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「―――本日はどうもありがとうございました。それでは」
今日のインタビューは終了だ。収穫は多い、それなりの記事は書けそうだ。しかし満足など出来るはずもなかった。
また真実を聞くことは出来なかった。根掘り葉掘り聞かれてしまって困ってしまいました、最後のコメントだ。嘗められている。
そんなコメントは聞かれていないからこそ言えるのだ。少し考えれば誰にでもわかる。何度目だろう、知りたい真実を逃したのは。
知ることは罪であり知らないこともまた罪だ。記者だった祖父の言葉だ。知るということに対しての戒め。今でも私の心に刻み込まれている。
胸ポケットに入れたペンを取り出し、右手に遊ばせる。慣れ親しんだペンが空中を舞う。満たされなかったことに対しての慰め。おかげで無駄にうまくなってしまった。私が上手くなりたいのはこ

んなペン捌きではないのだが。
記者として、知りたいと思ったことを知れないのはもどかしいの最大級であり、また己の未熟さの表れだ。この程度の私が敏腕記者なんて、祖父やあの人の足元にも及ばない。
だが私はまだ若い。時間がある。成長が出来る。知ることも、一度は逃したスクープももう一度掘り出せるかもしれない。
ペン一本で生きる。ペン一本で勝ち取る。私の愛用のボールペン。パーカー製、クラシックのフライターが光る。闇に紛れる真実を照らすよう、シルバーのボディは細かな傷でいっぱいだった。
言うは易し行うは難し。記者と言うのは綺麗事だけでは生きていけないサバイバルな職業だと感じる。
全てにおいて臨機応変に、迅速に、一人で対処しなければならない。そして全てのネタは誰より先に、アイドル同様甘くはない世界だ。
シルバーのボールペンに反射した私の影に少し絵だけ震える。いつかこの影が私を逆に飲み込んでしまうのではないか。
真実を書くことを諦め、生きることに必死になり、夢や目標を犠牲にする道を選んでしまう自分を想像する。そうしたらもう生きながらに死んでいるも同然だ。
まだそう思えるのは私にとって幸いだ。まあいいやと思ってしまってもダメ。そこから人はあっという間に堕落する。老いを自覚したときから人は老いるのだ。
私はまだこれぽっちの真実にも出会えていない。だからこそ記者を、私を捨てることなんてまだ出来ない。
どれだけ損な生き方だったとしても、私にはその道を選ぶことこそが最良の選択なんだ。このペンは私の武器だ。闇も切り裂く可能性秘めた最終兵器。
けれど使い手の私が未だ新兵故にまだ闇を切り裂くことはない。宝の持ち腐れであるのはわかっている、だから祖父の歴史が刻まれた遺品の万年筆は持ち歩いてすらいない。
…いつだったか、私が小さな時、隣の男の子が鉛筆を忘れていたからお気に入りの鉛筆の一つを貸してあげたらいらねぇと言われ投げ捨てられた。ひどく傷ついたのを覚えている。
今なら許せるが当時の私にそれを許容できるほどの心はなかった。帰り道、投げ捨てられた鉛筆を川に捨てようとした。私の気持ちごと踏みにじられた鉛筆なんか持っていたくなかったのだろう。
振りかざした手は、振りぬくことは出来なかった。捨てることを中断させられた私は後ろを振り返る。若い男性が無表情で立っていた。ものすごく怖かった。
でも意地になった私は暴れた。暴れる私に男性はある言葉を振りかざして私の前からいなくなった。
鉛筆もボールペンも万年筆も、使ってこそ報われる。それをしないのは道具を殺すってことだ。そんな奴はいつか道具に殺されるぜ。
暴れまわることも忘れ、呆然と立ち尽くした。私の左手には強く抱きしめられるようにされた鉛筆が捨てられず残っていた。
あれから何年もたった今も、その言葉は私が我を忘れそうになったときに戒めの言葉として使われている。道具を殺すことは、やがて道具に殺される。今ならわかる気がする。
それでも今の私には祖父の万年筆は重たすぎる。一つの芸術作品としての価値さえありそうな歴史を持ち歩くには未熟すぎる。
まだまだ、もっともっと精進しなければ。真実を知れるようにならなくては…。そこへ。
真実を知りながら、何も言えない男を見つける。悪徳又一、業界でも嫌われる最低最高の偏屈者。でも私にはそう見えなかった。
私は堪らず走りながら声をかける。
「こらー! 待ちなさい悪徳!」
「…」
何も言わない。言いたくてたまらない顔をしているのに、言えないでいる。前々から記者として、また女としての勘が疼く。
悪徳が言わないでいることは、真実だ。それも命の危機に直接関わってくるほどの汚れた者達が隠し通した穢れなき真実。
悪徳はそのまま無視を決め込んでどこかへ逃げようとする。存外、無視というのは誰にでも聞く嫌がらせ方法だ。だが私はめげない。
「待ってって、言ってるでしょうが!」
右腕を掴んだ。逃げられないように思いっきり掴む。身体全体で捕獲する。心臓が鼓動を早める。
私の気持ちなど露知らず、悪徳が口を開く。大方憎まれ口か皮肉だろう。それくらいしか彼の口から出た言葉を知らない。
「…善永、とか言ったな? 俺に構うなと言われたの覚えてないか? それともメモを取らないと覚えられない弱小記者か?」
むっとする。確かに未熟ではあるが弱小だとは心外だ。更に腕に身体を押し付けて声を大にして言う。
「覚えていますよ! ですが貴方が知る真実を言ってくれなければ私はずっと構い続けます!」
「おいおい冗談はよしてくれ。俺は何も知らないよ。嘘を更に捏造するしがない悪徳記者なだけだ」
そんな程度の記者だった私はこんなことをしていない。悪徳記者は優秀だ。だからでしょう?
「でも貴方の瞳はうずうずしているじゃないですか。真実を言いたくて仕方なさそうに」
私が知る彼の最大の秘密、嘘。切り札を使わなければ、私はこの人と対等に話すことすら出来ない。記者として、また人間として。
それが悔しくて、少しだけ誇らしい。
「いいや、そんなことはない。お前の目が節穴だったってことさ、さっさと腕を放しやがれ」
更にむっとする。この心臓の音を聞かせてやろうと思い、限界まで身体を押し当てる。もはや巻きついていると表現していいほどに。
「嫌です。放しません」
「放せ」
嫌。
「放しません」
「ハ ナ セ」
そんなの嫌。
「ハ ナ シ マ セ ン」
「あんなところにUFOが」
そんな言葉で。
「バカにしてるんですか!」
「まあ今あっちでイチャイチャしている如月千早とプロデューサーらしき人物に比べればリアリティはないが」
「えっ」
つい、大嘘に紛れた現実味を帯びた嘘に騙され振り返ってしまう。力を緩めてしまった。身体を少しだけ離してしまった。
やばっ―――!
「あっこら、待ちなさいー!」
案の定スルリと逃げられてしまう。歳に似合わず素早い悪徳、逃げる様はまるで泥棒だ。
「待ってと言われて待つ泥棒がいるかね」
返ってきた答えと私の思いが少しだけシンクロしたことが、嬉しかった。だけど。
「貴方は記者でしょうが! 待てー!」
「おっあんなところにUMAが」
そうやって私のこと、まだ子供だと思って。
「おちょくってるんですか!? 絶対捕まえて吐かせてやります!」
ええ、あなたは覚えていなくていいんですよ。あれは私だけの秘密でいいんです。
私には記者としてではなく、善永沙織としてやるべきことを見つけたのだ。
彼に、悪徳又一に真実を暴露させないこと。暴露してしまえば、彼は間違いなくこの世からいなくてなってあの世で真実を言いふらすだろう。そんなのは許せない。
でもふと思うのだ。彼が私に真実を教えてくれる、そんな夢を。
記者として信頼された、からではなくて。
死に際だから誰でもよかった、でもなくて。
心の底からこいつには話してもいいと思って暴露してくれる、そんなありえない私の夢を。
タイトルは、そうね。
「悪徳記者ついに暴露!? 相手は信頼おける妻だった!」
…なーんて、ね。
2011.12.03 Sat l 自作小説 l COM(0) l top ▲

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