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「さあて、765プロ総動員のスペシャルライブも、いよいよ表立ってはあと一曲ですよ!」
りっちゃんが右の人差し指をびんと立てて言う。
「…律子、『表立っては』とか露骨過ぎよ」
いおりんはハズカシそにタメイキついた。
「あは、アンコール大歓迎!って? みなさんがんがんアンコールしてくださいねー!」
まこちんが歯を見せて笑って。
「なんくるないさー。まだまだ踊り足りないぞー!」
ひびきんが両腕を振り上げてほえる。
「最後の曲は、本当は作曲家の先生が高槻さんと亜美と真美のために創り始めたものでした」
千早お姉ちゃんがマジメに曲紹介をして、
「一年もあれんじし続けていたと聞きます。やよい、亜美、真美の心の成長に合わせて、歌詞も曲も変え続けたと」
お姫ちんがホソクする。
「それを、私たちみんなの歌にさらにリアレンジしてもらったんですぅ。ごめんねやよいちゃん、亜美ちゃん真美ちゃん」
ゆきぴょんがステージの上なのに亜美たちにオジギするから。
「なーに言ってんのさー? みんなで歌ったほうが楽しいっしょ?」
真美がまぜっ返しながらフォローする。
「それに、これはやっぱり女の子みんなのイベントだと思うの!」
髪はジグザグのままだけど明るい声でミキミキが言って。
「そーだね。カタオモイしてるみんなの歌だよねー?」
私は、私ジシンとみんなに祈りを込めて返した。
「少し遅くなっちゃいましたけど、私たちからみなさんへのバレンタインプレゼントです~」
あずさお姉ちゃんがアデヤカーに笑って。
「みなさん、楽しんでくださいねー!」
やよいっちがトビキリ元気に叫んだ。
「それでは、新曲『バレンタイン』! 今夜だけの765オールスターズバージョン、行っきますよー!」
はるるんの声を合図に私たちはチリヂリに走る。ショテーのイチに着く。
五つのステージにひとりっつ、それぞれの花道にふたりっつ、空からドームを見下ろしたらアイドル13人のグランドクロスだって兄ちゃんが言ってた。
「星になるよ。亜美はカガヤく星になる。みんなと星座をつくるよ」
そんで、ウチューをテラスんだ。みんなが見あげるキボーにユメになるんだ。歌が、始まる。
♪バレバレバレ バレンタイン バレバレバレ バレンタイン♪
ハジメはパートわけもナシ。チョーカンカク開いてるけど、ラインダンスみたくみんなおんなじフリツケで踊るんだ。でもみんなチガウよ。コセーがあるからね。
♪チョコレートよりも 甘い恋の味♪
みんなチガウ声、なのに「じー」が重なって合わさって。んふ、楽しいっ! みんなもノリノリ。うっし、亜美もアクセル全開で行くよー!

♪「あそぼうよ」「会いたいよ」なんて 絶対言えないわたし♪
不思議だなって自分で思うんだ。みんなを差し置いてステージ担当の責任に、私の脚は震えっぱなしだった。
千早ちゃんや真だって花道なのにさ。いやいや花道担当だってもちろん緊張しただろうけど。
♪『だ、け、ど?』♪
だけど、ステージに登ったらぴたり止まった。私の気持ちをみんなに伝えたいから。もし届くなら、鈍い鈍いあの人にも。
右往左往して来た私を、いっしょに右往左往しながら支えてくれたあの人にも届けたい。
「まあきっと、届かないんだろうけど」
私のプロデューサーさんは、もうどうしてかってくらいに鈍感だからね、まったく。

♪1年に1度だけ♪
私は色恋など知りません。身に余る大望を持ち、また皆の希望たるあいどるの私には許されざることと思います。
ですが、それでもこの心は、体は女のものなのです。身を焦がすような恋は知らねども、殿方に暖かみを感じてしまうこともあるのです。
♪そうよ もうすぐあの日が チャンスがやってくる!♪
優しく見つめるあの方の瞳に、はしたなくも高鳴る私の心。忍ぶれど色に出でにし密やかな想い、一年に一度、感謝の心に紛らすならば。
「きっと月も恥じらい見逃しましょう」
感謝と、語ってはならぬ心を込めて歌いましょう。いけずなあなた様に。

♪女の子達のバトルくぐり抜けて ヘトヘト♪
つらい歌だよ、私には。私はバトルにレンセンレンショーしつづけなきゃ勝ち取れない。スタートが遅かったからね。
私も兄ちゃんがスキだって気付いたコロには、もう亜美はズンドコまで兄ちゃんにハマってた。シアワセナケツマツがドコにも見えないくらいにね。
♪だけど君にはLove! トドケタイノ♪
亜美にはシアワセになってほしいんだ。生まれる前からいっしょだったんだよ? 亜美はもう一人の私、だからシアワセになってほしい。でも、私は私なんだ。私は亜美じゃない。
私もシアワセになりたい。ドドケタイんだよ。このココロを、兄ちゃんに。
♪『頑張る』♪
だから、ガンバルよ。兄ちゃん亜美とやよいっちだけでアップアップしてるし、ギョクサイカクゴだけんどね。亜美みたくガンバルよ。勇気、ふりしぼってさ。

♪バレバレバレ バレンタイン バレバレバレ バレンタイン♪
アップテンポのダンス、しかもここはみんなおんなじ振り付けで、私にはみんなついて行くのが大変です~。
でも、ついて行かないと。ダンスも、恋も、ついて行かないと。私の方がみんなより年上、お姉さんなんですから~。
♪チョコレートよりも 甘い恋の味♪
私のは片想いばかり失恋ばかりのブラックチョコレート。いつも、今も苦みがにじんで。でも、それでもほろ苦さの中のとろける甘さに私は酔いしれて。
二倍愛せば片想いも両想いとおんなじなんて、自分に言い聞かせて。鳴らない電話を待ち続けて。
「…この恋を、最後の恋にしましょう」
この恋を、私の最後の恋に。かならずかなえて、左手の薬指に約束を灯す恋に。覚悟してくださいね、プロデューサーさん?

♪バレバレバレ バレンタイン 勇気出して バレンタイン♪
勇気、勇気! 私に足りないもの、私が欲しいもの。でも私は知ってるから。私の中にも勇気はあるの。掘り起こせる! 真ちゃんが最高だったって言ってくれた。
歌に厳しい千早ちゃんまで褒めてくれた。そんなコスモスを咲かせられた私なら、できるもの!
♪本気だから受け取ってほしい♪
本気だから。生まれて初めて本気になったから。わわわ、いつもステージとか収録とか本気だよ? でも本気の意味が違うから。
あんなに男の人が苦手だった私が、ううん、今だって苦手な私が、初めて好きになった人。初めて本気で好きになった人だから。
♪私のバレンタイン♪
まさかチョコレートは渡せないから、精一杯を歌に。私のバレンタイン、伝わりますように。私のプロデューサーに。

♪いきなりの手作りは ひいちゃう♪
引いちゃうかもね。引かれちゃうかも。私は今日、バッグの中に爆弾を仕込んで来たわ。ずるずる引き伸ばして来た引き伸ばされて来た私のアイドル生活も、正真正銘に今日が最後。
そんな私だから仕掛けられるスペシャリティー、遅れて来た本命手作りバレンタインチョコ。
♪No No No! 成功をイメージ♪
今さら失敗なんて想定しない。あの人が私に女を見てるはずがないからそりゃサプライズだろうけど、良好な関係なら構築できている。
仕事の上ならたぶん完璧なパートナーシップ、それを少しプライベートに移行するだけ。
♪『イメージ』♪
大丈夫、うまく行くのしかイメージできない。イメージしない。悪いわねみんな。一抜けは、私よ。

♪ハート型 ラッピンク かんぺき!♪
うがー! ハートのラッピングなんて考えるだけでむずがゆいぞ! 自分カンペキだから、いつもそう言ってるさ。
でも言葉にする自分自身って今の自分じゃなくて、なりたい自分なんだって。自分のプロデューサーが言ってた。
♪枕元に置いたまま寝付けずに♪
ううう、これ自分やりそーだぞ。いっつも大事なとこでやらかすからな、自分。実は夕べもほとんど寝てないさ。いやいや、ネガティブな自分は考えない考えない。
「なんくるないさー! 自分、カンペキだからな!」
自分自身に言い聞かせて。もう一度だけどチョコ用意しよう。恥ずかしくて渡せなかったチョコレート、バレンタインのチョコレート。
あ、ギリだぞギリ! 自分がプロデューサーなんかに本命チョコ渡すはずないさー!

♪キミの夢見て 飛び起きた瞬間♪
あれから何度も何度も見たあなたの夢。私を救い上げてくれたあの人の夢。飛び起きたこともある。
素敵なそれが夢とわかって悲しくて、夢でも会えたことが嬉しくて。私はいつも独り涙をこぼした。
♪『あれあれ』 ぺちゃんこになった プレゼント うそでしょう…♪
よし、「あれあれ」を高槻さんみたいに可愛く歌えた。…では無くて。ぺちゃんこになった私の心。私は想いをつぶした。
許されない想いだから。許せない想いだから。歌がすべて、歌こそが私の生きる道と誓ったのだから。
「…でも、もう少しで」
私の誕生日だ。私の誕生を、私の生存を、あの人は喜んでくれるだろうか。祝福してくれるだろうか。期待してしまう。どうしても、期待してしまう。

♪寒い…北風 心吹き抜けた♪
寒い、寒いよ。ハニーはもういない。私の隣にいない。ずっといっしょだった。ずっといっしょだと思ってた。ハニーは甘くてあったかで、でも私はそれが当たり前と思ってた。
ハニーがいなくなって初めてわかったよ。世界は寒い。もう春なのに、春は目の前なのに、こんなに世界は寒いんだね、ハニー。
♪わたしの初恋 このまま終わるの♪
初恋だったよ。ううん、たくさん恋してきたつもりだった。でも違ってた。ハニーだけは違ってた。
ハニーしか見えなくて、ハニー以外どうでもよくて、ああ、恋患いってこういうことなんだなって思った。ハニーがいなくなって、患いだけ残って。
♪たすけてバレンタイン!♪
助けて欲しいの。誰か助けて欲しいの。…でも、誰も私を助けられないんだ。私しか私を助けられない。だから私は私を助けるよ。私を取り戻す。恋を、取り戻すよ。

♪キミが目の前 ニコニコして立ってる♪
いつもいつでもニコニコ笑っているプロデューサー。初めは能天気な人だな、とか思ってた。でもね、振り返ればいつでも見られるその笑顔に僕は支えられてるって気付いたんだ。
♪『どうしたの?』♪
ここだけ声色変えて、と。王子様役もちゃんとこなすよ。もう大丈夫だから。僕をちゃんと女の子として見てくれる人が僕にはいるから。
僕が無くしたガラスの靴、ちゃんと見つけて持って来てくれて、履かせてくれる人がいるから。
「僕、待ってますからね。ずっと、いつまでだって」
今はただ前だけを見て、とにかく進んでいけばいいんだ。僕のプロデューサーがいつか、僕をお姫さまにしてくれるんだから。

♪目の前がくもる ポロリ落ちた… 涙が一粒♪
想像してみるわ。自分のミスで大切なプレゼントを失ってしまったら、チャンスを失ってしまったら。目が曇るくらいじゃないでしょうね。涙こぼすくらいじゃ耐えられないわ。
人前でなんて泣けない私だもの、きっと引き籠もってすべてを封印するわ。無かったことにする。ええ、昔の見栄張りの私なら、間違い無くね。
♪突然ほんとの気持ちがこぼれた♪
でも、今の私ならどうかしら? 私の夢はみんなの夢で、みんなの夢は私の夢だって、私は理解した。きっと立ち向かえる。どんな逆境も、今の私なら。
赤裸々にさらして、すべてを伝えるわ。ほんとの気持ちだって伝えてもかまわない。
「まったく、言われる前に察しろってものだけどね」
あの変態プロデューサーには、できやしないだろうし。私が一肌脱ぐしかないわよね、やっぱり。

♪バレバレバレ バレンタイン バレバレバレ バレンタイン♪
この一年を思い返すよ。兄ちゃんと出会った春、好きだって気付いた夏、ゼツボーを歌った秋、ケツレツした冬。兄ちゃんばかりだった。兄ちゃんと走り抜けた一年だったね。
んで今、冬の終わり。私はも一度兄ちゃんと出会った。兄ちゃんと向かい合った。ジブンと向かい合ったんだ。ジブンを見つめて、ジブンを考えて、答えはやっぱしこれだった。
♪あなたが好きです♪
あなたが、スキです。あの日の公園で、やよいっちに見守られながらのコクハク。言ったシュンカンに、私はホントに兄ちゃんをスキなんだなってわかった。
…サッキョクカのおじちゃんにうまーくユードーされてゲロっちゃって、そしたら歌詞に入れられちゃった。あーもー、イヤってワケじゃないけどさ、ハズかしいじゃん?
♪『あなたが好きです』♪
二回目は、みんなといっしょに歌うよ。私は兄ちゃんをアイシテる。ホントにアイシテる。きっと、みんなもダレかをアイシテて、みんながアイシテるダレかもダレかをアイシテる。
アイは巡ってく、広がってく。私はきっと、アイの一部になれるよ。

♪バレバレバレ バレンタイン バレバレバレ バレンタイン♪
バレンタインの歌を歌いながら、一年を振り返ってみる。
プロデューサーと出会った春。ひとり悩んだ夏。好きだって気付いた秋。長かった、長かった冬。プロデューサーと亜美が私の中心にいた。プロデューサーと亜美と私とで駆け抜けた一年だった。
そして今、春の始まり。私はもう一度プロデューサーと始めようと思う。えっと、その、恋を始めよう?で良いのかな? だって、
♪キミは優しく微笑んでくれた♪
プロデューサーは微笑んでくれたから。がんばって作った引きつり笑顔だったけど、私のために笑ってくれたから。亜美のために笑ってくれたから。
♪『そして』♪
そして、そしてどうなるんだろう。うん、かなう恋かはわからない。私は振られてしまうかもしれない。もしかしたら亜美も。でも、とどまることなんてできない。
♪バレバレバレ バレンタイン バレバレバレ バレンタイン♪
バレンタイン、なんだから。人と人の関係がかわる、かも知れない日。私はプロデューサーと新しい関係をつくりたい。それに恋人同士って名前を付けたい。
♪そっとわたしを抱きしめてくれた♪
あの日あの公園で抱き締めてくれたこと、覚えてるから。寒かったのに汗だくの手のひら、震えた声。それでも私を好きだと言ってくれた。私と亜美を好きだと言ってくれた。
忘れない。一生忘れない。
♪今日はバレンタイン!♪
今日はバレンタインじゃないけれど、バレンタインにしよう。私のバレンタインに。もう一度言うんだ。プロデューサーにちゃんと言う。プロデューサーのことが好きだって!

ひびくアンコールの雨にさらされて、私たちは両手を振りながらステージを降りた。四回のアンコールに応えて、それでも止まない、私たちと私たちの歌を求める声。
でももう時間が無くて、イヤホンの向こうじゃ兄ちゃんや他のプロデューサーたちがケンケンガクガクに言い争って。
『みんな、聞こえるかね? さすがに終幕だ。これ以上引き伸ばすと会場側と地元住民から苦情が出かねん』
マイクごしだけどわざわざシャチョーが伝えてきて、ケッキョク五回目のアンコールには応えられなかった。
「ま、いっか」
私はつぶやいた。きっとみんなまだまだやりたいんだ。もちろん亜美は歌いたいし、他のアイドルのみんなも、兄ちゃんや他のプロデューサーも、お客さんたちも、きっとシャチョーも。
みんなまだまだやりたいんだ。でも、ライブをエイエンに続けるワケにもいかなくて。
「うん、やり切ったよ、出し切ったよ」
だってこんまにもキモチいいんだ。すっごくつかれた。でも、キモチいいヒローカンだよ。
「お疲れさん」
兄ちゃんが声をかけてくる。やよいっちと、真美と、亜美に声をかけてくる。
「最高だった。最高のライブだったな」
…ああ、兄ちゃんが笑ってる。ステキな笑顔。亜美のスキな笑顔だ。兄ちゃんにサイコーって言ってもらえて、私はウレシイよ。
「感動した。運営側でしかも仕込みの俺が何言ってんだって話だが、感動した。今までの人生で一番な」
「プロデューサー…」
私のトナリで、やよいっちが言う。ナミダにフルエた声。うん、ココでスナオに泣けるんだから、やよいっちはオトメ度高いよね?
「はいはい、感動したのは結構なんですけど、何か言わなきゃならないことがあるんじゃないですか?」
およ、りっちゃんが横から入ってきた。
「そうよね、はっきりさせなさいよ」
エンギか本音か、少し怒った顔でいおりん。
「まさか、まだ引っ張るつもりなんですか? ごまかすつもりなんですか?」
はるるんがにやあってアクマ笑いしながら言う。さっきの女神はるるんはドコ行ったの?
「あれほどの歌を聞いて感動したと言うのなら、返すべきです。答えを」
千早お姉ちゃんもキキセマル顔で。
「中ぶらりんのままじゃ、やよいちゃんも亜美ちゃんもかわいそうですぅ」
ゆきぴょんはジブンジシンのコトのように泣いてるし。
「それ、男らしくないですよ? カッコ悪いですよ?」
まこちんはハンガン?で兄ちゃんを見てた。
「年貢の納めどきなのー!」
ミキミキやたらとウレシそーだし。
「お覚悟なさいませ」
お姫ちんは氷の表情でセンコクする。
「なんくるないさー。どっち選んだって自分は祝福するぞー!」
ひびきんがおっきくクチ開けてアオって。
「さあさあ兄ちゃん、どっちにするんだよー、このロリコン大魔王!」
真美が後ろに乗っかる。
「…い、いったいなんのはなしだよ、みんな」
兄ちゃんがアトズサリながら言い返す。兄ちゃん兄ちゃん、しゃべりがひらがなだよ? それじゃやよいっちだよ?
「…私たちの言いたいこと、もちろん、わかりますよね?」
「は、はい」
あずさお姉ちゃんのソコビエするよな笑みに、兄ちゃんは首を縦に降った。ガクガクガクガクね。
「俺は、俺は…っ!」
兄ちゃんが、オビエながらもケツイの目をしてクチを開く。


「……っこう」
「えっ?」
「なに?」
亜美と私が聞き取れずに、つい聞き返してしまう。私はプロデューサーと目が合う。と、
「続行だ!」
そう叫んで、プロデューサーが何を血迷ったのか、誰もいない会場のほうへと走り出した。
『みんなぁー! まだアイドルの歌が聞きたいかー!』
「ちょ、ちょっとー!? これ以上はまじでだめでしょ!?」
律子さんが他の誰よりも目を丸くして驚いている。予想外の更に予想外の行動に、段取りクイーンたる律子さんも驚くしかなかった。
プロデューサーをソデに戻そうと走り出すけど、社長がそれを止める。
「いいんだ」
「しゃ、社長!? いいんだって、何もよくないですよ! このままいけば苦情くること間違いなしですよ!? それに私たちだってぶっちゃけもう歌える状態じゃ」
「仕方ない、たきつけたのは君たちだ。祝福するというのなら、ファンファーレくらい奏でてやってくれたまえ」
『アンコール! アンコール!』
いきなりのことに戸惑っていたファンの皆も、次第に状況を理解し始める。ああ、もうどうしようもない。
『アンコール! アンコール!』
―アンコール! アンコール!―
「やよい君、亜美君」
「は、はいっ?」
「な、なにー?」
「男のくだらない羞恥心のために歌わせるのは申し訳ない、が同じ男として頼む。歌ってあげてくれ」
社長が言うしゅうちしんはよくわからないけど、これって歌っていいってことだよね? 社長がそう言ってるんだから、歌いに行っちゃってもいいんだよね?
それもプロデューサーと同じ場所で。
「……亜美!」
「うん、やよいっち!」
二人で手を繋いで駆け出す。とっても大好きなプロデューサーの目の前まで!
「ちょ、ちょちょちょっと亜美にやよいー!?」
「続行ですよ、続行! うわーい!」
「へへっやーりぃ! まだまだライブは終わらないってね!」
「はいさーい! 踊姫の座にここで決着をつけてやるぞー!」
「こら! 春香に真、響までー!!」
「ほ、ほんとはいけないんですよね。でも、でもでも、私も行っちゃいますぅ!」
「ライブ続行、上等上等! 水瀬伊織ちゃんの伝説はまだ始まったばかりよ!」
「亜美とやよいっちだけずるーい! 真美もいっちゃうよぉぉおん!」
「こぉらぁ! いつもの突っ込みはどうしたの伊織! 真美も悪ノリしない! 雪歩も今アグレッシブさはいらないっての!!」
「歌が、歌える。まだ歌えるのね。私は、幸せだわ!」
「お供しましょう、歌では負けられませんっ!」
「ミキも一緒に歌うのー! ちょっと、眠いけど……あふぅ」
「これが歌い終わったら一緒に寝ましょうね~うふふ」
「千早と貴音まで暴走!? ミキは後で説教! あずささんも今日は説教! あーもうなんなのよ!」
「律子君」
「なんですか!?」
「君は、行かないのかね?」
「…後で社長も説教です! いいですね!?」
「謹んで断らせてもらおう」
「こぁらああああああ! あんたたちー! 私もまぜなさーい!」
「…いいんですか? 本当に怒られちゃいますよ?」
「人生は一度きり、楽しまなければな。小鳥君も混ざってきてはどうだね?」
「いいですよ。それに社長も一人じゃ、寂しいじゃないですか」
「…すまないな。それじゃ見ていよう。アイドルを傷つけて、アイドルに愛され、アイドルを愛した男の生き様と、アイドルたちの最高の舞台を」
「はいっ」

『♪もう伏目がちな昨日なんていらない 今日これから始まる私の伝説!♪』
私たちの伝説。
『♪きっと男が見れば 他愛のない過ち 繰り返してでも♪』
それでも進んで生きたい先がある。
『♪うぬぼれとかしたたかさも必要 そう 恥じらいなんて時には邪魔なだけ♪』
全部が全部が回りまわって必要になって。
『♪清く正しく生きる それだけでは退屈 一歩を大きく♪』
少しだけ泥にまみれながら歩いて行くくらいが素敵なんだ。
『♪進もう毎日 夢に向かって 漠然とじゃない 意図的に!♪』
ちゃんとしたビジョンを持って諦めずに。
『♪泣きたい時には 涙流して ストレス溜めない♪』
もう絶望なんかも溜めないで。
『♪ほんの些細な言葉に傷ついた だけど甘いもの食べて幸せよ!♪』
そんな程度で救えるんだよ。救えたんだよ。
『♪気まぐれに付き合うのも大変ね 悪いとは思うけどやめられない!♪』
同じくらいあなたも気まぐれですよね。プロデューサー。

『♪新しい物大好き 詳しいの 機嫌取るには何よりプレゼント!♪』
ううん、私はハイタッチだけで平気。
『♪男では耐えられない痛みでも 女なら耐えられます 強いから!♪』
あなたでは耐えられなくても、私なら耐えられます。だから!
「プロデューサー! 叫んじゃってくださーい!」
プロデューサーと目が合って、一瞬だけためらっていたけど、勢いそのままマイクに、会場に叫ぶ。
『俺は、双海亜美が好きだー! おっそろしく! すっげー怖いけどー! それ以上に、いや! それも全部丸め込んで! 俺を好きなってくれた! 双海亜美が大好きだああああああ!』
「…あぇ、ええっ、あうあ?」
―――俺も大好きだー! 亜美ちゃんが大好きだ!
―――俺たちのほうが大好きだー! ひっこめ変態プロデューサー!
「…おめでとう、亜美」
「えあっ?」
私はそっと亜美の手を離して背中を押す。そのままプロデューサーの胸の中に。
ごめんね、私、わかってたんだ。プロデューサー、二択のときね、最初に目をやった方を、選ばないんだ。
私の体が倒れていく。その体を美希さんが支えてくれた。
「おつかれなの」
……うん、そうだ。ちょっと疲れちゃった。だから少しだけ休もう。
亜美の幸せそうな顔を焼き付けて、眠ろう。
こうして、私たちの力を結集した最高のライブが幕を閉じた。
私に少しだけの影と、亜美にありったけの光を照らして―――。

高槻やよい、十四歳、アイドル、最高のライブで。

失恋、しちゃいました。
2012.12.25 Tue l アイドルマスター l COM(0) l top ▲

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