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2011/04/05 (Tue) 音も無く泣いた、強い小鳥の今

これはこれは随分と前のお話です。
あるところに夢焦がれ、夢に生き、夢を掴もうとする少女がいました。
ほどなくして彼女はアイドルになりました。念願のアイドルになりました。
それはもう大喜びした彼女でした。泣いて、笑って、また泣いて。
でも待てども待てどもお仕事が来ることはなく、やる気だけが空回りしていました。
それでもレッスンをずっとがんばって、やっと来たお仕事は深夜に放送されている番組の、何故か水着でひな壇に座っている、エキストラとあまり変わらないお仕事でした。
けれど少女はまた大喜びしました。やっとお仕事が出来るんだと、一人意気込んで。
そうして、何事もないまま収録は終わり、何もなかったかのようにスタジオはひっそりと無機質な場所へ変わったのです。その様を見た少女はひどく、虚しくなりました。
何をしたのかも覚えていない、喋っていたのかもあやふやで、なんだか隣の子に舌打ちをされたことだけ妙にはっきりと記憶に焼きついて。
その少女は泣いてしまいました。どうしてこんなことになっているかが、わからなくて。膝を折りつくして、床に伏して声を上げて泣きました。
そこにすっと誰かの手が差し伸べられたのです。そうしてその手の持ち主はこう言いました。

「初仕事、おめでとう」

と。
女の子はまた、泣いてしまいました。

泣き止んだ少女とずっと隣にいる男性。ふと考えてみるとどうにも怖くなった少女は男性に、アナタは一体何なんですか? と怪訝そうに尋ねました。すると男性は、笑いながら

「僕は、君の、ファンであり、今日からプロデューサーだよ」

あっけらかんとそう言いました。プロデューサー、少女はずっと、プロデューサーを待っていました。
一人じゃ辛いし、喜びも一人分で、だけど誰かと一緒なら痛みも辛さも半分に、喜びや嬉しさは何倍に。そう思っていたからです。これから、それが叶うと思えて泣けてきた少女でしたが、そんな彼女に優しくプロデューサーは

「笑おう。笑って、楽しく活動しよう」

そう、言いました。
少女はもうこの時既に魔法をかけられていたのかも知れません。


「っと、お話しはここまで」

「ええ~! まだ始まったばっかりじゃん!」

「そだそだー! ひきおしみはよくないよー!」

「これから仕事でしょう? それにそれを言うなら出し惜しみよ」

「そうだけどさ…むぅ、わかったよ」

「そうだね、でも帰ってきたら続き聞かしてよー!」

「はいはい」

それだけ言って二人の少女は慌しく掛けていきました。彼女達もアイドルです。
残念ながら私はもうアイドルではなくて、彼女達をサポートする人間です。でも、これもまた天職かなと今では思えています。あの時、あれだけ悲しんだから、今の私がある。

「…っほん」

「はい?」

「お話しを聞かせてもらいましたけど、あれだとまるで私のことを話しているように思えたんですが」

「そんなことはないですよ、律子さん」

「…まあ、あの子たちにはわからないニュアンスでしたけど、千早くらいならそう感じるでしょう?」

「そうですね、しかし少し顔が赤いですよ?」

「あまりそういうのに慣れていないんです、だからプロデューサーになったっということもあるんです」

「そうでしたか。あれだけフリフリな衣装を着ながら歌っていた人の台詞とは思えませんね」

「それは貴方もじゃないですか」

―――小鳥さん。

「…はい。確かに、ですがあまりこの事務所内で言って欲しくないですね」

「おっとそうでした、これはまたうっかりです。お許しくださいね、エ」

「大人は茶化すものじゃないですよ? 律子さん」

「…こういう時だけ大人の雰囲気はずるいですよ、小鳥さん」

「年の功、ってやつですよ」

「女性がそれを使うのはどうなんですか?」

「あら? 女性は年を取って美しくもなれるんですよ? 知らないんですか」

「…小鳥さんが言うと、そう思わされます」

「褒めていただいて嬉しいです、でも律子さんも良き女性になると思いますよ」

「んーその前に一人前のプロデューサーになりたいですね」

「そしてあの人の近くで、一緒に戦いたい」

「そうそう、そのとお…って何言わせるんですか」

「ごめんなさい、律子さんの表情がそう言っていたもので、つい」

「もう…」

「さて、そろそろあの人が出社してくる頃ですよ。その真っ赤な頬を洗ってこないとまた熱でもあるのか、って言われておでこあわせられて更に赤く」

「いきますいきますから! その話しはもうやめてください!」

「あらあら、可愛らしくて私は好きですけどね」

「…っ! と、とにかく今後それは禁止です! わかりましたね!?」

「はいはい」

「…それじゃちょっと、顔洗ってきます」

ゆっくりと給湯室へ入っていく彼女を微笑ましく思いながら、私は横に目をやる。
社長のデスク。適度に綺麗で、どことなく他のデスクとは違っていて近寄りがたい。
でも皆があのデスクに集まる。お仕事に行った亜美ちゃんや真美ちゃん。
今ここにいる律子さんや、今はいない春香ちゃんや千早ちゃん、やよいちゃん。
皆あそこに集まる。それはあのデスクを近寄りがたくなくさせてしまう、魔法をかけてくれる人がいたから。
でもいつからか、皆あそこに近づかなくなってしまった。魔法が解けてしまったかのように。
それは、そうだ。きっとあのデスクは、思い出がありすぎるから。また近づいてしまったら、それが爆発してしまうから。だからもう、誰も近づけない。
でも私は、私は毎日デスクの上を拭く。魔法が完全に解け切ってしまわないように。ここにいたあの人と、皆との絆が切れてしまわないように。
いつでも、またここで皆が笑い会えるように。綺麗でいて、少しだけ汚くて、引き出しを開ければ笑い声が聞こえてくる。そんな日を願って。

「ほら…また魔法をかけてくれないと皆どこかに行っちゃいますよ」

返事はない。
ない。
けれど。
それでも。

「でも、私は、ずっとここにいますから」

貴方が私の隣で、プロデュースしてくれたように。


ドドドンドンドンガンガン!

聞こえますか?
貴方の意思を泣きながらに継いだ人は、今日も慌しいですよ。
まるで、昔の貴方みたいですね?
それじゃ二人きりの時間はこれくらいですね。
…またここで皆で騒いで、笑って、泣いて。
今は空っぽの引き出し、いっぱいにしますからね。

バンッ!

―――――おはよう! 諸君!

「おはよう! みんな!」

「はい、おはようございます。プロデューサーさん」

―――――おはようございます。プロデューサー。

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Author:流ぬこ
自個偽無、候。
書いたり書いたりしている流ぬこです。
ピクシブなんかでも同じく流ぬこで書いています。
はじめの一歩を見るとオズマ戦でも小橋戦でもどの戦いでも泣けます。はい。

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