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2011/11/14 (Mon) そして彼女はアイドルに

これはまだ私がネットアイドルだったころのお話。

部屋をステージに、衣装もメイクも自分で、全てがセルフプロデュース。良いも悪いも全部自分の判断だ。私はそれなりに有名だった。
私だって最初から有名だったわけじゃない。くだらない誹謗中傷もいっぱい見たし聞いた。それでも少しでもみんなに知ってもらいたくて、考えて、ネットアイドルを続けて。
それが少しずつ、一歩一歩実って私はネットアイドルとして有名になった。でもようやくそこまで来たときに、ヒューって流れ星が現れた。
水谷絵理。通称"Ellie"。初投稿動画の完成度、本人の可愛さもありはなっからフルスロットル全開であっという間に大人気。
更にその人気は留まるところを知らずとんとん拍子でネットアイドルでの頂点に輝いた。ネトアの頂点だって簡単なことじゃないはずなのに、いとも簡単に。
私は羨ましかった、少しだけ憎かった。けれど一番心に響いた感情は綺麗。同じ一つの部屋でのプロデュースなのにどうしてこうも違うのか、不思議なくらいに綺麗。
本人も、動画も。全てが全てを引き立たせる動画? 私はそんな動画を作ったことが無かった。それが羨ましくて、憎くて、でも綺麗だった。
でも一番驚いたのはそのEllieから連絡が来たことだ。私がブログで晒していたチャットIDに直接本人から連絡をもらった。
どうして私なのか、疑問しかなかったが私もEllieに興味があったからチャットの席についた。そしたらとんでもない発言を聞いたのだ。

―――私はあなたの動画を見て、ネットアイドルをやってみようと思った。

そう言った、いや正しくはチャットだから書いただろうけど。私はそれが信じられなくてネットスラングで誤魔化して、本当は顔まで真っ赤なのに。
それから私たちは仲良くなって、Ellieの本名が水谷絵理と知ったり、実はひきこもりだということだったり、いろいろな話を聞いた。
現実のランクで言えば下の下ではないだろうか? 学校に行ってもずっと机で寝ているふりをする例のあれ。そんな人。私も人のことを言えた義理じゃないけど。
それがどうだろう、ネットアイドルの頂点になっている。私だって、一番でも無くても結構上位の自信はあった。
本当の自分より、仮の自分、違う。一面性の自分だけを認めてもらえる私たち二人。偶像の上に、不確かなネットでの何の信憑性もない私たち。
だけどいつの日だったか、Ellieは私に爆弾発言をした。

―――私、本当のアイドルを目指してみる?

ぶれぶれなホログラムの偶像が、実在する偶像に変わろうとする。そんな瞬間の発言だった。私は反対した、現実なんてダメだ、どうせまた私たちを異端扱いする。
知らずのうちに熱くなって、叫んで、泣いて。最後には懇願した。

―――いかないで、下さい。センパイ…。

Ellieは相当悩んで、ある公園にこれるか、そう言った。私は、はいとだけ答えてその公園に向かった。
月夜が光る暗い空の下、向かった公園には一人ぼっちな人影がある。ベンチにも座らず、中央に立って堂々と、こちらを向いていた。

Kosmos,Cosmos
跳び出してゆく 無限と宇宙の彼方
Kosmos,Cosmos
もう止まれない 
イメージを塗り替えて
ユラリ フワリ 花のようにユメが咲いて
キラリ
光の列すり抜けたら二人
Access to the future
Reason and the nature

Ellieが、水谷絵理が歌っている。無機質なイメージの『Kosmos,Cosmos』を。また別の偶像がこの曲を歌っていて、ネトアの中では結構人気がある楽曲だ。
本家よりも抑揚の無い声で、本当に機械的な歌声。でもKosmos,Cosmosはそんな歌だ。
サビだけを歌い、公園はまた無音に戻る。静かな静かな辺りの中で私は見てのだ。
水谷絵理の足が、肩が、体が、震えているのに。寒さではない。武者震いでもない。不安、恐れからくる体の揺れ。震え。
で、あってもこの人はここにいる。現実で歌を歌った。それだけの覚悟がそこにある。ネトアで偏屈の私でもそれがわかった。だから何も言わず。
震えるあの人を抱きしめて耳元でそっと呟いた。
頑張ってください、と。

あれからEllieはアイドルになって、今でもTVでちらほら見かける人気急上昇中のアイドルになった。誇らしくて、寂しかった。
ライバル、親友、憧れの三つを同時に失った私。そんな私が漂うように渋谷の町を歩いていると声をかけられる。まあナンパか、うざったいなと考えつつ返事をしたら、パリっとしたスーツを着て少しだけ笑いながらこちらを見ている男性がいた。
うん、これでナンパなら相当な捻くれ者で女好き、碌なことはないと判断し何も無かったかのように歩き出す。だがその人は私を追ってきて、トンデモ発言をする。

―――君、アイドルをやってみないか?

思わず口からはっ? なんて言葉が出てしまった。ネットアイドルの私である私がアイドル。ホラグラム偶像から偶像へ? 冗談じゃない。
もうそんなびっくりアイドルはいるじゃないか。Ellieもとい水谷絵理が。私がなったところでそれの二番煎じにしかならない。ダメなのは目に見えいている。
でも男性は子供のような瞳をしながら私にアイドルならないかと訴え続けた。全部スルーしたけれど。
その日の晩、私とEllieの動画を私はひたすら見続けた。フォトショ、エフェクト、編集、メイク、全てを総動員させた自信作が並ぶ。
涙が出た。原因はわからない、ただ懐かしさとか後悔だとかいろんなものが要因だと思う。そんな私が最後に見たのは、私が最初に作った拙い動画だった。
まだキャラも定まってない、所々で噛む、ぎこちない笑顔、へったくそなダンス、ガラでもないアイドルっぽい衣装、ちぐはぐな編集。正直、消してしまいたい。
でもこの動画だけは消せなかった。ほら、私の原点だから。私の、最初だから。私、だから。
そんな私にこんなコメントが最後にあった。

【アイドル、やってみない?】

あの人だ。直感? 第六感? でもわかる。この動画を見てそんなことを言うのはあの人だけだ。無視をされても怒鳴られてもめげないストーカーみたいなあの人。
警察にでも連絡してあげようか。そうだ、電話しよう。電話してしまおう。私は携帯を手にとって電話する。
そうして私は電話の相手に泣きじゃくりながらこう言った。

アイドル、やらじでくだざい、と。

これはまだ私がネットアイドルだったころのお話。
そしてこれからは私がアイドルになるお話。
右も左もわからない、最初に動画を作ったときのような感覚が不安だ。でもそれ以上に。
何があるのかワクワクしていた、動画を作り終えた満足感、初めてもらったコメントに満面の笑みをこぼしたあの日。

さあ、行こう。

そう言ったあの日のあの人、私のプロデューサー。私を偶像世界に巻き込んだ張本人。その人に向かって、私ははいと返事をする。
今の私はネットアイドルの時の私、サイネリアじゃなくて。勿論サイバスターでもないけど。今の私は―――。

「それで、君の名前はなんていうのか?」

「あ、彩音です! 音を彩るって書いて、彩音です!」

そう紹介したその日、マイナー雑誌の隅っこに少しだけ掲載された見出しに私とプロデューサーは抱き合って喜び合った。

『音を彩るアイドル登場! その名もサイネリア改め、彩音!』

これが私の、アイドルとしての始まり。



一緒に、アイドルやりませんか?







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