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桜井夢子




To,夢子ちゃん
Sub,無題
本文 FPSに飽きたので外に行こう。今日、今すぐ!

朝六時。そのメールで叩き起こされた私の心臓は成層圏を突っ切ってしまうくらい飛び出した。骨格、筋肉、皮膚程度じゃ抑えられないのは当たり前。
十分間、身動きが取れないでいた。寒さがなかったら私はそのまま呆けてしまっていただろう。いや、惚けるだろうか。バカ。
身震いした体の振動をきっかけに私は改めて携帯のディスプレイに焦点を当てる。ぼんやりとしていた視界に見えてくるのはやはり外に遊びに行こうの短文だった。
まだ夜の残り香がある中、私はどうしたらいいかわからなかった。わかるのは芯まで冷えていく私の体の温度だけ。
「えっと、返信……でもこんな早い時間に平気かな? だけどあっちからメールしてきてるってことは平気なのかな? というか何て返信するの? ……あーもうわかんなあい!」
布団の上でじたばたする。何の解決にもならないけどそうせずにいられなかった。少しだけ寝癖の付いた髪が私の肌をくすぐる。いつもはうざったいだけなのに今日は許せる気がする。
右手に携帯で左手は掛け布団をきゅっと握っている。何を書いたらいいのかさっぱりわからない。私はほら、あんまり素直じゃないから何を書いていいのかわからないのだ。
「というかそもそも朝六時にメールって何よ! 驚くじゃないあのバカ! それにもう少し計画的に誘いなさいよね、本当に自由な奴なんだから!」
だが自由なこいつのことだ。これを逃せば二人で外に出るなんてことは生涯ないかもしれない。つまりこれは生涯一度あるかないかのチケットなんだ。
別にデートという訳じゃない。そもそもあいつとじゃ成立しない気がする。なんたって、ほら。あいつは常識とかに囚われないから、自由にやっちゃうんだよね。
女性と二人で食事をするときは奢るとか、相手にもわかりやすくて楽しい会話を心がけるとか、二人で笑顔になれる特別な場所に連れて行ってくれるとか。
絶対やらない。食事は個人個人が食べた分だけ食べて、会話は喋りたいことを喋って、自分の行きたいところに連れて行くのだろう。笑顔で。
そうやって我を突き通していたあいつの周りにはあまり人が寄ってこなかった。……いつごろだったかな。あいつと喋るようになったのは。
「雨がたくさん降っていたから梅雨、六月かな?」
携帯の角を唇に当てて考える。梅雨の時期、雨が嫌いな私は教室から出ることもなくぼーっとしていた。あいつはいつも寝ていた。寝たふりをしてるんだって言われていたけど、あれだけ豪快な寝

息を立てていたのだからそれはないだろう。
よくある話だ。私は雨が降っていない朝を見て今日は傘はいらないと思って登校したら大間違い。ざーざー降りだった。しかも委員会で仲の良い友達は皆先に帰ってしまっていて二進も三進もいか

なくなってしまった。だから私は雨が嫌いだった。
そんな時にあいつを教室で見つけた。あろうことかずっと眠り続けていたのだ。私がこんなに不幸な目に遭っているのにあいつは幸せそうな寝顔をしていたもんだからついつい頬を抓ってしまったのだ。
案の定起きてしまった。私はあたふたしながらも訳の分からない言い訳をしたんだっけ。

―――あ、あんたがいつまでも起きないから起こしてあげただけよ! 感謝してよね!

―――いや、誰も聞いてないよそんなこと。

それが私とあいつの最初の会話だった。それからたまにだけだが話すようになった。でも醜い私は一緒に喋っているところを見られるのは恥ずかしいと感じてしまって、学校に友達がいる間やらは話しかけられないでいた。あいつからも話してくることはなかった。
ある日友達が彼氏の話をしていて、ご飯も奢ってくれないとかありえないよ! なんて言っているのを聞いた。ご飯は男が奢るものという定義はどこから来たのか。
丁度その日にあいつと話す機会があって何を思ったか聞いてみてしまったのだ。ご飯を奢るのってそんなに大事なのかな? なんて、そしたら。

―――本当に大事なら奢るさ。

意外な答えだった。奢らないと一蹴されて終わる会話だと思っていたから。

―――どうしてそう思うの?

―――男が女に飯を奢る。所謂レディーファースト的な風潮から来るもの、昔からのお決まり。ある意味で女性差別だ。好きな女を他の好きじゃない女と差別するのは当たり前だろ?

……成る程、と思ってしまっていた。

―――きっとその彼はあまり好きでもなかったんだろうね。本当に好きならポーズじゃなくて心から奢りたいって思うだろうし、御手洗いって席を立って先に支払いを済ませてくらいのことは出来るんじゃないかな? 俺ならそうすると思うけど、いかんせん好きな人もいないんでね。

……うん、きっとこんな一面を見てからだと思う。何が? ……言わないけど。だって恥ずかしいし。
ってなに思い出に浸ってるんだ私は! お陰で体は冷え切るを通り越して凍りつきそうだった。ある部分だけは温かかったけど。
「えーい迷うな! いつも通り、いつも通りで行くわよ!」
携帯をカチカチ。カチカチ。カチカチ。

To,差別男
Sub,Re:無題
本文 今何時だと思ってるのよ! 少しはこっちの都合も考えなさいよね! 私を誘うからにはもう行く場所は決まってるんでしょうね? 時間は? 決まってなかったら承知しないからね!

何度も書いて、何度も消して。これが鉛筆と消しゴムだったら消しきれないで紙が真っ黒になっていただろう。デジタル世代万歳。
結局決まった当たり障りのない文面を送信する。送信完了までドキドキして、送信完了したらうあああああってなった。
……とりあえずお風呂。別に身なりを整えるとかじゃなくて、ただ体が冷え切ったからだ。他に意味なんてないんだから。ないったらない!
直にお風呂場へ向かう。着替えの洋服と、携帯を持って。湯船を張り始める。早く、早く。湯船を張っている間に歯磨きなんかをしちゃおう。念入りにしようとか思ってない。
そして鏡を見て、いっそう恥ずかしくなった。だって、鏡の映った私の顔が。
割れた鏡に映ったように、くしゃくしゃな笑顔だったから。
「……服、何来てこうかな♪」
2011.12.24 Sat l 自作小説 l COM(0) l top ▲

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