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http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=1114593

こっちのほうにも載せますが一応ピクシブがよければ上記URLから。

如月千早 天海春香




私は、歌を歌うのが好きだった。
よく近くの公園で恥ずかしげもなく大声で歌っていた。音程も何も気にしないで、好きなように。
それが歳を重ねるごとにテンポは、感情は、音程はと自分に対する課題が増えていった。
そうしなければとても耐えることができなかったからだ。
最愛の弟の死、親の喧嘩。程なくして、私は一人ぼっちになってしまった。
元々明るくない私は更に陰りの底の底へと潜っていった。
きっと誰も助けてくれないんだろうな……。
そう諦めていた、絶望しきっていた私に手を差し伸べてくれたものがあった。
それが歌だった。
歌は優しくゆっくりと私を救い上げてくれた。私の頭をなでてくれた。
あの時、私の耳に聞こえていた歌は間違いなく人よりも暖かい何かだった。
この時から、私の歌に対する姿勢はフレンドリーなものから忠誠に近い感情に移り変わった。
ひたすらに歌を追求した。歌だけを歌った。歌としか触れ合わずに生きていた。
けれど私は欲深かった。
私に歌われたこの歌たちが誰にも聞いていかないで空気に溶けていくのが、嫌になったのだ。
喝采されたいわけではない。ただ歌を聞いて欲しかった。この歌たちを多くの人々に聞いて欲しくなったのだ。
それから私は思ったことがある。運命とは意外に都合よく行くものなんだと。
アイドルにならないか、とスカウトされたのだ。当然頭が固い私は一刀の元に切り伏せてその誘いを断った。
でも気づいたのだ。アイドルになって歌う機会を得れば多くの人々に私が愛した歌たちをもっと聞いてもらえると。
偶像、見世物になるのには抵抗があったが歌のためならばと一度断った誘いに私はのった。
それはそれは、甘い目算だった。
アイドルになりたての私に課せられたのは営業だ。自分を売り込むこと。
歌を歌う機会を得るどころか、歌を歌う時間まで減ってしまったのだ。すぐさま自分の考えが甘かったと思う。
一ヶ月ほどたった頃だろう。もうやめようと思った。私の日々の半分が媚を売ることになったのだ。耐えられるわけが無かった。
次の日、止めると告げようとした私のところへプロデューサーが嬉しそうな顔で寄ってきた。
その隣には少し緊張気味のリボンをした女の子が立っていた。

これが如月千早と天海春香の最初の出会いだった。

プロデューサーの口からあっけらかんと、これからはこっちの春香とデュオでやっていくから、そう告げられた。
なんと間の悪いことか。さすがの私もいざこれからアイドルやるぞという人の前で止めますとは言えなかった。
また営業の日々が始まった。つまらない、くだらない、必要ない。負の感情で蔓延する私の心。
打って変わり春香は頑張っていた。どんな相手でも、嫌味を言われようが邪険にされようが決して笑顔を崩さなかった。
荒んだ私の眼にはその春香の姿が卑しい媚を売る商人のように見えた。そこまでして売れたいのか、みっともない、と。
春香は私とも仲良くなろうと精一杯話そうとしていたが、私は話す気などさらさらなかった。
私と春香の会話はいつも十秒足らずで終わってしまい、その終わり際には春香が困り果てた笑顔を作っているだけだった。
私にまでそんな顔をするのかと、腐りきっていた。
更に一ヶ月、もう我慢の限界だった。歌を歌う機会が増えるわけでもない、歌う時間も減っている。
挙句の果てに本格的なレッスンの時ですら春香のレベルに合わせなければならなくなってしまったのだ。
もう、続ける理由がなかった。止めようと決意した。そうでなければ如月千早が死んでしまう。
プロデューサーに打ち明けに行こうとした時だ。春香が私の腕を掴むのだ。
ぎりぎりと痛いくらいに、実際爪が食い込むほどに腕を掴まれ、動けなかった。
何をするの? と私が問うと震える声で答えた。

やめちゃ、だめだよ。千早ちゃんはやめちゃ、だめだよ。

などと、言うのだ。
私には理解が及ばなかった。やめちゃいけない理由がどこにもないのだから。
かける言葉も見つからず、探さなかったが正しいか。ともかく、言葉を紡ぐことも放棄して春香の腕を振り払おうとした。
振り払えなかった。春香は俯いたまま、私を離そうとはしなかった。
いい加減にして。そう怒張を強めて春香の腕を強引に解こうとする。瞬間、耳元で叫ばれる。

千早ちゃんの歌が誰にも聞かれないなんて! そんなのだめだよ! 千早ちゃんはもう諦めるの!? もう投げ出しちゃうの!?

……仕方ないじゃない。これだけやってもただの一度も仕事が増えたことなんてなかった。もう無理じゃないか。なにをしたって何もおこらな

千早ちゃんは! 歌が! 好きじゃないの!?

心が、ざわつく。長いこと忘れていた、本当の怒りの感情が息を吹き返す。
私が? この如月千早が歌が好きじゃない?
ふざけないで。そんなことあるわけがない。
歌に。
助けてもらった私が。
歌を好きじゃない?
そんなバカなことがあるか。あるわけがない。あっていいはずがない。断じてありえないのだ。
……ならどうして私は動けずにいる?
この目の前にいるふざけたアイドルを叩くくらいのことをしてもいいんだ。
今は許されるんだ。だからはやく右の手を振りかざして、頬を打たないと。
頬を、打たないと。
頬を。

……千早ちゃん? 泣いてるの?

いつの間にか、私の頬は涙で濡れていた。
きっと、気づいてしまったからだ。
あんなに好きだった歌。その歌に助けられた私は、歌を大好きになり、歌を愛するようになり。
いつしか歌を絶対的なものに変えていた。歌のためならば何もかもを犠牲にしてもいいと、軽々しく思っていた。
だが実際はどうだ? 数ヶ月、進展が起きないからもうやめようとしている自分。
つまり、歌のために私は私自身を犠牲にすることができなかった。
そう自覚した途端、押し隠していた感情が溢れ出てくる。

なさけない。

          みっともない。


    甘ったれ。                    臆病者。

                 口だけ。

       何もできない。                       悲劇のヒロインきどり。

                      逃げ道しか見えない。
    負け犬。                        歌なんてやめてしまえ。


                  如月千早に
                  歌を歌う資格なんて
ない。

心が溢れる。ずっと隠していた私の弱さが波を作り渦を巻いて如月千早を飲み込んでいく。
もう、だめだ。
抗えない。
このまま流されよう。
私は、その程度だったんだ。
助けてもらったのに。
……ごめんなさい。







千早ちゃん。

誰かの声が聞こえる。知らないはずなのに、ずっと近くで聞いていた声。
あなたは、誰?

千早ちゃん。君は歌が好きだよ。今でも変わらないよ。変わったのは上辺だけの薄っぺらなものなんだから。

でも、私は……。

眼を開けてごらん。そうしたらきっと見えるはずだよ。だって君の目の前には、あの頃の君がいるんだからね。また、僕を歌ってよ。

歌う……?
あなたは……?








千早ちゃん!? よ、よかった~……いきなり倒れるからどうしたのかって、私本当に心配で……心配でぇっ。

眼を開けた先にいたのは春香だった。私に抱きついて泣いている。柔らかな匂い。優しい空気。
……そう。確かに。
春香は歌が、下手だ。プロとしては聞けたものじゃない。
音程がズレるのは当たりまえ、一曲中にテンポが遅くなったり早くなったりもするし、たまに息が続かずに歌詞が歌えなかったりもする。
まったく、まったくもって下手くそだ。
それでいて、いつも笑顔で歌う。
笑顔を絶やさずに、歌と、歌うように。
それは昔の私のように。今の私の身長の半分も行かぬ頃の私が無邪気に笑いながら歌うように。
大好きな歌を、歌うのだ。
もう笑わずに入られなかった。久方ぶりの、大笑いだった。お腹を抱え込んで、涙を流しながら、鼻水も流しながら、笑った。
春香は怪訝な顔で私を見ていたが、一緒に笑い出した。
何でこんなに笑ってるのかもわからないまま私たち二人は笑い倒した。
そのまま、いつの間にか寝てしまった。その後しこたまプロデューサーに怒られた。風邪でも引いたらどうするんだ! っと。
でも私は忘れない。事務所に帰ってきた私たち二人を見て心底安堵したプロデューサーの顔を。
説教が終わったあとで私はプロデューサーに頭を下げて、謝った。今までの自分の非礼をどうしても謝りたくて。
困惑するプロデューサー。隣にいた春香がフォローをいれてくれる。

これが如月千早と天海春香のアイドルとしての再スタートです! 今までありがとうございます! これからはもっとお願いします!

私と一緒になって頭を深々と下げてくれる。そんな困ったアイドル二人にプロデューサーは呆れたように言う。

おいおい、俺の名前がないじゃないか? 仲間外れはひどいんじゃないか?

私たちが顔を上げると、少しだけ涙目になっているプロデューサーがいた。
きっと、私のことでさぞ悩んでいたのだろう。苦しんでいたのだろう。それでも私を諦めようとはしなかった。
ありがたかった。嬉しかった。たまらず、私はプロデューサーに抱きついた。
ついでに春香も抱きついた。プロデューサーも抱きしめ返してくれた。その時聞いた、プロデューサーの涙声のありがとうが忘れられない。
こうして私と春香、プロデューサーの第二のアイドル活動が始まった。

それまで蔑ろにしていた、主に私一人だけだが、営業に力を入れて時間の合間にレッスンもする。
正直、生半可なものではなかった。毎日くたくたになって家に帰る日々。家に帰れば喧嘩をやめない両親の聞きたくもない声が聞こえてくる。
歌も中々ゆっくり歌えない。間違いなく、私にとってこの期間は地獄で過ごしたも同然だ。
そんなある日、あるラジオに出演が決まった。小さなラジオ番組だったが初めて私たちは歌を歌える機会を得た。
トークメインの番組だったが、プロデューサーも我慢の限界だったのか思いっきり歌ってこいと言ってくれた。
その言葉に後押しされて私と春香は全力で歌った。これがきっかけになり、私たちの知名度は一気に急上昇していく。
だけど、上手くいくだけではなかった。
知名度が上がればあがるほど取り上げられたのが春香の歌の技量だった。
私と比べると明らかに低く、他と比べてもイマイチなのではないかと。
自分が売れたいがゆえに、私に取り付いているのではないかと。
あられもない噂に、春香の心は徐々にぼろぼろにされていった。
最初は平気ですと言っていたのに、次第に元気がなくなり、最終的には明らかに痩せこけていった。
某所でレッスンをしていた私たち二人。私は春香にかける言葉が見つからず、助けることもできずにただただ時間を浪費していた。
そんな私に春香がこう言ったのだ。

千早ちゃん、もう私だめだよ。こんなに辛いのに続けるなんてできないよ。

いつか放たれるだろうと言葉が遂に春香の口から零れてしまった。
力ないまま、レッスンをやめて、座り込む春香。
……ああ、見たことがある。
今の春香は、歌に助けられる前の私だ。誰も自分を見てくれない、助けてくれない。
そう絶望しきっているときの姿だ。私は歌に助けられた。じゃあ春香は? 歌が助けてくれる?
今の春香では逆効果にしかならない。ならどうする?
……震えながら如月千早は、勇気を振り絞った。

春香は、歌。嫌いなの?

答えはない。きっと迷っているのだ。
嫌いなわけがない。だが今はその歌に苦しめられている。板ばさみの状態でどうすればいいか、どう答えていいのかわからない。
このままじゃいけない。だけど名案も何も思いつかない。
だから私は昔話をすることにした。

私も、下手だったわ。歌。

……えっ?

ただ大声で歌って、音程なんて自由、テンポもまちまち。そんな歌を恥ずかしげもなく歌っていたわ。

……でも今は上手いよ。

こんな私でも歌だけはずっと練習していたから。思っていたから。歌っていたからだと思う。

私は、そんなに練習できないよ。千早ちゃんよりも才能がないのに、千早ちゃんと同じだけ練習なんて……できないよ……。

そうでしょうね。私と同じような練習をこなすのは難しいかもしれない。

……ならやっぱりだめだよ。上手くなるわけが。

諦めるの?

……

逃げ出すの?

……っ

私に説教してくれたあなたが歌から眼をそむけるの?

……ぅっ

歌に背を向けることができるの? 歌わないで生きていけるの?

……さい

歌を捨てるの? 歌を、手放せるの?

うるさい! うるさいうるさい、うるさいよ!

胸倉を掴まれ、鬼のような剣幕で睨まれる。でも瞳には涙が溢れかえっていた。
わかるんだ。この辛さが。痛いほどに。私も経験したことがあるから。
怖いと思う感情を押さえつけながら必死に平静を保っていた。じゃなきゃ春香が全てをぶちまけられないから。

私には千早ちゃんのような才能なんてないおまけにそこまで努力しようなんて思えない情けなくて甘ったれでどうしようもない子供なんだよ!
私だって歌を好きで歌っていたいだけどだけどぉ!! 私が歌を歌えばその歌がバカにされるんだよ!? そんなの許せる!?
どれだけ頑張っても如月千早がすごいだけっ天海春香は何もしていない! 天海春香の歌は何の価値もない! そう言われるのが日常茶飯事!
頑張れるねえ頑張れるこんな状況で頑張れるの!? 天才なら頑張れるの!? 私は、私は、わたしはあっ!

も、う、がん、ばれっなあいよぉ……

泣き崩れる。掴まれていた胸倉が自由になりほっとしたのも束の間、春香がいきなり床に倒れる。
銃で撃たれたようにぴくりともしない。すぐに春香に呼びかける。返事はない。
気が動転して、どうしようどうしようとうろたえ春香の名前を涙目になりながら叫ぶことしかできなかった。
三十分ほどたった頃だろうか。ようやく携帯電話の存在を思い出して誰かに助けを呼ぼうと立ち上がろうとした時だ。
ぴとっ。私の頬に暖かな感触が触れた。急いで振り返ると、春香が眼をあけていた。
私は、たまらずに抱きついた。心配で張り裂けそうな胸は、安堵で張り裂けそうな胸になった。
涙目を堪えながら抱き続ける私の横で、春香はゆっくりと笑い出す。
いつしか、大笑いへと変わっていく。一方の私はきょとんとしていた。
でも春香が笑っている。お腹を抱え込んで、涙を流しながら、鼻水を流しながら。
その姿を見ていたら全てがおかしくなった。だから私もいつしか笑っていた。
ああ、いつだったかこんなことがあった。あの時とは二人の立場が逆だけど。
笑いつくした二人。春香が口を開ける。

私、大好きな歌にあったんだ。眼を開けてごらん、その先にいるのは将来の君がいるから。でね、また僕を歌ってねって言ってくれたんだ。
千早ちゃんが私の将来の姿だなんて、一体何年後の話をしているかな? おかしいね。

……でも、何年後にならなれるって今は思っているのね。

だめかな?

ええ。どうせなら私も超えてしまいましょう。二人でね。

あはは、千早ちゃんには敵わないなぁ。……私、頑張るよ。今はそれしか言えないけど、まだ辛いけど、だけどもっと頑張るから。

もう、春香の眼には私が知っている天海春香の眼が戻っていた。
優しげで可愛らしく、そのどこかに力強さを内包させた瞳。
弱音を吐く天海春香は見当たらなかった。
お決まりのごとく、事務所に帰ればまたまたしこたまプロデューサーに怒られた。
そのまま抱きしめられた。
二人で解決するのもいい。だけどその中に俺もいれてくれ。俺はお前たちのプロデューサーなんだから。
男泣きだった。こんな小娘二人にそんなものまで捧げてくれるプロデューサー。言わずもがな、私たち二人も涙目になりながら抱きしめ返していた。
三度目の正直。私たちまた新たに出発をした。
度重なるバッシング。人を人とも思わぬマスコミ。だけど春香はもう負けることはなかった。
ある時、ひどい質問があった。

―――――今の天海春香の地位は如月千早のおこぼれだという意見があるのですが、いかがですか?

もう、限界だった。ニヤニヤしているその記者の頬を引っぱたいてやろうと一歩踏み込んだ私を春香が制止させる。
そして笑顔でこう答えたのだ。

そうかもしれません。ですが私たちアイドルや芸能人の情報というおこぼれでご飯を食べているあなたには言われたくありません。
ですが私はこれから、もっとうまくなります。大好きな歌を歌って、皆さんが聞いてよかったと思えるまでうまくなります。

スパっと言い切った。この時、春香の全体に少しだけドス黒いオーラが見えたのは内緒にしておく。
この発言の当初はバッシングもあったが、それ以上にいい心意気だと前向きに捕らえてくれる人が多かった。
むしろ、あまりにも出すぎた発言をしたあの記者が悪い、とその記者が逆にバッシングの対象となったのだ。
それから春香は急成長を遂げていった。
公の場で堂々と宣言したからだろうか。吹っ切れたように練習に打ち込み、どんどん歌の技術を吸収していった。
苦手ものも一度ではなく十度、十度でだめなら百度、百度でだめなら千度。果てしなく思えるほどに失敗を繰り返しながら、いつか自分のものにしていた。
プロデューサーも営業の力を獲得、様々な人との繋がりを持ち仕事をもらってくる。
かくして、私たち三人はようやく軌道に乗った。
それから私たち二人は大勢の前で歌を歌う機会が多くなっていった。
春香の歌もただの下手くそではなく、聞けば聞くほど味がある、なんて言われるほどになっていた。本人はまだまだだと言っていたが。
追われるような日々の連続だったけれど、苦しくはなかった。だって歌が歌い、多くの人々に歌を聞いてもらっているのだから。
こうして、如月千早の夢は叶ったのだ。

そして現在、私と春香のデュオユニット「蒼き春」はアイドルの頂点に輝きその後解散。
現在では「如月千早」と「天海春香」がお互い切磋琢磨しあいながら再度頂点を目指している途中だ。
もちろん二人のプロデューサーは変わっていない。プロデューサーには悪いが、二人のアイドルの予定管理をしてもらっている。
私は、春香と二人暮しを始めた。毎日素敵な料理と笑顔とどんがらがっしゃーんが見られる。
そして私は歌を歌っている。大好きな歌たちを、私を応援してくれているみんなに届けられている。
これ以上の幸せはない。
なのだが、前も言ったとおり私は欲深い。
今度は大好きなだけじゃなくて、大好きになって欲しいと思ってしまったのだ。
それは歌にも言えることだ。
だけど、それじゃなくて。
その、なんというのか。
概念的なものじゃなくて、物理的というか、隣にいる人がずっと隣にいてくれたらというか。
その人が隣にずっといてくれて、歌を口ずさむことができたなら。
そう思うのだ。
だが、うまくいかないこともしっている。
奥手というか、へたれている私にはなかなか好意的なアプローチとは難しいものなのだ。
……もう少し頑張れ、千早。
それはそうと、今日も行こう。私の歌を待っていてくれる人に、歌を届けに。
今も玄関で手を差し伸べてくれる春香と一緒に。



―――よかったね、千早。ねえ? ねぇ? 今、千早は幸せ? 歌が歌えて、みんなに聞いてもらえて、好きなってもらいたい人ができて、幸せになれた?

「……ええ。私、今とっても幸せ。だからあなたをずっと歌わせてね? 幸せな時に、あなたを歌うのが私の一番の幸せだから」

―――うんっ。……おめでとう、千早

「……ありがとう」


如月千早は歌を歌うのが好きだ。
それは十五歳になった今でも変わらずに。
だから今の彼女は歌を歌う時。
絶え間なく、笑顔なのだ。
理屈などなく。
歌が、大好きだから。
2012.06.05 Tue l 自作小説 l COM(0) l top ▲

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