自己思想のものだった。こうして私はあの秋の夜の日久々に、或いは初めて人を抱き締めたのかもしれない。
ならばどうして今泣いているのか。
気づいたところで今までの過去は消えない。つまりそれまで私が私に対して作った傷跡は存在しているし、限界まで自分が嫌いだったのだから泣くのは至極当然のこと。
今までそうしてきたこと、それを誰かに伝えられずに自分ひとりで抱えたこと。誰かを抱きしめると同時に、私は私に対する私から負の想念も抱えていたんだ。
それが彼女、四条貴音に抱きしめられたことによって解放された。
彼女がどうして私を抱き留めたのか、真意は知りえない。でも感じることは出来る。
胸の中で今も声をあげて泣く私には彼女の顔は見えない。けど多分、辛く悲しく痛々しいそんな顔をしていると思う。
私の思いに気づいてどうにしかしてあげたい、けれど自分はどうしたらいいかその手段も方法も知りえない。あまつさえ抱き留めることすら拙い。
どうにかしてあげたいのに、どうすることもできない。これほどの板挟みというのはそうそうないのだから、微笑ましく抱き留めることなんて出来ないはずなんだ。
だから私も抱き締めた。彼女の背中の服の生地をぐっと掴んで、そんなことはないんだと伝えるかのように抱き締めた。
四条貴音のおかげで今私は救われているんだと、どうしても伝えたかった。でもこれはきっと伝わらない。
だって彼女は不器用だから。不器用でも、私が泣いている限りはずっと抱き留めてくれる。
迷い不安になりながらもそうしてくれる彼女の抱き留め方はきっと抱き締めるというカタチの理想。
その理想に私は埋もれて、只管に、泣いた。

あれから彼女はいなくなった。出会った場所からは忽然と姿を消してしまった。
それまではそこにいるのが当然だったから、この場所から去ったんだと理解するにまで半月も要した。
私を抱き留めていてくれたあの日、彼女、四条貴音は一言だけ呟いたのを覚えている。

―――いくらあずさという名前であろうとも、そうさせすぎてはいけません。

どうして私の名前を知っていたのかを知るのに一月、言葉の意味を理解するのに更に二月。どうして去ったのか知るのに更に三月。通して一年、そうして私は静かに泣いた。
あの場所にあったゴミ捨て場に私の活動が書かれていた記事の雑誌を見つけた。多分これで名前を知ったのだろう。そうしてあの言葉。あずさであろうと、そうさせすぎてはいけない。この言葉、本当はきっとこうなる。

いくらあずさという名前であろうとも、「預」け「さ」せすぎていはいけません。

私は小さなこの身にいくつもの悲しみや苦痛を預けさせていた。彼女はそれを警告してくれたのだろう。敢てそう言わなかったのは意味がわかったとき、確実にそうさせるようにという思惑からきていたいものだと思う。
最後、何故彼女は忽然とあの場所からいなくなってしまったのか。これに関してはいくつも理由めいたものはある。
私のアイドル活動の邪魔にならないため、私が煩わしくなったため、単に気まぐれのため。考えれば考え付くだけある。
私が考えたのはそのどれでもなく一つの悲しい結論だった。
彼女は私が私に対して与え続けていた負の感情を感じ取って、私を抱き留めてくれた。
つまり私は彼女に対して、望まずとしても私の否定したい部分、隠し続けていたい部分を彼女に曝け出してしまった。
それは私の一番やってはいけないことだったと言える。だから彼女はいなくなった。私の負の感情を受け止め、受け取り、留めて、自分の存在と共に私のタブーだった思いごと消えた。そんなタブーはなかったこととするために。そんな気がするのだ。
そうまでされて私はその時、泣くこと以外に出来なかった。だって、もう彼女と私の繋がりは切れてしまっていたんだから。

抱き締めると言うのは一人では出来ない。それは人数的な意味ではない。
誰かの苦痛、悲しさを感じとって和らげたいあまり抱き締める加害者は当然のこと、そうしてくれることに感謝或いは呪いを評して抱き締める被害者がいて初めて抱き締めるが完成する。
私の抱き締めるの定義はあの日からそうなった。

それら全部をひっくるめて私は一つの歌を作った。

空に抱かれ 雲が流れてく
風を揺らして 木々が語る
目覚める度 変わらない日々に
君の抜け殻探している

pain 見えなくても 声が聞こえなくても
抱き締められたぬくもりを 今も覚えている

この坂道をのぼる度に
あなたがすぐそばにいるように感じてしまう
私の隣にいて 触れて欲しい

近付いていく冬の足音に
時の速さを感じている
待ち続けたあの場所に君は
二度と来ないと知っていても

way 待ってしまう
どうして会えないの?
嘘だよと笑って欲しい 優しくキスをして

遠い彼方へ旅立った
私を一人置き去りにして
傍に射ると約束をしたあなたは嘘つきね

もし神様がいるとしたら あの人を帰して
「生まれ変わっても君を見つける」
僅かな願い込めて iwanna see you

この坂道を登るたびに
あなたがすぐそばにいるように感じてしまう
私の隣にいて 触れて欲しい

(遠い彼方は旅立った
私を一人置き去りにして)
側にいると約束をしたあなたは嘘つきだね

この歌は私が彼女を求める歌。私の悲しみと自分の悲しみを背負った彼女を引き戻すための歌。
優しく不器用な彼女へと聞いて欲しい歌。私の思いを彼女へと届けたい歌。
そうである真実と、そうだと感じた虚構と、そうあって欲しい嘘の三重奏の歌詞。
曲の名前は『隣に…』

この歌は、三浦あずさが、四条貴音へと、もう一度繋がるための歌。
今度は三浦あずさが四条貴音の悲しみを背負うという誓いの歌
あの苦々しく抱き締めあった思い出だけでなく、互いに微笑みあって抱き締めあうための歌。

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自個偽無、候。
書いたり書いたりしている流ぬこです。
ピクシブなんかでも同じく流ぬこで書いています。
はじめの一歩を見るとオズマ戦でも小橋戦でもどの戦いでも泣けます。はい。

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