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「キミは、エリカだね。うん、エリカだエリカ」

「…」

「無視するなんて、エリカ様様だね」

「私はエリカではありません。急いでいるので失礼します」

「こんなにも綺麗な蒼い花なのに、エリカとはね。もったいない限りだね」

私は出会ったのだ。弟の墓の前で、同じくらいの背丈を持つ変な喋り方する男の子に。
それから墓の前に行くたびに謎の男の子は待ち構えるように私の前に現れた。不気味だったが私には関係なかった。
どれだけ無視されても話し続ける、変な男の子と私の決まってのやりとりだった。

「そういえばエリカはアイドルになったんだってね? それもお墓に報告するのかい? 律儀と言うか、難儀だね」

「…」

「だんまりを決め込むエリカに喋り続けるボク、何だか喧嘩した姉弟のようだね」

「…りなさい」

「どうしたんだい、姉さん? なんて…」

「黙りなさい!」

パンッ!

弟の墓の目の前で、見ず知らずの子に軽口で姉弟と言われて思わず男の子の頬に平手打ちをしてしまった。
しかし、私の怒りは収まらなかった。今まで溜め込んでいた感情が吹き出てしまった。

「何なの? いつもいつもお墓の前で待ち伏せて、私に何か怨みでもあるの? 仕方ないと思って無視をしていれば今度は私の心を逆立てるようなことを言ってどうしたいのよ! 私はあなたほど楽観的に! 流暢に! 喋れないの! ふざけないで、ふざけないでよ!」

「…」

「弟が死んだのよ!? 家族だった、大切な弟が死んだのよ!? いつも笑顔で私に笑いかけてくれる大好きな弟が不慮の交通事故で死んだ! あっけなく、あっという間に死んだのよ! それなのに私の両親は喧嘩ばかり、自分達のことしか考えないで絶えず恨み言を言い続ける…私がいても! 私を挟みながら飽きもしないで言い合って、弟の仏壇の前で物が飛び交って何度仏壇にぶつかって何度私が直して何度私が泣いたと思ってるの!? いい加減にしてよ! そんなに一緒にいるのが嫌ならつべこべ言わず離れればいいじゃない! もう嫌、嫌々嫌いやイヤいやああああ!」

どれだけ私が我慢してたのかこの男の子には関係ないだろう、こんなに怒鳴り散らされて困惑して泣いて去るだろう
そして、私はまた孤独に戻れるのだ。孤独に、戻るのだ。
歌以外はいらない私の世界へ。

「嫌、嫌だよ…もう、嫌だよ…」

もう、嫌だ。
孤独はもう、嫌。

「何だ、ちゃんと喋れるんだね。安心したよ」

あっけらかんと笑って答える男の子。私は泣きはらした顔で男の子を見上げる。困惑しているのは男の子ではなく、私だった。
くっくっと笑いをかみ殺すようにしながら私に喋りかけてくる。

「結論から言うなら、嫌なら帰れば良い。自分一人で無理なら誰かの力を借りればいい、両親が無理でも今は君の力になりたいと思っている人がすぐ近くにいるかもしれないからね」

「……そん、な人、いない、わ」

「本当にいないなら君の表情はもっと絶望しているだろう、だから君はもう知ってるんだね? 素直になれないのは結構だけど、それじゃずっとエリカはエリカのままだ」

「…」

「おっと、それじゃボクはこの辺で失礼するよ。悪いけどボクには君を抱きしめて慰めるなんて出来ないからね、それじゃあね。枯れかけのエリカ」

そう言ってすぅっといなくなっていった。本当にいないのなら、私の表情は絶望に満ちている。男の子はそう言い残した。
私の心の中にふっと湧き上がったある人物の顔。それは私自らがその人に仕事上のパートナー同士の関係であると宣言した人。
今更どの面を下げて、そう思って私はお墓を見た。私の涙でお墓は濡れていた。私にはそれが、弟が私のせいで泣いているように見えたのだ。
一人でずっと泣いている私を見て可哀想だと思って泣いてくれる弟の姿が見えた気がした。そう思ってしまったら、私はやるしかなかった。どの面でも下げよう。
だって私たちは姉弟だから。弟が泣いていれば姉の私はそれを止めなきゃいけない。私が泣くのを見て弟が泣くのなら、私は泣きやまねばいけない。

その後私はプロデューサーに謝った。しどろもどろになりながらプロデューサーを呼び止めて、いきなりすいませんでした! と言いながら頭を下げた。
どうしたんだ? なんて言ってくれるプロデューサー、その声色は心の底から私に関心を向けてくれている、私を心配してくれる声。
私の涙腺はもう一度決壊した。プロデューサーに抱きついて、鼻水もよだれも全部垂らしながらプロデューサーの胸を借りて泣いた。その間プロデューサーはずっと無言で抱きしめてくれていた。
十分ほど、私は泣き続け顔から出てくる液体が無くなった時、プロデューサーが事情を聞かしてくれと尋ねてきたので私は洗いざらい喋った。ただ、男の子のことだけは言わなかった。
それだけ言って私は最後に、頼っても言いかとプロデューサーに静かに尋ねた。恥ずかしさやら気後れやらが交錯しながらそれでも言って。そしたらプロデューサーは。
嬉しいよ。そう言ってもらえて、ずっと千早の口から聞きたかった言葉だ。答えは、勿論だ!
胸を張ってそう言ってくれた。その時私の心が、体が軽くなった気がした。
それから私たちは最初はぎこちないながらも二人で相談して、時には喧嘩をしてを繰り返しながら笑いあった。アイドルとしても売れはじめ、順風満帆だった。
そんなある日、私はプロデューサーに一緒に弟の墓に来て欲しいと約束を取り付けた。両親が離婚した報告、そして弟のことも全て喋っておきたかったから。あともう一つだけ。

「やあ、久しぶりだね。しばらく見ないうちにボクの知ってるエリカは枯れてしまったようだ」

「…だから私の名前はエリカじゃないわ」

「だろうね、知ってるよ。最初に会ったときから知っていたよ」

謎の男の子。私を逆上させて、私に踏ん切りをつけさせてくれた子。一言、お礼が言いたかったのだ。

「いろいろ言いたいことはあるけれど、一言だけ」

「ふむ、なんだろう?」

「ありがとう」

「ありきたりだね、だが効果的だ。こんなボクでも心が震えるものなんだね」

「そう見えないけれど」

「うん、見えないだろうね。それが普通なんだから…さて、ボクはもうそろそろ行くよ。もう二度と会うことはないだろうからボクも言っておくよ、ありがとう」

「ありきたりね」

「だろう? うん、愛しの人も見えたようだしボクは消えるとするよ」

「いとっ」

ふと言われた言葉に反応できず顔が赤くなる。そんな姿を見せまいと私は男の子に背を向けた。

「うん、それじゃあね。君は今エリカからシラネリアになったんだ。そのシラネリアを枯らさないようにね」

「だから私はっ」

「さようなら、如月千早」

「! 私の名前、知って…!」

振り返った先にもう男の子はいなかった。辺りを見回しても男の子の姿はなく、駆け寄ってくるプロデューサーの姿しかなかった。
どれだけ早い足を持っていても辺りはずっと平坦なお墓なのに、ちょっと目を放したら男の子はいなくなっていた。まるで消えるように。
そこにプロデューサーが来て、私のありえない疑問に答えを聞かせてくれるように私に質問してきた。

「遅くなって悪いな。それより千早、お前誰かと話してたか?」

「あっ、はい。先ほどまで男の子と」

「男の子、ねぇ。俺には見えなかったんだけどな、もうどこかに行ったのか?」

その言葉を聞いた私の頭に男の子の言葉が蘇る。

―――見えないだろうね。それが普通なんだからさ…

成る程、そういうことか。まるで映画やドラマでしかないようなことが私にも起きたのか。そう思うと、私は少しだけ笑う。
それを怪訝そうに私を見ているプロデューサーの手には花があった。きっと弟のために供えてくれるのだろう。

「その花は」

「ああうん。途中の花屋で買ってきた。お供え用の花とかじゃなくて、俺が綺麗だと思った花を持ってきたんだ。ちょっと行儀悪いけどな」

「そんなことはありません。…あれ、これ花の名前が書かれたタグがついてるんですね」

「おっと、取り忘れてた。よいしょっと、見るか?」

タグを突き出して私に差し出してくれたので、受け取って見てみると花の名前は「シラネリア」と書いてあり少しだけ私はドキっとする。

「シラネリア」

「あれ、店員さんはサイネリアって言ってたけどな、別名か何かなのかな?」

「そうなのでしょうか? あ、花言葉も書いて…!」

私はシラネリアの花言葉を見て言葉が詰まった。

シラネリアの花言葉:「喜び」「快活」

全てに合点がいった。男の子がどうして私の名前を知っていたのに呼んでいなかったのか。答えは花言葉にあったんだ。

「どうした?」

「…いいえ、少しだけ驚いたものですから」

「何に?」

「柄じゃないな、って」

「お、俺のことか!? そりゃ花買うときちょっと恥ずかしかったけど…」

「違います…プロデューサー? プロデューサーはこのシラネリアが綺麗だと思って買ったんですよね」

「ん、そうだな。花言葉まで書いてあるのも知らなかったし、あと、実はな」

「実は?」

「少し、今の千早に似合うかなーって思ってな」

「そう、ですか」

「それで、話ってなんだ? 何でも聞くぞ」

「…はい。全部話しますね。まずは―――」

そして全てを話し終えた。でも男の子のことだけは言わなかった。これだけは私だけの心が感じたシラネリアだから。
最後に二人でお墓にお参りをして事務所へと戻ることにした。その時私の心はとても穏やかで、シラネリア。あと帰ったら調べてみようと思うことがあるのだ。
男の子が私を心配してくれてつけたエリカという花の、花言葉を。
2011.11.18 Fri l 自作小説 l COM(0) l top ▲

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