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三条ともみ













冬の公園、ひどく寒い。息は白を通りこしてグレーに見える。
「普通に勝負しても、勝てたけどね、か」
けれど私たちは負けてしまった。普通に勝負して、負けたんだ。直接対決をしたわけじゃないけれど、CDの売上枚数も負けてしまった。
ダブルミリオンをアイドルグループでたたき出すとは思わなかった。私達でも150万枚が限界だったのに、彼女達には壁などないのだろうか。
彼女達が20位以内に入ってきたとき嫌な予感はしていたんだ。この子達は私達のすぐ足元まで来ていると。
私はすぐに麗華に報告した。ナムコエンジェルスは要注意アイドルだと。そしたら彼女はこう言った。
「あんなありきたりなお仲間ユニットの仲良しこよしアイドル達なんてここまでよ。私達がそうだったようにね、それに出てくるのなら討てばいい、正々堂々ね」
それしか言わず、これ以上は何も言わなかった。私も何も言わなかった。もう何を言っても聞いてはくれないだろうから。
この時からだろうか、胸騒ぎがし始めたのは。

ナムコエンジェルスの前に私達に追いつこうとしたのはジュピターという男性アイドルユニットだった。
親元は961プロ、社長の黒井崇男は私達と同じように頂点になるためには手段を選ばない。業界では有名な噂だ。
だが私達と決定的に違うのは頂点になる理由だ。それはどのアイドル、プロデューサー、社長でさえも違うのだろうけど。
黒井社長が何故頂点を目指しているのかは分からない。けれど私達は頂点なんか別に興味がなかった。でも頂点になる必要はあったのだ。
私達魔王エンジェルの目的は「アイドルなんて虚像で頂点を取れる」を証明するためだ。勿論これを誰かに証明させたいわけじゃない、私がそうしたいわけでもない。
魔王エンジェルリーダーで、目標にしていたものが虚像だった麗華だけが追い求める悲しい証明だった。
仮に証明できたとして何にもならない。恐らく残るのは虚無感だけだ。それでも麗華は追わずにはいられない。
私にもその気持ちが僅かながら理解できる、共感できる。だからこそ止めない。証明してもらいたいという心があるのかもしれない。
だからこそ虚像か偶像かもあやふやな木星如きに負けるはずがなかった。事実、彼らの最大のヒット曲『恋を始めよう』も軽快にミリオンは飛ばしたものの私たちを超えることはなかった。
その後ナムコエンジェルスと直接戦い、敗北して解散したのだ。私達が直接戦っても負ける自信はなかったけれど、まだ成長する木星達がリタイアしたのは一応喜ばしいことだった。
「あのナムコエンジェルス達もやれば出来るじゃない。私達の専属天使奴隷にしてあげてもいいわね」
ふんぞり返ってそう言っていた。自分の手を煩わせることなくジュピターが消えたことに上機嫌だったのだろう。これでもう、私達を脅かすものはいない。
そう、思っていたのだろう。

異変が起きる。ナムコエンジェルスのファーストシングルの『THE IDOLM@STER』の総売上枚数が激変。72万枚だったのがミリオン突破、そして二位へ。
予想外の事態に麗華は不機嫌だった。すぐさま行動に出る。妨害行動、同じような曲のリリース、ネガティブイメージ。手のつくところから妨害していく。
あちらのほうも悪戦苦闘は強いられているようだったが全て跳ね返されてしまった。虚像の攻撃は偶像にかき消された。
そして虚像の横に偶像が並んだ。CDの売上枚数が同数の150万台に並ばれてしまったのだ。直接対決はないまま私達の決着が付こうとしていた。
翌週、私達はあっという間に抜かれていた。張っていた虚勢が、虚像が崩されていく。本物の勢いに、最強の偶像に。
それからの魔王エンジェルはボロボロだった。麗華にも生気が見られず、りんもつまらないと言ってユニットはバラバラになった。
事実上の自然消滅。あれから私達に仕事の依頼は一切ない。虚像は虚しく霧散して消えるだけ。ファンの反応も残念というよりはようやく世代交代かなんて。
私達を心配する奴等なんて誰もいなかった。所詮はそんなものなのだろうか? あのナムコエンジェルスもいつかは私達と同じ道を歩むのだろうか。
私達が最初に夢見ていたアイドルなんて、そんなものだったんだろうか。私にはそれだけが疑問として残った。
仕事がないため、普段どおりに大学に行きながら趣味の小説を書く毎日。それなりに充実している。惰性でやっていた虚像時代よりもよっぽどだ。
……一番充実していたのはいつだろう?
「幸運エンジェル……」
それが、私達の最初の姿。まだ成り立て出来立ての幼い偶像、アイドルだった頃の名前。色褪せて、裏切られて、どこかに捨てた名前。
まだ、どこかに残っているだろうか? 本当の私達はまだどこかに残っているだろうか?
「ねぇそこの可愛い君?」
「……それは、私のこと?」
「そう、君のことだよ。直接会うのは初めまして、だけど僕のこと知っててくれるかな?」
「ジュピター、伊集院北斗」
「あら、覚えててもらえてるなんて光栄だね」
現れたキザが服を着ているような人間。ジュピターの一人だった、伊集院北斗だ。話しでは現在もソロでアイドル活動しているらしい。
煩わしい、あまり好きなタイプの人間じゃない。さっさと帰ろう。座っていたベンチから立ち上がる。
「お邪魔だったようだね。でも僕はどうしても君達に逢いたかったんだ、何せ」
あの魔王エンジェルの一員だから、か? 皮肉ったらしく言うつもりだろうか? 何とでも言えばいい、もう私達は終わったのだか
「幸運エンジェルの一人に会えたんだから」
「えっ」
「今は魔王エンジェルだったっけ? でも僕はラッキーエンジェルの方がチャーミングで可愛いと思うけどな……もしかしたら、君達三人ならあの子達にも勝てるかも知れないのに、もったないあなぁ」
あの子達? ナムコエンジェルスのこと? 本気で言っているの? 幸運エンジェルよりも格段に実力をつけてありったけの妨害をしても敵わなかったあの子達に、私達が?
「そしたら実現するかもよ? ナムコエンジェルスに迫る、真ジュピターと幸運エンジェルによる三つ巴の戦いがさ」
「貴方達、再起するつもり?」
「さあ、どうだろうね。この間話したときはお互いに近況報告をしただけだったし、でも距離は近くなったと思うよ。君もしてみたら、一回踏み越えればあとはどうってことないからさ」
「何を言って」
「おっと、そろそろ帰るよ。次に逢うときは是非3対3がいいね。それじゃあね、ラッキーエンジェル三条ともみちゃん、チャオッ」
そう言い残して彼は去っていた。ジュピターは近いうちにもう一度頂点を目指すのだろうか? ……真意はわからない。
だがわかることが一つだけある。私は携帯を取り出して、りんに久方ぶりにメールを書いて贈った。
震える指を、彼の言葉を思い返しながら押さえて、私はメールを送信した。その内容は。



To,朝比奈りん
件名 無題
本文 まだ幸運エンジェルは生きている。話がしたい。返事、頂戴。
2011.12.13 Tue l 自作小説 l COM(0) l top ▲

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