上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.-- -- l スポンサー広告 l top ▲
尾崎玲子












「それではお疲れ様でしたー」
「今日も最高だったよ! またよろしくね、玲子ちゃん」
「はい! 喜んで!」
とびっきりの挨拶を済まして私はスタジオを後にする。足取りは軽く、控え室まで戻る。だってそこには。
「よう、おかえ」
「プッロデューサー! 愛してるー!」
「うおわぁ!」
お構いなしに抱きつく。襲い掛かるように、獲物を捕らえるかのごとく俊敏かつ正確に。
「だから、事務所じゃない場所でひっつくなと言ってるだろうが! そもそも事務所でもダメなんだから?」
「なら二人の愛の巣を作ろうよ。そしたらそこで存分にいちゃつけるじゃない」
「いや、そういうことじゃなくてだな…」
「じゃあどういうこと?」
「…もういい」
「ならずっと抱きついてていいのよね?」
「なわけ、あるか!」
引き剥がされた。まったくもう、照れちゃって。可愛いんだから。だから大好きなんだよね。
あっちだってトップアイドルが彼女だなんていいことだと思うんだけどなぁ、この人堅物だからもう少し時間は必要かも。
というかこれだけ抱きついたり胸を当てたりしてるのにまだ理性を保っていられるのが女として負けた気分だ。
「ほら、さっさと帰るぞ」
「どこに寄ってく? デパートでお買い物とか夜のディナーとか、それともホテ」
「お前は自分の家、俺は事務所。以上」
「どこの中学生よ!」
「お前もう18だろ!? 少しはトップアイドルの自覚を持ってくれ、担当プロデューサーと密着! なんて記事、悪徳記者に書かれたら終わるぞ」
「どうってことないわよ。私がトップアイドルのカリスマ性でねじ伏せてあげるから!」
大した自信だよと言わんばかりに肩をすくめるプロデューサー。もう、そんな動作もかっこいいから困る。
でもやっぱりこの人は堅物だから何もしない。何も起きない。つまらないけど、今はまだそれで許してあげようかなぁ。
「それじゃ仕方ない。帰るとしますか!」
「おう、ちょっと待ってくれ。ブログの方を上げるから…」
「私の代わりに書いてくれてるの? 私が好きでやってるんだから、業務用じゃないのよ?」
「でも今日は疲れただろう。ファンの皆には悪いがここは代わらせてもらうよ」
胸がキュンとする。ああ、こういうところに惚れたんだーって思ってつい顔が赤くなる。こっちばっかり赤くなるのは、何か不公平だ。
だから私はまた飛びついて、彼の右手ごとマウスを握る。
「お、おいこら! 間違えて下書きのまま上げちゃったらどうするんだ!」
「うるさーい! 今は私に構ってくださいお願いします!」
「敬語の意味がわからーん!」
「うりうりー!」
「胸を当てるなー!」
二人でもみくちゃになってるその時。
丁度ファンの皆のコメント「頑張ってー」とか「応援してます」とかのその場所で。
マウスを右クリックしたままスライドさせる。
文字が反転する。
世界が反転する。


「…今日も悪口だけね」
ディスプレイ私たちへの罵倒が書かれていた。「死ね」とか「汚い女はアイドルやんな」とか、公衆トイレの落書きのような文字達が躍っている。
どうしてこうなったのだろう。私は、尾崎玲子は、riolaはそこまで悪いことをしたのだろうか?
誹謗中傷に晒される毎日、たまにくる仕事といえばデパートの上で疎らな観客に対して持ち歌を歌うだけ。時には曲の指定までされる。
当然それだけじゃ食べていけない。ここ数年続けている事務作業はもうプロ並みに早くなっていた。そこでも私はバカにされていた。
私が悪いんじゃないのに、あの子が悪いんじゃないのに、riolaが悪いんじゃないのに。
「あれが社長じゃなければ、私たちはもっと輝けたのに…」
思い、時間が来る。久しぶりのデパートでの営業だ。でもこれで最後になるかもしれない、プロデューサーの顔はもう限界だった。
一番前の席に座っている双子の子達の笑顔が目に入った。素敵な目、キラキラした瞳。穢れなんて知らないんだろう。
アイドルになったばかりの私もそうだったのにね。もう、傷つきすぎて前すら見えなくなっている。
でもせめて最後くらいは、誰かの記憶に残るライブにしよう。うん、あの双子に覚えられるくらい、場違いに行こう。
そしたら、私のこと、riolaのことを覚えててくれるかな? 泣きそうになりながら私は私の最後のステージへと飛び出した―――ー。


世界は並行している。その平行世界で私は成功していて、失敗している。この世界の尾崎玲子は失敗した成れの果てだ。
アイドルとして日の目を見れたら、そう思わなかったわけじゃない。出来ることなら、出来ることなら。
けれど今の私には過ぎたる願い、かつ必要のない願い。トップアイドルとして輝くのは他の私に任せることにしよう。
だから今の私にしか出来ないことをしよう。全力で、あの子をプロデュースしなければならない。あの子をトップに立たせてあげたい。本心だ。
でもその本心の裏側には少しだけの期待と、多くの不安がある。
私が過去に悲惨なアイドル生活をしていたことが絵理のファンに知られること、絵理に知られること、当時私を攻め立てた人に知られること。それは怖い。
けれど私はそれでも進む。大丈夫だ、もう誰もあんなアイドルユニットのことなんて忘れている。だからきっと平気だ。
でも、それでも私は期待してしまう。いつか私が絵理をトップにしてプロデューサーとしてインタビューなんかを受けて公の場に出たとき。
あの時、私のライブで興奮して声援を送ってくれて、最後は泣いていたあの双子に。
私の最初で最後のファンが気付いてくれるかもしれない、と。
…矛盾を抱えながらも私は今日を、明日を、未来へ生きる。過去を振り返るのは過去の私がやってくれた、未来まで残るトップアイドル人生は他の私がやってくれてるだろう。
なら今の私は、今を生きるしかない。だから歩き出す。
アイドル尾崎玲子としてではなく。
プロデューサー尾崎玲子として。
2011.12.13 Tue l 自作小説 l COM(0) l top ▲

コメント

コメントの投稿












       
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。