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2011/12/24 (Sat) ぼくのかんがえたさいきょうのかっこいい

秋月涼




「きゃーーーー涼くん可愛いー!」
「涼ちんこっちむいてむっほおおおおおおお!」
「かわいいよー! 世界の果てまで可愛いよ涼ちんー!」
「りゅんりゅんしちゃう!」
「みんなー! 今日はありがとー! (りゅんりゅん?)」
今日は僕が男だと世間に公表されてからの始めてのライブだった。今まで騙していたのにファンの皆は僕を責めずに大歓声で迎えてくれた。
それが嬉しすぎて最初の曲は泣き続けて歌えなかったけど、これじゃだめだって。これじゃかっこいい僕を見せられないって思って、次からは涙を払って歌った。
どんなライブよりも、今日のライブは素敵になったと思える素晴らしいステージに出来たと思う。心残りはやっぱり皆からは可愛いって声援しかなかったことかな?
ううん、これからはもう私じゃなくて僕でいいんだ。かっこいい僕になるんだ。ファンの皆と一緒に。それはなんだか素敵なことに思えて僕はたまらなく嬉しかった。
だけど、と思って一度立ち返る。僕が求めるかっこいいの具体的なVisionはどんなものなんだろう。何もない真っ白な心のキャンパスに描いた僕のかっこいい理想の落書き。
その輪郭は? 全体の形は? 色は? 大きさは? 質感は? 僕がうんと小さな頃に思い描いていたかっこいいって何だったのか、思い出せない。
髪の毛をツンツンにしてワックスで固めて、ちょっと破れた服を着るのは違う。一度はやってみたいけどさ。
そういった外見のかっこよさだけじゃなくて、もっと内面的な部分でとっても惹かれることがあったんだと思うんだけどなぁ。何故か思い出せないのは、何でだろう。
うーん、わからない。わからないよ。って、あれ? あそこにいる子供、道路に出ちゃうよ? 保護者っぽい人もいない、あれ? 危なくない?
ぎゃおおおおおおおん! 出ちゃったよ、道路に出ちゃったよ! どどどどどうしよう! ああ、何で見計らったように車が来るのかな!? そういうのKYって言うんだよ!
ひ、引かれちゃう!?

―――大丈夫だったか?

「…えっ?」
気付いたら僕はねっころがっていた。引かれそうだった子供を抱いたまま、歩道にねっころがっていた。
知らぬ間に考えながらも体は動いていたようでなんというか、瞬間移動を体験した気分だ。それより子供は大丈夫かな?
「こ、こわかったよおお! おねえちゃああん!」
「おねっ!? …いや、うんまあいいか。助かったんだしね」
「お、おねえちゃんは平気?」
あっ、心配されちゃった。だめだめ、ここは安心させてあげないと。確かにちょっと右の足首が鈍痛を訴えてるけど我慢我慢。
「全然へっちゃらだよ! 君も大丈夫だった?」
「おねえちゃんのおかげでへいき!」
「そっか、うん! よかったよかった!」
僕は男の子の頭を優しく撫でた。

―――そいつはよかった。

「こ、この声は?」
「あっおかあさーん!」
「あーいたいた! 勝手に離れちゃだめじゃない涼慈!」
「ご、ごめんなさい…」
「まったくもう、って涼くん? 何で涼くんがここに!?」
お母さん、きたみたい。でもちょっと僕は怒ってるかもしれない。
「きゃー! あの天下のアイドルの涼くんがこんなところに、あの私涼くんのファンで! えっと、その、サインとか…」
「僕のファンなんですか、ありがとうございます。でも僕は少し悲しいです」
「えっ?」
「おねえちゃん?」
「僕に会えて喜んでくれるのは嬉しいですけど、その前にやるべきこととかするべきことがあるんじゃないでしょうか?」
「え、えっと…」
「経緯はどうであれ貴方は涼慈君を危険な目に遭わせたんですよ? さっき車に引かれそうになったんですよ…? 見ていないから仕方ないでしょうけど、それでも…!心配くらいしたらどうですか!」
「あ、あの…」
「おねえちゃん…」
「涼慈君もだよ! こんなことしちゃもうだめだからね!」
「う、うん…」
「それじゃ」

―――男と男の約束だ。
「男と男の約束だよ!」

あっ。
「う、うん! ぼく、もう絶対しない!」
「…引かれそうだったの?」
「…うん、おねっ、おにいちゃんがいなかったら危なかった」
「そう…」
それだけ言ってお母さんは涼慈君を優しく抱きしめた。涼慈君もお母さんにしっかり抱きついて。
「ごめんね…お母さんが目を話したばっかりに…! ごめんね…!」
「ううん、ぼくも勝手にいなくなったりしてごめんなさい。もう離れない、だからお母さんも目を離さないでねっ」
「うん…うん…!」
僕はいなくなったほうがいいかな。親子の感動のシーンだし、そっちのほうがかっこいいかも。
そーっと足音をたてずに立ち去ろうとした僕に涼慈君が大きな声で叫んでくれた。僕が一番欲しかった言葉を。
「おにいちゃーん! さっきはちょっと怖かったけど、すっごく! すっごくかっこよかった! 僕も、僕も!」

―――僕もおとうさんみたいにかっこよくなるから!
「僕もおにいちゃんみたいにかっこよくなるからー!」

―――おう。
「…うん!」

そうだ。思い出した。僕がお母さんからはぐれて迷子になって、ふらふらしてたら車道に出ちゃってて引かれそうになったとき。
体がふわって浮いて次に目を開けたときには歩道にねっころがってたんだ。すっごくたくましい腕に抱かれて、胸の中に顔をうずめて。少しだけ汗臭かった。
お父さんだ。お父さんが僕を助けてくれたんだ。右肩から血を流しながら、いつもは優しいお父さんがすっごくたくましくて。
その後怒られたんだ。怒られたことがなかった僕はすっごく怖かったけど、それ以上にお父さんのことがかっこよく見えたんだ。
何で忘れてたんだろう。やっぱり幼いときは怖かったから思い出さないようにしてなかったのかな? でも思い出せてよかった。
だってもう僕の心のキャンパスにかっこいい理想像を描きあがったから。
輪郭はちょっと細めで。中肉中背でちょっと頼りなくて。黒と灰色で。そんなに大きくなくて。ちょっと情けない。けど。
やるときはやっちゃう、僕のかっこいい理想像。
僕がなりたいかっこいいはそんなかっこいいだ。
今日は一歩前進だ。僕はちょっとだけ誇りたい気分だった。その持続時間は、多分。
右足の足首の鈍痛が消えるまで、かな?

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自個偽無、候。
書いたり書いたりしている流ぬこです。
ピクシブなんかでも同じく流ぬこで書いています。
はじめの一歩を見るとオズマ戦でも小橋戦でもどの戦いでも泣けます。はい。

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