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水瀬伊織

and...?



もうすぐ、今年も終わる。我等のアイドル達は八面六臂の活躍をそれぞれ見せつけ立派に今年を終えようとしていた。
全てが全て俺の手柄ではないがそれでも俺は彼女たちのプロデューサーでもあった、それを誇りたい。それくらいはいいだろう?
誇れたことばかりではなかった。俺は一人の少女を頂点に導くことが出来なかった。それだけが心残りだった。
あれから一年、俺は社長の推薦もありLAとプロデューサー修行の旅に出たんだ。最初は喋ることにすら壁を感じたのも懐かしい。
別にLAでアイドル活動が盛んだったわけではない。全てにおいてLAは日本よりも大規模に全ての事柄が動いていく一つの大きな生き物のような場所だった。
故に落しあい、殺しあいも多く、それでいても殺伐とせず全てを大らかに受け入れるLA。だからこそ日本人はこの町へと繰り出すのだ。
俺は、何も出来なかった。日本である程度つけた自信も粉みじんになった。確かに全てを受け入れるLAだが成功までは約束されていない。
大成したいのならば己が頑張るかしない、そんな自由で厳しい町だった。もし俺が一人のまま言っていたら間違いなく折れ曲がって自身と自信を喪失して帰国しただろう。
でも一人じゃなかった俺は理論も論理も道理も無視してがむしゃらにやった。がむしゃらに進めることが出来た。決して綺麗事ばかりじゃなかったが、それでも突き進んだ。
長いと思っていた一年はあっという間だった。気付けば肌寒さを感じカレンダーを見れば既に帰国の季節だったのだ。
外国での友人も出来た。あまつさえ外国で俺は魅力あるアイドルを目指す金髪美少女をプロデュースすることが出来た。これほどの経験はそうはないだろう。
日本ほどアイドルという存在を気にしていないLAでのアイドル活動は最初は至難を極めた。見向きもされない営業、レッスンスタジオも借りれず、オーディションなどほとんどない。
アイドル活動そのものが困難な状況の中で俺も、アイドルの子も諦めなかった。今思えば担当アイドルがあの子でなければ成功することはなかったと思う。
持ち前のしつこさでストーカーのように付きまとっていた営業先にOKをもらったときは二人で抱き合って喜んだものだ。
その後お風呂に一緒に入ろう! と言われたときは固まったものだが。どうやらその子なりの親睦を深める大切な行為らしい。彼女の名誉のために言うが、別に乳繰り合うということではない。
ビックウェーブにこそならなかったものの、それから少しずつ仕事が出来るようになってきた。仲良くなるととことん仲良くしてくれるのが幸いしたのだ。
最初はアイドルの子のスタイルのよさを生かしてのモデルの仕事なんかが多かった。背も俺と同じくらいあるからかっこよく決まっていたのを覚えている。
今でも初めて雑誌に載ったときの雑誌を大切に持っている。どれだけ嬉しかったか、もはや図ることすら出来ないだろう。
かっこいい衣装や奇抜なファッションの歌手達がCDを売り上げる中で俺達だけは愚直に可愛く可愛く、決してアイドルらしさを捨てずに仕事をし続けた。
当然最初は受け入れられない。それに同期するように低迷期もやってくる。一度はスケジュールがまっさらになることもあった。
その時は最初に営業を受け入れてくれた営業先の人達が手厚く支援してくれた。自分たちにもそれほど余裕があるわけでもないのに仕事をもってきてくれたこともあった。
日本ではなかった待遇に思わず涙した。担当アイドルに慰められたのは少しだけ悪いとも思ったが、どうやらLAにいると感情的になるようでどうにも涙を止めることが出来なかった。
しかしいつまでも低迷期ではいられない。俺は決断する。
一度だけ、一度だけアイドルを捨てる。担当アイドルの歌の上手さはお墨付きだ。うちの千早とは違った外国人特有の強い声質、しかしその中に溢れる透き通る綺麗さ。
今まではアイドルとしてにこだわり続けた。だが今のままではそれを脱することは叶わない。だからたった一度だけ、ジョーカを使わなければならない。
確信はあった。担当アイドルが本気で歌えばその注目は計り知れないことを。しかしそれはアイドルとしてではない、歌手として。
俺には自信が足りなかった。歌手としての最高を前面に押し出した後に彼女をアイドルとして更に輝かせることが出来るのか。それに大して素直に首を縦に振ることが出来ずにいた。
でもある日、彼女が俺が頂点に導けなかった少女と重なって見えたのだ。そして気付くことが出来た。
このままじゃまた"上々"で終わってしまう。"頂点"に登りつめることが出来ないのだと。同じ鉄を二度踏むことなんて出来ない。
すぐに俺は担当アイドルに相談をした。彼女が素直にうんと言うとは思っていなかった。何せ歌手としてが嫌で様々なスカウトを蹴散らして、アイドルとしてデビューさせた後すぐに歌手として方向転化した事務所もすぐに抜けたくらいだったから。
彼女の気持ちは生半可ではないだろう。だけど俺もここまで来て中途半端には出来なかった。意を決して俺は彼女に自分の我がままを口に出して伝えた。
罵倒されるだろう、裏切ることになるだろう、もしかしたらこれを気に二度とプロデュースできなくなるかもしれない。全てを覚悟して、俺は伝えた。
頭を下げ、全てを伝えきった。どうなるかなんて、検討もつかなかった。長い間、それとも短かったのかもわからない時間に俺は耐え続けた。
もう、だめなのかもと思ったときだ。
ぎゅっと抱きしめられた。胸とか当たっていた気がするがそんなことを考える暇もないくらいに動揺していた。

―――ヤト、いてくれたネ。

片言の日本語。いつの間に覚えたのかわからないけど、そんな綺麗な日本語よりも胸に染み、心を振るわせてくれた。
顔を上げられ頬にキスをされ、今度は俺の胸に飛び込んできたのだ。動揺しながら冷静に、おーアメリカンなどと思っていたのは秘密だ。
そして俺達二人は一度だけ歌手としてLAの胸元に達、そこで歌い始めた。歌声は扉を開け放ち多くの人々の耳へと伝わっていった。
予想通り反響は絶大、あの歌姫は一体!? なんていう見出しが一面を飾った。彼女は俺に道を切り開いてくれた。普通は逆なのだが。
今度は俺が頑張らなきゃいけない。いや、やらなきゃいけない。このままでは歌手として注目される、彼女が望まぬ未来がLAに充満することになる。
そんなのはあっちゃいけないし、納得いかなかった。彼女のためにも、あの少女のためにも今度こそプロデューサーとして頂点へ導かなければならない。
歌姫歌姫と騒がれる中、俺は彼女がアイドルであると必死に訴え続け実践し続けた。無論、冷ややかな視線も多かった。けれど嬉しい誤算もあった。
アイドルは知らなくても、ヒラヒラな可愛い服を着て可愛く歌い上げる美少女を素直に応援したいと思う人も多かったことだ。
いける。そう感じた。
尽力した。自分の限界もひょいと乗り越えて限界以上でプロデュースし続けた。いつだか寝なさ過ぎてぶっ倒れたこともある。
ぶっ倒れた後は担当アイドルにしこたま怒られ、今度やったらアイドルやめて結婚するからね! と言われた。結婚してもいいくらい良き相手がいるとは初耳だった。
そんな人がいるなら相談くらいしてくれればいいのに、なんて言ったらこれまたしこたま怒られた。こればっかりはLAでの謎の一つだ。
ぶっ倒れた後、アイドルに心配されるようではいけないと自分の体調管理にも最低限気をつけて活動を続けていった。
右肩上がりに増えていく仕事、時間は圧迫されていったが俺も彼女もそれが嬉しくて楽しくて仕方なかった。
そして運命の日がやってくる。
『LAに天使舞い降りる!? その名もアイドル!』 これは俺が適当に和訳したものだが大体あってる、はずだ。
ある新聞紙の一面にでかでかと『idol』の文字が出たのだ。もう嬉しくなって各所に載りましたっていうしょうもない報告と合わせて感謝の電話をかけまくったものだ。
その日からだ。彼女が『singer』ではなく『idol』と呼ばれるようになったのは。そしてようやく。
彼女はついにTVに『idol』として紹介されて、自分のアイドルとしての原点の曲を歌った。残念ながら感極まりすぎたあまりに出た涙に完璧に歌えはしなかったが。
収録が終わったあと、彼女は俺の胸に飛び込んできた。いや、本気で弾丸のような勢いでこられると焦るものである。
どんなときよりも泣いていた。それが、嬉しさと共に俺との別れを悲しんでくれている涙も混じっていることが分かって感謝したくもあり謝罪したくもあった。
事務所に戻って俺は改めて彼女に伝えた。もう日本に帰ることを、そして約束を果たしてくることを。今までありがとうと、出来ればまた会おうと。
伝え切れなかったものもあるけれど、伝えたかったことは全て伝えた。彼女は泣いていたけれど、俺のために必死で笑ってくれた。それがたまらなく愛しかった。
離れたくない気持ちはあった。濃密な一年だった。このままいてもいい気さえする。けど。
約束をした少女が待っている気がした。だから俺は全てを捨てて、日本への帰国を選んだ。
別れの前日、盛大なパーティーが夜通しで行われていた。一番最初に彼女をアイドルとして見てくれた人、今彼女にめろめろな人、全ての人が俺を歓迎し優しく別れの言葉囁いてくれた。
帰国当日、お土産を買って空港で飛行機を待つ。あまり有名なお土産もわからなかったからその辺のお菓子を買ってきたが、まあきっと平気だろう。
隣には担当アイドルの子がいて、俺にずっと話しかけてくれていた。時折涙声になるも抑えて喋りかけてくれる姿を抱きしめたかった。
けどそれは失礼だ。彼女の決意が揺らいでしまう。俺の決意も揺らいでしまうかもしれない。だから俺は抱きしめられなかった、いや抱きしめなかった。
彼女はこれからはプロデューサーをつけず一人で活動をしていくと決めていて、俺はやめておいたほうがいいと言ったが断固として認めては貰えず結局一人での活動になってしまった。
やがて俺が乗る飛行機が来て、アナウンスが聞こえてくる。ああ、一度お別れだ。また会おう。
別れ際、手を掴まれた。振り返ると真っ直ぐ俺の瞳を見つめる彼女、メアリーがこう囁いた。

―――あきらめないかラ。こンドは、ワタシがあいにイくから。

もう立派に日本語として聞ける言葉なのだが、俺には何を諦めないのかわからなかた。でも日本に来ることがあれば、盛大に歓迎しよう。
LAの皆がそうしてくれたように。
さあ、帰ろう。あの少女の下へ。


あいつが帰ってくる。社長が言ったその言葉が焼きついて離れない。この一年、短くあり途方に長かった気がする。
私だけじゃない、765プロの全社員、アイドルが喜んでいた。ちょっとだけ誇り高かったのは言わないけれど。
この一年間、あいつがそうだったように私も必死に戦っていた。
あいつの元から離れて、秋月律子プロデューサー率いる三浦あずさ、双海亜美、そして私を含めるユニット『竜宮小町』でのデビュー。
最初こそ華々しかったもののすぐにバッシングを受け始めることになる。売れないから水瀬伊織の人気を利用しての寄せ集めユニットだと。
ファンを裏切った秋月律子がのうのうと帰ってきただとか、それはもうひどい言われようだった。
直後のバッシングスタートにそれに慣れていないあずさと亜美はどうすればいいかわからず二の足を踏むばかり。律子も明確な手段は打てず、ただ今は耐えるのだと方針を出した。
耐えることは間違いではなかった。けれど何もしないのは間違っていると私は律子に提言し、自分たちの実力を見せ付けるのだと言った。
保守に走る律子に、留まって入られない私、それをおろおろして見ることしか出来ないあずさと亜美。チームワークは最悪だった。
それが活動にまで露呈し始める。私はどれだけ完璧に歌って踊っても他の二人が必ずミスをするのだ。それが正直、私にとっては邪魔だった。
けれど信じた。いつか、いつか二人が自分に自信を持って私と共に踊ってくれることを、歌ってくれることを。
だがそれは一ヶ月を過ぎても、二ヶ月を過ぎても叶わなかった。レッスンをして実力はもう十分にある。発揮すればいいだけ。だが、二人はミスばかり連発。
ついに律子が我慢できなくなって私たちをしかりつけた。いや、正確には私以外の二人をだ。どうして出来ないのか、やる気がないのか、いい加減にして欲しい、と。
あずさは何も言えず、亜美は泣き出してしまった。律子もこれ以上どうしたいいか分からず鬼の形相で二人を見つめるばかりだ。
私は、私は何をしている? リーダーの私が何をしている? 一人だけ怒られずに何をほっとしているんだ? そう思った。
もっと言ってやれ、私が言えない分プロデューサーの律子が言うべきだ。このミスばかりの二人をもっと叱ってくれ。そう思っていたことに愕然とした。
あいつと一緒にいた私はこんなだったろうか。こんなに荒んだ気持ちで活動をしていただろうか。誰かが泣いてる姿をみて、もっと叱れだなんて思うだろうか。

―――こんなじゃ、ダメ。

想いが言葉に出る。三人が私を見るのが分かった。
私は急ぐあまり、あいつしか見ないばかりに、大切な仲間達を傷つけていた。邪魔だと思っていた。足手まといだと思っていた。
心がナイフで抉られるように痛かった。だけどやめるわけにはいかない。このままでは私が愛した、あいつの元で笑っていられた私がいなくなってしまう。
そんなの、私が許せない。だから謝ろう。素直になれない自分だけれど、今だけは素直に謝らないとだめになる。
私は頭を下げた。三人に向けて頭を下げた。今までごめんと、手を差し伸べられなくて、助けてあげられなくて、自分勝手でごめんなさいと謝罪した。

―――うああああん、いおりーんっいおりーんっ!

亜美が抱きついてきた。今まで怖くて出来なかった分も合わせて、強く強く抱きしめられる。頭を上げて亜美の背中をさする。
あずさも涙を零す。律子もうな垂れる。これだけばらばらだった『竜宮小町』が売れる道理がなかった。
亜美が泣き止むまで誰も何も言わなかった。静かな事務所に亜美の鳴き声だけが響いていた。
亜美が泣き止んだ数十分後私は話しだす。
このままではだめだということ。その原因が私たち四人全員にあること。そしてそれを打開するためには一人一人の力が必要で、その力をあわせること。
亜美が凄い勢いで頭を縦に振る。あずさもその横で静かに一度だけ頷く。今度は律子が話しだす。
まずは先ほどの謝罪。プロデューサーなのに取り乱してすいませんでした、と。それからは律子なりのプロデュース方針だった。
残念ながら『竜宮小町』は既にフレッシュなアイドルではなく、更に波に乗っているわけでもない崖っぷちの状態だと。
だが近く控えている全国オーディションに出場し合格できればもう一度だけチャンスが掴めるはずだと。『竜宮小町』が一度は掴めなかった頂点へのチケットを。
今までの状態では考えられなかったが今なら、今やるしかないと熱くなる律子。更に提示される条件。
そのオーディションを受ける資格はまだもっていない、だがレッスンなしに受かれる確立はほぼ0だと。だからこそ『竜宮小町』だからこそ出来る、汚い方法を取ると。
それは私達にとって茨の道だった。
律子が考えたチャンスを掴む方法はシンプルだった。既にアイドルとしての人気がある私が営業をこなし、あずさと亜美の二人はレッスンに専念するということだ。
恐らく更なるバッシングが予想されるだろう。やはり一人頼りのアイドルユニット、ユニット解散の危機!? 見出しが目に浮かぶ。
見捨てたアイドル、見捨てられたアイドルなんて安い見出しも考えられる。恐らくレッスンする二人も、プロデューサーの律子も非難されるだろう。
だが一番はきっと私だ。前任プロデューサーも同じプロダクションも見捨てる冷徹なアイドル。そう思われることだろう。
けれど私は不敵に笑って見せた。内心はドキドキが止まらない、やめてしまいたいという思い出いっぱいだったけれど、もう迷ってる暇はなかった。
早速私達は二手に分かれた。私と律子は資格を、あずさと亜美は実力を。
マスコミ達はすぐに私たちをターゲットにした。昔は私のことを散々褒めちぎっていた雑誌編集者もゴミを見るような目で私と律子を見て嘲笑いながらインタビューしてくる。
どこもかしこもそうだった。インタビューをしても、TVにでても他の二人を見捨てたのか? と遠まわしに聞かれたりした。時には直接聞かれたこともあった。
怒りたかった、泣き出したかった、逃げてしまいたかった。でもあの二人が頑張っているんだ。そう思うことで私は笑顔でそれを否定し続けた。
そして私が心身をすり減らして獲得した全国オーディションを受けるチケット。すぐに私も二人に合流した。と、あずさに抱きしめられた。

―――ごめんね、こんなになるまで頑張らして。私、頑張るから。

後になって聞いたとき私の後ろにおっかない死神が見えたそうだ。今では見えないそうだがおっかない話だ。
もうオーディションまで時間がなかったけれどそれでも私達は全力を尽くした。励ましあい、時には言い合いもしたけれどすぐ和解して特訓。
オーディション前日、私達が全国オーディションに出場すると表明したときある雑誌に書かれた言葉がこうだった。
「最強のかませ犬! 全国オーディションにすがりつく!」
小さな小さな、どうでもいいような記事枠にまで馬鹿にされていた。三人が怒りを露にする中、私は大笑いした。三人が不振そうに私を見る。
だってこんなに爽快なことはない。これだけ馬鹿にした私達がこのオーディションの一位をかっさらったときどんな顔をするのか。
もうそんなくだらない次元で怒り悲しんでいる私じゃない。だから私はお腹を抱えて笑い続けた。それに釣られて三人も笑い始める。
翌日お腹が笑いすぎで少し痛くなるまで笑い続けた。
そしてオーディション当日、会場に乗り込んだ私達を待っていたのは避難するような視線にひそひそ声。まったく、いつまでもくだらないことをするものだ。
もう私達はそんなものじゃ踊らないって言うのに。でもまだドキドキする。ワクワクしている。
私達を嘲笑った人達が驚きのあまり声が出ない様を想像するだけで笑いが止まらなくなるのを必死に抑える。
そしてオーディション、律子にありったけ出してきて、お願い。と言われて三人で無言で頷き了解しいざオーディション。
結果から言えばぶっちぎりの一位だった。二位を寄せ付けない点差での勝利を飾ったのだ。そして知った。あずさと亜美がもう私の名前を借りずともソロで活動が出来るほどに成長していたことを。
嬉しくてたまらなかった。合格した私達は全国放送のTVに見事に返り咲き、久々に最高のパフォーマンスをカメラに見せつけ収録を終えた。
その後はもう事務所に帰ってパーティーだ。四人が始めて向かい合って、素直に笑いあって祝福しあう。『竜宮小町』はここからが本番だった。
TVが放送されてからというものの仕事が一気に増えた。まだ不正がどうこう言っているマスコミもいたけれど既に障害にはならない程度。煩い蚊が飛んでいる程度だった。
三人一緒の仕事だけでなく、それぞれソロでの仕事も増えてきた。律子はこうもスケジュールの調整ばっかだと気が狂いそうになるわ、と嬉しそうに言っていた。
『竜宮小町』発足から十一ヵ月後、私達は見事に頂点の仲間入りであるAランクアイドルに昇格した。律子は見事、トップアイドルを育てたのだ。
そしてそれと同時期に、社長から伝えられたあいつの帰国。
私は決意して、三人を集めて、私のわがままを伝えた。私は『竜宮小町』から抜ける、と。
律子も、あずさも、亜美も悲しんでいたけど快く私の思いを受け止めてくれた。そして、初めて私は三人の前で涙を流した。
それだけ三人が頼もしく見えたから、とは恥ずかしくて伝えられなかったけれど。
数週間後、正式に私は『竜宮小町』から脱退することをTVで伝えた。その後の活動に関してはまだ決まっていないと伝えると、皆が悲しんでくれていた。
でも大丈夫。すぐ帰ってくるから。
あいつとの約束を果たしたから。今度は約束守ってもらうから。


「なっつかしーな。今じゃこんな小さな事務所じゃなくて大きいビルが事務所だなんて考えられないくらいだ」
帰ってきてすぐに来たのは元765プロの事務所、たるき亭の上に位置する貸し物件だ。
まだどのアイドルにも帰ってきた報告はしていない。まあそのうち気付くかと思っていたりするのだが、一応報告はしよう。
でもその前に、会わなきゃいけないといけない奴がいるから。
「……さて、行きますか」

元事務所の階段を昇る音が聞こえる。聞きなれた足音、何度も聞いて心震わせて足音。
これは幻聴なんじゃないのかな? なんて思うくらいに寂しかったらしい。むかつくし、恥ずかしいから言わないけど。
心なしか足音もたくましくなって聞こえるのは私が、その、あいつに、だからなのかな?
足音が扉の前で止まる。もう心臓は飛び出してる。テーブルにそっと置きたいくらいだ。
ゆっくりと、扉が開かれる。


「よう! 元気してたか! 少しは胸大きくなったかー!」
「デリカシーってもんがないのかあんたはー!」
「久々に我々の業界ではご褒美でーす!」
「はあはあ、久々にあったと思ったのにぜんっぜん変わってないじゃないの! バカなの!? でも死ぬな!」
「いやい、や。久々のキックに俺の身体はガクブルですよ。もう耐えられる歳じゃないって」
「何言ってるのよ。これから一緒だってのに。どんどん蹴りつけてあげるから頑張って耐えなさいよね」
「さすがに毎日は拷問になりうるよ? いやタフのドMだったら超ご褒美なのかもしれないけど、実は俺ソフトなMで」
「いたいけな少女にソフトなMとか言ってる時点でもうだめよね。アウトよね」
「ええー気付かなかったーそこ全然気付かなかったわー」
「白々しい。せっかく海外に行ったから少しは変わったかと思ったら全然じゃないっ」
「そんなことはないぞ? こっちだっていろいろあったんだ。それも一晩だけでは語れないほどに、その要領は軽くエキサは超えるぞ?」
「どうせならヨタくらいはないと納得しないわよ?」
「……あってもゼタくらいかな」
「まあ、及第点にしといてあげるわ。あのメアリーとかいう子のことも聞きたいしね」
「といいつつ何故私ににじり寄ってきているのでしょうかお姫様?」
「それはね、私の僕だった奴がどこぞの外国娘にうつつを抜かしあまつさえその子をLAのトップアイドルにまで導き、更にはLA全体にアイドルブームを巻き起こした奴が堂々と浮気して帰ってきたからよ?」
「う、浮気って俺とメアリーはそんな関係じゃないぞっ! あくまでもプロデューサーとアイドルとしてだな」
「メアリーの胸について」
「揉みたかった、はっ」
「制裁! 滅っ!」
「あっぶなっ! お前はこの一年間で何を習得してるんだ! 一瞬で千撃とか最早人間の為せる業じゃないぞ! というか消し炭になるぞ!」
「Aランクアイドルは何でも出来るのよ」
「Aランクこえええ、マジこえええええ」
「……でもその上がある」
「知ってるよ。未だ誰も成し遂げたことがない頂点達の更に上」
「律子率いる『竜宮小町』でも辿りつけず」
「俺とメアリーも恐らくAランクってところだろう」
「ならどうするの? ただ見ているだけで終わるのかしら?」
「ご冗談を。何のために外国に行ったのかわからなくなるだろう?」
「それじゃ一人で目指すのかしら?」
「いやーさすがに中年のおっさんじゃ頂点の頂点どころかFランクにすらなれないだろうから」
「それじゃ、もう担当アイドルは決まってるのかしら」
「実はまだ決まってないんだよ。これがもうほんっと偶然にさ」
「奇遇ね。私も今たまたまフリーでこれからどうするか決まってないのよ」
「そうなのか? それはそれはまた運命的というか、奇跡的だな」
「そう、奇跡的ね。でもこの奇跡は起きたものじゃないわ。そうでしょう?」
「ああ、俺たち二人が起こした奇跡そのものだ。だから聞いて欲しいことがあるんだ。聞いてくれるか」
「喜んで」
「……俺にもう一度、君を、水瀬伊織をプロデュースさせて欲しい。いや、させてくれ」
「その言葉、待ちわびていたわ。このバカデューサーっ」
「俺もずっと言いたかった。ずっと、ずっと、ずっと。でも言うだけじゃない、今度は約束も果たさせてくれ」
「うん、うんっ」
抱き合う二人。動き出す時間。二人の人生がまた交差し一緒になる。

「ねえ、プロデューサー」
「なんだ?」
「私、まだ言ってないことがあるの。聞いてくれる?」
「そんな上目遣いで言われたらなおの事だな」
「それじゃ聞いてね」
「おう」




















「おかえりなさい、プロデューサー」
「ただいま、伊織」
2012.01.01 Sun l 自作小説 l COM(0) l top ▲

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