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千早と伊織ss、主観は千早。

「竜宮小町…か」

そう呟いた私、如月千早。今は久々のオフをのんびりと過ごしている最中だ。
先ほどまでは歌のためのトレーニングなどやっていたけれどそれも終わって少し休憩している。
少しの休憩の中でいつも頭にあるのは「竜宮小町」という単語。いや正確には水瀬伊織だと思う。
彼女も「竜宮小町」の一員であると聞いたときから頭の中はそればかりだった。勿論歌に手を抜いたりはしていない。
けれど頭の片隅ではいつもそのことを考えているのも確かだ。
「竜宮小町」のプロデューサーは秋月律子、最近までアイドルもしていたその人で恐らく実際のアイドル経験と知識から素晴らしい手腕を発揮するのだろう。
それはつまり、水瀬伊織のプロデューサーはあの人でなくなるということだ。
だからその、今の私と水瀬伊織は同じ状態ということで、それはそういった意味では喜ばしいことだ。
でもどうしてか素直に喜べない。その原因をここのところずっと探そうとして最近は逆にこんがらがっている、どつぼに嵌っていく。
確かに今がチャンスなのかもしれない。彼女とあの人が遠い今こそ私とあの人の距離を縮める絶好の機会だ。
なのにそれを実行する気にはなれなかった。何だか家主がいぬ間に盗みをはたらく泥棒のようで、ということもある。
けど一番はそれじゃない気がするのだ。それが何なのかわからないで今日も今日とて唸り続ける。
原因不明の正体不明のこの気持ち、さすがに疲れてきてしまうのでいい加減にしてほしいところなのだが。

「水瀬さん、言わなかったのかな」

そんなわけがない。言った筈だ。社長にも、あの人にも。「竜宮小町」には入れない。あんたと一緒にいたいって。
言ってなければここまで手ごわいと感じることもない。水瀬伊織は、だから強いのだ。
…ああ、わかった。そうか、そうだったんだ。こんな簡単なことだったんだ。
なら私のすることは決まっている。そう思った、いや思う前にもう走り出していた。
彼女がいるであろうあの場所へ。


「あら、千早じゃない。オフなのにご苦労なことね」

「水瀬さんこそほとんど毎日事務所にいるじゃない」

やはり彼女はここ、765プロダクションの事務所にいた。入り浸っているといっても過言ではないほど、彼女がここにいないことはそうそうない。
一日に必ず何時間かはここにいる。勿論伊達や酔狂、或いはそうかもしれないがともかくたった一人のためにそうしているのだ。
それを知っているのは私だけ。他のアイドル達はよっぽど事務所が好きなんだと考えていると思う。
水瀬伊織は確かに事務所も好きなのだろう、だけど本当は事務所を好きにしてくれた由縁のあの人を待っているのだ。


「まあ、ここに居れば会えるかもだしね」

「でも会える日なんて滅多にないんじゃ?」

「だからこそ、また待っちゃうのかもね」

そう。そうなのだ。これだけのことを平然とする彼女がそう言わなかった、伝えなかった訳がない。
きっと私の知らないところで壮絶なやりとりがあったはずなのだ。確証はないけれど、多分きっとここ事務所で。彼女とあの人とが集約されたこの小さなこの事務所で。
ありったけの力、力及ばなかった日、やりきれない思い、くだらない日常。彼女とあの人の軌跡を一番刻み込んでいる。
蚊帳の外の私にさえそれが伝わるここで何かか起きなかった訳がない。
だから私は水瀬伊織に近づいて、何の言葉もなしに抱き締めた。

「…何のつもり?」

「意味はある、けれどそうだと明確に説明することは出来ない」

「千早してはひどく曖昧ね」

「でもこうしたいと思うこの気持ちに嘘はないわ」

抱き締めなきゃいけないと思った。抱き締めたいと思った。アイドルとして、恋としてもライバルである彼女ととにかく触れ合っていたかった。

「そう。でもあれね、悪くないわ」

「私もそう感じているわ」

「千早って嫌味抜きでスレンダーね」

「水瀬さん…ううん、伊織のほうが儚くか細いわ」

「何それ、あはは」

こうしたかった。そうしなかったとかではなく、私が、こうして、いたかったんだ。
だって私は水瀬伊織が大好きだから。我侭で生意気でオシャレでどこか落ち着いていて本当は優しくて器用な不器用の彼女がたまらなく愛しかった。
例え同じ人を好きあう者であろうと、だからこそより好きなのかも知れない。
でもこれまで私と彼女の間ではそれがなかった。だからこれが初めての私が彼女に捧げる大好きだと言う証。
なれば彼女もまた私を好いていてくれていると思う。でなければ

「あーあ、千早が変なことするから涙出てきた。ちょっとだけ胸、貸しなさいよね」

「ええ、存分にお貸しするわ」

こんなやりとりはないだろうから。これが終わればまた戻るのだ、如月千早と水瀬伊織に。
でも今だけは友人と友人、お互いに認め合って、それを味わったものとそれが想像できるものであれればいい。
ただ、私はこの大好きな友達を抱き締めていたい。今はあの人も関係ない。
彼女は決して声を上げて泣いたりしなかった、きっとその分はあの人がそうしたのだろう。
ならば私も彼女の声無き泣き声をしっかり受け止めてあげよう。今の彼女にはそれも必要だろうから。

「ねえ、伊織」

「…」

「私は、諦めない。諦められない、例え貴方にずるいと言われても」

「…」

「でも私はあの人を好きになってよかった。じゃなきゃこんなに伊織を好きになることもなかったから」

「…」

「だから私が言うまでもないと思うけれど、必ず帰ってきてね」

「…」

「あの人は、伊織を、伊織と、一緒にいるときが一番、素敵だから」

そう言って、涙が零れていた。私、如月千早はこの時に半ば諦めてしまったのかもしれない。
だって如月千早が一番好きなあの人は、あの人の顔は。
水瀬伊織と一緒にいるときの顔だから。
諦めたくない気持ちと、それを知ってしまった自分はまるで相反していて、涙を止めることは出来なかった。
そうして彼女は私を抱き締めた。お互いに、お互いを。

「…馬鹿、それじゃ敗北宣言じゃない」

「でもね、そう言わないと気がすまないの、言いたくなんかないのに」

「…ほんとに、馬鹿」

「ええ、きっとそう。私は…」

「もういい、黙ってなさい」

「…うん」

「一つだけ言っておくわ」

「…」

「私だって、そう思うこともあるんだから」

「…そう」

「うん」

「伊織は、馬鹿ね」

「千早もね」

罵りともいえない罵声を最後に、私達二人は静寂の中で涙を流し続けた。
どこまでもどどこまでも静かに、誰にも悟られないように、二人でずっと、泣き続けた。
2010.12.14 Tue l 自作小説 l COM(1) l top ▲

コメント

ハーレム設定め!!!!
うちにコメントするとコメントを返すのが習わしなので、我慢してください。

だから、ハーレム設定は嫌いなんだ!!
あ、このSS自身は趣深く、しんみりと潤いがあってよかったです。複雑な愛憎が、シーンとして視覚的にたっている点とか。

いや、ハーレム設定自身は別に嫌いじゃないんだけど、ハーレム設定だと今回のように誰かが泣くことになるので辛いんですよね~。公式がハーレム設定なんだからしかたがないんだけど。
アイマスの場合、みんないい子なので、逆にみんなに好意を持たれたいと思わないんですよね。

流ぬこさんの伊織はだいたいクールですよね。伊織はシリアスもギャグもできるので自分も千早の次に好きです。

あ、いま気づいたけど、百合はハーレム設定に対する一種のパッチなのかもしれないですね……う~ん興味深い……。
2010.12.15 Wed l 月の輪P. URL l 編集

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