上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.-- -- l スポンサー広告 l top ▲
「…スゴいね」
ステージのソデで私はつぶやいた。ネッキとネッキョーがここまで届く。キャクセキからのユラめくナニか、それは今までイチバンで、亜美が知らないくらいので。
「ドームだね、ドーム」
んふ、はるるんみたいなこと言っちゃったよ。でも、ドームだしちかたないね。日本でイチバン古くて、日本でイチバンおっきなドーム。
千早お姉ちゃんが言ってたんだけど、あまるふぃー?とか言うバンドが周りの反対をムシしてやったのがドームライブのハジマリらしい。
ナントカみどりさんが泣きながら国歌を歌ったりとかもあったんだって。
「ドームだな。今回のは東京ドームなのに収容四万もいかないけどな」
あ、兄ちゃんだ。そうなんだってね。スタンドをイッパイにしてグラウンドを全席立ち見にしちゃえば六万人イジョーの人に来てもらえたらしい。
聞いてもらえるらしい。でも、兄ちゃんはそれをやんなかった。スペシャルなライブにしないとならないから。今夜のライブはシジョーハツの公開生中継。
ドームに来なくてもテレビとかパソコンとかで見れちゃうんだ。来てよかったってみんなに思ってもらえるライブにしないとなんない。
そのためにはスペシャルなしかけが必要で、だから収容は三万三千人?らしい。
「告知もマケもうまくいったな。スーパーS席二万円が二分もたなかったらしいし。他のもS席A席B席全部三十分で完売だ」
ってんだから、ナンてゆーかイロイロわけわかんないライブだよ。亜美たちはそれに応えないとなんない。
「つーか、亜美が、応えないとなんないんだよね」
このドームはようするに、亜美とやよいっちと兄ちゃんのライブだから。そりゃみんなのライブだけどね、他の誰よりも亜美たちのライブだから。
亜美たち三人がナニかしらの答えを手に入れて、先に進むためのライブだから。
「…アコギなマネをしてるよねえ、亜美は」
シャチョーもスタッフのヒトたちも、アイドルのみんなもよくキョーリョクしてくれたよね。亜美たちだけのためのライブに。
ナニよりファンの兄ちゃん姉ちゃんたちに悪いことをしてるよ。
「気にすんな」
兄ちゃんが亜美のアタマに手を置いた。って兄ちゃんまた汗だくじゃん! セットがダメになっちゃうよ~。
だけどその手はもうフルエてない。亜美を怖がって、フルエたりしない。
「亜美は、亜美のためだけに歌ってこい。俺はそれを望んでる。ファンのみんなも、きっとな」
兄ちゃんはニカリと笑った。
「The World is all one、なんだろ? 亜美風に言や愛は巡って行く、か。亜美が歌いたいように歌えよ。元気に歌いたきゃ元気に歌え。もう逃げないから、絶望を込めたきゃめいっぱい込めろ。亜美は、アイドルなんだ。トップアイドルなんだからな」
…ヤバ、ホレなおしちゃうよ。ピンポイントならめっちゃカッコいいんだよね、兄ちゃんは。
「それにな、何かを賭けてここにいんの、俺らだけじゃないぞ。みんな、どのアイドルもどのプロデューサーも今日を特別なライブと思ってる」
およ、そーなの?
「みんな、それぞれの人生を生きてる。アイドルもプロデューサーも、ファンの人たちもな。みんながみんなそれぞれの意志や夢があってここにいるんだ。たくさんの意志と意志がぶつかりあって、渦巻いて、ライブを創る。だからライブはいいんじゃないか」
「うん、そーだね兄ちゃん!」
兄ちゃんは、スゴいね。兄ちゃんはホントにスゴいね。カッコいいなあ。うし、亜美もがんばろっと
「じゃ、亜美は行ってくるね。兄ちゃん、亜美をちゃんと見ててねー?」
私は兄ちゃんに背中を向けて、光の中に走り出す。
「おう、楽しんでこい!」
兄ちゃんの声を背中に受けた。亜美は行くよ、キラメキのステージへ。

私はバックスクリーンの下のステージに出てく。音も前フリも無しにてってってーっとね。
この入りはどーよって亜美は言ったんだけどさ、兄ちゃんも他のプロデューサーも聞いてくんなかった。ちゃんとファンのみんなと顔合わせろって。恐がったままでライブができるかって。
「…つーか、亜美からのスタートとかアリエナクナイ?」
こーゆーのはいおりんとかはるるんとか、華のあるヒトがやるものだよ。
「言い出しっぺは亜美たちだし、ちかたないね…」
ドーヨーもキンチョーも隠したまま、私はバックスクリーンステージのまん中に立つ。今日のドームライブはゼンダイミモン、五つもステージがあるんだ。
亜美が今いるバックスクリーン下のステージに、右手の、えっとバックスクリーンの亜美から見て右だからレフトスタンド?のと、左手のライトスタンドのステージ、
亜美の正面にはバックネットのあたり(テッキョしちゃったけど)のステージと、そこよか手前のセカンドベースのあたりにメインステージ。
五つのステージはまっ白な花道でつながってる。花道もステージの一部なんだな。
『亜美ちゃ~ん! おっかえり~!』
亜美のすぐ下の外野席?から、ファンの兄ちゃんたち何人かの声。それはすぐに広まって。
『おかえりー!』
『待ってたぜー!』
『亜美ちゃーん!』
あちこちから声援が上がる。マズいな、ナミダが出ちゃいそ。ステージ上から亜美を見上げるスポットライトがまぶしいよ。ありがとね、みんな。もう何ヵ月も顔見せてなかったのにさ。
しっかも最後のライブはあの765ファン感謝祭だったのにさ。それでも亜美を覚えてくれてたヒトがいる。待っていてくれたヒトたちがこんなにもいる。
亜美はナミダをこっそし右手のグラブのはしっこで拭いた。その右手の人差し指中指薬指を立てて、右腕を上に上げる。客席が少しだけ静かになった。
さっきよりもキンチョーするよ。でも、何てキモチいいキンチョーなんだろね。
『スリー』
私は言った。まだ曲は入ってこないからセリフみたいなもん。次に亜美は薬指を曲げる。ブイサイン。
『ツー』
ステージの下を見てみたら、ナットクの顔が増える。亜美は中指も曲げる。人差し指一本を空に、じゃなくてドームの白い天井に向ける。
『『『『ワン』』』』
うわぁお、亜美の声に観客席からの声がかぶった。少しだけ遅れた「わん」て声もチラホラ聞こえる。765のファンのみんなはノリがいいねー。
でもまだまだ曲は流れない。ドーニューはアカペラなんだよ、こっわいことにさ。亜美は息を吸った。ゆっくりとゆっくりと、いつもの何倍もゆっくりと歌い始める。
♪CHANGIぃーん MY WORLD 変わーる セーカーイー かが、や、け♪
ドームに私の歌声が流れる。私の歌声だけが流れる。変わる世界。私は私のセカイを変える。
♪CHANGIぃーん MY WORLD わたっしのセっカイぃー なん、だ、から♪
私のセカイ、なんだから。私はセカイを変えるつもりでここに立ってる。私は今日、この歌で生まれ変わる。
♪CHANGIぃーん MY WORLD 変わーらないユーメぇ、えが、い、て♪
ユメ、亜美のユメ。私は私のユメを兄ちゃんをトップにすることだと思ってた。マチガってたね。私はただ、兄ちゃんにスキになってもらいたかっただけ。
♪CHANGIぃーん 今を スキっにじっゆうにぃー 変え、る、READY♪
今を変えるよ。今を変えて未来を変える。自由に、スキな色に染める。ああ、兄ちゃんの色にできたらいいな。兄ちゃんとおんなじ色に。
♪CHANGIぃーん 前を あたっらしーいみっらいー 追い、か、けながら♪
亜美は逃げてたよ。亜美自身からも兄ちゃんかも、きっとナニもかもから。もう逃げない。追っかけちゃうよ?
♪私らしい私でもっともおっとぉー どりぃーむぅかむとぅるうー♪
私らしく。兄ちゃんがスキで、やよいっちがスキで、真美がスキで、みんなみんなスキ。んで、みんなにスキになってほしい。兄ちゃんにスキになってほしい。それが、私。だから、
♪あいらーびゅおー♪
I、LOVE、ALL。うん、すべてを。すべてをアイシたい。アイセる私になりたい。私の新しいユメ、なんだから。私は手のひらを上に右手を伸ばす。
右手の先から、どんなシカケかはワカンナイけどイエローの光が反対側のステージに向かって飛んだ。そこにはまこちんが立ってる。ここでハジメテバックの曲が入った。
♪きらめくSTAGE イベント・グラビア・CM♪
亜美から出てった?イエローの光をまこちんがつかむ。まこちんは光るナニかを右手に握ったまま、姉ちゃんたちをマドワす笑顔で歌って踊る。
すっごく伸びやかな声。ヘンセーキ前の男の子みたいなカッコいい声。
♪TVでSHOW TIME♪ 始まり続くSTORY♪
ダンスのフリでくるりとターン、そのまま右の人差し指でレフト側のステージを指差す。イエローの光はブラックになって、先にいるりっちゃんを撃った。
りっちゃんは左の手のひらを顔の前に出してソレを受けとめる。左手を顔からどかせば、いつものメガネがギラリと光った。
♪何度NGでも どんなライバルだって♪
黒い光をボールみたくしてお手玉するりっちゃん。一度取り落として慌てたフリをするのはNGのエンシュツかな?
♪負けないでTRY AGAIN 立ち上がるSTREET♪
黒く光るボールをチカラヅヨく突き出して観客席を見回すりっちゃん。フギョーフクツついでにフグーのドリョクカをジショーするりっちゃんは黒いボールを握りツブした。
手を開くと夏の葉っぱの色のボールが。りっちゃんはボールを反対側に、ライトスタンドステージに投げる。
♪ENCOREはないLIFE 一度のLIVE♪
それをキャッチするのは千早お姉ちゃんだ。右手を軽く上げただけのソッケナサがらしーよね? でも顔はいつもよりもずっとずっとシンケンだ。コトバをカミシメてる?
カクゴカンリョーの歌声がドームをツラヌく。
♪進め!!どこまでも SHOW MUST GO ON!♪
千早お姉ちゃんはイツノマニカ青に変わった光るボールを亜美のいるバックスクリーンステージに押し出す。でもそれを受け取ったのは亜美じゃないよ。
ファンのみんなのイシキが他のステージに向いてる間にステージに上がってきてたはるるんだ。
♪スリー♪
およ? 亜美を見た。はるるんがさっきの私みたく指三本上に上げながら、ぱちぱちめくばせ。そんなことリハじゃやらなかったじゃん。あーもー、そーゆーこと? そーゆーことだね。
♪ツー♪
私ははるるんのトナリにならんだ。はるるんといっしょにダブルピース。
『『『『♪ワン♪』』』』
わお、亜美のマイクが入ったっ! スタッフのダレだか空気ヨミスギたよー? 会場の兄ちゃん姉ちゃんたちともバッチリ合っちゃうし!
♪CHANGIN' MY WORLD!! 変わらない夢 描いて♪
アドリブだからパートわけないけど、ダンスもはるるんがやってるのとおんなじメイン振り付けだけど、元気に歌えればオールオッケー!
♪CHANGIN' 今を!! 好きに自由に変えるREADY!!♪
楽しい、楽しい! ぶっつけなのに、はるるんとフリがぴったり合っちゃう。ナンカつながってる感じ。
♪CHANGIN' 前を!! 新しい未来 追いかけながら♪
はるるんが青から赤に色を変えたボールを右手で掲げてライトに振ってみせる。ライトスタンドステージには千早お姉ちゃんといっしょにお姫ちんが。そのお姫ちんがこくりとうなずいた。
♪私らしい私でもっともっと DREAM COMES TRUE♪
はるるんは右手を振りかぶると♪TRUE♪のとこで思い切りぶん投げた。…ああ、キドーがやたら山なりだよ。芸が細かいね、エンシュツのヒト。
間の客席でナンドかバウンドする。さわれないってわかってるハズなのに、兄ちゃんたちが落下点を争った。
♪仕事終わり ひとりで帰る途中♪
どーにかライトのステージまでたどり着いて転がるまっ赤なボールをお姫ちんは拾った。上がってきた顔は歌詞の通りのウレい顔。首を左右に振りながら、めっちゃセクシーじゃん。
♪たったひとり溜息が零れた…♪
ホントにため息を落とすお姫ちん。赤から赤紫になった光の珠を疲れたよにナニもないとこに置く。光の珠はヒトリデにくるくる回ってホームベースの方に飛んだ。
そこにはゆきぴょんがいて、お姫ちんのウレいを受けとめる。
♪何かを変える時 何かを選んだ時♪
ヤサシクてヤサシクて、アッタカな春をサキドリしたみたいなゆきぴょんの声。ゆきぴょんはお姫ちんから受け取ったワイン色の光を胸に引き寄せてイトシそうに抱きしめる。
閉じられたまぶたがめっちゃキュートだよ。
♪それは頑張る時 さあ笑ってごらん♪
右手を開いて差し出すと赤紫の光は白くなった。差し出された右の手のひらから白い波が放たれる。白い波はレフトスタンド側のステージへ。そこにはミキミキがいる。
♪私とゆうPRIDE 思いっきりFLIGHT♪
ミキミキは亜美の方を見たまま、ゆきぴょんに背中を向けたままバックハンドでキャッチした。ちょっとカッコよくない? あれ、でもミキミキも驚いた顔だ。
歌いながら右手のライトグリーンの光をウレシソーにりっちゃんに見せてる。見て見てーって。あ、りっちゃんのゲンコがミキミキのノーテンに落ちた。
♪出来る!! いつまでも SHOW ME HAPPY♪
それでもミキミキはウィンクしながら人差し指をヒト回しして、明るい緑の光が指先に集まる。ミキミキはボールが来たほう、ゆきぴょんの方に指鉄砲を向ける。
引き金を引くとライトグリーンのレーザーが伸びた。レーザーはゆきぴょんをカスメてソバを抜ける。それをひびきんが左手を伸ばしてダイビングキャッチした。
ひびきんは片手をつきながら回転して立ち上がって、指一本を伸ばす。
『『『『♪わん♪』』』』
あはは、カイジョーも慣れてきたね。ひびきんはニンマリ笑うとおんなじステージのまこちんをアゴをしゃくった。まこちんも笑顔を返す。
『『『『『♪つー♪』』』』』
ひびきんとまこちんが、さっきの私とはるるんみたいにピースを重ねた。続けて、ひびきんはゆきぴょんにサムズアップを上下させて、まこちんは右手をおいでおいでしてる。
ゆきぴょんはイッシュンだけあわあわすると小さくうなずいた。ゆきぴょんも右手を掲げる。指を三本立てて。
『『『『『『『♪すりー♪』』』』』』』
ファンのみんなすっごいノリ、すっごいテンション。ひびきんとまこちん、ゆきぴょんの三人はお客さんたちに手を振って、そのあとっシメシアワセてたみたいに見つめ合ってうなずきあった。
♪CHANGE IN MY WORLD!! 止まらない愛探して♪
踊り始める三人。あれれ、おんなじ振り付けのはずなのに亜美とはゼンゼンチガウよ。動きがおっきくてキレがよいからだね、きっと。カッコいいねー!
♪CHANGE IN今を!! 好きな自分に変えてLET'S♪
つーかさ、ひびきんまこちんまではワカルけど、それに着いてってるゆきぴょんてナニモノ? ナカノヒトでも変わった?
♪CHANGE IN真上を!! 新しい今日翔ばたきながら♪
あれれ、ひびきんがダンスやめちった。踊るフタリから後ろに離れる。右手をブンブン回してるよ。糸みたいな目で笑いながら。
♪思うままありのままずっとずっと I LOVE ALL♪
ひびきんが二、三歩ばかしステップして右手をおっきく振りかぶる。右足を後ろに、左足を亜美たちのいるステージに向かって踏み込んだ。
低い低い姿勢のまま振りかぶった右腕がうなりをあげる。右肩が見えたシュンカン、ライトブルーの閃光がドームを走った。
さっきのはるるんとはぜんぜんチガウ、イチローさんもビックリのバックホーム。亜美のいるステージでワンバンして、しゃがむ真美の左手にセーカクに納まった。
真美の後ろじゃあずさお姉ちゃんがカワイらしくアンパイヤのジェスチャーしてる。アウトーって。
♪世界は変わってく…♪
うわぁお! 続けてあずさお姉ちゃんのもんのすごいボーカルだ! いや、真美も歌ってるんだよ? 歌ってるんだけど、ナンてゆーか声がちっさくなってくときのヒョーゲンリョクがダンチだ。
♪子供が大人になる様に♪
あずさお姉ちゃんと真美が手と手を合わせる。コドモと大人のショーチョーかな。あずさお姉ちゃんと真美はらぶらぶテンキョーケンのカマエでレフトステージに腕を伸ばす。
インヨー塗りわけられた黄色と青紫の弾はそっちのいおりんを目指して飛んだ。
♪でも大丈夫 終わりじゃない♪
いおりんは飛んできたフタイロの玉を空中にはたき上げる。そのままくるりと前転して、起き上がりざまに跳ねた。両足を前後におっきく開いた高いジャンプ。
イチバン高いところで右手を上に伸ばしてボールをキャッチする。笑顔は客席に向けたまま、いおりんボールをゼンゼン見てなかった!
♪初めてになる始まり♪
イエローとバイオレットのボールはいおりんの手の上でくるくる回って、明るいピンク色になった。いおりんはウィンクひとつのせてホームベースに向かって放る。
マンメンの笑顔、これ以上ないって笑顔で。ピンクのボールが向かう相手は、いおりんのマタトナイ親友。亜美のライバルで、真の、サイコーのトップアイドルの、やよいっちだ!
やよいっちはそのボールを両手で受けとめた。フテキな、トップアイドルだけにできるジシンの笑顔で。やよいっちは天に指を伸ばす。
ピンクからオレンジに変わった光る人差し指を空に向ける。キオイもテライもない、真のトップアイドルがチョーテンをシュチョーする。
その唇がカワユクすぼめられれば、ドーム中がそれをリカイして、ショーワする!
『『『『『『『『♪わん♪』』』』』』』』
ドームがゆれる。声はシンドーだってりっちゃんが言ってたのを亜美は思い出した。
ゆれた。
ファンのみんなの声でホントにドームがゆれた。地震みたくね。やよいっちが中指を伸ばす。勝利のアイコン。歌は闘いじゃないけど、やよいっちはマチガイなくウィナーだよ!
『『『『『『『『『『『『♪つー♪』』』』』』』』』』』
さっきの倍のダイオンキョー! これが歌、これがライブ。これが、やよいっち。やよいは天上を指す指に薬指を足した。
『『『『『『『『『『『『『『『『『『『♪すりぃ♪』』』』』』』』』』』』』』』』』
やよいっちの指先からオレンジの光が溢れた。最初は三本だけだった光はフタツにわかれてみっつにわかれて、たくさんに枝わかれしてドームを充たす。
ファンの兄ちゃん姉ちゃんたちはそれをつかもうと跳び上がって。亜美は泣きそうだよ。もう泣いちってるよ。
これがやよいっち。これがやよいっちのセカイ。こんなセカイの持ち主が、私を望んでくれた。親友だって、トナリにいてほしいって言ってくれた。
私をアイシテくれて、私がアイシテるヒトをアイシテくれた。私は、私は、ナンてシアワセものなんだろね。どーして私は、このシアワセをワカンナかったんだろね。
♪CHANGIN' MY WORLD!! 変わる世界輝け♪
やよいっちは歌う。カンジルままの楽しさを込めて。
♪CHANGIN' MY WORLD!! 私の世界なんだから♪
やよいっちは踊る。アランカギリの元気を込めて。
♪CHANGIN' MY WORLD!! 変わらない夢描いて♪
やよいっちのまわりじゃ、まこちんが、ゆきぴょんが、ひびきんが歌い、踊る。ダンスの精たちが広いステージなのにセマシと踊る。
♪CHANGIN' 今を!! 好きに自由に変えるREADY!!♪
左のステージじゃ千早お姉ちゃんとお姫ちんが歌い、踊る。歌の女神サマがゲンセに降りてきて歌い、神話のセカイを見せる。
♪CHANGIN' 前を!! 新しい未来追いかけながら♪
右のステージじゃ、いおりんにミキミキ、りっちゃんが歌い、踊る。三人のキュートでセクシーな姿にみんなメロメロだよ。
♪私らしい私でもっともっと♪
うわ、んなこと考えてたらセナカ押されてコケそになっちゃった。
はるるんが亜美の右手を、あずさお姉ちゃんが亜美の左手をとって、真美はぐいぐいセナカを押してる。…うん、亜美も歌わなきゃね。
♪DREAM COMES TRUE♪
ユメ、かなえるよ。亜美はユメをかなえる。かなえられるよ。だってみんながいるし。
♪I LOVE ALL♪
ゼンブ、アイシテるよ。亜美は何もかもアイせるよ。だって、亜美はこんなにも、みんなにアイサレてるから。アイは、巡ってくんだから。

一曲目が終わって、亜美たちはてくてくと真ん中のメインステージに移動中。それぞれのステージから伸びてる階段を降りてるんだ。
真美は階段じゃなくてスロープすべってっちゃったけどね。あ、はるるんは真美に手を引かれてコケちゃった。パンツ丸見えでスロープ下まですべってった。
ステージパンツでよかったね、はるるん。
「亜美ちゃーん!」
近くの席からセーエンが。ああ、その顔に見覚えがあるよ。ファン感謝祭でもサイゼンレツにいた兄ちゃんだ。兄ちゃんは泣きそうな顔で亜美を見上げてる。
それを見てたら、引っ込めたナミダがまた出てきた。
「兄ちゃん、兄ちゃん! また来てくれて、ありがとー!」
兄ちゃんを見つめながらぶんぶか手を振ったら、兄ちゃんはぎょって顔をした。くしゃくしゃに泣き笑いして、亜美に叫ぶ。
「着いてくから! 亜美ちゃんが何を歌っても、どんなんなっても、一生、ファンだから!」
その兄ちゃんのまわりから拍手とカンセーが上がった。セナカがゾクゾクする。ヤバいね、ヤバいよ。このハダザワリ、ライブなんだ。
私は兄ちゃんに親指たてたグーを突き付けると、顔を上げて両手でメガホンを作る。
「兄ちゃーん、姉ちゃーん! ありがとー! 亜美は、帰って来たよー!」
一秒くらいあとに、会場はドッカンドッカンになっちった。そしたら、
『真美も、帰ってきたよー!』
『みなさ~ん、お久しぶりです~』
『東京ドームですよ、東京ドームぅ!』
『D.O.M.E.よ、私は、帰ってきた!』
『何言ってんのよ律子、あんた東京ドームは初めてじゃない』
『デコちゃーん、ネタにマジツッコミは禁止なのー』
『楽しいですね、千早』
『わ、私も何か言わないといけないのかしら』
『は、萩原雪歩です! 十七歳です。好きなものは、お茶と、その、あの』
『雪歩雪歩、無理しなくて良いから』
『自分とやよいに任せればなんくるないさー。なーやよいー?』
『うっうー! もり上げならまかせてください!』
続くよ続くよ。みんなノリいいねー。ファンの兄ちゃん姉ちゃんたちだけじゃなくて、アイドルのみんなも、ホントにさ。
亜美たちはファンのみんなに手を振って、セーエンに答えて、リハーサルよりもうんと時間をかけて中央のステージに集まった。
『みなさーん、こんばんはー!』
はるるんはエリのピンマイクとは別のフツーのマイク片手にMCを始める。はるるんはジミにキャリア長いし、シカイギョー慣れてるし。ああ、パンツの件は忘れたみたいだね。
『満席です! 超満員です! みなさん、ホントにありがとうございます!』
折れそなくらいアタマを下げるはるるん。これをホンキでやってるから、ココロからやってるから、はるるんはアイドルなんだよね。
あ、次にしゃべる順番のまこちんがはるるんの肩をつんつんしてる。はるるんは慌ててマイク渡して。
『今日のライブは生放送なのに、それでも来てくれて、みんな、ありがとう!』
まこちんはアンテーしてカッコいいね。客席からは『まことさまー!』って黄色い声が返る。
『やよいは、元気、いっぱい、いっぱい、いっぱい、いーっぱいでガンバリますねー!』
やよいっちが目をきらきらさせて叫ぶ。さっきのハクリョクはどっか行っちゃったみたいだけど、これもやよいっちだし。
『後悔はさせない、約束するさー!』
やよいっちの手からひびきんがマイクを抜き取る。ビシッと指を突き出して、いつもどーりジシンマンマンだ。
『ま、それはそうと。私ね、やりたいことがあるのよ。この前の春香のライブで、あれいいわねって思って』
あれれ、次にマイクを受け取ったいおりんはソンナコトを言うとライトスタンドを指差した。
『そっちのみんな~、いおりちゃんの目には、ちゃんと見えてるわよ~!』
ゴーセイとバクオンがライトスタンドから返る。いおりんはうんうんと二回うなずいて笑うと、マイクをゆきぴょんに渡した。
『わ、わたしなの!? …バックスタンドのみなさん、ちゃんと、見てますから!』
ゆきぴょんはびくびくしながらだけど、それでもちゃんと言えてた。バックスタンドからライトに負けないゴーオンが届く。
『次は私ですね。左翼席のみなさま、ちゃんと、見えておりますよ』
ジョーヒンにタオヤカーにお姫ちんが言うと、レフトスタンドがネッキョーする。お姫ちんは真美にマイクを渡した。
『反対側のみんなー、ちゃーんと、見えてるよーん!』
真美はバックネットのあった方を指差して叫んだ。そっちからのゼッキョーにニンヤリ笑うと、ひょい、てなカンジで亜美にマイクを投げてくる。
私は何とかキャッチ。えっと、スタンド席はゼンブ言っちゃったし。
『グラウンドの兄ちゃーん、姉ちゃーん、もっちろん、見えてるよー! みんな、みんな、ドームの中、ゼーンブ見えてるよー!』
大カンセーがシホーハッポーから返った。亜美がメインを持ってっちったよ。ちょっとハズカシーキブンであずさお姉ちゃんにマイクを渡す。
『改めまして、ご来場のみなさま~、私たちのためにお時間をお割きくださり、本当に、ありがとうございます~』
オトナびた声で言うとあずさお姉ちゃんは頭を下げる。さっきのはるるんとはけっこうチガウ、シトヤカなカンジで。
頭を戻したあずさお姉ちゃんはマイクを千早お姉ちゃんに。
『生の歌声には、デジタルでは表せない力と感動があります。私は今日、それを証明します』
ドマジメな顔でローローと千早お姉ちゃんが宣言した。りっちゃんが千早お姉ちゃんの手からマイクを引ったくる。
『それはそれで問題なのよ、千早。…コホン、テレビの前のみなさんも、楽しんでくださいねー!』
ニコヤカな営業スマイルでりっちゃんは言った。最後のミキミキに渡すんだけど、イッシュンだけミキミキをにらんだのが私にはわかった。ミキミキは気付いてないみたいだけど。
『ドームに来てるみんなも、家で見てるみんなも、ミキいっぱいサービスしちゃうから、待っててねー? それじゃ二曲目は! 歌の姫で、ぶるーばーど、なのー!』


美希さんの声がドームにほどよく響いて、しばらくして消えた。一緒に、ドームの照明も消えて、周りはとっても暗くなる。
暗くなったと同時に私たちはそれぞれ指定されているステージへと小走りに駆けていく。次の主役の舞台であるバックステージと中央ステージを空にして。
何も聞こえない。何も見えない。前代未聞級のライブは、いきなりの暗がりに震え始めているようで。
「―――蒼い鳥。私の全てを余すことなく歌わせていただきます」
静かに、透き通った、だけど心を揺さぶる声。きっとこの人がいる限り、誰の手にも渡らない。
歌姫の名。

泣くことなら たやすいけれど 悲しみには 流されない
恋したこと この別れさえ 選んだのは 自分だから

群れを離れた鳥のように 明日の行き先など知らない
だけど傷ついて血を流したって いつも心のまま
ただ 羽ばたくよ……

蒼い鳥 もし幸せ 近くにあっても
あの空へ 私は飛ぶ未来を信じて

あなたを忘れない でも昨日にはかえれない

……やっぱり、千早さんはすごい。私、ようやく帰ってこれたもん。こっちの世界に。歌の世界があるとして、そこへ行かせてくれるアイドルはきっと千早さんだけ。
私や亜美、他のアイドルにも真似なんてできない。
だからこそ、歌姫はきっと悔しかった。私たちのような歌のうの字も知らないようなアイドルに負けて。
もう一度頂点を目指そうとしたらもう私たちはいなくって、もぬけの殻となった頂点の座を何もできずに見ていることしかできなくて。
最初の一曲目は譲らない、と言っていたのもそのせいだ。頂点にいた、それを突き崩された悔しさ。目指した先にはもう目標がなかった空しさ。
それら全てにまとわりついて離れなかっただろう嫌な感情。千早さんもまた、苦しかったんだ。私たち三人に巻き込まれて。ううん、千早さんだけじゃない。みんな、だ。
春香さんと真さんと響さん。
あずささんに雪歩さんに貴音さんに律子さん。
伊織ちゃん、美希さん、真美。
小鳥さん社長、社員の人にファンのみんな。
みんな、巻き込んでしまった。
そう思ったら、涙がこみ上げてきた。ちょっとこれは、こらえられないかもしれな

「窓から見る光る海より 波の中へ飛び込みたい」
いつ以来かしら。この曲を、最愛の曲をいきなり歌うのは。
……最初のライブ、そのとき以来だわ。あれはまだ、誰もこの曲を知らなかったから印象深くするためにいきなり本腰を、ってことだったわね。
「引き止めてる 腕をほどいて 行くべき場所 どこかにある」
あれからこの曲がどんどん知名度を上げて、関東圏内の人全員が『蒼い鳥』を口ずさんでくれるくらいになってから締めの曲として歌うようになった。
それだけの価値も、誇りも、尊厳もあった。今でもそうだと自負している。
「あなたの腕の鳥かごには 甘い時間だけが積もる」
そう自負していたと同時に、いつの間にか私は。
「だけど紅い実を いま捜しに行く いつかこの別れを そう悔やんでも」
最愛の曲である『青い鳥』以上の歌を諦めていた。これ以上なんてあるわけがないと、満足もしていた。
―――私は、歌を愛することを忘れていた。
「蒼い鳥 自由と孤独 ふたつの翼で」
そこに現れたのが二人のアイドル。私を頂点から叩き落した、アイドル。高槻さんと亜美。
「あの天空へ 私は飛ぶ 遥かな夢へ」
頂点という止まり木に止まっていた蒼い鳥は叩き落された。私はそれに絶望した。亜美のスターレスどころじゃない絶望だった。心を壊し声すら失った。
誰にも超えられぬという過ぎた自負の心が躊躇なく壊されたのだから。けれど、それでも『蒼い鳥』は、いいえ、如月千早は。
♪この翼もがれては 生きてゆけない私だから♪
歌を歌わずに 生きていゆけない私だから。
だからこそ私は歌を取り戻して、ここにいる。『蒼い鳥』、いいえ、『青い鳥』を持ってもう一度、歌の頂へ向かう。
だから高槻さん。泣かずに聞いて。今の私が持てる全身全霊を。
如月、千早を。

…い、なんて言っちゃダメなんですね。千早さんは厳しいなあ。こんなに歌われて、伝わってきたらいくら泣き虫の私でも泣けませんよ。
泣きたい気持ちをぎゅっと奥底にしまって千早さんを見る。それまで、バックステージで一歩も動かなかった千早さんはメインステージへと歩き出す。
一歩一歩、ゆっくりと。足元から蒼い蝶が待って、やがて蒼い鳥になって、いつか蒼い羽となって降りてくる。そんな演出はないのだけれど、私の目にはそう見える。
きっとファンのみんなの目にも見えているはずだ。
『蒼い鳥 もし幸せ 近くにあっても』
千早さんという蒼い鳥は中央へ向かって進むのをやめない。
どこにどんな幸せがあろうと、今はひたすらに中央のステージへと。
『あの空で 歌を歌う 未来に向かって』
そしてたどり着いた。一瞬、全て音が止まる。ピアノのメロディーも、千早さんの足音も、お客さんがつばを飲み込む音全てが止まって。そして歌われる。
『あなたを 愛してたー!』
体全体に愛を叩きつけられたような衝撃を感じて。
『でも前だけを見つめてく……』
その衝撃は未練一つ残さず、体をすり抜けていった。
きっと、未来に向かって。

…曲が終わっても誰も声を上げない。千早さんが歌う『蒼い鳥』が最初のソロで歌われるなんて思わない。
最後の曲として堂々と歌われる曲が、最初に来ているんだ。普通のライブならまずありえない。
だから、このライブは普通じゃない。
『蒼い鳥』でさえ、曲の最初に組み込まれる、前代未聞のライブ。ここから始まる。このライブも、私たち三人も。
『…私は今でも、ファンのみなさんにとってアイドルである私ができる最大のお返しは、歌を届けることだと思っています。ですから、このまま続けて繋がせてもらいます』
千早さんがマイクをスタンドに置いて、中央ステージの真ん中でポーズを取る。
ゆっくりと、おっきな機械の中から音が聞こえてくる。このメロディーは、響さんが歌っていた曲。
『二番手、我那覇 響。全力で踊るぞ!』
掛け声と同時に、一塁側のステージから勢いよく響さんが飛び出してきた。
『へへーっ! 僕もダンサーとして参加させてもらいます!』
逆側の三塁のステージからは真さんも飛び出してくる。その真ん中には千早さん、ってことは。
『不肖、如月千早……踊らせて頂きます!』
その言葉を最後に三人は踊りだす。アイドルらしからぬ足運び、横一線に一緒になって三人は踊る。私にはできそうにない。
…踊りだけでステージの上にいるなんて。
三人は誰も歌わない。ただ、ステージに足を叩きつけて踊り続ける。時に一緒になって、時にバラバラに。
響さんと真さんは、踊りながらも徐々に中央のステージに寄っていく。千早さんも二人を待つかのごとく、綺麗に踊る。
それはまるで、二つの激しい炎が真ん中の緩やかな水に吸い寄せられていくように見えた。
二回目のサビが終わり間奏に差し掛かったところで、二人は中央のステージへ着く。やってきた響さんと少しだけ目を合わせて、千早さんは真ん中を譲った。
響さんがニカっと笑ってそれに応える。響さんが中央になると真さんと千早さんは動かなくなる。
……響さんのソロ。この大観衆の前で、ただ踊るのみ。アイドルがやることじゃない。
この日のライブ用に間奏を長めにアレンジしたこの『DREAM』で踊ること。それは、響さんの夢だったらしい。
自分のダンスの実力がこの曲に追いついたとき、みんなの前で目いっぱい動き回って暴れまわりたい! そう目を輝かして言っていたのを思い出した。
そして今日、響さんは叶えたんだ。自分の夢を。
もうすぐ間奏が終わる。あとはもう一度サビが来たら、そのまま終わり。うう、すっごく歌いたい。
どうやら他のメンバーもそうらしくて、特に春香さんは口元をうずうずさせながら響さんに釣られてリズムを取っていた。
でもだめなんだ。この曲は踊ることしか許されていないんだから。歌うなんてこと許されない。
二回繰り替えすサビのうちの一回目に差し掛かって、それまで動かなかった真さんと千早さんが息を吹き返す。
まるでバックダンサーみたいで、すっごくかっこいい。…私がやったら子供のお遊戯になっちゃうんだろうなぁ。
それにしても千早さん、すごすぎるよ。ダンスが得意なあの二人にも負けず劣らず踊れてるなんて、才能ってずるいなぁ、なんて。
って、あれ? 響さんがいきなり止まっちゃった!? なななんで? ここからラストまで突っ走るんじゃ…?
『…もう我慢できないっさー! ギア上げだぞ! ついでにアクセントもいっくぞー!』
えっ?
ど、どどういうこと!? ってみんなも驚いてるよ! 千早さんもいつもより目が大きくなってるよ!?
『夢が夢じゃ終われないから 私の今になりなさい』
歌っちゃってるしー!?

ふっふっふ、あーっはっはっは! いいぞいいぞ! みんな驚いてるな! やっぱり自分は完璧だね! まさかここまでうまくいくとは思わなかったぞ!
春香も雪歩も伊織も、ほら! 亜美もやよいも目を丸くしてるぞ! 今までさんざん驚かせれたりされたんだから、これくらいの返しは許されるよね?
ただ、千早まで驚くとは思わなかったけど。後ろからすっごい目で見られてる気がするけど気にしないぞ。
『この心で進め この両手で掴め』
自分は進んで、掴んだぞ。自分の夢。
『嗚呼抱きしめる Dear My DREAM』
抱きしめられたぞ、My DREAM。すっごく諦めたくなったときもあったけどね。もう沖縄帰っちゃおうかなんて何度も思ったし。
でも、みんながいてくれたから頑張れた。特に後ろで踊ってくれているライバルであり一番の友達。当然のごとく驚いてなかったし。
…真だけにはお見通しだったってわけか。ちょっと残念だけど仕方ない。
さて、次はあの二人、いや三人の番だ。
亜美、やよい、プロデューサー。きっとこのライブを成功させて、必ず。
『嗚呼今叶える Dear My DREAM』
だぞっ!

「……はいっ」
誰にも聞こえないように小声で。確かに私は響さんに返事をした。返事せずにはいられなくて、届いていなかったとしてもそれでよかった。伝えたい言葉は、最後に取っておこう。
先ほどとは打って変わって会場は大歓声だった。響さんのしなやかなダンス、真さんの力強いダンス、千早さんのやわらかなダンス。
それぞれのダンスに、よかったって声が次々と投げかけられていく。私と亜美じゃ、まだまだ遠い世界だ。
『はいさい! 歌姫の後と来れば踊姫! ならば自分じゃなきゃだめだろう! 我那覇響だぞー!』
『ちょっ、ダンスならボクだって負けないよ! というか踊姫の座は譲れないよっ!』
『……その前に貴方も自己紹介したらどうかしら? このままだと踊姫のバーターって呼ばれちゃうわよ?』
ばーたー、ばたー? うん、わからないけどファンのみんなも笑ってるしきっと面白いことなんだよね!
『ああごめんなさい! さっきぶりになりますが、菊地真です! あと、踊姫はボクですからね?』
『踊姫のバーターの間違いだぞっ!』
『すっごいいい笑顔でネタを引きずるなよ響! 千早もいきなり何言うのさー!』
『私は真面目だったつもりなのだけれど』
『……それほんと?』
『冗談よ』
またファンのみんなが笑う。千早さんがこんなにゆーもあに溢れてるなんて、やっぱり今日のライブはすごい、気がする。
『ほらほらあんたたち? いつまでも漫才してないで次に進みなさい?』
三塁側のステージにいた律子さんから注意が飛ばされる。さっきから会場は笑いっぱなしだ。あっ。亜美も笑ってる。…よかった。
『ステージの上で説教が始まる前に次の曲に言ったほうが良いわよ? それじゃ私は一旦下がらせてもらうわね』
『うんっ。えーそれじゃこの勢いそのままに次の曲いっきますよー? 準備はいいですか~?』
―――おおおおおおおおおおお!!
―――だいじょうぶだぞー!
―――真様のためならスタミナなんて一分でマックスまで回復しますわ!
『オッケー! それじゃ次の曲は響と一緒に踊りながらいくよー!』
『自分のダンスもいいけど、今回は真に要チェック! だぞ!』
そう言って、ポーズを取る二人。765プロで最も踊りがうまい響さんと真さんさっきはそこにれべるあっぷした千早さんが加わってすごかった。
だけど、この踊りはもっとすごいことになる。だから私はこんなにも、わくわくしてるんだ。
真さんと言えば、というメロディーが聞こえてくる。メロディーだけが先に私の頭の中を駆け巡っている。
ううん、踊っているんだ。数秒後、真さんの歌いだしと同時に二人の踊姫が踊り始める。
『あとどれくらい 進めばいいの? >もう 壊れそう』
いきなりあくせる全開で踊る二人。うん、踊りが下手な私にもわかる。もう、今の二人には誰もついていけない。
『この道を選んでひたすら突っ走ったよ >でも 苦しいの』
二人とも、表情も苦しそう。いや、あれは本当に苦しいときの顔。それなのに、踊りは止まらない。
『Tenderness 差し伸べて 温もりに触れたい』
てんだねすって英語の意味はわからないけれど、きっと優しくて、かよわいものだと思う。今の真さんは少し触れただけで、崩れてしまいそうだから。
『Kindness 捧げたい その術がワカラナイ ひたすら堕ち続ける魂』
直後、二人の踊りが一変する。悲しそうに揺れるようなゆっくりな踊りから、必死に悲しいのを振り払うような激しいものに。
『届かないメッセージ 不可視なラビリンス 心の安らぎ導いてよ』
足を、体を、頭を動かして踊っているのにブレることなく聞こえてくる歌声。隣で踊る響さんも余裕の表情。
『突然の暗闇と溢れ出す感情に ひるまぬチカラを ボクに焼き付けて!』
…こんなにも焼き付けられた、そのはずなのに。どうしてだろう? この胸のざわざわが止まらないのは。

まったく、このセットリストには悪意を感じるよね。だって歌姫の千早の後に、僕と同じで踊り重視でここまで来てる響の後が僕ってどういうことなのさ?
『あとどれくらい登ればいいの? >ああ 倒れそう』
箸休め、が妥当だよね。そういうことなんだよね。……普通ならさ。
『これを超えた向こうには新たな未知が待ってる >そう 苦しいの』
結局の話、このライブってどこがどうでも先にあるのは前代未聞なわけで。だから、僕も生半可に負けるわけにはいかないんだよね。千早の後? 響の後?
まったく上等だよ。
『Mindness ひたむきに 周りが見えない』
言い方は変かもしれないけど、いいお膳立てじゃないか。歌姫と踊姫だって? なら僕はもっと先にいけばいい。それが何ていうのはわからないけどさ。まあ、それが難しくて。
『マイったね この気持ち 何か変えなきゃ』
変えるさ。踊姫の上を、菊地真にぬり変えてやろうじゃないか。
『Endless 抜け出したい その術がワカラナイ ひたすら堕ち続ける心が溶け出してく…』

もうすぐ終わり。早くも三曲目が終わりそうだなんて、きっとこのライブは生で見たほうが断然お得…ってあれ?
このメロディーは『迷走mind』じゃない、よね? これは、真さんの三番目の新曲の。
『心を取り戻せるなら ほかには何もいらない』
……ああ。
『「さよなら」を言ったくちびる 今も忘れられない』
真さん、こんなライブの真っ最中に。
『枯れるまで涙 流して 悲しみすべて流せたなら』
私たち三人のこと心配してくれるなんて。
『「愛していた」言葉にできる日が来る』
はい、もう大丈夫です。二人とも、伝えましたから。真さんに伝わるように目だけで返事をした、つもりだけど伝わってるかな?
ってうわっ、急に明かりが? 音楽もなってないし、真さんも歌ってない?
『うっうー! 今日も元気に、ハイターッチ! イエイ!』
わ、私の声? でも私喋ってないのに、どうして?
「……けどね解ったよ」
真さんがゆっくり歌いだす。アカペラで。……あっ、この続きの歌詞って。
「貴方の優しい声がする方 向かってー!」
真っ直ぐな声が私に伸びてくる。勢いそのままに私を包み込んだ。と、音楽が再スタートする。
同時に真さんが私のほうへ向かって一直線に走ってくる。や、優しい声だなんて恥ずかしいっ!
『法則のないパズル 不条理なネスティング 魂のジレンマもう起こさない』
みるみるうちに私との距離を縮めながらも、花道の脇にいるファンのみんなにも笑顔を欠かさない。白馬に乗っていたら本当に王子様だ。
『誘惑を断ち切って つらくても前を見て』
と思ったら今度はずっと私を見ながら走ってくる。こ、これはすごく、その、照れるというか。
『ラストでは笑顔で 見つめ合いたいの』
私のところまで真さんが来た。そうしたら昔話に出てくる王子様のように膝をついて、私の手を取る。
曲はもうすぐ終わる。最後の短いメロディーが流れる中で、見つめられながらこう尋ねられた。
「伝わったかな? 無理やり曲と曲を繋げ合わせちゃったんだけどさ」
「…真さんには伝わってるはずですよ。だって歌ってるときに、返事までしたじゃないですか」
「あれっ? ばれちゃったか、ははっ!」
「はい、ふふふっ」
曲が終わると同時に、ステージから演出用の火花が飛び散った。私たち二人が見つめ合っている光景を見ながら、ファンのみんなは大歓声をあげてくれた。
『ちょっとちょっと真ー! 自分を置いていくなんてひどいさー!』
中央のステージから響さんが慌ててやってくる。どうやらこれは真さんだけが知っていたようだ。
『ぼーっと踊ってるからだよ? それに優しい声がする方に向かってって言ったじゃないか』
『あずさかも知れないじゃないかー』
『…優しくて元気一杯な声の方に向かってって言ったじゃないかー』
『さっきと言ってる事が違うぞ!?』
『まあ、気にしない気にしない! またコントばっかりやってると律子にどやされるよ?』
『う、うぅ。納得いないけど、ここは手を引くぞ』
『はい、それじゃそんなわけで! 次にどんどんいきますよー! さあやよい? 優しい声で、言ってみよー!』
いきなり!? これがあれなのかな? む、むちゃぶり?
『え、えーっと、次はですねっ! 私の先輩で、一つ年上のとっても頼れる人が歌を歌います! ヒントは、えーっと、おでこが出てますっ!』
『空気の読めるみなさんならまだ誰が次に来るかはわかりませんねー!』
―――あーわからないなー! 一体ダレなんだろうなー!
―――デコだしアイドル……一体何瀬伊織なんだ……
も、もしかしてばればれ? で、でもきっと平気だよね? 私や亜美と違って、すっごくしっかりしてるんだからっ! ねっ、伊織ちゃん!


私は考えた。ずっとずっと考え続けた。
「私はどうしたら飛び立てるかしら? どうしたら私はやよいや亜美と同じ世界に行けるの?」
私にはやよいのような天真爛漫さは無い。亜美のように己のすべてを歌に乗せることもできない。ついでに千早みたいな歌唱力も真や響のようなダンススキルも無い。
「でも、私は飛び立ちたい。上の世界に行きたい。私のため、ファンのみんなのため」
実は歌にもダンスにも自信はある。アイドルとしてなら過ぎた技術を私は持っている。でもそれではだめなのだ。千早も響も行けなかった世界へは、二人に劣る私では届かない。
「なら、どうする?」
私は考えた。朝も夜も、移動中もレッスン中も。ステージ以外ではずっと考え続けた。そして答えを得た。
「私は、伊織よ。水瀬伊織なのよ」
私は息を吸った。大好きなやよいに応えるために、私のファンのみんなのために、何よりも私自身のために。

『おでこおでこ言うな~~~!!』
亜美の右手、バックスクリーンステージの上からおっきな声がしたよ。スポットライトが少しだけうろうろして、声の元に集まった。
バックスクリーンの一番上、ほっそいタラップの上に人影が浮かぶ。いくつものライトに照らされて、いおりんの姿が浮かび上がった。
『何なのよもう、もう! 私のアイデンティティーはおでこしかないわけ!?』
ぷんすこおかんむりのいおりん。いおりんのファンのみんながアイしてやまない怒り顔をいおりんは見せている。
ちっさな体の前で腕を組んで、おでこを光りカガヤかせて。んで、セナカにおっきなツバサをセオって。
「いおりんマジ天使! いおりんマジ天使!」
ファンの兄ちゃんのダレかが叫んだ。いおりんのセナカのツバサは鳥さんのツバサ。ピンクピンクした衣裳を着てるいおりんは、うん、まるで天使みたい。
『…まあいいわ、やよいに悪気が無いのはわかってるから。それじゃさっさと歌に行きましょ。次はカワイイカワイイいおりちゃんで『DIAMOND』よ』
いおりんがニヤって笑った。いつもの猫カブリーな笑顔じゃなくて、猫は猫でもイタズラ猫の笑い方で亜美と、あとやよいっちを見た。
チョクゴにいおりんは手すりに足をかけると、ひょいって軽ぅく乗り越えジャンプする。
―――……ぎゃああああああっ!!
ファンの兄ちゃんたちのノブトい悲鳴が合唱になった。いおりんは、バックスクリーンのてっぺんから飛び降りちゃったんた!

自由落下する私の体。等加速でそのスピードは増す。きっとあと何秒かしたら世界でももっとも綺麗な赤い華を咲かすんでしょうね。
「それも悪くは無いかもしれないけど」
まだ死ぬ気は無い。私はまだ死にたくない。私の背中の翼が、どれだけ小型化しようとしても全翼5.8メートルが限界だったチタンセラミックとカーボンの翼が風を捕らえた。
翼の表面にびっしり着いているナノ素子が気流を整える。私の体は落下を止めて空に浮かび上がる。
『みんな、驚かせちゃったわね~、にひひっ』
私は空からみんなを見下し笑う。私を指差すファンのみんな。私はリハでもこれを隠していたから、貴音は心底安堵した顔をしてるし雪歩はやっぱり泣きだしちゃってる。
後で謝っておかないとね。でも、その前に。私のトップナンバーがその前奏を奏で出した。私が頂点に立つために、そのつもりで創られて歌った歌。でも叶わなかった歌。
♪今…Imagine… 世界にある無限の石♪
私は歌い始める。私に足りなかったものを思い考えながらね。滑空の都合で制限が厳しかったから、この日このフライトだけのスペシャルなダンスを踊りながら。
♪人…ひとつ… 色形違うAura♪
私のAura、私だけのAura。私は水瀬伊織だったことを思い出して、私は目覚めたわ。
やよいにも亜美にもできないこと、私だけができることに気付いたのよ。私はパパと兄さんに頭を下げて和解したわ。
♪自分は自分 自身とゆう自信 風や雨もかかってきなさい♪
私のファンのみんなのために、なんだから。私を信じる仲間たちに応えて、私の夢を叶えるために。
私はパパの望み通り水瀬グループの広告塔になることを承諾して、改めて頂点に立つことを誓い誓わされたわ。でも構わない。私は水瀬伊織、その自覚こそが私の自信だから。
♪やれば出来る やるから出来る さあ私は今…♪
代わりに私は、水瀬グループの全面バックアップを手に入れちゃったわ。水瀬エンジニアリングとミナセエアライン開発部は私に人工の翼を造ってくれた。
東京ドームを造った武中工務店と協調してドームの空調からどれだけの揚力が得られるか計算してくれた。
やればできた。やったからできた。たくさんの人の協力が努力が、私に空を与えてくれ、私を飛び立たせてくれたわ。なら私は。
♪DIAMOND♪
ダイヤモンドにならなくっちゃ。やよいも亜美も、パパも兄さんも、水瀬のエンジニアたちも、ファンのみんなもそれを望んでるんだから。
私という原石は掘りおこされ、カットされ研磨され、他の輝石や金銀に飾られた。私はたくさんの人の手によって素敵な宝石になった。そう、私はダイヤモンドなんだから。
♪Shine 光り輝け光 この心が狙うのは NO.1♪
私はドームの空をゆっくり旋回するわ。いくらステージが五つもあったってドームは広すぎ。でもこれなら光り輝く伊織ちゃんをどこからでも見られるでしょ?
みんながいてみんなの応援があって、私はナンバーワンを目指せる。独りでも一番になれちゃうやよいや亜美にはできないこと。私はみんなでナンバーワンになる。みんなとナンバーワンなる。
♪全世界のキラメキがほら私の物♪
みんなが私をナンバーワンにするんだから、みんなが私の宝物。世界に散らばる夢のキラメキ、すべて私の夢になる。
私がみんなの夢になって、私がみんなの夢を叶える。私がみんなをナンバーワンにする。
♪Shine 輝く為に生まれた どんな喜びの原石だって♪
みんな、輝くために生まれて来たんだから。誰もが輝ける。みんなが私を輝かせたように、私がみんなを輝かせる。みんな原石なんだから。
ダイヤモンドじゃないかもしれないけれど、ルビーやサファイアでもないかもしれないけれど、どんな石だって光り輝ける。私が光り輝かす!
♪キラ。・:*:・゜キラ。・:*:・゜ キラ。・:*:・゜キラ。・:*:・゜ もっと眩しくなれ♪
私はゆったりとメインステージに降り立った。私に空をくれた背中の翼はそのまま荷重となって私にのしかかるけど、関係無い。
関係あるわけ無いでしょ! 私は歌い、踊る。もっともっと輝け私! 眩しくなれ!
♪DIAMOND♪
私は、ダイヤモンドなんだから! 水瀬伊織なんだから!

いおりはメインステージで飛び跳ねた。あんなに重そなツバサを着けたまま、いつものよに踊る。ううん、いつもより高く跳ねて、おっきく動いてるよ。
いおりんが前に自分で言ってた通りだね。いおりんは確かにサイコーのステージパフォーマーだよ。
みんなが見てるステージの上、ライブがいおりんのシジョーの舞台。いおりんはライブでこそ光りカガヤくよ。それは、
「いおりんがイチバンわかってるんだ。ライブはヒトリでつくるんじゃないって。兄ちゃん姉ちゃんたちといっしょにつくるんだって。アイドルもおんなじ」
いおりんはファンの兄ちゃんたちをホントにアイシテるから。みんなのアイがいおりんをつくってるのを知ってるから。
「まだまだ、亜美のアイはちっこいね」
いおりんはひっろいセカイをアイシテるよ。私のアイよりずっとずっとおっきくいおりんはアイを巡らしてる。スゴいね。やっぱりいおりんはスゴいね。
「でも、負けないかんね。亜美ももっとおっきなアイを、手に入れるよ。きっとね」

ドームがコワレそなハクシュとカンセーを受けながらいおりんはタイジョーしたよ。それに合わせて今度はお姫ちんがステージに上がる。バックネット側のステージにね。
「およ。およ?」
そのお姫ちんのケハイがヤバい。いやお姫ちんはいつでもシンケンショーブだけどさ、シンケンゆーならまるでヒトを斬りそなフインキで。
『…先ほどの伊織の業、同じ事務所の仲間を持ち上げるのを仕方無しと思えるほどの快演でした』
んで、そんなフインキのままローローとゴンジョーツカマツルよ。何かトークとか言っちゃいけな空気でさ。亜美はこれでも元トップアイドルだから、ちゃんと空気読むよ?
『比して、非才の我が身が何を為さんと言うのか。重く悩まされるぱふぉおまんすでした』
いやいやお姫ちん何言ってんのさ。お姫ちんもいおりんと同じ、ケッテンなしのパーフェクトアイドルじゃん? フシギキャラもバカウケだし。
『伊織、貴女は貴女にしか為し得ぬことを為しました。ならば私も、私にしか為し得ぬことを為しましょう』
オーロラビジョンが控え室でメイクなおしてるいおりんを映したよ。いおりんはシンケンなヒョージョーでヒトツうなずいた。
『そして亜美。もはや亜美には必要の無いことにも思えますが、あの日たくしーの中にて言葉では伝えられなかったこと、それを我が行いで示しましょう』
わ、次は亜美なの? オーロラビジョンがいおりんに代わってライトステージの脇に立ってる私の姿を映す。私もいおりんみたく深くうなずいたよ。
お姫ちんがホンキもホンキなのはわかるもん。お姫ちんは、何かトンでもないことをするつもりだよ。
『ありがとう、亜美。それでは参りましょう。音響殿、みゅーじっくすたーと』
ドームに明るいメロディが流れる。お姫ちんの『フラワーガール』だ。
♪夢の中で また包んで ねぇ♪
お姫ちんののびやかな声が、キレイにカワイらしくのばされるよ。お姫ちんにしか出せない声、お姫ちんの歌だ。お姫ちんは歌いながら階段を降りる。
ジョーヒンにカワイらしく左右に手を振りながら。
♪もう! 花になりたーい ずっと あなただけのもの!♪
花道まで降りてきて、お姫ちんは歌いながら笑いながら花道のフチまで行く。そこでお姫ちんは、イッソウおっきく笑った。
膝を曲げてチカラをためて、花道を蹴って跳び降りる。キャクセキに向かって! マンセキのはずのグラウンド席なのに、お姫ちんはブジにチャクチする。
そこだけが50センチくらいの空き地があった。
♪いぇい♪
もうここからじゃ見えないけど、ビジョンに映るお姫ちんはジンコーシバの上でポーズを決めた。いやそれはマズイっしょお姫ちん。お姫ちんのソバの警備の兄ちゃん顔真っ青だから。
もうそこは兄ちゃん姉ちゃんたちの中だから!

愚かなことを、と我ながら思います。感極まったろっくやぱんくの歌手ならいざ知らず、私はあいどる、皆の偶像たらん者。それが客席だいぶなどおそらくは前代未聞。
「ですが、為さねばなりませんでした」
かつて真に日の本一のあいどるだった亜美に、私は不遜な言葉を吐いたのです。頂点にいた亜美の心に届かぬは道理。私も信じぬこと願わぬことを私は亜美に投げていたのです。
「頂点に在らずとも良い、などと」
上を目指さざるを得ぬのは人の業、それを否定した私の何という愚かさ。私もまた頂点を目指すあいどるとですのに。
「ですが、それは他を否定するものであってはなりません。そこだけは譲れません」
伊織は人々の助けを受け、天翔け人導くあいどるになりました。ならば私は。
「地に在りて、民と交わるあいどるとなりましょう。私はここで、おんりーわんにしてなんばーわんを目指しましょう」
驚くふぁんの皆さまの一人に、私は右手を差し伸べました。見ていますか、亜美。見ていますか、伊織。これが私の、あいどる道です。

♪あなたが来た! 待ちぶせするの でもやっばりサッバリ 目合わない。♪
「握手、してる…」
デンコーケージバンを見上げる私の口からコトバがもれちった。信じらんないよ。キャクセキに飛び込んじったお姫ちんは、歌いながらヘーゼンと握手会してる。
お姫ちんのまわりじゃ、兄ちゃん姉ちゃんたちが順番にお姫ちんの握手を待ってる。誰もシキってないよ。誰もユードーしてないよ。でもナンにもトラブってない!
♪どき☆どき☆した ハートがしぼむ もう シュン ねぇ bad bad you!♪
お姫ちんが一歩を踏み出すと、その一歩に合わせて道ができる。新しく十本くらいの腕が突き出されて、…でも、それだけだよ。
兄ちゃんたちはオトナしくお姫ちんが自分の手を取るのを待ってる。お姫ちんはカンペキにバをシハイしてる!
♪雲の陰から 応援してる 早く見つけてよ王子様 そのときをまってる♪
お姫ちんはただトップクラスのアイドルってだけでナンバーワンのアイドルじゃない。でもマチガイないよ。お姫ちんはオンリーワンでナンバーワンだ。
コンナコトできるアイドルなんて、ホカにダレもいない。いるわけない!
♪ねえ いいかな もっと笑顔送ってみて♪
え? その時外れた歌声が聞こえた。これは、はるるん? オーロラビジョンを見上げたらやっぱりはるるんが映ってる。
はるるんもグラウンドに降りて兄ちゃんたちと笑いながら握手してる!
♪そうよ 指の先まで 真っ赤になるわ あなたが好き!♪
あずさお姉ちゃんまで? ハズカシそうに左手をほおにあてて、でも右手は次から次とファンの兄ちゃん姉ちゃんの手を握って。
♪胸の奥が苦しくって ええ もう! 花になりたーい もっと 鮮やかなカラー♪
あっちじゃまこちんが、花道のすぐそばを走りぬけてく。右手をコブシにして突き出して、何十人何百人もの人たちの手のひらを叩きながら。
他のみんなもどんどん出てきて、ステージから花道から降りちゃう。
「亜美、私たちも行こうよー?」
真美が私に手を伸ばした。オモシロいこと見つけたって笑いながら。私はまだオドロキが抜けないよ。みんなどーして?
亜美も行きたいよ。でもやっぱしこわい。みんなどーしてそこまでできるの?
『亜美、聞こえるか?』
その時、亜美の耳のイヤホンから兄ちゃんの声がした。
『とんでもねえがな、不思議とうまくいってる。さすがウチのファンは良く訓練されてるな』
兄ちゃんは苦笑まじりに言った。兄ちゃんの顔が、ヒョージョーが亜美には見えた。
『亜美も行ってこいよ? ビビらずにファンのみんなを信じろ。亜美にもできるさ』
兄ちゃんが私の背中を押す。ホントはあの輪に入りたがってる私のキョーフを打ち消す、ヤサシイヤサシイ声。兄ちゃんが、兄ちゃんができるって言うなら、亜美は。
「まっかしといて。真美、私たちも行こう!」
私は真美の手を取って走り出した。まだホントはちっとこわいよ。でもダイジョーブ。私には、私を信じてくれる兄ちゃんと真美がいるんだから。

キンキュー握手会は大ハンジョーだったよ。みんな、たくさんのヒトがよろこんでくれた。中には泣いてお礼を言ってくれた兄ちゃんまでいてね、それはいいんだけどさ。
「ミキミキー、どこにいるのさー?」
カンケーシャイガイタチイリキンシのローカを走りながら私はさけんだ。
ミキミキは握手会にも出てこなくてね、まあ次はミキミキのソロだからってみんななんとなくナットクしてたんだけど、お姫ちんの歌が終わっても握手会がハケてもミキミキは出てこない。見つかんない。
765はアイドルもスタッフもなくミキミキを探してるんだ。今カイジョーじゃピヨちゃんがヒッシのMCをしてるハズだよ。
「つーかどこかで昼寝してるよね、コレ」
マチガイないよ。まったくドームライブなのにさ。ミキミキはシンゾーが強いよねえ。
「あ、ミキミキ!」
とか考えていたら私はミキミキの姿を見つけた。キューケージョの自販機のライトがミキミキと、…ミキミキのプロデューサーを照らしてる。
ミキミキのプロデューサーはミキミキを後ろから抱きしめてる。ミキミキはウットリと目をつむってる。
「こ、こんなときにあばんちゅーる? つかミキミキ、アイドルとプロデューサーはマズいっしょ!」
ジブンのことをタナに上げて私はミキミキにさけんだ。ミキミキが目を開く。
「あ、亜美なの。どしたの?」
プロデューサーの腕のなかでミキミキはノーテンキに笑いながらそんなことを言ってくる。
「ミキミキのデバンだよ。みんな待ってる!」
私がモヤモヤをコトバにたたきつけると、ミキミキは顔をくもらせた。コトノジューダイさ、わかった?
「…そか。もう、そんななの」
ミキミキはミキミキのプロデューサーの腕に手をかけて開いた。プロデューサーから離れる。
「ハニー」
ミキミキのプロデューサーをミキミキは見上げた。そのシセンはヒョージョーは亜美にはとてもできないモノで、ノーミツにイミがありそうだった。
ミキミキのプロデューサーはだまったまま内ポケットからおっきなハサミを取り出してミキミキにわたす。
「ありがとなの」
ミキミキはハサミを受け取ると、キヨーに片手で髪をたばねた。迷うソブリもなく髪にハサミのヤイバをあてて、
「ちょ、ミキミキ!?」
ジョキン。私のセーシをムシして長い金髪を切り落としちった。ムゾーサに自販機のトナリのゴミ箱に捨てる。そのゴミ箱は缶ビンペットボトル専用だけど、今はそれどこじゃ。
「ナンで? ミキミキ今から本番なんだよ!」
「うん本番だね。じゃミキは行くから、サヨナラ、ハニー」
ミキミキはプロデューサーにハサミを返すと、走ってった。ヒトタチで切っちったミキミキの髪は長さもマチマチでもちろんゆれない。
私はミキミキを追っかけて走る。ミキミキの目にナニか光ってたよにみえたからさ。
「あれ、ミキミキのプロデューサーは?」
少しだけ振り向いたら、ミキミキのプロデューサーが非常口から出てくのが見えた。マンゾクそうに目を細めてる。そっちはステージじゃないのに、どこ行くんだろね?

ミキはレフトスタンドに登った。お客さんたちはミキを見て大騒ぎしてる。ミキが髪を切っちゃったからかな、たぶん。
「…あは」
それがなんだかおかしくて、ミキは笑っちゃったよ。ミキはホラこんなにも変わっちゃったのに、みんなミキの髪の毛なんてどーでもいいことで騒いでる。
「表せるかな、伝わるかな」
ミキのこの心をミキは表現できるかな。眠たいのガマンしてたくさん練習したけど、やっぱり千早さんや亜美みたいには歌えたことないし。でも、今なら。
「今なら、できそうな気もするの」
ミキの新曲、聞いて。ミキの心を聞いて。
♪ねぇ 消えてしまっても探してくれますか?♪
ミキはさっき、ミキのプロデューサーに完全にフラれたの。もうハニーにはミキといっしょにいて手に入るものは無いんだって。ミキがあげられるもので欲しいものは無いんだって。
♪きっと忙しくてメール打てないのね♪
ミキはハニーに何十回何百回メールしたかな? たった一年だけど、でもミキがこんなにメールした人はいないの。でもハニーはただの一度も返してくれなかったな。たったの一度も。
♪寂しい時には 夜空見つめる♪
夜の星空を見上げてハニーを想ったよ。ミキはハニーをスキだったから。アイドルとプロデューサーが付き合えないのはわかってるの。
でもハニーのアイドルをやってれば、ハニーといっしょにいられるから。
♪もっと振り向いてほしい 昔みたいに♪
でもそれも今日までの幻。明日からはもう会えないの。声も聞けない。振り向いて欲しかった。ミキだけを見て欲しかった。ミキの期待通りでなくてもよかったのに。
♪素直に言いたくなるの♪
結局素直にはなれなかったな。ううん言っちゃったこともあったけど、ジョーダンに流されただけ。
ミキはあきらめなければいつかって思ってたけど、きっとハニーの中ではあの時にスイッチが入ってたの。終わりの始まりのスイッチ。
♪ZUKI ZUKI ZUKI 痛い DOKI DOKI DOKI 鼓動が身体伝わる♪
ミキにはミキとハニーの間に壁が見えるようになったの。そう感じちゃうのが痛かった。でもミキはそれを無かったことにしたよ。
ハニーの表側は、壁のこっち側ははちみつみたいに甘かったから。
♪踏み出したら 失いそうでできない♪
踏み込んじゃいけないって思ったんだ。それが何かはわからなかったけど、ハニーには踏み込んじゃいけないとこがあるって。踏み込みさえしなきゃ大丈夫って思い込んだの。
♪ねぇ 忘れてるフリすれば会ってくれますか?♪
忘れたフリをしたの。何にも気付いてないフリをして、ミキ自身をだましてた。ハニーといっしょなの楽しかったから。それで、ただ時間だけが過ぎて。
♪待ち続ける 私マリオネット♪
ハニーが言うから、ミキなりにだけどがんばったの。アイドルランクも上がった。ハニーが誉めてくれるのうれしかったし。
ミキはハニーのお人形だったけど、それでもよかったの。いつかハニーが振り向いてさえくれれば。
♪貴方と離れてしまうと もう踊れない♪
なのに、ハニーは言ったよ。「美希はなかなかの作品になったが、この辺りが上限だな」 できることは全部試したって。もう私とは組む意味が無いって。
ひどいよね。ミキのハニーは、とにかくとことんプロフェッショナルなプロデューサーだったの。
♪ほらね 糸が解れそうになる♪
糸が切れたの。私を操る糸をハニーは放しちゃった。恋心の赤い糸はまだミキからのびてたけど、それだって先はハニーにはつながってなかった。最初からつながってなかったんだ、たぶん。
♪心がこわれそうだよ…♪
心、こわれちゃったかも。ハニーはミキのハニーだった。でもハニーは、ミキをただ担当アイドルとしか思ってなかった。ただそれだけなんだけど、ハニーは完璧なプロデューサーだったから。
ミキの恋心までプロデュースできちゃう、完璧なプロデューサーだったから。
「亜美!」
間奏の途中で、ミキは叫んだ。ミキは知ってるから。ミキとよく似た恋を、でも違う恋をしてる子を知ってるから。
「亜美はミキみたいなマチガイをしちゃ、ダメなの!」
アイドルとプロデューサーだからって、あきらめちゃダメなの。気持ちイイ関係だからって甘えちゃダメなの。
「亜美は、貫いて。亜美の夢を。亜美の想いを!」
ミキはできなかったけど、きっと亜美ならできるから。亜美と亜美のプロデューサーなら、きっと大丈夫だから。

「…受け取ったよ、ミキミキ」
私は右手を胸にあててつぶやく。結局ミキミキには追い付けなかった。歌だってトチューからしか聞けなかったけど、それでもジューブン。
「ミキミキのナミダも、ミキミキのプロデューサーのマンゾクげな顔も、ゼンブわかったから」
亜美の「スターレス」とちょっとだけ似てるんだ。亜美は「スターレス」を歌うためにゼツボーを見つめたよ。
ミキミキのプロデューサーはミキミキに「マリオネットの心」を歌わせるためにゼツボーを押しつけたんだ。ヒドイね。でもミキミキは、
「ミキミキのプロデューサーのココロを、受けとめたんだ…」
なんて強さなんだろね。きっとミキミキは「マリオネットの心」を歌い続けるんだ。ミキミキのプロデューサーのノゾミドーリに。
「…オーエンするよ、ミキミキの恋。亜美だけじゃダメだかんね。ミキミキもシアワセにならなきゃ、ダメなんだかんね」
そうだよ。ミキミキだってシアワセにならなきゃ。私はミキミキもスキなんだから。スキなヒトにはシアワセになってほしいんだから、亜美は。


とっても、心が痛い。美希さんはとってもとっても上手に歌を歌った。はずなのにどうして私はこんなに悲しいんだろう。
それにどこかで、すぐ近くで同じ気分になったことがある。でも何か、決定的に違う気がする。その何かはわからないけれど。
「バカね。ほんと大バカね。呆れるバカよね」
「り、律子さん?」
「姿が見えないと思ったらいきなり髪切って、おまけにセットリストまで変えて、しまいにはこんな悲しく歌うなんて。ライブの流れぶったぎりすぎだわ」
「そ、そんなに怒らないであげ」
「今回ばかりは許してあげないわ。美希も、担当のあと大バカ者も。ライブ終わったら後ろ飛びまわし蹴りをかまして、ぼっこぼこにする」
すごく物騒なことを言っている。いつもの律子さんの五倍増しで怖い。心の底から、私の知らない何かに怒っているのがわかる。
「でも、美希さんに怒られちゃうんじゃ」
「かまわないわ。あの子のためにやるんじゃないもの。私が我慢ならないの。どんな意図があろうと、深い絆があろうと、私の中では許されないことをした。ただそれだけ」
…そう言いながら、美希さんのために怒ってる。だって律子さんが本気で怒るときは、いつだって誰かのためだから。
誰かのために自分が鬼になるのもためらわない、すごい人。私にはそんなことできないから、尊敬している。
「でもまあ、まずはステージに佇みっぱなしのバカ者をしかりにいきますか。それとやよい」
「はい?」
「やよいも、美希のようにはなっちゃだめよ。それが、今の美希が精一杯搾り出した心の叫びだから。聞いてあげてね」
「……はいっ」
「それじゃちょっと行ってくるわね」
優しげで悲しげな表情を残して、颯美希さんがいるステージへ颯爽と向かう律子さん。
その背中をみて私は、知らずのうちに大人になろうとしている少女ってこんな人のことを言うのだろうと思った。
しかし、毎回思うけれど律子さんはあのハリセンをどこからだしているのだろう。
気がつけばいつも右腕にもっているけれど、取り出しているところを見たことがない。もしかして、超能力?
『いっつまでステージでぼーっとしてるかぁ! ちみはぁ!』
スッパーン!
『い、痛いの! ちょっと律子…さん! 少しは空気を読むべきだって思うな!』
『空気を読んだ分だけ時間の浪費なのよ。いい? このライブの一分一秒は途方もない価値なのよ? タイムイズマネー、理解した?』
『理解する気にもならないの! ていうか美希は結構いい感じで歌えたかなって思うんだけど?』
『ぼーっと佇んだだけ、余韻が消えていくのよ』
『よいん? 美希はぼいんだよ?』
『私の方がぼいんよ? って何を言わせるか!』
『だ、だから痛いの! もう……』
前代未聞のライブがいきなりコント風になっちゃった。ネタも何も決めていないのに、あの二人すっごく面白い。心の中はざわついて、それどころじゃないっていうのに。

「で、律子…さん」
「律子でいいわ」
「…あの人に何かしようとしてるなら美希、律子のこと一生許さないの」
「お生憎様。誰かに憎まれるのも恨まれるのも割りと慣れっこなの。だから私はやりたいようにやるわ」
「……やめて。あの人は悪くないの」
「そうなのかもしれない。でもこの件については美希も関係ないわ。悪いのはただ一人、妙な正義感と自分の心に素直すぎる秋月律子という性悪地味女がいたことだけよ」
「性悪地味女……あはっ、それいいね」
「次その名前で呼んだらハリセンよ」
「そっか、じゃ怖いからやめるの」
「賢明な判断だわ」
「……美希のやったことは間違いだったのかな?」
「私にはわからない。私は、美希のように、亜美のように、やよいのように、恋に溺れたことはないから。臆病者のシンデレラガールだから」
「うわぁお子ちゃまなの。それにシンデレラガールって、律子に似合わないの」
「何とでも言いなさい。あんたたちが強すぎるのよ。ったく、そんな重要な問題にノリと勢いだけで答えるなんて、どうかしてるわ」
「あはは。天才はそうあるべきなの。秀才の律子にはわからないの」
「そうかもね」
「でも、それもいいって思うな。一生懸命、時間かけて答えを出すのも、悪くないと思うの」
「秀才のりっちゃんはそっちで行こうと思うわ。さて、無駄話終わり。あんたはさっさと引っ込む」
「むぅ、せっかちさんなの。がっつく女は嫌われるの」
「あんたが言えた義理じゃないわね」
「…心が抉れるの。だから、だからね。ライブが終わったら、終わったら。…胸、借りて、も、いい?」
「ええ、だからまだ堪えなさい。女でしょう? 男でも耐えられない痛みでも、耐えてみなさい。終わったら、傍にいてあげるから」
「…う、ん」

二人とも動かなくなった。何か、話しているように見える。きっとそれは、誰にも真似できない、律子さんだけができる手厳しい慰め。
あずささんのように優しさだけじゃない、厳しさを兼ね備えた優しさ。
私も、律子さんのようになれるかな? 誰かに嫌われたとしても、誰かを慰めることが、抱きしめることができる人間になれるかな?
なれたら、って思っちゃだめか。…なろう。律子さんのように強くて優しい人に。
『きー! 聞き分けのない子ねぇ!? あんまりただこねるととって食っちまうわよー!』
『…うわあーんなのーっ!』
とても、なまはげを思い出したとは言えない。言ったら最後、私もとって食われてしまうかもしれない。そっと心の中にしまっておこう。
律子さんのなまはげ発言から逃げるように美希さんはスポットライトからすたこらと去っていった。嘘泣きと、本当の涙を混ぜ合わせたぎりぎりの嘘をついて。
『ふぅ、さてっと。私たちのコントの間にみなさんの体力はマックスまで回復したと思うんですけど、いかがですか?』
「おおお! 満タンだ! うずうずしてるよー!
「りっちゃーん! おれだー! 魔法をかけてくれー!」
「むしろ俺に魔法をかけさせてくれー!」
『警備員さーん。今セクハラ発言をしたファンの方連れて行っちゃってくださーい』
「ごめんなさーい!」
さっきまでおつうやむーどだった会場が一瞬で笑いの渦に飲み込まれる。場を盛り上げることに関して律子さんの左腕に出るものはいない。…右腕だったかな?
『セクハラはともかくとして! 私も一アイドルとして乗りたいわけですよ、このビッグウェーブに!』
ファンのみんなから歓声が上がる。どうしてこうもファンのハートを掴むのがうまいのだろう。こればっかりはどれだけ見習っても、一生真似できそうにない。
『それじゃいってみましょうー! 今回は曲を借りていきますよー!』
カバー曲を歌うのかな? 流れてきたメロディーは、とてもアイドルが歌うとは思えない、一度だけ律子さんが歌ったことがある曲。確か…。
「まるのうち、さでぃすてぃっく?」

まったく、ちょっとしたネタで入れた曲が役に立つなんて。ネタと言っても大好きだけどね。
この曲を作った人ほど、私はこの歌に愛を込められないけど今回ばかりは憤りを込めてみるとしよう。大バカ二人に向けて。
『報酬は入社後平行線で 東京は愛せど何にも無い』
報酬ねぇ、まああんまりあがってないのかな。気にしたことは無いけどさ。
『リッケン620頂戴 19万も持って居ない 御茶の水』
そんなお金持ってたら、私なら資格を取るための試験料に使うか小説でも買うわね。というか御茶の水なんていかないし。
『マーシャルの匂いで飛んじゃって大変さ 毎晩絶頂に達して居るだけ ラット1つを商売道具にしているさ そしたらベンジーが肺に映ってトリップ』
ったく、相変わらずのアダルト溢れる歌詞だこと。歌うといつも赤くなるわ。でもいまはならない。何せほら、怒ってるときって顔も赤くなるじゃない。これ以上ならないってわけで。
『青 噛んで熟って頂戴 終電で帰るってば 池袋』
にしたって、なんなのよあの二人は。勝手に自分たちだけで解決して、みんなとの舞台を台無しにしようとか。故意じゃないにしろ許されるわけないじゃない?
『マーシャルの匂いで飛んじゃって大変さ 毎晩絶頂に達して居るだけ』
ああもう。絶頂しそうなくらい怒ってるわ。思った以上に深刻ね、これ。どうしよう?
いやそりゃ、ぶちまけるしかないでしょ? ここまで本来の歌詞の意味無視でやっちゃったんだから。
『ラット1つを商売道具にしているさ そしたらベンジーが肺に映ってトリップ』
というかプロデューサーだったら何しても許されるわけ? 日本の法律様もちょっと笑えちゃう道徳主義も全部無視できるわけ?
あんなに可愛い子の髪の毛ばっさりいくことを決断させることもオーケーなわけ? ざっけんじゃないわよ。
『将来僧に成って結婚して欲しい 毎晩寝具で遊戯するだけ』
結婚すりゃいいじゃない。あんなワガママボディの一途な女の子他にいないんだから。甲斐性ならあるじゃない。
でもやっぱだめ。あんなぶーたれ捻くれた中年イケメンは始末に終えないわ。
美希もなーんで、あんな男なんだか。…同じアイドルだし、わからなくもないけどさ。
あーもう! ごっちゃごっちゃよもう! こうなったら叫んでやるわよ! そんで後でぼっこぼこにする!
『ピザ屋の彼女になってみたい そしたらベンジー あんたをグレッチで殴ってーぇ!』
…ちょっと歌詞変えちゃったけど、いいよね。だって、こんなにすっきりしてるんだもん。まあ、私が歌う最初の曲にしてはボディーに響いたかも知れないけど、新しい一面の披露ってことで。
少し疲れたし、後は任せるとしましょうか。大人のお姉さんに。

『さてさて、『いっぱいいっぱい』を期待していたみなさん! 驚いてくれましたか? 秋月律子が歌うカバー曲『丸の内サディスティック』。TV尺でお送りしましたー』
「エロかわいいよー! りっちゃんアダルティーだよー!」
「俺と一緒に毎晩寝具で遊戯してくれー!」
『はいはーい、警備員さんあちらの一名様ご案内お願いしまーす』
「ヤメロー! シニタクナーイ!」
『あははは! 冗談はさておいて、この調子でどんどんいきますよ~? まだまだ体力は残ってますねー?』
律子さんの問いかけに声援で返すファンのみんな。底なしのあつーい気を私たちに送ってくれる、元気のみなもと。私の元気のすうひゃくばい、すうせんばいだ。
今まで歌った人たちはその元気をもっともっと近いところで受け止めている。きっと、すごく重いけど、すっごく嬉しいと思う。
…私の番はまだかな? いっそ飛び出ていっちゃおうかな。怒られちゃうかな?
『ではお次です。ご指名入りましたーおねがいしまーす!』
『は~い、承りました~』
スポットライトが律子さんから外れ、何も無いステージを移動して次に照らしたのはあずささんだ。どっと驚きの声が叫ばれる。それはあずささんの着ている衣装に対して。
純白のプリンセスウエディングドレス。ライトに照らされて、キラキラ輝いているのは細かいラメかな? ドレスのボリューム、うねる波を思い出す形。
更に手にはマイクではなく花束をもっていた。もうそのまま誰かと結婚してもいいくらいに、あずささんはきれいだった。
『どうも、三浦あずさと申します。今回の衣装はウエディングドレス、プリンセスverでライブに参加させていただきます。どうでしょう? 似合って、ますか?』
カメラに向かってばっちりうわめづかいを決めたところ、会場にはあずさー! 俺だー! 結婚してくれー!
という叫び声しか聞こえなくなった。私も一緒に叫びたい。でもそれを堪える。ファンのみんなは、この瞬間だけしか伝えられないから。そこに私が入っていっちゃだめな気がしたから。
『嫁ぎ遅れるというので極力着ないようにはしていたのですが、今回ばかりは着させていただきましたー。これは、私なりの覚悟です』
…多分、今日のライブを絶対成功させるっていう覚悟だ。ずっとドレスを着るお仕事だけは避けてきたあずささんが、ここまでするなんて。
そのライブでみんな私たちを励ましてくれている。私はまだ子供で、これから長い間生きていくだろうけど。このライブでの出来事が、私が生きていく中で一番素敵な思い出になる。
そんな気がしてならないや。
『この衣装で歌うと、更なる勘違いが生まれそうですが、その無茶を通して歌います』

―――空にだかれ 雲が流れてく 風を揺らして 木々が語る

い、いきなりアカペラですかあずささん!?

目覚める度 変わらない日々に 君の抜け殻探している
Pain 見えなくても 声が聞こえなくても 抱きしめられたぬくもりを今も覚えている……
この坂道をのぼる度に あなたがすぐそばにいるように感じてしまう
私の隣にいて 触れて欲しい

このまま、何も考えずに、ただ歌う。私の出せる全力を乗せて。

近づいてく 冬の足音に 時の速さを 感じている 
待ち続けた あの場所に君は 二度と来ないと知っていても
Why 待ってしまう どうして会えないの?
嘘だよと笑って欲しい 優しく キスをして
遠いかなたへ 旅立った 私を一人 置き去りにして
側にいると約束をした あなたは嘘つきね

遠い。自分の声が、遠い。歌っていないみたい。私はまだまだ、未熟なのね。
だからもっと伸ばそう。だからもっと声を上げよう。大声で泣く赤ちゃんのように。
亜美ちゃんとやよいちゃんが、そうだったように。

もし神様が いるとしたら あの人を 帰して
「生まれ変わっても君を見つける」
僅かな願い込めて…

「I wanna see you―――――」

音楽が帰ってくる。私の隣に。
私を支えてくれた歌。私の隣に居続けてくれた歌で、このライブを見ているすべての人へ思いを届けたい。
ありがとう、を。

『この坂道をのぼる度にあなたがすぐそばにいるように感じてしまう』
今は自分の声が聞こえる。ちゃんと、歌えている。
『私の隣にいて 触れてほしいー!』
(遠いかなたへ旅立った 私を一人置き去りにして)
私はまだ、この歌の人のような恋をしていない。だから、始めるために覚悟を決めた。自分の気持ちから逃げないと。
『側にいると約束をした あなたは嘘つきだね―――――……』
やよいちゃん、亜美ちゃん、それに美希ちゃん。私も勇気を出してみるから。頑張ってあの人に、この気持ちぶつけてみようと思う。
それで、みんなだめだったら、四人でパーティーでもしましょうね。泣きながら。

シーン、て。シーンてしている音が聞こえる。それだけじゃなくて。静かに泣いている声も聞こえる。うつむいたまま、必死に泣くのを我慢しようとしている声が聞こえる。
私もまた、泣いていた。まるであずささんの隣に、見えない誰かが優しく微笑みかけているように見えた。
歌い終わったあずささんが顔をゆっくり上げる。優しい笑顔をして、花束の中にあるマイクを使ってしゃべりだす。
『…いっておきますけど、私、未亡人じゃありませんからね?』
飛び出した言葉から数瞬、ファンのみんなが笑顔になった。泣き顔なのに笑顔って、素敵な顔だなぁ。もしかして私もそうなのかな? だったら、鏡で見てみたいかも。
どんな素敵なぐしゃぐしゃ顔になってるかってね。
『はい、三浦あずさで『隣に…』でした~。ではここで、私からのプレゼントです。よいしょっと』
あずささんが花束の中にあるマイクを抜き出す。ってことは、確か、えっと。ぶーけとすだったかな?
『いきますよ~……そーれっ』
勢いよく花束が宙を舞う。それからゆっくりと落ちて、一人のファンの手元へとすぽっと落ちた。
『はーい。この花束を受け取ったそこのあなた。幸せになってくださいね?』
周りの人たちが羨ましそうに見る中で、その人はぴくりともしなかった。…軽く放心しているような。でも、私も願っていよう。あの人が幸せな家族と一緒に暮らしていくのを。
『これ以上ドレスを着てしまっていると、嫁ぎ遅れてしまうかもしれないのでそろそろ交代しますね~それじゃ、後お願いね?』
『は、はいですぅ!』
少し緊張しながら答えたのは、雪歩さんだった。大人なふんいきをだしていた二人の後で雪歩さんはどうするんだろう。
…わからない。でもきっとすごいことをする。それだけはわかる。
『は、萩原雪歩十七歳! まだまだ未熟者でこんな大舞台に立っているのもドキドキです。でも、でも! 私を応援してくれる人のために一生懸命歌います! 歌いきります!』
マイクを両手で握り締めて、勢いよく言い切る雪歩さん。その姿に、千早さんの面影がダブって見えた。歌姫と言われる千早さんに、重なって見えた。
やっぱりただじゃ終わらないなんだって思ったら、もう泣いてなんかいられなかった。押し寄せてくるドキドキとワクワク。
雪歩さんの歌が聞きたくて聞きたくてもう待ちきれない。
『私の集大成、聞いてください! 「Kosmos,Cosmos」!』
みんなが大好きで、私も大好きで、雪歩さんが一番好きな歌。今日はどんな気持ちを込めて歌うんだろう? とっても楽しみだなぁ。

あわわわ、遂に始まっちゃったよぅ。こんなにドキドキするの初めてでどうしたいいかわかんないよ!
穴掘って埋まりたい穴掘って埋まりたい穴掘って埋まりたいぃ! …でも。
『Kosmoc,Cosmos 跳び出してゆく 無限と宇宙の彼方』
跳び出したい。みんなと一緒に、どこまでも飛び出したい。だから埋まってなんかいられないよ!
『Kosmoc,Cosmos もう止まれない イメージを塗り替えて』
これまでの私なんかじゃいられない。塗り替えて、上書きして、今以上のCosmosを咲かせないと。
『ユラリ フワリ 花のようにユメが咲いて キラリ 光の列すり抜けたら二人』
(Access to the future Reason and the nature)
『つながらハートに伝わる鼓動が乗り越えたデジタル マイナス100度の世界で何も聴こえないけど ほら』
いやあああ! 今何歌ってるどこ歌ってるちゃんと歌えてるの!? わかんないけど、止まれないよ! みんなが繋げてきたこのリレーを私が止めちゃうなんて絶対嫌!
やよいちゃんに、亜美ちゃんに絶対繋ぐんだから!
『またボクとキミを導いたブーム ステキな出来事を探してビーム』
ま、間違えちゃったー!? 何のビームがでるの!? あっでも、ボクとキミを導いたブームはありかも? ってそれどころじゃなーい! サビ、サビ!
『Kosmos,Cosmos 跳び出してゆく 冷たい宇宙の遥か Kosmos,Cosmos もう戻れない スピードを踏み込んで ヒラリ フラリ 惑星と巡る極彩色 ハラリ 語り継いだ物語と未来』
(Nexus for the future Season and the neture)
…もうごちゃごちゃ考えるやめ! ちゃんとしよう! 私のKosmos,Cosmosはもっと咲けるはず。
どれだけ私がひんそーでちんちくりんで犬が嫌いの若干男性恐怖症でダメダメな子だったとしても、この歌は違う!
私を、理想の私へと導いてくれる歌なんだ。
もうどこ歌ってるのかもわからないけど、大丈夫。体に染み付いてる、この歌を知っている私の細胞が歌ってくれる、踊ってくれる。私とKosmos,Cosmosならきっと跳べる。
そう、宇宙の果てなんて軽く超えられる。
そして渡すんだ。ずっとずっと先へ行ってしまったやよいちゃんと亜美ちゃんに、手渡したかったバトンを。そうすることでやっと届く。
だから、だから!
♪Kosmoc,Cosmos 跳び出してゆく 無限と宇宙の彼方♪
私!
♪Kosmoc,Cosmos もう止まれない イメージを塗り替えて♪
やよいちゃん、亜美ちゃんに!
♪ユラリ フワリ 花のようにユメが咲いて キラリ 光の列すり抜けたら二人♪
届いて! 私のKosmos,Cosmos!
(Access to the future Reason and the nature
 Nexus for the future Season and the neture)
…届いた、かな? …きっと、届いたよね。

届きました。雪歩さんの思いもまた、私と、きっと亜美にも届いたって思います。だから私も跳びます。
雪歩さんが自分を変えるほどに跳びこんだ宇宙のもっと先まで、みんなと、亜美と一緒に。見ていてくださいね。見ていてくださいね。きっと、跳び越えて戻ってきちゃいますから。
『ありが、とう……ございますううぅぅぅ!』
一度大きく息を吸ってから、精一杯の大声をマイクに叩きつける雪歩さん。それに応えるようにファンのみんなも声援を絶やさない。
「雪歩の諦めないで頑張る姿が一番好きだー!」
「ゆきぽー! きゅってしてくれー! 俺を爆発させてくれー!」
『ありがとうございます……ありがとう、ございまずぅ……』
温かいみんなの声に思わず泣いてしまう雪歩さん。もうこのライブでどれだけの涙が流れたのかな?
でもちっとも悲しくない。だってみんなが流した涙は、うれしいとか、感動とか、そういう心が温かくなる涙ばかりだから。
このライブが、そんな涙で埋め尽くされるといいなぁ。そのために私もがんばろう! もうすぐ出番なんだから、精一杯みんなの気持ちの分も歌わないと!
『ず、ずいません。ひくっ、わ、私の次はみなさんお待ちかねのアイドルで、すよ? 応援してあげてくださいね?』
精一杯笑顔を作ってから、スポットライトからするっと抜ける雪歩さん。今にも泣き崩れてしまいそうだ。それを優しく真さんが抱きしめてあげてた。
…やっぱり、真さんが王子様にしか見えない。さっきはお姫様にも見えたんだけど、不思議だなぁ。
次は誰が来るのか、と言ってもまだ歌ってない人はそういない。だからこそ私の心もばくばくしてるんだ。
だってもうすぐ、私が歌うのだから。
この心をみんなに、届けられるのだから。絶対に届けよう。私たちの気持ちを。物語を。伝えられるだけ。


雪歩ってば無茶振りするなあって思った。「みなさんお待ちかねのアイドル」かあ。まったくもうそれは。
「それはやよいとか亜美のことじゃない。私のことじゃないから。出にくいなあ」
眉を落としてののわってみる。確かに私は765で最初にDランクになったよ。雪歩も真もFランクをうろうろしてたころに、私は運をつかんでそこまではトントン拍子。
歌のお仕事はほとんど無かったけど、全国放送の番組にもちょくちょく出るようになった。ひな壇が多かったな。
カメラに映る時間短かったからとにかくおもしろいこと言わなきゃってがんばってたら、バラエティのお仕事には困らなくなった。
ラジオじゃ冠番組までいただいちゃって、順風満帆なアイドル生活だった。
「でも、思い出しちゃったんだ」
千早ちゃんやあずささんが765に来て、抜群の歌唱力を引っさげて鳴り物入りのデビューをしたんだ。真や響ちゃんもダンスが認められ始めた。
歌やダンスで自分を表現するみんなを見て、私も歌が好きだったことを思い出した。歌でみんなに元気を上げたくてアイドルになろうとしたことを思い出したんだ。
「でも私、歌ヘタだったからねえ」
あ、嘘付いちゃった。今もヘタだった。とにかく歌で何かを伝えたくて、ヘンなことばかり言う私のプロデューサーさんと二人三脚でいろいろチャレンジした。
変化球な歌を歌ったこともあったな。私はそのたびに黒春香とか白春香とか噂された。
「それで、諦めたんだった」
やれることは全部やって、やったつもりになって、私は諦めた。千早ちゃんの歌も真のダンスも、まさにタレントなんだからって。
才能がある人にはかなわない、だから私は私のできることをしようって、すっごく前向きな気分で諦めた。
「…そこに今度は亜美真美とかやよいだもん。困っちゃうよ」
亜美も真美もやよいも歌はうまくなかった。でもそんな歌でもあんなにみんなを感動させて。
亜美をゲストに迎えての生放送だったあのラジオ収録、亜美にとっても奇跡だったらしいあの生収録の日に、私は間近で亜美を見た。間近で亜美の歌を聞いた。そして私は決めたんだ。
「もう一度、ちゃんと歌を歌おう。私は歌が好きだから。歌うことが好きだから」
ってね。それからめいっぱい練習した。すこしでもうまく歌えるようになりたかったから。プロデューサーさんともみんなとも嘘一つなくぶつかった。
自分もファンのみなさんも誰一人裏切りたくなかったから。
「聞いて。みんな私の歌を聞いて。私も歌うから」
千早ちゃんみたくうまくは歌えないけど、亜美ややよいみたく、心を込めて一生懸命に歌うから。嘘偽りないまっさらの天海春香を歌うから。

はるるんがステージに上がって、私は目をしばたいた。ホントはやっちゃいけないんだけどまぶたの上から目をこする。ツカレメか何かだと思ったんだ。でもチガッタよ。
「はるるんにゴコーがさしてるよ。ナンマイダブナンマイダブ」
トナリで真美が手を合わせてる。マチガイナイんだよやっぱり。はるるんのリンカクはあふれる光の中にぼやけてる。はるるんはうず巻く光に抱かれて、七色に輝いていた。
「…女神さまや。女神春香さまがご降臨なさった…」
チンモクの東京ドームのドコカからそんな声。ちっさな声だったのに亜美の耳に聞こえた。いやエンシュツなのはわかってるよ? でもそれをホンモノの神様かもってサッカクさせたのは、
「はるるんの、キハクだ…」
千早お姉ちゃんやお姫ちんみたくピキピキしてるわけじゃないんだよ。ユルヤカーにはるるんは笑っている。でもそのほほ笑みに私も会場もケオサレて。ジブンからヘーフクしたくなるよな。
♪YES♪ 広い空のような みんな夢を見てる そして叶えてく♪
はるるんが歌う。ヤサシイヤサシイ歌声をドームに響かせる。「イエス」、ただそのワンワードで私はユルサレた。ミトメられたって思った。コーテーされたんだ。
ユメを見ること、んでユメをかなえるためにがんばること、そのスベテがミトメられた。はるるんはそれをオーエンするって言ってくれた。
♪輝くこの宇宙で♪
カガヤくウチュー、だってさ。亜美にはわからない、わからなかったウチュー。「スターレス」で亜美が歌ったシッコクのウチューは、亜美に見えてたウチューなんだ。
星一つないよな真空でも、はるるんが見たらきっとダイギンガダンの一部。星キラメいてカガヤくウチューなんだ。
「…神様のシテンだよ、ソレ。はるるん、どんだけ高いトコに行く気なのかな?」

♪どこ行こう Miss My Self どこがいい? 向き不向きじゃなく ねぇ前向きで歩いてゆこう♪
私は伝えたいんだ。向いてるかどうかなんて関係ないよ。だって一度切りの人生だよ? 行きたいところを目指せばいいんだ。生きたいように生きればいいんだ。
♪何しよう Miss My Hands 何がいい? 後向きになった時は 後が前に変わるんだ♪
挫折することもあるよ。私は何度も折れそうになった。うつむいたっていいじゃない。後ろ向いちゃったって。新しい何かが見えるかもよ? 人生は続いてく。続いてっちゃうんだから。
♪今 たった今 幸せになれる気がしたの だって ここまでこれた私だもん♪
幸せになれるよ。私は幸せになれる。みんな幸せになれるよ。だって、幸せになるために生まれてきたんだもん。幸せになるために生きて来たんだもん。
♪YES♪ 広い空のような みんな夢を見てる そして叶えてく だから未来がある♪
大丈夫だよ。みんな間違ってない。誰も間違ってない。そりゃ失敗や勘違いもあるけど、夢を持っていれば。ほんのちょっぴりでも夢に向かっていれば、未来は開けるよ。
だって、私だって夢がかなうんだもん。まだまだ遠い夢ばかりだけど、アイドルになりたいって、歌でみんなに元気をわけて上げたいって夢は、かないつつあるんだから。
♪YES♪ もし今日に意味があれば ひとつだけでいい どうか明日になる為であれ いいでしょ神様♪
今日に意味はあるよ。辛い今日でも、明日のしるべになる。そうやって毎日を生きて行くんだ。それがきっと神様が望んだことだよ。そうですよね、神様?

『ありがとうございます! ありがとうございます!』
今日のライブでもイチダン上の大カッサイを受けながら、はるるんはオキアガリコボシみたくぴょこぴょこ頭を下げてる。両目からナミダこぼしながらね。ソレどーなのとは思うけど、
「…サスガだよね、はるるんは」
はるるんはそれでよいんだ。いやいや、はるるんはそれがよいんだ。はるるんはアイドルなんだから、みんながユメ見るグーゾーなんだから。歌もダンスもジョーズじゃないはるるんだけどさ、
「はるるんこそが、アイドルの中のアイドルだよね?」
そう思うよ、亜美は。
「んっふっふ~、それはどーかな亜美君!」
とかカンガイふけってたら、近くからよく聞いた声。私はゼンゼンチガウって思うけど、みんなは声までおんなじって言う声は、真美の声だ。
「アイドルオブアイドルズ、ジブンかやよいっちでなきゃはるるんて、そのニンシキどーなのさ、亜美ー?」
ニンヤリと笑いながら真美。ああそれはイタズラする気マンマンの笑い方だ。
「ま、亜美はそこで見てなよ。真美のスペシャルパフォーマンスをさー?」
んで、トップアイドルのダッシュをセンゲンしてくる。んー、まあ、
「ガンバってねー、真美ー」
オーエンするよ、亜美は。あ、真美がイッシュンだけフキゲンになった。
「…まあいっか。でもさ亜美、亜美は忘れてない? 真美と亜美は双子なんだよ?」
いや忘れるとかそーゆー話じゃないからソレ。ナニ言ってんのさ真美。
「亜美の考えてることなんて、真美にはゼンブオミトーシなんだゼ? じゃ、行って来るかんねー?」
真美はスタコラサッサとステージに出ていった。

「ま、なんてゆーかさ」
はるるんを追い出したメインステージの上、私は口の中でつぶやく。
「亜美も兄ちゃんも考えすぎなんだよねー。ナンでそんなカイシャクしかないとか決め付けるのさ?」
ゆきぴょんの『Kosmos,cosmos』いっぱい聞いてるはずなのにね? 歌はココロなら、こめるココロを変えれば歌は変わるハズじゃん? 私はそー思うな。
サッキョクカのおじちゃんにこっそしソーダンしたら、ナンかやたらカンドーしてたし。あ、サッキョクカのおじちゃんは今回のシコミのキョーハンシャなんだよ。
兄ちゃんも知らないシコミのね。
「じゃ、歌おっかな」
カンセーシツの方を向いて私はウィンク。すぐにドームにゼンソーが流れた。真美の歌『黎明スターライン』のゼンソー、じゃないんだなコレが。
会場がざわめく。兄ちゃん姉ちゃんたちはやっぱりすぐに気付くねえ。
♪ふわり 静寂をつらぬき 空の 色が変わってゆく Deepviolet♪
デイライトじゃなくてディープバイオレット、「スターレス」の方だよ。兄ちゃんにもヒミツのサプライズ! コレは亜美イガイには歌えない歌、のハズだよね?
でも歌はココロだから。それに真美は亜美と双子だから。
♪目指してきた 大圏 飛び立て♪
大圏コースをなぞってウチューへ。きっと南北大圏だよ。窓の外はギョーアンが広がる。「スターライン」はサニフルな昼間の出発だった。でも「スターレス」は夜明けに出発するんだ。
♪胸に湧き上がる 気持ち 最高?感動?♪
どんなケシキなんだろね? 夜と昼のハザマ、青と緑のセーソーケン。キョクホクにはオーロラが降りて、行く先はムゲンに連なる星の海。サイコーだろね。カンドーだろうね。
♪いつか 約束した軌跡 Shootingline♪
流星のキドー、約束のキセキ。亜美はそれを兄ちゃんにしたんだよね? イッポーテキにさ。ま、それはそれでいいんだけど、真美はチガウ約束をしたいよ。
ダレかを置き去りにする約束じゃなくてさ、イッショに行く約束をしたい。それならきっと、チョクセンのキセキでもツラクないよ。サミシクないよ。
♪突き進んで今 展開 溢れはじめる Break down, apart!♪
突き進もう。あふれるナニかでぶっコワしちゃおうよ、亜美!

突き出された腕、広げられた手のひら。私は舞台ソデなのにさ。ファンの兄ちゃんたち姉ちゃんたちからは見えないのに、それでも真美は私を誘う腕を動かさない。
タシかに今日のライブの言い出しっぺは亜美とやよいっちだけどさ、ダメだよ真美、真美はアイドルなんだから。
♪僕たちはそこで 君と出会った ミタサレた ココロ♪
真美はフドーのままに歌う。ああ、そんな歌詞だったね。元を創ったのはおじちゃんだけど、亜美が創った歌詞だ。私は最初から歌ってた。
「僕たち」が「君」と出会った歌だったんだ。あの人と出会ってミタサレた私たちは、スキをキョーユーしてる。キョーカンできる。私たちはソレを語り合える。
私にはそんなトモダチが、仲間がいる!
『…おい亜美どうした? ファンのみんなが待ってるぞ?』
そしたら耳のイヤホンから兄ちゃんの声。びっくりした。
『いったい何小節真美を固めとくつもりだ? 今の亜美なら、あんな「スターレス」も歌えるだろ?』
…アオるなあ兄ちゃんは。わかったよ、亜美はソソノカされてあげるよ。
「おーけ、兄ちゃん」
亜美はちっとばかし勇気を込めて、右足を踏み出した。
♪聴こえるよ 君と僕の夢が照らす 地球の光♪
右に左に手をフリながら花道を走る。センジョーのよな会場、バクゲキのよな声援の中、亜美は走るよ。ずっと手を突きだしたままの、ずっとシンライの笑顔を私に見せたままの真美に向かって。
♪さあ! もっと彼方へ 飛ばそう夢を♪
私は真美の手をにぎる。真美が私の手をにぎり返す。イッシュンのメクバセの後、にぎり合った手を中心に体を入れ替えて半回転。胸を開いて反対の手をのばして。
合わせなんていらない、亜美と真美は双子なんだから。フタリならユメを飛ばせるよ、どこへだって。
♪いつでも確かめられる カガヤキ♪
いつでもタシカメられるよ。私には真美がいる。やよいっちがいて、仲間のみんながいて、ファンの兄ちゃん姉ちゃんたちがいて、んで亜美の兄ちゃんがいる。
みんなカガヤいてて、みんながみんなをカガヤかせてる。みんながいるから亜美はカガヤくことができるんだ。
♪新しい波で 君に届ける 切り開くよ 時代♪
亜美は探すよ、新しい波を。兄ちゃんにみんなに新しいナニかを届けたい。切り開くよ。亜美はアイドルだかんね。
亜美は生まれ変わって、生まれ変わった亜美は時代を生まれ変わらせるよ。
♪共鳴♪
うん、亜美はタシかにキョーメーしてるよ。真美に兄ちゃんにやよいっち、ホカにもたくさんのみんなと感じあえるてるよ。
♪欣快♪
亜美はみんなとセカイとツナガッテるよ。このカンジ、キモチイイね?
♪幸甚♪
亜美はシアワセだよ。ダレから見たってマチガイナクね。でしょでしょ、シアワセそうっしょ?
♪連綿♪
亜美は兄ちゃんがスキ。亜美はみんながスキ。スキでいるコト認められたんだかんね。
♪感応♪
亜美はカンジあえるよ、兄ちゃんと真美と、みんなと。みんなも亜美のココロ、シアワセなココロ、カンジてほしいな。
♪広大♪
広いセカイに、アイが広がってくよ。亜美のちっさかったアイ、ワガママでイッポーテキだったアイが、広がってく。
♪汎愛♪
ドコまでアイせるかな亜美は。ゼンブをアイしたいな。だってここは亜美のいるセカイだから、みんなのいるセカイだから。
♪悠遠♪
この新しいユメが、亜美の新しいユメが、どうかエイエンでありますように!
♪到来 黎明 Swing-by! Starless's Day♪
ココが亜美の新しいスタート。亜美たちの新しいスタートだ。亜美はたどり着いたよ。ムカシの私はスイングバイだ! さあ行こ、星無いセカイでもコワくなんてない!
♪飛びこめ! 果てまで!♪
亜美には、みんながいるから。真美とやよいっち、ジムショのみんなに兄ちゃんたち姉ちゃんたち、ナニより兄ちゃんがいるから!

ソーカイだあ、って思った。歌い切ったよ。新しい亜美を歌い切った。ムガムチューのダンスもナンでか真美とキレーにシンメトリーだったし。ツナガッテたんだよきっと。
一曲のハンブンのさらにハンブンだけなのに、ヒローコンバイだよ。それにこのハクシュとカンセーの嵐。
「亜美ちゃーん!」
「真美ちゃんも、最高だったー!」
ドーニカ聞き取れたのはそれくらい、あとは声ってゆーか音ね。グワングワンひびきあっちゃってる。
「…やりとげたあ」
汗だくだよ。汗が目に入ってイタい。ナミダがにじんでショーメイがまぶしい。でも目はとじたくないな。ヤキツケたい。イッショー忘れないように。この、サイッコーのステージを。
「あれあれ~? ナンか聞こえない亜美ー?」
とかヒタってたら真美がクチはさむよ。コレだけうるさきゃソラミミもあるジャン? 空気読んでほしいな真美は。
「…あ! 亜美亜美、ジュンビしなきゃ! 歌が始まっちゃうよ?」
真美のケンマクに私のイシキがスパークする。そしたらハッキリ聞こえた。アレは、
「げげげっ? 『ポジティブ!』の前奏じゃん!」
うわ兄ちゃんヒドいよ~。タシカに真美の後は亜美で『ポジティブ!』のセットリストだけどさ、コチトラへろへろなのに~。
「ダイジョブだよ亜美」
ひざがくずれかかった亜美の腕を、真美がつかんだ。真美は私を引き立たせる。
「亜美はトップアイドルなんだから、歌わないとダメっしょ。ダイジョブ、真美がフォローしてあげるからさ!」
え、真美? だって『ポジティブ!』は真美を亜美にさせた歌だよ? 真美に『アイドル双海亜美』を押しつけた歌だよ?
「『アイドル双海亜美』で、真美が何回『ポジティブ!』歌ったと思ってんのさ。レンシュー入れたらナンゼンカイかわかんないよ。歌もダンスも、忘れっこないじゃん!」
…どーしてみんな、亜美を泣かすのさ! 亜美はまた泣いちゃうよ。ウレシクてウレシクて泣いちゃうよ。
「亜美泣かない! 泣くのはステージが終わってから。さ、行くよ亜美!」
うん、歌おう真美! 私と真美はそろって口を開けた。
♪悩んでもしかたない ま、そんな時もあるさ あしたは違うさ♪
真美はすごいな。真美はいつも私を助けてくれる。亜美がイチバンヘコんでたときも、真美はソバにいてくれた。
♪目覚ましで飛び起きて 笑顔で着替え いつものバス飛び乗り 仲間とダベリ♪
「スターレス」は亜美にしか歌えないゼツボーの歌、ゼツボーの先のアイの歌だったのに。それをあんなに明るく歌いこなして。亜美にまであんな楽しく歌わせて。ホントにすごいな。
♪授業がタイクツ メールでつぶす 帰りにどこ行く? クレープ食べたい♪
楽しい学校のケシキだ。タイクツな平和。ゼツボーなんてなくて、キボーとユメとが溢れてて、それがアタリマエだから考えることもない、シアワセなケシキ。
亜美のトナリにもあったのに、そんなセカイに住んでたのに、亜美には見えてなかった。
♪気がつくとも一人 仮面つけた自分がいる 本当はカラ元気なんじゃないの? どうなの?♪
亜美はもう仮面をかぶってないよ。私をギセーになっても兄ちゃんの願いを、ナンてギゼンだ。いやギゼンならよいけど、亜美はウソツキだった。ジブンでジブンにウソをついてた。
そりゃカラ元気に決まってるよ。うにゃ? 真美が私にニヤリって笑った。あ、おけおけ。やろうよ真美!
♪ママの説教 パパのイビキ 進路の相談♪
亜美も真美もそこまで歌って手のマイクをステージの外に向ける。キャクセキの兄ちゃん姉ちゃんたちに。
『サイアク~』
よっしゃあ! 兄ちゃんたちたくさん返してくれた。もしかしら何千人とかかも。サスガよくチョーキョーされてるねー?
♪来週英検 突然持検♪
『つか教科書忘れたぁ~~!』
今度はもっとたくさん! すごいすごい! 私は真美に歯を見せて笑う。シセンをキャクセキに向けてアゴで示す。やっちゃおうよ。やっちゃえるよ、マチガイなく!
真美がうなずいた。うん!
『兄ちゃんたちもいっしょにぃ! WOW WOW♪』
亜美と真美の声がハモる。真美がカモォン!って手をふり上げる。着いといでよって、いっしょに歌おうって。そしたら、
『♪悩んでもしかたない ま、そんな時もあるさ あしたは違うさ♪』
合唱がおこった! 合唱だよ大合唱だよ。兄ちゃん姉ちゃんたちがいっせいに歌いだした。
『♪ググってもしかたない 迷わずに進めよ 行けばわかるのさ♪』
合唱の声がどんどんおっきくなる。どんどんたくさんの人が合唱する。すごいすごい!
『♪ヘコんじゃった時は 一発泣いて そして復活するのさ♪』
正面のおっきなオーロラビジョン?じゃいおりんとひびきんがカンペキな笑顔で歌ってる。あっちのディスプレイじゃはるるんに千早お姉ちゃん。
あ、まこちんにゆきぴょんなんてカッテにステージ上がっちゃってるし。まいーけど、楽しいし!
『♪そんでもダメなら シャワー浴びて そのまま爆睡するのさ♪』
アイドルもファンもない、ステージの上も下もない、三万人の大合唱! きっとこれが、「会場が一体になったライブ」なんだ! すごい。みんな、みんなすごいよ!
「さ、オゼンダテはバッチシだよね?」
私はニンヤリと笑った。ココからじゃ見えない子を思うよ。
「シメはたのんだゼ、やよいっち!」
見てもないけど思いっきり腕が空を切らす。でも確かに聞こえたんだ。
手の平と平がぶつきありあった、パチン、って音がさ。


「高槻やよい、あくせるふろすろっとる全力全開で歌わせてもらいまーす!」
準備なんてしてないけど。気持ちの整理もついていないけど。なんていうか、今はこの勢いのまま、何も考えないで飛び込みたい。
ファンのみんなの心の奥の奥、私たちアイドルみんなを応援してくれる優しい気持ち。もっと間近で触れていたい。できるだけ近くで歌いたい。
そしたらね、歌う曲はもう決まってたんだ。何回歌ったかわからない、誰かには聞き飽きたって言われちゃうかもしれない。
でも、だけどそれでも今の私が歌えるのはこれしかない。だってみんな、あんなにキラキラ輝いているんだから。
それを応援したい。ファンのみんなと一緒に応援したい。だから、歌うんだ。
♪フレーフレー頑張れ!! さあ行こう  フレーフレー頑張れ!! 最高♪

パアンッ!

曲が始まったと同時にステージにつけられていた花火みたいなのがどばーん!って鳴った。上に立っていたらそのまま空のお星様をとれちゃうかな?
『どんな種も蒔けば芽だつんです マルマルスーパースター!』
はい、こんな私でも芽になりました。
『どんな芽でも花になるんです マルマルスーパースタート!』
はい、こんな私でも花になれました。綺麗かどうかは、わからないですけど。
『お金じゃ買えない程大事です アッパレスーパーガール!』
お金じゃ買えない物もいっぱいできました。苦さと辛さも消費税でついてきましたけど。
『笑う門には福来たるです ヒッパレスーパールール!』
今の笑ってる私にはさいっこうの福がきたってます。この笑顔が証拠ですよ?
『晴れがあって 雨があって』
晴れもあった、雨もあった。でも最後はこうして。
『さあ虹がデキル!』
毎回したたらずになる次の場所、今日はどうかな?
『心と夢で 未来がれきるぅ~!』
だめでした。でもみんな喜んでくれてるからいいかなーって。えへへー。よーし、次もっがんばろーっ!
『ミラクルどこ来る?待っているよりも始めてみましょう!』

―ホップステップジャンプ!!―

『キラメキラリ! ずっとチュッと 地球で輝く光!』
多分、ここが一番輝いてます。私も、みんなも、太陽なんて目じゃないくらいに目立っちゃってます。
『キラメキラリ! もっとMoreっと 私を私と呼びたい! トキメキラリ! きっとキュンッと 鏡を見れば超ラブリー!』
超ラブリーに見えてたらいいなぁ。そう見えるようになれてたらいいなぁ。
『トキメキラリ! ぐっとギュッと』
どこまでもぎゅ~~っと!
『私は私がダイスキ!! イエイ!』
どうにもならないくらい、大好き。
『フレーフレー頑張れ!! さあ行こう』
フレーフレー頑張れ!! 最高♪
……今まで落ち着いていたのが嘘みたい。うん、全部嘘だもん。もう、じっとなんか、してられないよ! ビックリマーク全開でいっくぞー!

『どんな卵だってカエルんだぞ!! ワクワクテカカ!』
かえりましたよ! 見事に! アイドルとしてー!
『金色じゃなくても眩しいんだぞ! ドキドキピカカンカン!』
みんなみーんな! どんな色でも眩しいんだぞー! もっともっと輝けっ!
『ランプと壷を買ってみたんだぞー! アラアラウララ! クシャミが擦ってみてみんだぞ~ アダブラカタブララ!』
買ったのはあずささん! ってわけじゃないけどそんな感じ? それにアダブラカタブラってなんだろ? まっいっか!
『宇宙かーらー 見れば地球も流れ星! だからー願いーは叶っちゃうかな~!』
私の願い事は至って単純。このライブがもっともっと楽しくなりますよーに! それじゃ成功の呪文いってみよう!
『とうきょとっきょきょかきょく きゃかきゃかあれれ? みんなもいっしょにーうーたって!』

―キラメキラリ! ちょっとフラット!―
『うぅ~!』
―それでも私のメロディー―
『らりほ~』
―キラメキラリ! ピッとビビッと!―
『ビビッとー!』
―元気に歌えたら! 『ALL OK!』―
―テキパキラリ! パッとパパッと!―
『パパッ!』
―お楽しみまだこれから!―
『えへっ!』
―テキパキラリ! GOODニカッと―
『ニカッと~!』
―『最後に笑うのはワ・タ・シ!』―

『『ギターソロ カモ~ン!』』

うぅ~、一旦休憩。じゃないともうふらっふらだよー。こんなに疲れたことなんてなかったのにー。
それに亜美も一緒にギターソロ呼んじゃってたし! もうっ。私だけの曲じゃないからいいけどね。
そうだ、ギターの人には悪いけど、ここでみんなに伝えたいこと言っちゃおう。

『うっうー!! もうすぐ曲も終わりですけど、最後まで一緒にふろすろっとる全開でうたってくださーーーい!』

いっちばん大きい歓声が応えてくれた気がした。えへへっ。さあ、ギターさんがいってこい! みたいな目で見てる。
だからその気持ちごと最後までつっぱしらなきゃね! もうがそりんなんて残ってないくらいに、燃え尽きなきゃ!
『キラメキラリ 一度リセット
そしたら私のターン?』
  ―やよいのターン!―
『キラメキラリ プッと「ポチッっとな♪」
元気に始めれば ALL OK!』
―ALL OK!!―
『テキパキラリ! ホットハート!』
―ハートっ!―
『白黒だけじゃつまらないっ!』
―だねっ!―
『テキパキラリ! ちゃんとチャチャッと?』
―チャチャッと!―
『オキラクゴクラクの虹へ!』
―てんちょー!―
『キラメキラリずっとチュッっと!』
―チュチュッ!―
『地球で輝く光!!』
―やよいっ!!―
『キラメキラリ もっとMoreっと??』
―もあーっと!―
『私を私と呼びたい!』
―やよいをやよいと呼びたい!―
『トキメキラリ!! きっとキュンッと!』
―キュキュンッ!!―
『鏡を見れば超ラブリー!』
―うっうー!―
『トキメキラリ! ぐっとギュッっと!!』
―ぎゅ~っとぉ!―
『私は私がダイスキ!』
―『イエイ!!!』―
―『フレーフレー頑張れ!! さあ行こう♪』―
―『フレーフレー頑張れ!! 最高♪』―
『フレッフレッ頑張れ さあ行こう』
『フレッフレッ頑張れっ さいっこ♪』

左手を胸の高さで、前に突き出してぐっと親指を立てる。片目も瞑って、可愛く見えてるかな? 静かなうちに言っちゃおう。短いけど、素敵な言葉。
「……っ!」
大きく息を吸って、私は言った。
「ありがとーーーーーっ! ホントにほんとにほんとにほんとぉーーーーに!! ありがとぉーーーーーーーーーーーーっっ!!」
我慢し切れなかった言葉だったけど、言わなきゃもうほんとにだめだめで。だからきっと、悪くない。悪くないんだ。
不意に体が揺れて、ぎゅっと抱きしめられる。うん、私の大好きな大好きなあの子が抱きついていた。
「私の歌、届いたかな?」
「…うん」
「少しは、応援できたかな?」
「…うんっ」
「それじゃ、亜美と仲直りも、できたかなぁ?」
「…うんっ!」
「そっか、よかったぁ。ほんとに、よかったぁ……」
「やよいっち、あの日、言えなかったこと、伝えるよ」
「うん」
「ごめんね、ありがとう。んでもって、大好きだよ」
「…うん」
『二人とも、ゴールするにはまだ早いんじゃないか? これから、だろっ?』
ふと聞こえるプロデューサーの声。この状態からまだやるんですか? そんな言葉も沸かずに二人で同時に答えていた。
「はいっ!」「うんっ!」
中心で抱き合う私たちに駆け寄ってくるアイドルのみんな。離れ離れになっていた星と星とが手を取り合って、大きな輪になって。ああ、よくわからなくなった。
私は頭がそんなによくないから。でも、おぼつかない足取りでなんとなく、なんとなくなんだけど。
…ミタサレている。私たちは、ミタサレているんだよ。
そう、思ったんだ。
でもきっと溢れてしまうね。だってまだまだライブは始まったばかりだから。最高の一日はまだ、終わってなんかいないんだから。
2012.12.25 Tue l アイドルマスター l COM(0) l top ▲

コメント

コメントの投稿












       
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。