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如月千早



私の歌は私だけのもの。私が奏でる歌声も、それにあわせるメロディーも、歌の世界に彩りをそえる歌詞も、全て私のもの。
歌とは私のものなんだ。私は歌を愛している、こんなにも愛しているんだ。だから私は歌に愛されているんだ。
そう勘違いしていた頃、一人の男性がそうではないと私に言った。世間知らずな当時の私は口を尖らせ、ナイフで切りつけるように相手に反論する。
「確かに私はまだ歌うことを極めていませんけど、こんなにも真摯に向き合っているのです。少なからず愛されていると思いませんか?」
それは私にとって褒め言葉であり、完全武装の言葉だった。これで合唱部の部長も顧問も黙らせた。
だから今回もこれで何もいえなくなるのだと思ったのだ。当時それが自分にとって魔法の言葉、抗えない呪文に感じていたのだからきっとドヤ顔たるもので言いのけたんだろう。
出来ることなら後ろからそっと自分の頭を叩きたい。
黙り込んだ男性。ほらみろ、何も言えないじゃないと生意気な私は勝ち誇っていた。同時にやはり私は歌に愛されているのだと感じたのだ。
しかしそのどれもが間違いだった。ゆっくりと男性が口から私の聞き取れる言語で、私の理解できない言葉を喋り始める。
「ストーカーは好きか?」
思わずはっ? という言葉が出てしまった。そんなものが好きな人がいるものか。さては別の話でうやむやにする気だと思った私はきっぱりと否定する。
「嫌いです」
そうしたら男性はこう聞いてきた。
「何で嫌いなんだ?」
どうしてこう当たり前のことを言うのか。人間としてある程度真っ当に生きてきたのであれば考えずともわかることなのに。私は少し呆れながら答えた。
「何でって、見ず知らずの相手に付け回されたり電話されたりしたら嫌だからですよ。ちょっと考えればわかるでしょう」
侮蔑を含めて私は言い捨てる。本当に、出来ることなら殴り倒してあげたい過去の自分に悶絶しつつもう少しだけ思い出す。
「そうだな。好きでもない奴から無理に好き好き言われても好きになれるわけがない。むしろ怖くなるし、遠ざけたくなる」
「わかるのなら聞かないで下さい」
「悪い。だがお前がどう思っているのか知りたかったんだ。そして知れた今、きっぱり言えるよ」
謝るのだろうか? それともいい訳だろうか? なんて考えつつ心の中では勝利の余韻に浸ることも忘れ歌のことを考えていた。
次の瞬間に現実に引き戻されるというのに悠長なことだ。
「お前は歌に愛されてなんかいないよ、一方的に愛してるだけ。まるでストーカーと変わらない」
「なっ!?」
思わず声が出る。すぐさま反論する。
「それとこれとは話しが別です! どうして歌を人間として考えるんですか! 歌は常に平等で、美しく、何物にも変えがたいものでっ」
「そう思うのなら人間と同じように愛してもいいだろう。それを否定するのならお前の歌への愛は、イエス・キリストを崇拝するキリスト信者の信仰心と何も変わりはしないよ」
「そ、そんなことっ!」
「歌は神なんかじゃない。特別でもない。それを神格かしてあまつさえ私は愛されているなんて、狂信者とどう違うんだ?」
「だ、だからっ」
「歌はあくまでも一種のエンターテイメントだ。そんなものに愛される愛されないなんて必要のない発想……」
「! いい加減にしてっ!」
ぱーんっ! 気付けば私は男性の頬を思い切り叩いていた。人をこんなに全力で叩いたのは初めてで、やけに叩いた自分の手が痛かったのを覚えている。
私は許せなかった。私を狂信者だとかストーカーだとかいろいろ言うことにも大してだけれどやっぱり一番に許せなかったのは。
「歌をばかにしないでっ! 歌は誰かを幸せにも、悲しくもさせることが出来る素晴らしいものです! 歌はそんなやすっぽいものじゃない!」
歌をばかにされたと感じたことで怒り狂っていた。エンターテイメントと言われたことに無性に腹が立った。でもいい返すことの出来ない私は結局、手を出すしかなかった。
頬を打たれた男性が笑い出す。私は自分の心の弱かった部分を抉られて涙目だというのに、どこまでも人を馬鹿にするのかと思ったっけ。
「少しいきすぎなところはあるが、根本の部分はやっぱり歌が好きなんだな。安心したよ。そんなわけで今日から俺が君のプロデューサーだ、よろしく」
差し出された手を握れるはずもなく叩き返して、誰があなたなんかと! と激昂して社長に直訴したんだ。本当に世間知らずだったな。
社長も断固として譲らず結局その人と活動をするようになってから、最初は地獄だったけれど慣れていくうちにどんどん私の世界は広がっていった。
そして気付いた。私は歌を愛していたんじゃなくて、歌にしかすがることができなかったのだと。それを愛するにすり替えていたんだと。
それに気付かせてくれたプロデューサーには感謝の言葉を、実はまだ言えていない。だから言おうと思うのだ。
あの人がやってくる。胸がドキドキする。だけど右手に握り締めたプレゼントされた指輪をお守り代わりに伝えないと。
伝えたい言葉は山ほどあるけれど、まず最初は、そう。

「ありがとうございます。プロデューサー」
なるたけの笑顔をしたつもりだけど、変じゃなかったかな? ねえ、歌の神様……?

2012.01.01 Sun l 自作小説 l COM(0) l top ▲

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