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岡本まなみ








私の名前は岡本まなみ。どこにでもいる、平凡な存在。何をしても普通でしかない私。
「ただいま」
誰にも聞こえない。聞いているのは私だけ。あるいはこの部屋の哀愁が私の言葉を吸って栄養にしたかもしれない。
買ってきたコンビニ弁当の袋を机に置く。六畳、トイレ、浴槽、私。この家はそれらで構成されている。でもどれが欠けてもそこまで困ることはない。
眼鏡を外す。視界が途端にぼやける。また机に置く。袋を置いたときはガサっと、眼鏡を置いたときはコトっと、私より表現豊かな机に嫉妬する。
真正面にある窓を見る。世界の風景を象った私だけの額縁。お洒落と哲学を足して二で割ったような答え、そんな発想はずっと昔のされている。オリジナルじゃない。
それにそう思っていただけじゃない。今、机にさえ嫉妬してしまう醜い私がそう言えば天才や変わり者と呼ばれる人たちの気持ちがわかる気がした。
気がしただけだった。
窓に近づいて、なぞってみる。水滴を纏わりつかせた透明なキャンパスに何を書こう。
書くことが浮かばなかった。
ふと怒りがこみ上げてきた。何も考えがこみ上げないことに対して。だから私は窓を殴った。
割れない程度に。
窓にすら勝てない私。眼鏡のレンズになら勝てるだろうか? 指紋をいっぱい付着させたら私の勝ち、でもだめ。
綺麗好きだから。
自分で決めた勝負にさえ勝つことが出来ないなんて、私はなんてダメな人間なのだろう。
普通すぎるから。
ゆっくりと膝を突いて、お尻をつけて膝を抱える。悲しいとき、何をしていいかわからないとき誰でもやる。
普通のポーズ。
涙を溜めることもなくただ淡々と考える。自分とは、岡本まなみとは何なのか。
普通の悩み。
先ほどから全ての言動に普通を強調して飾るもう一人の自分は、あるいは普遍ではないんじゃないだろうか。
ううん、誰にでもいる心の自分。
誰にでもいるドッペルゲンガー。
何十と、何百と繰り返して考えている疑問。岡本まなみが存在する理由。代わりなんて探せば幾らでもいる私の生きる意味。自身が納得できるだけの答えは。
平凡な私には出すことができない。
強く膝を抱える。ぎゅっと何よりも強く、力いっぱいに抱きしめる。
血は出なかった。
震える。膝も身体も心も岡本まなみの全てが震える。あまりの冷遇振りにとうとう泣いてしまうのだろうか。
そういえばお弁当が冷めてしまう。
「う、う…」
遂に涙が出てきた。涙は私の目を潤すと同時に、私の視界を幻想世界のように歪ませる。
涙が流れることはなかった。
助けて欲しい。メビウスの輪のように、ウロボロスのように続く疑問の輪廻を断ち切って欲しい。
―――簡単じゃない。答えはね―――
「…いやああああああああああ!」
耳を塞ぐ。出てこないで出てこないで出てこないで! 私の心にまでちらつかないでよ!
―――私もその答えわかりますっ! 答えは―――
「ダメ、ダメダメダメ! 言わないで聞かせないで答えないでええええええ!」
頭を振るう。出てこない出てこないで出てこないで! あなただって一緒なんだから!
「何よ何なのよ! どうして私なんかマネージャーにするのよどうして私なんかを必死に慕うのよ貴方達の方がすごいじゃない才能あるじゃない天才じゃない! なのにどうして私を特別扱いするのよ! そうじゃないってわかってるのに、わかってるけど!」
私は平凡だ。
「心のどこで期待しちゃうのよ私も特別なのかもしれないって普通じゃないかも知れないって思っちゃうのよ! 貴方達の側にいたら勘違いしちゃうじゃないだからもう私に構わないでよ!」
どこまでも平凡だ。
「私だって貴方達の側にいれば変われるかもしれないって思っただからマネージャーにもなった必死になって助けてあげただけど! 何にも変わってくれないじゃない!」
叫んでいる。
「期待させるだけさせといて拍子抜けじゃないって思う自分がいただけむしろそれに気付いて私は更に自分がちっぽけな人間だと思ったのよどうしてくれるの!」
心は痛くなどなかった。
「挙句の果てに何であの二人にこいつがなんて目で見られることもあって踏んだり蹴ったりよ! もう、貴方達なんてうんざり! 出てってよ! 私の心から出てって…」

ドンッ!!!

「ひっ…!」
「夜にうるせーぞ! 警察呼ぶぞゴラァ!」
「…ッ」
心が叫んでいるのなら、魂が震えていたのなら止まることもなかっただろう。でも私は止まった。私のあれは、ただの演技だ。天才ぶりたい、悲劇のヒロインぶりたい、そんなポーズ。
「…う、うぅ」
また膝を抱える。涙が零れた。何てことはない。ただ怖かったからだ。
…私とは何なのかの答え。平凡な私には到底出せない、あの二人に聞かされたところで理解できない。
最初から私のこの疑問に対する答えなんて、どこにもなかったんだ。
私は肩を震わせて泣いた。誰かのためじゃなく、自分のためでもなく、隣人の怖さが故に。
どこまでも平凡で、普通で、情けない人間。
夜通し泣くでもなく私は眠った。弁当は明日食べよう、なんて心配をしながら眠りについた。
夢を見た。あの二人にも負けない発想で危ない場面を切り抜ける私。憧れていた、手にしたかった、ありえない私。
起きたら私は泣いていた、自分の不甲斐なさに泣いていたのだろう。なんてこともなく、普通に起きて。
あれだけヒロインぶって罵倒した人の元へと仕事をしにいく。
ああ、なんて私は平凡なんだろう。そう。
狂おしいほどに…。
2011.12.13 Tue l 自作小説 l COM(0) l top ▲

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