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天ヶ瀬冬馬






「君まで届きたい 裸足のままで、俺達ジュピターにはそりゃ歌えない歌だ」
大学も休み、アイドルもやめた。日に日に散歩をする日が増えている気がする。若年寄みたいだけどこれが中々やめられないでいる。
高校生まで何の目標も持たずやってきてアイドルになって、頂点までいけなかったのは悔しいけど忙しくてもそれなりに充実してたって今では思える。
それで大学に入ったらこれが思った以上に暇で気付いたら散歩してたり。別に大学で一人って訳じゃないけど、あんまり誰も話しかけてこないし話す奴は数人くらいかな。
散歩には目的なんてなくてただ歩いたりふらっとその辺立ち寄ってみたりぼーっとしてみたり別に何をするって訳じゃない。
最初は物足りないって考えたりもしたし、こんなことしてるなら他にやることがあるんじゃないかって焦ったりもした。
でもゆっくりすることは必要なことだ。アイドルをやめてからも何かと忙しかった俺には必要なことだったんだと思う。気持ちの整理とか。
それでもう少しゆっくりして、気持ちにも納得がいく位清算できたらあいつ等に電話しようって思うんだ。
伊集院北斗。
御手洗翔太。
決して混ざり合うことなく高めあうこともなく、己の存在を個人個人でアピールしつくしたジュピターの二人。俺と一緒にあいつ等に負けた境遇の二人。
会ってもあまり喋らない、必要以上に関わらない、助けあうこともしない。それがジュピターだった。そうして負け、木星は砕け散ってばらばらになった。
解散直後くらいはもう二度と会うことはないだろうって考えてた。会って何かしたいわけじゃなかったし、そこまで思い出があるわけでもない。
本当にただ横にいた程度の繋がりの二人に今更どんな面して会えばいいか、理由も仕方もわからなかったからだ。でもゆっくり散歩しながら気付いたんだ。
そう考えていること自体が既に会いたいっていう心の表れなんじゃないか。そう思ったら少しだけ恥ずかしくてその日は散歩をすぐにやめたんだったな。
携帯に登録されている二人との連絡手段、どれもジュピター時代は非常用でしかなかったし、結局非常なこともなかったからかけることはなかった。
勿論二人からかかってくることもなかった。ジュピターは解散してから一度も連絡を取り合っていないってことだ。
いや、もしかしたら俺以外の二人は電話してたりという可能性もあるけど。……そう考えると悲しくなってきた。
ふらっとぼーっと歩き続けていたらいつの間にか寂れた公園についていた。さっぱり場所の見当も付かない。
近場の散歩に飽きてしまった俺は最近適当な駅に降りて適当に散歩するのが日課になっていた。降りた駅の名前すら覚えていない。
少し歩きつかれた足を休めるべく公園に入る。そしたら、流れ込んでくるあるイメージ。この公園でアイドルとしてのレッスンを必死にする誰かのビジョン。
「……こんなところにもアイドルって息づいているんだな」
ここ以外でもたまにこんなビジョンを見ることがある。ここまで強烈なものはなかなかなかった。一瞬強く過ぎったりするもの、長く薄く滞在するもの、一瞬でさえもなかったもの。
それまでのものと比べてもこの公園は別格だった。何というか、とにかく強い。あいつ等を髣髴とさせるような、楽しい思い出。
寂れたこの公園で練習するのがたまらなく好きだった。いつも笑顔で明日はもっと皆に知ってもらいたいと前向きに考えて諦めない、そんな天才。
俺たちは直に諦めてしまった、凡人なのかもしれない。このイメージの主は今もアイドルを続けているだろうか? いるのであれば曲を聴いてみたい。
風がびゅうっと吹く。自然的なものじゃなくて、なるべくしてなった誰かのせいで起きた風。風が鳴いた方を向いたら。
このくそ寒い中、ネグリジェたった一枚で目も虚ろに公園に入ってくる女がいたからだ。年は俺よりもちょっと下くらいだろう。
急にビジョンが凍える。塗り替えられていく、目の前の女に。俺のさっきまで見ていた明るいビジョンは全部あの女に変わってしまった。
「何なんだ、あの女……」
異常なのは服装だけじゃなった。ボサボサの髪、乾いた唇、目の下のクマ、裸足。元が良い分その不自然さがミステリアスな美しい女性にも見えないことはないがどちらかというとホラーだ。
普通なら話しかけちゃいけないんだろう、ああ絶対にだめだ。あんな危なそうな人物に声をかけるなんてしないで警察に連絡をするべきなんだろう。
ジュピターだった頃の俺ならそれすらしないで去っただろう。でも今は違った。
無性に話しかけてみたくなった。俺も寂しかったのかもしれない。けどそれ以上に不気味な女と話してみたかった。
中々踏ん切りがつかない。心がそう思っても頭で理解している常識がアラートを鳴らしているためだ。アラートには従うのがいいんだろうけど、今だけは許してくれ。
拳を固めて。
一歩進んだ。
もう一歩踏み込んだ。
更に一歩踏み込んだ。
女はそれでも俺に気付かない。
俺は女のすぐ横に立って。
着ていたコートをかけてやりながら。
言った。
内心おっかなびっくりで。

「そんな寒そうな格好で、何してんだ?」
2011.12.13 Tue l 自作小説 l COM(0) l top ▲

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