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アイマスss,鬱注意。
時が移ろいで行ってしまうのは知っている。自分たちのことなど置き去りにして通り過ぎるのも知っている。
それでも今だけは願いたい、願わずにいられない。両手を彼女の片手に添えて祈るしかなく、泣き続けるしかなく、為す術などなく。
ああ、どうかいかないで。お願いだから自分を一人にしないで貴音。私を一人にして置いていかないで。
救急車の音が聞こえる。普段はうるさいだけのサイレンがこんなにも待ち遠しく感じることは自分の生涯ではもうないだろう。
早く、早く早く早く早く早く早く早く。どうしてそんなに悠長に走っているのか。貴音が、四条貴音の命はそんなに安くないんだぞ!
神でも救急車でもなんでもいいから早く貴音を助けてくれ、これ以上は見ていられない。吐き気がする。
無論この凄惨な光景にではなく、非日常すぎる風景でなく、貴音がこんな状態でいることに対しての吐き気だ。


早く! こっちだぞ! …もっと早くしてよ! お願いだから!


力の限り、喉と腹が破れるほどに叫んだ。そんな程度で貴音が助かるのなら偽りなくそうしよう。でも代わりなんてできないのは最初からわかっている。
歯がゆさが全身を支配している。自分に向けられた自分に対しての憎悪、情けなさは容赦なく私を叩き潰す。そして奮い立たす。
ここで死なせてしまったら、自分は自分を絶対に許せないだろう。そんなのは自分も、きっと彼女も望まないだろうから。彼女が望まないものなんて、必要ない。
だからお願いです。今一度、ここ一度だけでいいから自分の願いを! 今だけのこの願いだけでいいから、叶えてくれ!
自分と引き換えでもいい、他の人と引き換えでもいいから!
そう願った瞬間。


そんな、響らしくもありませんね。私の望まぬはあなたも望まぬのでしょう? であれば、その望みは間違いですよ、響。


…わかってるわかってるぞそんなこと! 頭でも心でも身体の芯でもわかってるぞ!
それでも願わずにいられないことだってあるんだ! それが今なんだよ! 願って悪いのか!? なら悪くて十分恨まれて十二分だから!


帰ってきてよ、貴音。


涙が零れる。吐き捨ててしまった、わかっているが故に出る言葉。そう言ってしまった人間に例外はなく、もうすでにそれを認めている。
頭がよくない自分でもわかってる人間の心理。心の底から願っていると同時に存在する矛盾。そう。
彼女はもう帰ってこない、ということ。
その考えを一瞬でも過ぎらせたとき、鋭利な炎の刃で斬りつけられたように熱く、鈍く、それでも響き渡る痛みが広がる。波紋のように連鎖する。
崩れ落ちたのは膝じゃない、身体じゃない。心だ。折れたのは彼女を支えていた右腕じゃない、息絶えそうな彼女の肢体でもない。自分の、心だ。
血まみれになった彼女の有様を、死に化粧みたく綺麗だと思えるはずもなく、吹っ切れるはずもなく。
足掻く子供のように泣きべそをかきながら祈りと共に彼女の片手をずっと離さないでいた。離せないでいた。


申し訳、ないですね。もう行かなくてはならないようです。響、もういいのですよ。誰も悪くなく悪かったのは恐らく、私の運命だったのでしょう。

…なんでそんなさらっと言えるんだよ。死んじゃうんだぞ? らあめんも食べれないアイドル活動もできないんだぞ? …もう会えないんだぞ?


言葉の端々が震える。震えきっていて上手く喋れたかも怪しい。


…残念でなりません。これから先、まだまだ響と一緒に見たい世界があったのですが。

…なら見ようよ。一緒に、見ようよ。…だがねぇ。

こらこら響、泣きじゃくる童という歳でもないでしょう? 隊員の人ももう駆け寄ってきていますから、私はそれを見届けていきますから。

やだやだやだやだやだ! 貴音がいない世界なんでいらないっ! いやだよだめだよそんなのっでないよお!

そう、ですね。私の世界にも、もう響はいないんですね。それは、とても、悲しきことです。

ならなんでぞんなにわらっでいられるのざあ! 自分はそんな、ぞんなだがねがむかっじから大ッぎらいだ!


優しそうに、悲しそうに、辛そうに、切なそうに。でも結局は諦めたように笑う貴音の癖。昔から嫌いだった癖。
これが最後の微笑なんて認めない、認められない。…最後なんてのも、認めないんだ。だって貴音はまだ呼吸して


いませんよ。先刻から止まっています。…響、私はもう、助からないのですよ。


助けようとしている相手から、どうしてそんなことを伝えられなきゃいけないんだ。なんで自分にそんなことが言えるんだ何より!


どうじで、いまでもわらっでるんだよ、ばがあ!

それは私が響のことが、好きだからですよ。このおばかさん。

…いやだよお、はやすぎるっょ。こんなのっでないよお。じぶんっだっで、もっともっどたかねどはなじたりしたかっだのにい。

そうですね、それは私も一緒です。これが最後かと思うと笑顔が崩れてしまいそうです。でも、だけど、これは私の単純な願い。


もう、自分に出来るのは言葉にならない嗚咽を漏らすことだけだった。とてもじゃないが言葉になるわけがなく。
そんな自分に貴音は優しく、切なそうに最後に話しかけてくる。


響、私は好きな人と最後に泣き顔で別れるなんてしたくありません。笑い顔、私も大好きな笑顔で別れたいのです。言葉などなくとも、私はあなたの笑顔さえあれば
 けますから。
おこがましい願いなのは承知で、響。
私のために笑ってください。


貴音は、切なそうな笑顔で私にそう問いかけて、消えていった。
自分が最後に貴音に見せた姿は。面持ちは。
泣き顔だった。


「…笑えるわけ、ないよな」

「そう。あの時の我那覇響じゃ、笑えなかった。あんなこと言われて笑えるのはよほどフィジカルが強くないと、そう思うぞ」

「そうだよな、でもそんな大切な話、俺なんかに聞かせてもらってよかったのか」

「ははっ、プロデューサーくらいだと思うぞ? 何の疑問も持たずに今の話を信じるなんて。何せ死んだはずの貴音が喋りかけてきてるんだから」

「あまりよくないとは思うが、四条貴音ならそれくらいはしそうだよ」

「うん、違いないぞ」

あれから二年。二年の歳月の中、未だに世の中はアイドルに夢中だ。偶像崇拝、そうしなければ儚い自分が崩れ去ってしまうのかもしれない。
四条貴音は死んだ。二年前の丁度この日、10月10日に車に引かれて、あっけなく死んでしまった。
肋骨、内臓を強く痛め抑えられなかった出血が原因だった。救急車が早く来ていても既に手遅れだったそうだ。

「もう少し、聞いてもいいか?」

「いいぞ」

「その後、貴音が死んでしまった直後はどうしていたんだ?」

「まずは病院で暴れた。助けられませんでしたって言った瞬間にぷちっと、理性が切れた。その時は手は出さなかったけどね」

「その時はってことは」

「運転手が平謝りしてきたときは全力で殴ったよ。自分の拳が壊れる寸前までね。その事件くらいは知ってるよね?」

「あの傷害事件か…ひどい噂だと、暴行を受けたから殴ったとかあったあれか。…くそっ」

「そうだけど、プロデューサーはもう少しデリカシーってものをもったほうがいいぞ?」

「わ、悪い…つい怒りが先導して」

「まあ誰かのために怒ることは悪くはないぞ。いいことばかりでもないけど、ね」

「…気をつける」

「うん。そこからは知っての通りさ、貴音が死んだっていう背景があったから謹慎処分。でも残念だけど未練もなかったからそのままアイドルをやめて、今に至るってわけ」

「…本当に、笑えるわけないよな」

「…そうだね、今でもあの時に立たされて笑えるかって言われれば無理だと思うぞ」

「そんなの当たり前だよな」

「でも最後には笑ってあげたかったよ、それが貴音の最後の望みだったからさ」

「…そっか」

「さてと、それじゃそろそろ行くとするぞ。まだまだ廻ってないところ、山ほどあるからさ」

「やっぱり、行くのか? もしよければまたさ」

「お誘いは嬉しいけどやめておく。前みたいに本当の笑顔で歌ったり踊ったり出来ないし、もう無理だと思うしね」

「そんなことない! 我那覇響はまだ全然アイドルできる! そんなのは響のエゴだよ! …っあ」

「あはは、デリカシーがまだまだ足りないね。でもエゴか、そうか、エゴか」

「さ、さっきから何度も何度も本当にごめん! でもそれくらい俺、響にまたアイドルに戻って欲しくて…」

「ありがとうプロデューサー。でも、ごめん。あの頃の我那覇響はいないんだ…死んだんだよ。四条貴音と一緒にね」

「あっ…」

「楽しかったよ、さようなら、プロデューサー」


そうして響は去ってしまった。あのさようならはきっと本当のさようならだ。別の言葉で表すのなら今生の別れ。二度と会うことはもう、ないのだろう。

「…くそっ!」

近くの壁を叩きつける。手が、鈍痛に悲鳴をあげる。だがそれ以上に、かつて響の家だったこの場所はどこもかしこも、冷たかった。
戻ることのないあの日々、全てが狂ってしまったのはあの日から。そうして響もまた時と共に正常に狂っていった。
誰が何と言おうと、俺は四条貴音が憎い。今でもだ。あいつだって死んでしまったのは可哀想だが、そのせいで響は。
四条貴音さえいなければ、ではない。四条貴音さえいれば、か。でもどちらにせよ憎いだろうな。何せ死者にも生者でも俺は、四条貴音に敵わないんだから。
だったらせめて、生きていてくれれば、まだ。

「…これも、エゴだな。ははっ、響に言った直後にこの様とは、救いようがないな」

先ほど言った言葉は響だけじゃなくて、自分に向けての言葉だったのかもしれない。何にせよ、一つだけ、一つだけわかったことがある。
それは。

「さようなら、俺が愛した我那覇響。…本当に好きだったよ」

我那覇響は、もういない。


さて、次はどこに行こうかな。恐らくプロデューサーももう、諦めただろう。我那覇響の一人旅だ。
あの時、貴音の最後の望みを聞き入れることが出来なかった。後悔した、後悔に後悔を重ねてどん底まで堕ちた。
堕ちて堕ちて堕ち抜いて底で膝を抱えていたとき、ふと思い出した。あの時の貴音の言葉を。

―――響と一緒に見たい世界がある

思い出して、私は駆け上がった。見つけたんだ、これからどうすればいいかの一つだけの答えを。
だから旅に出るんだ。見たことのない世界を探しに、見に行くために。

「貴音からもらったものと、一緒に、世界を見に行くよ」

もう心の底から笑うことは出来ないと思うけれど。世界を一緒に。

「…一緒に見よう、貴音。私と」

私の誕生日に死んでしまった四条貴音から私は、私とあの切なそうな笑顔をもらった。

「私、か。我ながら似合わないな、それでも」

貴音は私の中にいるよ。ずっと、ずっと…。


そして我那覇響は消えた。自分を消して、自分を殺して。
切ない笑顔を携えて。
2011.10.19 Wed l アイドルマスター l COM(0) l top ▲

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