--/--/-- (--) スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

スポンサー広告 |


2011/12/13 (Tue) 名迷の極み

武田蒼一

「普遍的で、誰にも親しまれ、誰もが口ずさみたくなる、それが名曲か。我ながら大層なこと言ってしまったものだ。あまつさえ作ることになるとは少し愚直がすぎたか」
独り言を言いながらベランダで一人星空を見上げる。深い青の中に点在する星屑。生まれ、流れ、消えるのだろうか?
あの星になりたくて私たちはダイアモンドに手を伸ばすのかもしれない。意味も知らぬままプリズムを歌うのかもしれない。
しかし真剣な彼にニュアンスだけで飾り当てた歌詞を、曲を提供していいのか? 彼はそんな程度ではない。歌の可能性をもっと広げてくれるかもしれない人物だ。
時が流れる。焦るな。時間は少ない、がまだある。最大限を尽くせなくて何が音楽プロデューサーか。
何をテーマにするべきだ? あの子はアイドルだ。演歌歌手でも流行のJポッパーでもジャズシンガーでもない。皆に夢を歌い、売るのが仕事だ。
…あまり堅苦しいのはなしだ。踏ん切りとしてプリズムを入れてよう。テラス、プリズム。照らす、プリズム。プリズムは何を照らす。
思い浮かんだのはしなだれ絶望に満ちた顔をして去っていたあの赤い女の子とそれを必死に励まそうと歌を歌う彼だ。
「二人のテラス…まるでプリズム。いや、二人を照らす、プリズム」
あの二人は世間から見えれば相当に屈折している人間だ。丁度いい、私なりに納得もできニュアンスだけの歌詞となったな。
二人を照らすプリズムという歌詞を入れるのなら、在り来たりであるが愛を歌う曲にするか。二人の愛の歌。一人が愛を歌い、もう一人はそれを享受する。
二人の愛の歌には何が必要だ? 愛されることに愛することは勿論だが。いつから好きになったのか。憧れからか、尊敬からかもしれない。
「抱いた憧れは今も変わらない」
だが日々は過ぎ去っていく。優しく消えていく。いや、すぐに消えるのではなく溶けていくのだ。いつも心で呼んでいたことすらも。
「しかしいるだけで、それだけで愛を歌うものは輝ける。そして気持ちは光はじめる」
ふと、あの赤い少女…夢子君と涼君が二人で輝く姿が脳内のスクリーンに映し出される。あの二人は思い出を持ちきれないほど作るだろう。自分達だけじゃなく、皆の分まで。
だが、人生は一度きり。そう…。
「いつか二人は輝くのをやめ、星になる。けれど」
それでも過ごしていた二人の日々は永遠に残り続けるだろう。誰かの心に、二人の心に、皆の心に、世界の心に。昨日も今日も明日の全て。愛し続けるだろう。
だからこそ一度きりの人生を手と手と繋いで歩き出す。ぽんっとフレーズを口ずさむ。
「あなたと生きる、素晴らしい世界…」
二人で生きる素晴らしい世界。ここでいう世界とは現存する世界ではなく二人だけの本質的な世界。だからこそ星になったとしても忘れない。
固まってきた。だがここでまた迷いが生じる。果たしてこの曲は普遍的で、誰にも親しまれ、誰もが口ずさみたくなる曲だろうか? 私にはそうは思えなかった。
だが、口ずさんでしまいそうな少女が思い浮かぶ。
「桜井夢子は、口ずさむだろうな…」
彼女と彼を思い浮かべながら考えたこの曲を、彼が歌うのだ。片割れの彼女が口ずさまないわけがない。しかし、それだけでいいのか? 私が求める音楽とはそれでいいのだろうか?
音楽とは万人に受け入れられる可能性を持つ素晴らしい媒体だ。メロディと歌詞と歌声だけで世界でも通ずる言わば共通の文化。
その文化に私と彼のエゴで作ったこの曲を放ってしまっていいのだろうか? 万人受けするのか、やってみなくてはわからないが…。
おいそれと決断出来ることではない。時間は流れる。こうしてる間にも世界は流れていく。何かないものか。
「…まったく、どうして引き受けてしまったのか。断ればよかったものを」
そう考えながら、笑う。心にもないことを言ってしまったからつい笑ってしまった。彼の目を見た瞬間から創らない選択肢など捨てたじゃないか。
しかし、どうして? 何故私はすぐ引き込まれたのか。カリスマ、があるような子ではない。しかし、とっつきやすい子ではある。
ふむ。理由か、理由。私が曲を作る理由、それは皆にこの穢れなき文化をもっと広く純粋に知って欲しい。身なりで売る、付属品で売るといった不純物はない天然の歌。
…広くか。広く、か。
「彼は、彼でもあり"彼女"でもあるのだったな。…そうか、なら十分か」
彼は"彼女"でもある。他のアイドルには真似の出来ない絶対的なポイント。つまり、男性からも女性からも愛される稀有な存在。成る程、ならば。
この曲は彼と彼女の歌でありながら、彼と"彼女"の歌でもあるのか。しかしどちらも私にしかわからない。普遍的な曲とはいい難い。名曲とは程遠い。
「だが、迷曲にはなるかもしれないな」
…イメージはこのままで歌詞もあまり変えない方向で。曲調は、激しいドラミングも、高度な技術で引かれるピアノも、ストラディバリウスも必要ない。
あくまでも簡単な、飾りのようなメロディー。耳を刺激せず、脳に僅かに残るような優しい音色に引っ込み思案な楽器たち。
そう、全ては主役を引き立たせるために。
「主役が転んでしまうとダメになる、か。本当に迷曲になりそうだ」
しかし心にもう迷いはなかった。何故ならば一つだけ楽しみなことができたからだ。
彼は"彼女"のまま歌うだろう。いつかは彼になって歌いそうでもある。だが彼が一人の男として歌ったのなら、彼と彼女にシャンパンでもプレゼントしてあげようか。
なんて、悪戯が過ぎるか。さあ、本格的に創りはじめるとしよう。この気持ちが溶け出してしまう前に。



曲はあっという間にでき、涼君が歌い爆発的にヒットした。転ぶどころかスタートダッシュまでしてしまう有様だった。
何故普遍的ではないこの曲がここまで売れたのか。最初は私の掲げているあの定義が間違っていると疑った。けれど違う。
あの曲は至極普遍なのだ。普通だったのだ。
何故ならば、誰しもが持つちょっとした悪戯心がふんだんに散りばめられた曲だったのだから。
「ほう…」
シャンパンか。曲が売れた理由を見つけた記念として久しぶりに帰って飲むとしよう。勿論、
あの二人にも送ってやらないといけなくなったからな。

自作小説 | comment(0) |


<<今の尾崎玲子 | TOP | フヘンイボン>>

comment











管理人のみ閲覧OK


| TOP |

プロフィール

流ぬこ

Author:流ぬこ
自個偽無、候。
書いたり書いたりしている流ぬこです。
ピクシブなんかでも同じく流ぬこで書いています。
はじめの一歩を見るとオズマ戦でも小橋戦でもどの戦いでも泣けます。はい。

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

カテゴリー

ブログ内検索

RSSフィード

リンク

このブログをリンクに追加する

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。