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2010/12/29 (Wed) 如月千早の変貌

如月千早は、どうもおかしかった。
思うように歌えず、気持ちが乗らない。原因はわかっている、けれどわかっていても払拭が出来ない。いつまでも胸の内にもやもやと停滞して晴れてくれない。仕方ないと思っていたこともこう長く続くと気が滅入る。自分が自分でない気分、まさにこれがそうだと思う。考えているのはあのひとことプロデューサーと水瀬伊織のことだ。正確にはあの日のことを特に思い返している。思い返すのに理由がなくただただ再生して巻き戻して再生しての繰り返しを行うだけだ。自分でもわけのわからない思いに、戸惑うことしか出来ずに今日にまで至っている始末だ。おかげでこの歌番組の収録も心ここにあらずのような状態でやっている。自分自身、これではいけないと渇を入れてみてもまったく毛ほどもだめなものでまさにお手上げ状態だった。あの日、私は自分の心を置いてきてしまったのだろうか?最大のライバルであり、一番の親友である水瀬伊織の心に。
歌番組は着々と進んでいく。年末に放送予定の歌番組は今年活躍した歌手やアイドルなどの芸能人の歌と踊りで溢れていた。確かに少し辟易してしまう歌やその歌い手もいるけれど多くは歌を愛している人たちばかりで普段の私ならこれを楽しまないことはまずないだろう。で、あるはずなのだ今の如月千早はそうじゃない。何も楽しめないし、何も悲しめない。感情が湧いてこない、それに対する困惑だけしか心の中には生まれてこない。まるで生産性のない自分、これではいくら歌を歌うときは別としてもいよいよ本格的に支障をきたしてしまう。それでも如月千早は揺るがない。今の私は、私なのだろうか、それとも如月千早を如月千早として見させている如月千早なのだろうか。一体、私は…。

「それじゃ次は如月千早さんです」

番組の司会者に名前を呼ばれ、たのかも危ういまま何となく前に出なければならない雰囲気を察して一歩前へ出る。司会者とトークをするのは昔から好きになれない。私の歌のことを褒めてくれるのだけれど私が伝えたい、そんな本質を見抜いてはくれない表層的なところしか見ていて、聞いてくれていない感想ばかりを言うからだ。残念なことにそのような賛辞ならば二束三文にも取るに足らない批判のほうがよっぽと有意義だと思う。この司会者は比較的に歌の本質、歌い手の本音を見てくれようとする人なので嫌いではないが、やはり司会者という職業が苦手なのだろう、決して好きにはなれない人だった。
巻き気味で番組のトークも早めに終わり、すぐに歌の準備となった。正直言うと、ステージで歌を歌う準備が出来た瞬間にも、何を歌うのかを知らなかった。事前に知らされているとは思うけれど残念ながらそれを覚えていない。私、如月千早がこれから歌う歌を忘れるとは、どれほどあの日の一件は私という存在を凌駕するのだろうか。
歌に関してはメロディを聞けば自然と歌詞が頭の中に、いや身体の細胞に染み付いているから大丈夫ではあるだろう。恐らくは私の持ち曲の『蒼い鳥』や新曲の『眠り姫』あたりじゃないだろうか。いっそこの困惑を歌に乗せてみようか、と自棄なことを考えているとメロディが流れ始める。不思議と前奏が流れている時私はその曲名を頭に思い描くことが出来なかった。けれど歌詞だけは出てくる。

夜のショーウィンドーに アナタの後姿を見た

私は声に出すよりも何よりも心の中でその歌詞を呟き始める。この曲は、この、曲は。

人波がスチルのように 私も不意に立ち停まるの

あの日から私の心は停滞したまま。それどころか今どこを彷徨っているのかわからない。なんとも情けないものだ。なら、取り戻す?

瞳に焼き付いたのは アナタとアノコの笑顔

好きになったのはアナタがアノコに向ける笑顔。それを好きになったのはアナタが好きなワタシ。

切なく苦しいけれど 聞くだけならば 簡単じゃない

簡単でも容易でもない。何もかもが難しい、それがアナタまでの道のり。踏破したとしてもその城壁は大きく、厚い。

「べつに」なんて言わないで 「ちがう」って言って
言い訳なんか聞きたくないわ 胸が張り裂けそうで

胸は張り裂けている。言い訳なんかしたくない。なら、取り戻さなきゃいけない。自分を。言い訳ばかりをしている偽りの自分を、殺して。

私のことが好きなら アノコを忘れて
どこか遠くへ連れて行って

あの人にそんな感情はないけれど、アノコを忘れて、私もアノコを忘れるくらいに出来るだけ遠くへ、遠くへ連れて行って欲しい。そんな弱い偽りの願い。
歌に、ワタシに、感情が宿りはじめる。

(夜の駐車場で アナタは何も言わないまま)

あの夜の事務所ではアナタ達はどんな一日を過ごしたのだろうか。それを私が知ることはないのだろうけれど。

(ラジオから流れるメロディ ワタシは今日を振り返るの)

振り返ったところで何もないのに何度も何度も振り返っていた。そこに何かがあって欲しいと願っていたから。

(あの海 あの街角は 思い出に残りそうで)

それは違う。アナタと過ごした場所は全てが思い出。私の心を揺さぶる一つ一つの格別の記憶達。

(この恋が遊びならば 割り切れるのに 簡単じゃない)

相手がアノコでなければ、割り切れたかもしれない。簡単だったのかもしれない。

(「じゃあね」なんて言わないで 「またね」って言って
私のモノにならなくていい そばに居るだけでいい)

…ああそうだ。私はじゃあねもまたねも言える土俵に立っていない。ただアノコとアナタを見ている観客に過ぎないで私のモノとしたいという呆れるほどの我侭、それをもっていただけ。そばに居るだけでよかった感情はいつしか、独占欲へと変貌していく。

(アノコにもしも飽きたら すぐに呼び出して
壊れるくらいに抱きしめて)

飽きるはずがない。けど願わずには入られない。欲さずにはいられない。アナタに壊れるくらいに抱きしめられたら、本当に壊れてしまっても構わない。いっそ狂ってしまおう。
如月千早が色付いていく。原始の如月千早、原点の如月千早。自分が自分を取り戻していく感覚はどんなものよりも快感で、冒しがたい。そして取り戻すのではなく、アナタは奪ってみせる。それが原初の如月千早を更に染め上げる。蒼く、燃え盛る私の炎。全てを燃やしてしまうほどに、アノコも、アナタも、私さえも。でもそれくらいでいい。それくらいでなければ奪うことなんてとてもとても。

「―――『ゴメン』なんて言わないで 『またね』って言って
私のモノへ奪ってみせる そばに居させてみせる」

歌詞の改変なんて初めてで、大罪を犯した罪が私の心を苦しめる。けれどこれは今の私にとって必要な罰。これが原動力となるんだ。

「ワタシにもしも飽きたら アノコを呼べばいい」

そんな大口が叩けるほど私はアナタの中心にはいないだろう。けど、これは新しい如月千早の再出発の歌詞。誓いの曲。
如月千早は、水瀬伊織と、もう一度!

「壊れるくらいに抱きしめて! 壊れるくーらいに!愛してー!」

WoWoWoWoWooWooouWo~

そうして歌いきったときにはワタシ、如月千早は生まれ変わっていた。アナタに見てもらうため、アノコに負けないために。もう少しだけ諦めが悪い自分でいたいから。そんな自分にこの曲『relations』は変わらせてくれた。もうこの歌も、ワタシの大切な歌。ワタシの一部。

「水瀬伊織さん、アナタには、負けない」

番組の中で今ライブをしているであろう伊織に宣戦布告をした。アナタと別れるアノコにあざとくこのタイミングでの宣戦布告は卑怯だろうか?伊織は私を軽蔑するだろうか?いいえ。

―――上等。

そう、なら私だって。
上等だ。

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Author:流ぬこ
自個偽無、候。
書いたり書いたりしている流ぬこです。
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