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オリジナル




祭りとてうたかたに、徒然なる風景を見やんとすれば、我が瞳に映りしは言葉にできぬかな。

「……うむ。それっぽいけどよく見ると何の意味もないねこれ」
「なら書かなければいいじゃないですか」
「ほら、抑え切れない感情ってあるじゃないですか。そういうのありませんか?」
「え、ええ。あるような気はしますけど」
「それと一緒ですよ。私はこの言葉をどうしても書きたくなった、それだけです」
「はあ」
「うん、祭りほどうたかたに、だけでよかったですね」
「自分で書きたいと思ったものを即否定ですか?」
私はため息を付く。特大の、自分の洋服を伝っていく陰気な空気。さらりというよりはどろりと流れ。
この人はどうしてこんなに、訳がわからなく、計り知れなく、自由でいられるのだろうか。
恨めしく、羨ましい。
「何か書いてみたらどうですか? 自分の感情そのままに、って貴女には歌がありましたかね」
「歌で表現しきれないものもありますし、その」
「その?」
「……恥ずかしくてずっと留めているものもありますよ」
「貴女にも恥ずかしいものがあるんですね」
「失礼じゃないですか?」
「あはは、すいません」
笑いながら、頭を掻いている。揺れる金髪が付きように照らされて、幾重に重なる光の線のよう。
それなのに頭をがしがしと掻くのだ。髪質や逃避が痛まないかこっちが心配になって、私の胸の鼓動は早くなる。
……嘘だ。そんなことなら、こんなにも鼓動は早くなったりしない。
必死に顔が赤くなるのを堪えている、ことになったりなんてするはずがない。
でも、この人の前じゃ歌姫でも、アイドルでもない、ただの少女にしかなれない。
傍目から見ればそんなにすごい人ってわけではないけれど、惚れた弱みと言うやつに近いのかもしれない。
「というかいいんですか?」
「何がでしょう」
「私ばかりと居たんじゃ、ファンの皆が寂しいじゃないですか」
「貴女も私のファンだと仰ってくださいました」
「そうですけど、ぶっちゃけ言う程ファンでもないんですよね」
「知ってます」
「……いつからですか?」
「お会いしたその時から」
「あちゃー心象最悪だったんですね」
最初はどうということはなかった。私のことを好きな人がいれば嫌いな人だっている。
アイドルなんて職業をしてるなら尚更。根も葉もない噂話が私の知らないところで歩いている。弁明すらできない、そんな世界。
だから、この人が私のことをそんなに好きじゃないって言うことに、私の感情はさして動きはしなかった。
それがどうだろうか。今ではこの人の一挙一動が私の心を震わせ、悲しませ、楽しませる。ここまで心を鷲づかみにされている。
「ん? でもその状態からここまで仲良くなったワタシって結構すごいんですかね?」
「……少なくとも、歌しかないと勘違いしていた私に話しかけてきてくれたのは貴女だけですね」
「そうでしたっけ?」
「そうです」
惚けた振り。嘘を平気でつく。とってもひどい人。
こんなにも優しい嘘を振りまくこの人は、本当にひどい人だ。おかげで片時も忘れられないのだから。
「……聞いてもらってもいいですか」
「なんなりとー」
「あの時、私には歌しかないと勘違いしていた時声を掛けてくれて、本当にありがとうございます」
「どういたしまして」
「あの時の言葉がなければ私はきっと、どこぞで息絶えていたかもしれません」
「またまた」
「冗談は苦手です」
「はい、知ってます。でもあの時の言葉って言われても生憎記憶が」
「'歌を愛するのはいいけれど、愛するために死なれたら歌も迷惑ですよね'」
「……そんなこと言いましたっけ?」
「一語一句、間違えてません」
「あらら。ちょっとタイムスリップしてその時の自分止めてきます。ぶん殴ってでも」
こうやってすぐにごまかそうとする。これのせいで私は今まで踏み込みきれずにいた。
それで、安心していた自分もいた。踏み込みさえしなければこの距離で接していられる。私の目に映る場所に居てくれる。
けれど私は欲張りだから。されど私は止まれないから。
「じゃちょっくらタイムマシーンを」
「―――サイネリアさん」
「……ナンデショウ」
「私は、私を助けてくれたサイネリアさんを尊敬しまた敬愛しています。だからこそ教えて欲しい」
「ワタシにはオシエられることなんて何も」
「貴女の本当の名前、教えていただけませんか?」
聞いてしまった。遂に聞いてしまった。もう戻ることはできない、貴女への問い。
何も考えられない。頭が真っ白になる。まるで考える機能が停止してしまったかのようだ。
月が明るい。空虚な私に、それだけが流れ込んでくる。
「今なら、間に合います。でも聞かなかったことにできるのはこれが最後です」
ああ退いてしまいたい。逃げてしまいたい。なかったことにしてしまいたい。
だが、ここでは引けない。ここだけは引けない。例えそれが。
死ぬことになろうとも。
「……貴女の、本当の名前は、なんですか?」
「……そうですか。貴女はそこまでワタシのことを」
口調が変わる。目つきが変わる。しなやかさは影を潜め、陰鬱な空気が漂う。
ああ、これが本当の恐怖なのかもしれない。
「もう戻れません。ワタシも深く関わりすぎました。……だからこそ、こうすることが辛い」
取り出されたるは拳銃。指し向けられたるは銃口。そして射抜かれるのは私の心臓
「そのまま知らない振りを続けることはできなかったんですか?」
「これ以上、自分に嘘をつくのはままなりませんでした」
「そう、ですか」
「……結局私は愛するために死ぬ。けれどそれが貴女でよかった」
「……迷惑な話です」
「すいません。けれど背負ってください。私の命、この想いごと」
「貴女はもっと弱くあるべきだった。……違いますね。貴女は愛することに長けすぎた」

―――パーンッ

乾いた銃声が、聞こえた気がする。
体が倒れていく。止めることはできそうにない。
ああ、終わりなんだ。もうこれでいろいろ終わってしまうんだ。
それが悲しくて悲しくて、悲しいはずなのに。心のどこかではホッとしている。
「私も、好きでした」
そう言った貴女。でも貴女は嘘つきだから。
貴女が右のこめかみに中指を当てる癖。
それは貴女が、嘘をつくときにやる癖。
ああ、報われない。けれどいいや。
だって私はこんな死の淵際まで、貴女のことを想って逝けるのだから。

死に際ほどうたかたに、殺伐たる貴女を見やんとすれば、我が瞳に映りしは物は既になく。

2012.09.30 Sun l 自作小説 l COM(0) l top ▲

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