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音無小鳥





私の目の前で日本酒を美味しく飲むあの人が羨ましかった。
というよりは、あの人のことが好きなのに一緒に飲んであげることが出来ないのが羨ましさに繋がっていた。
当時、まだ二十歳に満たない高校生だった私が法律を破ろうとしても、あの人が悲しむだけだったから結局何も出来ずじまいだった。
その頃から日本酒に興味を持っていたのは確か、動機はかなり不純なのだけれども。
とりあえず、知識だけでもと思い図書館や知人、お父さんなどから調べたり聞いたりした。
仕入れた知識であの人と話してみるけれど、いまいち盛り上がらない。

実際に飲んでみたら分かることもあるんだよ、小鳥ちゃん。

少し困ったような、悲しそうな目でそう言われた私は、何も言えなくなってしまった。
いつ頃からか、前のように会える機会は少なくなった。それから月日は流れて、やっとのことで私も二十歳になった。
初恋のあの人のことを忘れることはできず、思い切って連絡を取ってみた。数年前の電話番号が繋がってしまい、かなり動揺したけど。
若さに任せていきなり一緒に日本酒を飲みませんか? そう尋ねたことを思い返すとくすりと頬が動いてしまう。
返ってきた答えはNOだった。何でも、お酒もタバコも一切をやめたらしい。納得できない私はつい聞いてしまった。どうしてやめたのか、そしたら。

結婚する時の条件にされちゃってね、惚れた弱みって奴だよ。

やっとスタートラインに立ったと思ったら、あの人は既にゴールインしていた。
あんなに奥手な人が好きになるくらいな人だ。私に勝ち目なんて毛ほどもないんだろう、と軽い絶望も味わった。
その後の会話はぼろぼろだったと思う。昔話をしようとしてくれるあの人の声に、うーとかあーとか変な相槌しかできなかったから。
程なくしておやすみを言い電話を切った。その日のうちに私は日本酒を飲んだ。
人生初の正式なお酒が、一人で飲む涙ぼろぼろのヤケ日本酒だった。次の日、気持ち悪さに吐き気及び頭痛その他もろもろ生きた心地がしなかったの言うまでもない。
あくまで話のネタとして興味があった日本酒。あの人が結婚しているならもう興味などなく、私は日本酒を忘れていきお酒も滅多に飲むことはなくなっていた。
そんなある日、一本の電話がかかってきたのだ。結論から言えば初恋のあの人からお酒の席のお誘いだった。タイマンでの。
最初はお断りするはずだったものの、どうしてもと懇願されてしまいつい私は了承してしまった。
重い心を引きずって指定されたお店を探して、入った。そこには少しだけ皺と白髪が増えたあの人が先に座って待っていた。
久しぶりという状況にやはり心の動揺が隠し切れず、挨拶するときに変な裏声が出てしまった。笑われた、かなり盛大に。全力で帰ってやろうかこのやろう、と思った。
挨拶もそこそこに、どうして今になって私をお酒に誘ったのかを尋ねてみると意外な答えが返ってきた。

それは僕が小鳥ちゃ、小鳥さんと飲みたかったからだよ。

更に聞けば今日はお嫁さんに内緒でお酒を飲んでいるらしい。……誤解のないように言っておくと、私と会うということは事前に話し了解も得ているとのことだ。
だけどやっぱりそれでも、理由としては弱い気がする。飲みたかったのであればあの日のうちに飲むはずだ。
と、心にしまっておくべきだった言葉が全て漏れ出していて、私は不意打ちされる形で本当の理由を聞かされるはめになる。

僕が日本酒を飲んでいるのを見て、あれだけ興味を持ってくれたんだ。そんな子と飲んでみたい、誰だってそう思うよ。
それにあの時は新婚ほやほやだったから、まだまだ彼女との関係に余裕がなかったからね。行きたくても行けなかったんだよ。ごめんね。

ここで謝られても困る。そもそもこの言いようではとりあえず自分に余裕ができたから暇つぶしに私と飲みにきた、とも受け取れてしまう。
けど、許してしまっていた。あんなに無防備に、楽しそうに日本酒を飲みながら笑顔で言われた誰だってそうなるはずだ。
話が長くなったね、乾杯しようと言いつつあの人は私のおちょこに日本酒を注いでくれた。
ヤケ酒の日を思い出して心はげんなりしていたが、意を決して生涯二度目の日本酒を口に含んだ。
相変わらず消毒液のような慣れない匂いが口の中に広がっていく。だが、不思議と不味いとは感じなかった。
僅かにあるお米の甘みを感じながら、ゆっくりと喉に日本酒の滝を流し込む。少し喉が温かく感じられた。
二度目の日本酒は、そんなに不味くはなかった。
だけどあの人に美味しい?と尋ねられたときは、まだよくわからないですと意地を張った。
だって、あの人が注いでくれた日本酒だから不味くない。そんなことを言ったら、仄かに想いを寄せていたのに気づかれてしまうかもしれない。
それ以前に結局あの人次第、というのにムッとしていたからだ。
それから私はちょくちょく日本酒を飲むようになった。会社の友人や知人はカクテルやサワー等しか頼まないため、多くは一人酒だったが。
最初のうちは甘口でまったりとしたコクがあるような方が好きだったが、飲んでいくうちに辛口でスッキリとしたものの方が好きになっていった。
広く言えばどちらの味も美味しいのだけれど。
日本酒からの派生で焼酎、ウイスキーやワインなどもたまに飲むようになったがやはり一番好きなのは日本酒だった。
事務所のアイドルで唯一の成人であるあずささんはウイスキーが好きなようで、二人で飲みに行くことも少なくない。
その時に聞くのはプロデューサーさんの話である。年上で行動力があって、でもちょっとおっちょこちょいですっごく頼りになるんですよ~と。
完全にお惚気なのだが、ほろ酔いでとろんとした目で話すあずささんを無視することなんてできなくて、いつも最後まで聞いていた。
で、そのプロデューサーに現在進行形でこう尋ねられている。

小鳥さん、日本酒お好きなんですよね? 僕も好きなので、一緒に飲みにいきませんか? 周りに日本酒が好きな人がいなくて寂しかったんですよ。

私が日本酒好きだというのは、あずささんから聞いたのだろう。
デートのお誘い、というよりは日本酒が飲める人と飲みに行きたいという感じだろうか。
私も日本酒好きとして一緒に行きたいと思っていたので断る理由はなかった。
が、しかし。女性として意識されないのにはかなりむっとしたので、少しだけイジワルを実行したのだ。

久保田の萬寿、注いで下さるならご一緒しますよ?

おまけにウインク一つ。少しだけプロデューサーさんの顔がぴくんとなった。まあ、お高い日本酒だから仕方ないかなって思っていたら意外な反応で返された。

日本酒が好きな小鳥さんと飲むのに、萬寿がなくてどうするんですか! もちろん、注がせても頂きますし!

まあ、その数秒後に私は笑ってしまいました。
こんなにも真っ直ぐだって思って。
もしかしたら、あの人の目にもあの頃の私はこう映っていたのかもしれない。今度飲む機会があったら聞いてみようか。
そんな訳で、私はプロデューサーさんと一緒に久保田の萬寿を頂きました。私も萬寿を飲んだのは初めてで、とっても美味しかったです。



これは未来のお話になりますが、プロデューサーさんが取っていた私の初めてはこれだけじゃないんですよ?
どういうことかって? あと何歳なのかって?
それは、企業秘密です。ふふっ。
2012.05.14 Mon l キケン ガ アブナイ ! l COM(0) l top ▲

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