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2012/04/03 (Tue) 最初のデータが書き込まれました。

秋月律子




あなたは知っていますか? 何もかもどうでもよくなったときにくしゃみをすると。
そこに妖精が現れることを。

何にもしたくない。動いていたくない。目を開けていたくない。息をしていたくない。
自分が堕ちていく。堕落の穴へ。堕落人として。
まあ、それもいいか。どうせ誰にも知れたことじゃない。
無に消えていくのはどうすればいいのか。わからない。
だからこそ私は困っているんだ。私が消えてくれないから。
鼻がムズムズする。もうくしゃみをするのもめんどくさいのに。
……うん、いいや。どうでもいい。したきゃすればいいじゃない。

くしゅっ

今の衝撃で体の骨が粉みじんになって立てなくなってたらよかったなあ。
まっ、ならないんだけどさ。現実は甘くないってことね。

「ねえねえ、そこの君! 君だよ!」

私じゃないわよね。私であるはずがないわ。私であってほしくないもの。
帰ろう。よからぬ空耳も聞こえたことだし。

「ちょちょ、ちょっとー!? 無視は全ての存在に聞く有効な精神攻撃手段なんだよ!?」

あーあー聞こえない。聞こえない聞こえない聞きたくない。
幻聴を聞くほど私には余裕がありません。
他のスーツをきたパイナップル眼鏡女の所にいってくださーい。
ってそんなの私だけか。あはは。

「と、とにかくちょっと止まってよ! ほら、妖精さんがきたんだからさ!」

ダウナー症候群で生きる希望が見当たらないところにくる妖精さんは信用できないので帰ってください。
あと人の心を見透かすプライバシー無視のしつこいストーカー変態妖精さんもお呼びでありません。
いい加減にしないとフェアリーポリスに突き出すわよ。

「そ、それだけはご勘弁を!」

あ、本当に妖精にも警察っているのね。少しだけ親しみが沸いたわ。
それじゃ、そういうことで。

「うう、これが人間の間で流行ってるダウツナー感染症の弊害か……思ってたより強敵だよ」

……ダウツナー感染症。大層な名前とは裏腹、簡単に言えばうつ病だ。
数年前から数が爆発的に増え、その誰もが重度のうつ病にかかっておりダウナー症候群のごとく起立不能になることからそう名付けられたそうだ。
原因を究明していた国家もその大半が感染しており、もはやこの国を統治するものは誰もいない。
いつからか誰かが適当にダウナーとうつをあわせてダウツナーと呼ぶようになった。一つの国を蝕む病気がダジャレとは恐れ入る。
名前とは裏腹にその感染力は強大でいまや日本だけでなく海外各国でも猛威を振るっていた。
一番被害を受けたのはアメリカだろう。何せ国ごとなくなってしまったのだから。
ダウツナー感染症にかかってしまった人たちを治す術はなく、人で動かしていた企業から徐々に破綻。
当然、人の手によって動かされていた機械たちも動かなくなりアメリカ市場はストップ。
その頃にはアメリカの首脳たちも感染しており手段を講じること、考えることすらせず何もできないまま国家は事実上の解散となった。
……そう大騒ぎしていた自分が懐かしい。

「うん、やっぱり君はすごいよ。感染しながらそこまで物事を覚えていて、思い出すこともできるんだから」

昔の私がそうだっただけ。他に理由はない。
帰ろう。ああ、帰ろう。

「そんなこと言わないで! 君はまだ、誰かと手を取り合っていけるんだよ! 君はまだ君なんだよ!」

変わりなんかない。私はとっくにそこらにいる群衆の一つだ。
個で扱われることのない群だ。
だからもうかまわ

「ならどうして君は誰もいないこんな枯れかけの桜を見にきているのさ! こんなこと意思がある人じゃなきゃできないでしょ!?」

……
買いかぶりすぎ。
別に、ただの気まぐれ。

「感染した人は気まぐれなんて起こさない! 迷いなくそれまでやっていた仕事をするだけだ! 無気力に!」

私だって無気力だ。生きている感慨すら沸かない。
既に死人だ。

「お願いだよ! 君なら、君にしか出来ないんだよ! そしたらあの子たちの笑顔も取り戻せるかもしれないんだよ!?」

―律子さん! いよいよドームですね! ドーム!―
―うっうー! 律子さんともやしパーティー嬉しいなー!―
―大人になったら一緒に飲みましょうね? うふふ―
―ちょっと律子~、一人じゃ突っ込みきれないんだからなんとかしてよね!―
―はい、お茶が入りましたよ。律子さん―
―んっふっふ~。りっちゃんズバースデー! プレゼントは―
―亜美と真美の可愛い双子だよんっ受け取ってねー!―
―律子の指示は的確でわかりやすくて助かるわ。ありがとう―
―はいさいっ! 律子のおかげでペットたちが逃げ出さなくなったぞ!―
―律子殿、この度教えていただいたらあめん屋さん、美味しゅうございました―
―へっへー! 律子がいるとやる気百倍だよねっ!―

―律子、さん。このライブが終わったら、  の話聞いてね? すっごく大切なことだから―

脳がフル回転してる。あの頃が蘇ってくる。
ただあの子の名前が思い出せない。大切だった、気がするあの子の名前が。

「……そろそろ時間みたいだ。でも最後に、君があの子を取り戻したいのならここに行って。そこに最後の希望があるから、それじゃ」

桜が風に乗って散る。サアーという風の音と共に神秘的な声は聞こえなくなった。
私は振り返った。そこにあったのは、誰にも見られることなく寂しそうに佇む桜の木。
その根元に、ぼろぼろの紙切れがあった。
私は、その、紙切れを。
取った。

「……地図?」

そこに書かれていたのは目的地と書かれた場所までの道案内が書かれている地図だった。
……ひどく面倒なことだ。こんな遠いところまで己が意思で動けというのか。
耐え難い拷問だ。飽くことなき地獄だ。未来の見えぬ絶望だ。
私は歩き出した。拷問が待ちうけ地獄すら越えて絶望に向けて。
最後のパンドラの箱に僅かに沸いた自分の希望を添えて。
ひどく精神が不安定だが、歩いてみよう。
誰かの笑顔がちらつく脳みそを携えて。



「こうして秋月律子の冒険は始まったのだ! うん、これはいけるわ!」

「行かないでください仕事してくださいアイドルになってください小鳥さん」

「りりりり律子さん!? いつからそこに!?」

「妖精が現れるあたりから」

「そ、そうですかーいやこれなんですけど。別にそういったことじゃなくて」

「はいはい没収」

「後生ですから! 後生ですから~!」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――



「……夢?」

懐かしい頃の夢を見た気がする。
皆が笑っていた。とっても素敵だった。
だけど夢だった。一時の夢だったんだ。

「何夢みてんだか」

「……まぶしい、あんまり動かないでよ」

「ん」

私の傍らにはやたら小さな生き物がいる。妖精っぽい何か。
しかしその実態はだらけきった元ニートである。

「何言ってんの、ほら行くわよ。私が起きたら仕事だって言ったでしょ」

「いいじゃんこのまま無に還ろうよ」

「ごめんよ、せっかく帰ってきたんだから。ほらほら」

「もういいよ、頑張ったよ。世界を救った勇者には休息が必要だよ」

「だーめ、今休んだら根こそぎもってかれるわ。あの子最近やる気だしまくりなんだから」

「だからやる気がでないのか。あの金髪毛むくじゃらアイドルめ、許すマジ」

「頑張ったら飴をあげましょう」

「……その程度で動くとでも」

「一袋」

「さあ疲れない程度に行こうか」

途端に立ち上がる妖精(元ニート)だったが、すぐに重力に負けて膝を折る。

「私も昔はアイドルだったが、膝に矢を受けてしまってな……」

「受けたのは重力でしょ、ほら、行くわよ」

「抱っこ楽、超楽、やばい昇天する」

「はいはい」

抱えながらリビングに出る。カーテンを開ければ、青空が広がっていた。
今日も世界は変わらないみたいだ。

『……でした。続いてのニュースです』

ああ、テレビをつけっぱなしで寝てしまったようだ。
ニュースキャスターははきはきとしゃべている。

「なんだよう、ちょっと前まではやる気なかったのに」

「あんたのせいでしょ」

「だってそうしなきゃ生活もままならなかったし、苦渋の選択だったんだよ」

「あんたのおかげね」

「くそー、結局律子の一人勝ちなんてずるいよ」

「あんたが勝たせてくれたのよ。ありがとうね、杏」

「なら休息を」

「だめ」

「じゃせめてキス」

「それもだめ」

「やっぱりあの金髪毛むくじゃら? あっついねぇ、あついあつい爆ぜてしまえ」

「どうかしらね?」

「まあ負けないけどね」

「どんな意味で?」

「さあ、よっと」

私の胸から飛び降りる元ニート(妖精)、でもただの妖精じゃない。
世界に感染しつつあった脅威を歌と踊りで振り払ったスーパーアイドル兼ウルトラヒーロー。
いまや誰もが認めるトップアイドル、妖精が言っていた最後の希望。

『律子ー! 見てるー! 美希だよー! ほらほらーきらりも何か言うのー』
『おっすおっすばっちしぃ☆ 杏ちゃんやっほー! りっさんも今日もげんきぃ~? きらりんは元気元気にょわーっすって気分できらりんっ☆』

テレビから聞こえてくるはちゃめちゃアイドルたちの声。公共の電波を使って何をしてるかと思えば。
最後の希望兼うちのニートアイドルも頭を抱えている。

「でたなムダデカ二人組み、お前らのせいで杏は働くことを強いられているんだぞこの」

「いいじゃない、刺激的で」

「だが断る」

「そんなことより行くわよ。ガンガン営業あるのみ」

「頼れる相棒はいないけど」

「いるじゃない、隣に」

「私は相棒じゃなくて嫁です、あなたの稼ぎで食べていく嫁です」

「はいはい」

『い、以上アイドルニュースでした! 続いて……』

ブツンッ

テレビを消す。二人でぱぱっと身支度を整えて外に出る。
外に出れば、今日も仕事に向かう人々で通りはいっぱいだ。
その目にはほどよい疲れが伺える。

「それにしても、まさか私が歌って踊ってたらこんなにまでなっちゃうなんて世の中ほんと間違ってるよね」

「功労者のセリフじゃないわね」

「だってやる気のない杏が極限までやる気のない人たちを元気付けるとか、ありえないじゃない。ほんとおかしな話」

確かに、どうして杏が世界を救えたのかはわからない。
特別な声質をもっているとか、そういうのは一切ない。私が断言しよう。
けれど、私にはある一つの推測があった。
過去、猛威を振るったダウツナー感染症。杏はそれにかかっていなかった。
真っ先にかかりそうにな杏が、最後までかかっていなかったのだ。
どうしてなのか。それは杏が自ら進んでだらけ、怠け、それを自分で認めて肯定していたからこそではないか、そう考えた。
ダウツナー感染症にかかった人々は最初に必ずこう思ったはずだ。

こんな病気にかかったらダメになってしまう。

そう否定したはずだ。だがダウツナー感染症の強力さに負け、感染してしまったのだろう。
だからこそ、日本で最初に起こったのだろう。日本人は、働くことをやめてしまうと不安に駆られる。
正にダウツナー感染症にうってつけの母体だったわけだ。
だが最初からだらけきっていた杏はそう考えることはなく、結果的に感染しなかった。

「あんたが心からニートでよかったわ」

「褒めてるんだろうけどまったく褒められてる気がしない」

「素直に受け取っておきなさい」

「なら休みを」

「休暇は許可できない。繰り返す、休暇は許可できない」

「シット!」

医者でも何でもない杏が、なぜ歌を歌ったり踊ったりしただけで蔓延していたダウツナー感染症をなくすことが出来たのか。
それは彼女が不真面目だからこそだったからだろうと思う。
ダウツナー感染症の最大の特徴は、精神病ということだ。
主な感染経緯は、非感染者が感染者の異常なまでの気の落ち込み具合を視認したときにほぼ確実に感染する、ということだ。
この極悪非道な感染の仕方により世界は為すすべなく感染することになってしまった。
精神病であるためこれといった薬も効かないところも合わさって、非の打ち所のない病気となってしまったわけである。
逆を言えば、とどのつまり心の持ちようで治る病気でもあった。
そこに杏のどこまでも不真面目なスタイル、常にだらけきる姿そのものが特効薬となったわけだ。
実際、私が感染症から脱したときも杏は変わらずぐーたらしていた。
散乱した漫画やゲーム、しみだらけの布団、その中央で生ゴミのように横たわる杏。
最初に出会ったときの言葉は今でも覚えている。

―――ああ、私ダウツナー症候群なので。

かかってもいないのにさもかかってますアピールで部屋からでようとしなかった。おまけに病名まで間違えていた始末だ。
私はそれを聞いて、見て。
大笑いした。
ああ、こんなのでいいのかもしれない。素直にそう思って。
いつの間にか私の心は帰ってきていた。
杏を見た人々もそう思ったんじゃないだろうか。
ああ、こんなもんでいいのかもしれないな、と。
……あれだけ猛威を振るった稀代の感染症がそれだけ治るのかわからないけど。

「やっぱりあれかな、実は私妖精なのかな」

「それはスタイルだけでしょ?」

「いや、律子がいっぱい食べさせるから大きくなったんだよ」

「胸だけじゃない」

「おかげで肩がこるようになって死にたい。ありえない」

「それはどうもわるうございました」

「くそ、おっぱいもげないかな」

……考えすぎな気がしてきた。

「そういえばさ」

「ん?」

「律子、私の家来たでしょ。どうして私の家知ってたの?」

「ああ、それね。……うーん、まあ一言でいうのなら」

「言うなら?」

「くしゃ見の妖精に教えてもらったの?」

「はあ?」

「だから、花見をしていてくしゃみをしたら妖精が出てきて教えてくれたの。だからくしゃ見の妖精」

「……律子、大丈夫? 本格的に休んだほうがいいんじゃない?」

「まあ、そうなるわよね」

「ちょ、ちょっと律子?」

「ほら行くわよ! 営業はまってくれないんだから!」

「い、いきなり抱きかかえないでよ! ああでも楽……」

私は走る。妖精を胸に抱いて。













「ああ、どうも! くしゃ見妖精です! なんとか世界を救えてよかったです! どうします? ここで一回セーブしときますか?
え、セーブはいらない? 一度きりで十分だって? その心意気やよしですね! それじゃ当然、このまま続けますよね?」

秋月律子と双葉杏の二人の物語を続けますか?




 はい
→いいえ


→はい
 いいえ



ピッ


―――Now Loading―――



















―――Loading error―――



読み込める記憶領域がありません。
ここからは二人で物語をお作りください。
それではよい人生を。

















「だが断る」

「断るな」

私は、幸せです。

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Author:流ぬこ
自個偽無、候。
書いたり書いたりしている流ぬこです。
ピクシブなんかでも同じく流ぬこで書いています。
はじめの一歩を見るとオズマ戦でも小橋戦でもどの戦いでも泣けます。はい。

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