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「ねえねえ、あの人かっこよくない?」
「こら、人の結婚式は合コンじゃないのよ? 少し落ち着きなさい」
「実が落ち着きすぎてるのよー、このままじゃ二人とも行き遅れ確定でクリスマスを過ぎたクリスマスケーキみたいに売れ残っちゃうよ!」
「25という歳でもないでしょう? 麻美も私も立派に三十路過ぎよ」
「大丈夫! 私はいつでも23歳よ!」
「はいはいわかったから座りなさい」
「あーん実のいけず~」
不貞腐れた子供のように膨れっ面になる麻美。どうにもこの子は、大学生からノリが変わらない子だ。いいところではあるが、もう少しどうにかならないものか。
あっ、欠伸。まったく、人の結婚式でやりたい放題ね。まだうちのアイドルたちのほうが。
―――ご結婚おめでとうございまーっす! これを記念に二人の愛を、セーブしよー!
…一人は少し不安だけど、ともかくまだマシだろう。というか麻美が異常すぎるだけ。
いつまでたっても変わらない。成長していないわけじゃない。大人しくしていれば綺麗な女性なのに、残念な美人。
と、同姓の私にはそう見えるのだけどこれで意外とモテるらしい。本人は気付かないか、嫌だと言う始末だから未だに結婚する気配がないが。
「ねぇねぇ、花嫁のまなみん! 今日一段と可愛いね、お持ち帰りしていいかな?」
「だめよ。麻美風に言うなら、あの新郎さんが愛美をお待ち帰りするんだから」
「ええーいいじゃん、幸せは分けようよー」
「今十分に分けてもらっているじゃない、いいからもう少し大人しくしていなさい」
つまんなーいと言いながら手を放り出して机に顎を乗せる。…765プロの最年少アイドルより行儀が悪いかもしれない。
そういえば、高木社長も手を焼いていると言っていた。でもそれもまた可愛いのだがね、とも。
結婚しているようには見えないが、どうなのだろうか。聞いたことはない。
結婚式は進んでいく。花嫁の愛美は麻美の言ったとおり一段と綺麗で輝いていた。私達より若いのにもう結婚とは頭が上がらない。
だが私には今やるべきことがある。社長として876プロを大きしなければならない。俗に言う恋愛より仕事ということだ。そうなのだけど…。
「それでは、次はご友人からの祝辞です。石川実様、こちらへどうぞ」
変なことを考えていたらもう祝辞だ。人の前で演説するのは慣れているから緊張はしない。普段通りに前へ出る。聞く人と、新郎と愛美に一度ずつ礼をしていざ。
…麻美が変顔を作っている。それは、あまり女性がする顔ではない。慣れているので笑いもせずにスピーチを始める。
私が行うのはネットにも書いてあるような、定型の挨拶だ。だが日本はこれでいいのだ、私は間違ってはいない。…高木社長もそうだろうか?
―――結婚おめでとう! それではここで一つ、祝いの席に相応しいモノマネを披露しよう!
やりそうだ。滑ったとしても上手く話をすり替えて笑わすのもやりそうだ。私は、どうだろう、できるだろうか?
視界がガクンとするのと同時に肩を掴まれる。左を向けば麻美がいた。まずい、抑えないと―――!
「驚かせてごめんなさい、でも私どうしても伝えたい言葉があるんです。だから実と一緒にこの場を借りて言わせて貰います。…まなみん! 結婚おめでとう! すごく綺麗だよ! 新郎さんも、絶対幸せにしてね! 絶対だからね!」
ざわざわしていた会場が静かになる。ストレートすぎる言葉に赤くなる人もいる。新郎は困りながらも改めて決意して頷いて、愛美は。
微笑みながら、涙を流していた。
…社長らしくで身についた祝辞は祝辞なんかじゃない。唯の一般常識、あることに越したことはない。けどこんなところまでかしこまってどうなる?
アイドル達にもこんな常識で接するのだろうか。高木社長はそうするだろうか。何より、私はそれでいいのか?
いいわけ、ない。
「ほらほら実も堅い事だけじゃなくて、伝えたいことあるでしょ?」
満面の笑みで問いかけてくる麻美。そうね、たくさんたくさんあるわね。私達より先に結婚するなんてーとか、結婚する前に少しくらい連絡しろだとかたくさんだけど。
「…愛美、幸せはいつか逃げてしまうかもしれない。だからこそしがみ付いてでも逃がさないようにね」
私なりの精一杯の優しい笑顔。愛美は、泣き崩れてしまった。
暖かい拍手が会場を包む。いつも私聞いている『とりあえず』の拍手じゃなくて心から祝福してくれている拍手の音色。聞けるものなのね、アイドルじゃない私でも。
「では、新郎新婦に送る歌の方を―――」
「よっしゃー! まかせろー! ほらまなみんもこっちきて歌うよー! 曲は『目が逢う瞬間』!」
あっスイッチ入った。
「こ、こら麻美! いきなり叫ばないの! 目が逢う瞬間なんて結婚式で歌う歌じゃないわ、それにあの曲が用意されてるわけが」
目が逢う瞬間の前奏が流れる。最近出たアレンジverには前奏があるので歌いやすくなったと評判の高木社長の才能の宝庫、如月千早の持ち歌だ。
恋をしていた少女が未練を断ち切るような歌なのでまったくもって結婚式向きではない。だがスイッチが入った麻美は止められない。
何故か涙を流していた愛美も歌う気まんまんだ。この子達がアイドルだったら各所に謝らなきゃいけないな、なんて思いながら。
悪いと思いながら、私もヤケクソ気味で歌わせてもらった。三人で笑いながら。

「ねぇ、石川実社長には浮いたお話しはないの?」
「そうね。今のところはないわよ、仕事に専念したいから」
「んー本当みたいだね」
「なによ」
「べっつにー」
「もう、結婚式ではいい恥じをかいたわ」
「呆れた?」
「呆れたわ」
「絶交する?」
「こんな程度じゃしないわよ」
「あはは、私ね。実こと大好きだよ」
「あっそう」
「だから今は仕事でも、その気持ち捨てないでね。愛美に捧げたあの言葉は実のためにも使われるべき何だから」
「…麻美も、でしょ!」
「…ええ!」
確かに私はあの人が好きなのかもしれない。同じ社長で、ダンディーで、茶目っ気溢れる、あの人。
でも今はまだ、同じ境遇のもの同士の似たもの同士でいい。
私じゃ手のかかるアイドル達とマネージャー、それとイタズラ好きの大切な友人の世話だけで手一杯だから。
2011.12.13 Tue l 自作小説 l COM(0) l top ▲

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