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東豪寺麗華





『東豪寺麗華率いる魔王エンジェル、ついに天使達に敗れる!』
そんな文字が記事の一面を飾ったのはいつごろなのかも思い出せない。どうにかその記事を出さないように手回しをしたが、結果はどの雑誌も一面で飾る始末。
金よりも、ナムコエンジェルスを選んだ。つまり権力にナムコエンジェルスは勝ったということ。私にはそれが受け入れらないでいた。
あの日から私の心は虚ろなままだ。正に虚像。敗れた後で本当になるとは、これを滑稽と言わずして何と言うのか。
私達魔王エンジェルの三人は当然のように離れ離れになった。別に仲良しごっこをしていたわけでもなかったんだ。必然だった。
あれから二人から連絡はない。それもそうだ。私があの二人を拒絶したのだ。拒絶されてもお節介をされるほど私達の仲は良くない。
これは当たり前のことだ。ナムコエンジェルスが出てきた時点で私達のやってきたことは全部無駄になっていた。笑えないけれど、乾いた笑いが部屋に木霊する。
寂しい部屋に、虚ろな私。これほどマッチする組み合わせはないじゃないか。乾いた笑いも最高のアクセントになってくれるだろう。
外に出る気にもならない。動く気にもならない。息を吐く気にもならない。息を吸う気にもならない。生きる気にもならない。
このままいっそ、消えてしまおうか。痛いのは嫌だから、安楽死出来る薬を手に入れて。この世から去ってしまおうか。
「そう、しようかな」
ぼんやりと決まった目的。目的と呼べるほど崇高なものじゃないけど、今の私にはそれが動く、生きる原動力になる気がした。死に向かうために生きるだなんてお洒落じゃないか。アイドルの最後として相応しいかも。
そう考えると少しだけ気が晴れた私の心がふとあの場所を思い出す。どうしてその場所を思い出したのかわからなかったけれど気付いたら私はそこに向かっていた。
寒い。このまま凍りそうなくらい寒い。でもイマイチそれもピンとこない。生きている実感がなければ身体がそ感じていても気にならないのだろう。
かつかつ歩く。そういえば今の私、髪の毛もぼさぼさ、化粧もしてない、厚着もしてない、パッドも入れてない。こんな状態で外に出たのはいつ以来だろう。
魔王エンジェルの時にはありえない、そのまた前でも化粧はしていた。……あれ、そのまた前って何だっけ? 魔王エンジェルの前なんてあったっけ?
何か心に引っかかりながらも私は進む。頭はぼんやりしていてるのに足取りだけはしっかりして、前進していく。まるで私じゃない誰かが代わりに歩いてくれているような気分?
いや、誰かが一緒に手を引いてくれるようなそんな気分だ。でも私は一人なのに、こんなにも孤独なのに、誰が一緒にいてくれるんだろう。わからない。
歩くこと二十分くらいだろうか? それとも一秒しか経っていないかもしれない。一時間も過ぎ去ってるかもしれない。時間の定義が曖昧だ。
「なに、ここ」
変哲のない、人通りの少ない公園。空が夕闇なのも起因しているのか人通りは皆無と言ってよかった。まあいたところでどうってことないんだけど。
私はここを、知っている気がする。でも魔王エンジェルの時の記憶を探してもぴくりともこない。子供の頃遊んだわけでもない。どうして私はここを知っているのだろう。
ゆっくり、記憶を思い返す。
私達魔王エンジェルは自然消滅している状態。何故?
私達がナムコエンジェルスに負けたからだ。どうして?
彼女達が金よりも、権力よりも、虚像よりも強い偶像だったから。それまでは?
魔王エンジェルは天下だった。敵なんて誰もいなかった。どうして?
勝つためには手段を選ばなかったから。何でも利用したから。どうして?
証明したかったから。アイドルなんて虚像で十分頂点が取れるんだって。何で証明したかったの?
裏切られたから。尊敬していたアイドルがただの虚像だったから。名前は?
雪月花。名前の綺麗さなんてなかった薄汚い連中だった。なら魔王エンジェルと同じ?
魔王エンジェルはそうだったとしても、その前は違った。その前って?
魔王エンジェルの前、私達の最初の名前。偶像だったころの名前。その名前は?
「幸運エンジェル……」
ああ、思い出した。ここ、幸運エンジェルの原風景だ。まだ売れていない新人の頃、スタジオでレッスンするお金もなかったからこの公園をレッスン代わりに使っていたんだ。
ダンスは広い中央の空間で、歌は迷惑にならないように住宅の反対で、表現力は滑り台を滑っている途中で表現するタイムリミットつきで。
ここから、始めたんだ。確かあの頃の私は絶対に親の力を使わないって意気込んでいた。バカバカしいくらい正直に勝負してたっけ。
オーディション、怖かったなぁ。落ちるかもしれないけどやらないといけない板ばさみで心臓爆発しそうだった。私達に負けて泣いていた子達の涙も、まだ濁っていなかったなぁ。
レッスン、最初のうちはずっとここだったけど徐々に売れてやっとスタジオ借りれたときなんて死ぬほど大喜びしたっけ。声潰れるくらい叫んでみたり、足が壊れるくらいにダンスしてみたり、顔引きつるほど表現レッスンしたり。
営業、自力で頭下げてダメって言われて。何日も続いたときはさすがに堪えた。泣きそうだったけど泣かなかった。私がいい始めたことで、嫌なことがあるって覚悟したんだ。それに嘘をつきたくはなかった。
何度も何度も繰り返して、失敗だってした。決して平坦な道じゃなかった。まあ山あり谷ありほどではなかったけれど悔しくて眠れない夜だってあった。
だけど諦めなかった。逃げ出さなかった。アイドル、辞めなかった。だって私は、私は。
「アイドル、好きだったから……」
心が鼓動する。涙が流れる。ああ、わかった。私をここまで手を引いて連れてきた者の招待が。
私だ。あの頃の私が最後に私を連れてきてくれたんだ。世界に絶望して生きる希望を失った私に最後に思い出して欲しかったんだ。きっとそうだ。
ありがとう、でも大丈夫。思い出したよ、全部ね。でもごめんね。私は貴方ごとこの世からいなくなる。何もかも遅い。遅すぎたんだよ。
東豪寺麗華……。

「そんな寒そうな格好で、何してんだ?」

声が、聞こえて。私は振り返った。最後に私と話すのは、誰?
2011.12.13 Tue l 自作小説 l COM(0) l top ▲

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