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2011/12/03 (Sat) パーフェクトコミュニケーション

「おはよう諸君! …なんてな」

私の声だけが響き渡ってしまったな。それもそうだ。今日は小鳥君もいないのだから。正月だからと全従業員に休業命令を出したのは他ならない私だ。
最近、良きプロデューサー達が増えてくれたお陰で芽を出さなかったアイドル達がみるみるうちに育っていく。いつかは巣立っていくのかもしれない。
社長である私にとっては大変喜ばしいことだ。プロデューサーやアイドル諸君、勿論小鳥君も私の大切な子供のようなものなのだから当たり前だ。
そう考えながら私は社長室へ入った。皆が粉骨砕身の精神で尽力してくれた活動のお陰で社長室も随分と大きくなった。
昔はプロデューサーの机もアイドル達が休める応接用のソファーも社長室もお茶を入れるポッドも全て同じところにあった。
9人のアイドル候補生、そこに一人、また一人と加わって行きいつの間にか13人。私は大黒柱どころでは足りぬご神木クラスの父親にならなければならなかった。
難しく、辛く、険しくあった。それ故に掴んだものもある。プロデューサー諸君、事務員の皆、アイドルの信頼。
非常に充実していたのだ。あの小さい事務所で窮屈しながらトップを目指す日常に。普通に。
だがその日常はタマのように弾け、忙しさは全ての765プロの皆に拡散する。月に二~三件あればよい取材、自ら出向かなければ見向きも去れない営業。
それら全てが一変した。私も例外ではなかった。アイドルを補佐するではないが、会社の運営の全権も義務も私にあった。
いくつもの書類に目を通した。眠くとも、隈を誇りとしこすらず、時にはプロデューサーの相談にも乗った。仕事がひと段落したときの小鳥君のお茶は何にも変え難い絶味だ。
皆のために、会社のために、私のためにそれを毎日続けた一年。今や765プロは961プロにも負けぬ、俗に言う大企業になっていた。
従業員の数も増え、おうじて優秀なプロデューサーも増えた。日々、皆でアイドルを全力でサポートをする毎日だ。
いつごろだったか。ああ、そうだな…確かこの社長室が超高層と言われるほど高い階に出来てからだろう。
どれだけ忙しくともアイドル達と話せていた窮屈な事務所。今では忙しいのか会社が広すぎるのか、どちらかの理由でまともに挨拶を交わせた為しがない。
彼女達は大きく育った。やはり、私の元から巣立つべき子達なのだろうか。…もう少し近くで見ていたいと思うのは老いゆえの甘えか、はたまた衰退故か。
従業員も皆私が手伝おうとすると大丈夫ですから! と胸を張って言ってくれる。誇らしく、寂しくもあった。社長とはこんなにも孤独だったのか、高く広くなった物寂しい社長室でそう感慨にふけるようになった。
冷え切った偉そうに見える黒色の椅子を触る。前には整理整頓された大きく角ばったデスクが堂々と私を威圧する。
社長のである私であればその全てを従えることが出来るのだが、今の私は一人孤独を感じる老人だ。抗うことなど出来ない。
ああ、社長の威厳もなく疲れたら誰もが座る皆の温もりが備わった椅子はどこへいったのか。いくつもの企画案やアイドル達の落書きが書いては消されを繰り返して思い出だけを内包させていたであろう軋んだ机はどこにいったのだろうか。
全て、あの思い出の事務所と共に置いてきて、いや。…捨ててきてしまったのだろうか。だとすれば私は社長失格であり、人間失格でもある。
「歳は、取りたくないものだな…」
黒井よ、お前もそうなのか? 若くして孤独に生きるお前はどうこれをつき返しているのだ? 想像には出来ぬがもしや夜人知れず枕を濡らしているのか?
堪えていたものが、耐え切れそうになくなる。もう―――。

コンコンッ

社長室をノックする音が聞こえる。だから堪える、この歳で誰かに見せる涙は生憎持ち合わせていない。
「社長ー? いるんですか?」
「ああ、いるとも。入りたまえ」
「失礼します」
「何の用かな? 君には一番に身体を休めてもらいたいのだがな」
「こっちの台詞ですよ、社長。こんなだだっぴろい社長室で身体も心も冷え切らせちゃいけませんよ?」
「はっはは、君も変わったな。最初はあれだけ新人ですと顔に書いてあったのに、今や全プロデューサーの目標だ。私の目に狂いはなかったようだ」
現れたのは私が初めてスカウトしたプロデューサーだった。この若者もいつか私の元を離れて独立をするのだろうか。考えが寂しくなってしまう、同時に心も。
いかんいかん。私らしくないな。ここは一つギャグでも
「あっそうだ、社長。プライベート用の携帯って持ってますか?」
「んっ? いや、仕事用と別々にする程最近は電話もかかってこないしね。私の携帯は鞄の臭いとりになっているよ」
「それならちょっと貸してもらえますか?」
「…? 構わないが、ほら」
小鳥君にもらったブランド物の鞄から携帯を取り出す。もう社長なんですからと言われ、照れくさかったのも束の間だったが。
何やらプロデューサーが私の携帯を見て自分の携帯を操作している。何をしているのだろう?
「君、何をしているのかね? まさか人の携帯でけしからんサイトでも覗いてるのでは」
「よし、登録完了。んで皆に送ってと、はいミッションコンプリート。パーフェクトコミュニケーション間違いなしだな」
「…すまないが私にもわかるように説明をしてほしいのだが」
「答えは俺の言葉でなく、今から届きますよ。社長が愛する子供達から」
「むっ?」
バイブレーションのままの携帯が途端に震えだす。止まったと思ったらまた震えだす。震える、震える。私の手の平の皮がふやけるほどに震え続ける。
「これは…」
新着メール15件。
最初は文字の意味がわからなかった。使われない機能の一つにメールというものがあったから無理もない。
「ほらほら、開いてみてくださいよ」
「い、いや。実はあまり携帯に詳しくなくてな。どう、すればいいのだろうか?」
「それじゃまたちょっと借りますね…はい、今は一覧画面ですけどこれで真ん中のボタンを押せば見れますよ。新着メール」
プロデューサーから携帯を受け取る。少しぬめっとする。汗だろう。何かやましいことでもしたのだろうか? だがあの顔は、子供が悪巧みをする顔だ。はて。
少し疑問に思いつつ警戒して光るディスプレイを見た。

天海春香
SUB『お正月ですよ!お正月!』
如月千早
SUB『新年明けましておめでとうございます』
高槻やよい
SUB『うっうー!あけましておめでとうございまーっす!イエイ!』
菊池真
SUB『ガツーンと!今年もよろしくお願いしますね!』
水瀬伊織
SUB『新年あけましておめでとう!にひひっ♪』
三浦あずさ
SUB『うふふ、明けましておめでとう御座います。今年もよろしくお願いします。』
秋月律子
SUB『今年はプロデューサーとして!社長、謹賀新年明けましておめでとう御座います』
萩原雪歩
SUB『今年もダメかもしれないけど、新年明けましておめでとうございますぅ!』
双海亜美
SUB『今年もよろよろ~!これからも超→ハジけてバーン!だかんね!』
双海真美
SUB『今年もよろよろー!こつづかもの真美だけどよろしくね~ん!』
星井美希
SUB『あふぅ、眠いの。だけどあけおめ~!起きてる~?』
四条貴音
SUB『あけよろ、ことおめ。面妖な挨拶ですが今年もよしなに』
我那覇響
SUB『はいさい!じゃなくて!明けましておめでとう!今年もよろしくだぞ!』
音無小鳥
SUB『明けましておめでとうございます。今年もお茶、淹れさせてもらいますね』

14人分の新着メール、そして最後は、ははっ。
「君、『明けましておめでとうございます!まだまだいろいろ教わらしてもらいます!』って。君はもう」
「そんなことないです! 俺、まだまだ社長みたいにアイドルに愛されるなんて出来ないですから。お陰で全員に社長のメアド教えろーって言われたんですから!」
「そうか、そうか…」
私はプロデューサーに背を向ける。今もなお携帯のディスプレイには私が欲しかったものがぼんやり光っている。
確かに挨拶は出来ない。会うことも難しい。それが寂しく、孤独と感じた。だがそうではなかったのか。私が勝手にそう思い込んでいただけなのか。
「…君、今日は空いているか?」
「はい、ばっちり空けてきました」
「少しだけ、付き合ってもらっていいかな?」
「勿論。で、俺もう泣いてもいいですかね? とっくに限界なんですよ」
声が上ずっている。彼もまた彼なりの孤独を感じていたのかもしれない。私がそう感じることで。本当に私は、社長失格だ。だがそれでも、私は社長になってよかった。
「馬鹿者、今日だけはこの老いぼれにその権利を譲るべきだ。年功序列だ」
「卑怯だなぁ、そんなに若いのに」
「…少し疲れたよ。肩を、貸してもらってもいいかな?」
「…はぁ゛い!」
だから、今日だけは私が先だと言ったのに。この甘ったれの若者は。まだまだ私の元から巣立つなどとてもとても。
だけど私には誇らしかった。
素晴らしいメールをくれたアイドルの子達や小鳥君が愛しく、誇らしかった。
私の虚しさの象徴だったこの大きなビルの威圧をものともせず、誇らしかった。
何よりいつの間にか私の肩を預けてもいいと思えるほどに育ったこの若者が、誇らしかった。
私は本当にこの会社の社長でよかった。
あぁ、いつか冥土に逝くことになったとしても、閻魔に自慢げに話せるぞ。笑って、不適に。
私にはかけがえのないたくさんの子供達がいたんだぞ、と。
私が愛して私を愛してくれた子供達がいたんだぞ、と―――。

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自個偽無、候。
書いたり書いたりしている流ぬこです。
ピクシブなんかでも同じく流ぬこで書いています。
はじめの一歩を見るとオズマ戦でも小橋戦でもどの戦いでも泣けます。はい。

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