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三浦あずさ
「ウイスキーが、お好きでしょう? なーんて、うふふ」
カランッ。
私は素敵なベルを鳴らした。ショットグラスに入ったロックアイスがガラスの壁を震わせて素朴な音を一つ。とっても素敵。
バーのカウンター席。ここは私の隠れた行きつけのお店、なんてかっこつけすぎかしら? でもすごくオシャレなんですよ?
落ち着いた雰囲気。モダンに整えられた茶色テイストの店内。流れてくるピアノジャズ。カウンターの置くには何本ものお酒が立ち並んでいて、虹色の木琴のように見えません?
お店の中は楽器で溢れている。カウウター奥の虹色の木琴に、小太鼓のような可愛いイス、壁にかかった時計は時を刻むメトロノームで。
そして私の手の中にあるベル。薄い黄金色に輝いて、透き通ったハンドベル。私はまたうっとりしてしまった。
バーですから、私もお酒を飲んでいます。実はこのハンドベルがお酒なんですよ? ウイスキーとロックアイスが入っているショットグラスを反対に傾ける。
カランッ。
ねっ? 素敵な音色でしょう? その時々で違う音色で私を楽しませてくれる、魔法のベルなの。
だからいけないの。ロックで入ったウイスキーがどんどん薄くなってしまう。ロック割から水割りに変わっていってしまうんだけど、それも好き。
最初は濃厚な茶色だったウイスキーがどんどんうすくなっていって、私の目にお酒と水が混ざっていないときにでてくる濁りが飛び込んでくる。
まるでウイスキーの海で揺らぐように、悠然と漂うそのもや。しばらく微笑みながら見ていたくなるでしょう?
でもちょっとしたイタズラ心が沸いてきてしまうともうだめ。そっとグラスを置いてゆっくりとかき混ぜるの。
そしたら濁り気が消えて透明感が増してとてもお酒には見えなくなる。自宅で作った麦茶とかに見えてくるでしょう? そこまでなってからやっと私はグラスを唇に迎える。
少しだけむにっとして、ひやっとする感覚。ほんの少しずつグラスを傾けるとウイスキーの波がやってくる。飲むのではなく、飲み込まれてしまいそう。
唇を土台にしてゆっくりと私の口の中に流れ込んでくる液体。きゅっとする。薄い色とは正反対に炎のように燃え上がる感じ。何度飲んでも慣れない。
けどそれがたまらないの。少し口の中でウイスキーを遊ばせて舌の感覚に最初にあったびりびりがなくなってきたらいよいよ喉へ流し込む。
もし、今ウイスキーを流し込んでいる私の喉の中を見ることが出来たら、きっと華厳の滝よりも美しいものが流れて落ちいくのが見えるはず。
それが見られなくて本当に残念。だけど傍目からはわからないほど。私の喉はまるでマグマが流出したように熱かった。
ああ、熱い。上着も脱いでしまいたいくらいだけどこれ以上脱いじゃうと上が下着だけになっちゃうし、だめよね?
あれ? 上が下着だけって何かおかしいね。上なのかしら? 下なのかしら?
あらあら、ウイスキーちゃんがなくなっちゃったわ。すぐに次のウイスキーちゃんを頼まないと。
「すいません、ウイスキーをダブルのロックでお願いしまーす」
「かしこまりました、少々お待ちくださいませ」
う~ん、やっぱりバーのマスターさんも渋くて決まっているわね~。すっごくかっこよくて頼りになりそうな、ダンディー? な感じかしら。
でも、私には、ね?
「あなたがいますものねぇ、うふふっ」
そっと私の左手にいるその人を見た。淡く、それでいてしっかり輝くピンクとシルバーが煙のように縦横無尽に混ざり合っているデザイン。
光に当てると私に優しく微笑みかけてくれるの、あらあら。背伸びしちゃって、給料の何か月分だったのかしらね?
「お待たせしました、こちらです」
マスターさんが新しい別のショットグラスに先ほどよりも一ミリくらい水かさが増したウイスキーを置いてくれる。
コトっ。
あら、こんなところにも楽器があるなんて、ここは本当に素敵な楽器屋さんだわ。
「最初の濃ゆいの、いきますよ~」
先ほどのよりも強烈な辛味が、苦味が、甘みが、熱が私に到来する。嬉しくもきゅっと目を閉じてウイスキーを受け入れる。
とてつもなく甘い、りんごの味。あらら?
「マスターさん、これアップルジュースじゃないかしら?」
「……失礼致しました。私が間違えてしまったようです。いつもいらっしゃってくれますのに、お詫びを」
「そ、そんなお詫びだなんて」
「いえ。それでは私の気が治まりません。タクシーを用意しますので少々お待ち下さい」
「えーっと。私、まだ少し飲みたいかなーって……」
「たまたまタクシーが近くにいたようでしたのでもう店の前に止まっております。アップルジュースとタクシー代はこちらで持ちますので、お気をつけてお帰り下さい」
あらら? 私はまだ少し余韻に浸っていたいのだけれど……。せっかくのご厚意だもの、頂かなくちゃね。
「わかりました。また来ますね」
「その時は左手の方もご一緒に。最高のウイスキーがたまたまイブに手に入りそうですので、是非」
「……あらあら、それは来ないといけませんね。それじゃまたイブに来ますね。二人で」
「はい。では、又のお越しをお待ちしております」
「はい。その時は一緒に、祝ってもらえるんでしょうか?」
「貴方の好きな音色と共に」
「……私、ここの常連でよかったです。ありがとうございます」
「いえ。それでは」
「はいっ」
それだけ言って私は外へ出た。先ほどまでとは違い刺すように寒い。けど私は暖かかった。体も心も。
そのままに私はタクシーへと乗った。車に揺られているときに運転手さんにおめでとうって言われた。
ああ、私は幸せ。
私はウイスキーが大好き。あの人と同じくらいに。なーんてねっ。
「うふふっ」
2011.12.24 Sat l 自作小説 l COM(0) l top ▲

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