上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.-- -- l スポンサー広告 l top ▲
「準備はいいか? かなり大きなステージだからガンガン動き回れるが、自分の体力の管理は忘れないようにな」
「はい、わかりましたプロデューサー」
「落ち着いてるな、いい傾向だ。『キラメキラリ』は売れるだけ売る! だからこそ、今回のライブは特に大切なポイントになる。焦らず、だがやよいらしく全力元気で行こう」
「私らしく、ですね。『キラメキラリ』を歌う私らしく」
「ああ、やよいならもうできるよな?」
「はいっ!」
「いい返事だ。…はあ」
「どうしました? 亜美のスターレスが気になるなら、そちらに行っても平気ですよ」
「いや、うん、まあ正直気になるけどさ…やよいだってほっとけないし、しかも今日は武道館ライブだし。それに」
「亜美からなるべく来なくていいからなんて言われましたか?」
「ああ…やっぱりスターレスの一件から少し亜美のことがわからなくてな、どうしたもんかと。…悪いな、こんな時に変な話して」
「いえ、大丈夫です。でも亜美にも考えがあるんですよ。亜美はこれまでにない、最高の曲を歌おうとしています。そのために必要なものが」
「絶望、か」
「そこまでわかるなら、亜美をわかってあげられるのもあと少しですよ」
「ここまでわかるんだがあとがわからん」
きっとそうですね。プロデューサーはプロデューサーですから。死ぬまでずっとわからないでしょう。もしかしたら来世になっても、わからないままかも知れませんね。
「あーよし、今は忘れる! 目の前のことに集中だ!」
「はい」
「んじゃ俺は最後の見回りしてくる、もし不安なら戻ってきて一緒にステージまで行くが?」
「大丈夫です!」
「…やよいも強くなったな。それじゃまた舞台袖でな!」
「はいっ」
そう言ってプロデューサーは控え室から出て行った。多分、また亜美のことで心がいっぱいなんだと思う。もういいや、って思っても答えを探すそれと似ている。
さっきも言ったけれどプロデューサーは答えを出せない。なんども言うけど、プロデューサーがプロデューサーだから。少しだけ笑っちゃうな。
「何かおかしいの? やよいちゃん」
奥深い、おもむきがあるのんびりとした声が聞こえる。あずささんだ。今日の武道館ライブ、実は一人じゃなくて、あずささんとの二人で行うライブなんだ。
あともう一人、特別ゲストがいるんだけどお客さんはそれを知らない。えっと、さぷらいるげすと? だったかな、それがあるんだ。
あずささんとそのもう一人、実は私の我侭に付き合わされたひがいしゃだったりもする。本来なら今回は私一人でやるライブだった。
『キラメキラリ』のはんばいそくしんライブだから、それが普通でプロデューサーも最初はそう言っていた。そこで私があずささんともう一人、その三人でライブをしたいって言ったんだ。
担当アイドルに無理ばかり、させてさせられているプロデューサーは当たり前のように却下した。そのときの顔は、もう勘弁してくれ、そんな顔。でも私はこういった。
『キラメキラリ』とはんばいそくしんと共に亜美の手助けもしたいんだ、と。そしたらプロデューサーの体がびくってなって、亜美のためになる理由を聞いてきた。
残念ながらそれを言ってしまうと、何もかもが台無しなので教えられないとしか言えなかった。
少しだけプロデューサーは考えて、ため息をついて眉間にしわを寄せながらオーケーを出してくれた。
その結果があずささんと私、あともう一人でぱーっと盛大なさぷらいるライブなんだ。あずささんらしく言えばさぷらいるぽーりーいえい! かな?
「それにしても本当によかったの? 私なんかが出ちゃって。せっかくやよいちゃん一人で歌えたのに」
「一人で歌ってみたかったーっていうのももありますけど、やっぱり歌はみんなで歌ったほうが楽しいですし! 何より、亜美に教えてあげたいんです」
「亜美ちゃんに?」
「はい、これでもお姉ちゃんですから。たまにはがおーって怒らないと!」
「あらあら、もう私なんかよりすっかりお姉ちゃんの風格が漂ってるわ~うふふ」
「そうですか? ならきっと今日も大丈夫です! あずささん、今日も楽しく元気にいきましょー!」
「おー、かしら?」

あずささんと話していたらスタッフの人が入ってきて、「そろそろ始まるから」って言われた私は舞台袖まで移動した。
あずささんは私が一曲歌った後に『9:02PM』を歌いながら登場する予定だ。
私の最初の歌は、『GO MY WAY!!』。その後ですかさずあずささんのバラードとと、あっぷだうんが激しいせっとりすと。今日のライブはそんな感じでいくそうだ。
既に舞台袖にいたプロデューサーと、最後のお話をする。そしてかわした約束の一つを、ここでやってもらおうか、なんて思ってるんだ。
「いよいよだな、やよい。別に歌うわけじゃないが俺もドキドキするよ。亜美でもここまで大きいライブやったことないし」
「亜美もすぐにこんなでっかーいステージに立ちますよ。私のほうが少しだけ早かっただけ」
「…なんかやよいって亜美のことになるとなんでもわかるよな、少し羨ましいよ」
「亜美だけじゃないです、真美のこともわかります。でも今は亜美のほうがよくわかるかもしれないです」
うん、あの二人のことならわかりますよ。だって私とおんなじアイドルで、私と最初に友達になってくれた二人だから。
それでいて、ライバルだから。
「俺にもその能力があればな…まあ無いものねだりはよくないか」
「あはは…そうだ! プロデューサー、私忘れてました!」
ほんとは忘れてなんかないけれど。いたずらにも満たない私の小さないたずら、その小ささは…千早さんの胸くらい? なーんて、私も一緒なんだけど。
「ん?」
「もし私が一位を取れたらってお話、その約束。まだしてもらってないです」
「ああ、そうだった。しかし今するのか? 結構人も多いからライブ終りの控え室とかで」
「今じゃ、だめですか?」
少しだけ甘えた声で、うわめづかい? でプロデューサーを見つめてみる。うん、すごく恥ずかしい。顔から火がぼーーって出そうなくらい恥ずかしい。
「あ、いや…まあどこでやるかもやよいの権利か。わかったわかった」
そう言って少しだけ周りを見て、少しだけズボンで自分の手を拭いた。拭いたところの生地の色が変わってるのを私は見逃さず少しだけ笑う。そして、ゆっくりと私の頭に右手を置いた。
ぽふっ、わしゃわしゃ。
なでるというか、さんぱつやさんで髪の毛を洗ってもらうときのような感じだけれどプロデューサーだし、まあいいかな。…満たされている、それはこんなときのことを言うのかな?
不意に亜美に聞きたくなった。理由なんかないけど。
「…これでオッケーかい? やよいお嬢様」
「はい! これで元気100%から120%です!」
「よし、その調子で暴れまわって来い!」
「はい!」
音楽はもう響き始めている、ライブならではの前奏アレンジ。私は、私が私として最初に歌った歌を歌う。言わば高槻やよいのげんてん? 始まりは苦手な英語だけれど。
「―――GO MY WAY~」

その後『GO MY WAY!!』を歌詞の通りフルスロットルで駆け抜けた私、曲調は一転しあずささんの『9:02PM』に変わる。サイリウムの色もオレンジから紫へ色を変えていた。
少しだけ二人で自己紹介とトークをしてすぐにまた二曲『おはよう!!朝ご飯』と『shiny smile』を歌い終わる。
「はーい、以上! 『shiny smile』でした~」
「うっうー! テンションはさいこうちょー! みなさんも楽しんでますかー!」

―――うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!

ライブならではの白熱した返事とも言えない返事だけど、ライブだから許される。所々から甲高い口笛の音も聞こえる。私にはできないけど、確か亜美はできたなぁ。
「そんなわけでここまで四曲、ほぼノンストップでやってきました。ここからは少しだけお話タイムとなりますので、みなさんも座って聞いてくださいね~」
「今のうちにお水を飲みましょう! 私も飲みます!」
そう言うと立っていたファンのみなさんがぱたぱたと座り始めて、用意してきたすいぶんを飲み始めた。なんだかいつもよりもみんなが疲れている気がする。なぜだろう?
「さて、やよいちゃんと私の歌はどうだったでしょう? 今回のセットリストはアップテンポの曲からゆったりとしたバラード曲が交互に入り乱れております」
あずささんのMCがのんびりと続く。なんというか、MCと言えば律子さんが思い浮かぶけれど、実はあずささんもかなりうまいと思う。
でもどこか抜けていて、それがみんなの心を掴んだりしていて、ファンの間では「癖になるMC」と言われているらしい。
「―――となりましたー。みなさん少しお疲れのようですが、平気ですかー?」
だいじょうぶーへいきだーなんて声が転々と聞こえる。まだ四曲しか歌ってないから当たり前なんだけど、それにしてもやっぱりファンのみなさんがすごく疲れてる。うーん。
「それじゃーやよいちゃんと私の声に続いて、おー、って言ってくださいね。それじゃ、やよいちゃん?」
「はい! みなさん! まだまだいけますかー!」

―――うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!

「一緒に歌ってくれますか~?」

―――うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!

「元気のちょぞーは十分ですかー!」

―――うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!

「あなたの隣は、空いていますか?」

―――うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!

「あらあら、うふふ」
…三浦あずさ、おそるべし? ちゃんとお客さんを楽しませて、自分の目的も忘れていないみたいだ。うん、素直に見つかるといいと思う。
「さて、その元気さも次の曲で全部使っちゃう勢いでいきましょー。みなさんも既にCDを買ってくれている、と思いますがいかがでしょうか?」
所々にくどくなく、ファンとアイドルは繋がっているんだーって思わせるような質問を投げかけている。気がする。
「そんなやよいちゃんの曲が何枚売れたのか~初週の売り上げを、こちら中央の大画面にーかしゃかしゃ形式で発表しますよ~それでは、どうぞ~!」
TVのなんとか鑑定という番組であるような、金額の一の位からどんどん数字が出てくる例のあれだ。正式名称とかあるのかな?
私の疑問などつゆ知らず、中央でぃすぷれいは回り続ける。

―???万???7枚
―???万??77枚
―???万?277枚
―???万7277枚

「さーここから一気に止まりますので活目せよ! ですよ~!」
かつもく、もく、きんもく、キンモクセイ。うん、たぶん関係ない。

――――137万7273枚

数字で出揃った瞬間に両脇からとっても大きいクラッカーがばーんと打ち上げられ、ひらひらと紙ふぶきが舞う。
少し置いて歓声が沸きあがる。すごい熱気だ。この熱気が亜美にも伝わっているといいな。ああ、勿論プロデューサーにも。

「はいっ、というわけで初週の売り上げは137万7277枚となりました! 拍手~!」
歓声と共に拍手もプラスされる、ここまでくると音が外に漏れているんじゃないのか心配になってくる。
「ありがとうございまーす! それじゃみなさんご一緒に! ハイターッチ!」

―――ハイターッチ!

「イエイ!」―――いえい!

更に歓声が高まる。この勢いのまま、行くしかない。
「それではみなさん! 私の大好きな歌、聞いてください! 『キラメキラリ』!」
ライブアレンジの前奏が流れて、たぶん今日一番の歓声が沸きあがる。それに負けないように、いくせんの声に負けないように。私の元気は、そんな力だって今は思えるから。
「フレーフレー頑張れ!! さあ行こう♪ フレーフレー頑張れ!! 最高♪」

前奏のアレンジ部分を入れた4分10秒。私が振りつきで歌う『キラメキラリ』が終わった。沸きあがるはずの観客の声がない、隣にいるあずささんの声も聞こえない。
私は思い出していた。沈黙の新宿小田急百貨店・亜美の乱、なんて春香さんがつけていたあの日のこと。
亜美が歌った『フタリの記憶』を聞いていた人たち全てが、黙りかえってしまったあの日のことを。
今、ファンの声が聞こえないのはそれと同じことが起きてるから。私にはわかった。ちなみに私はまだ右手でピースをしている。ちょっとだけ右腕が悲鳴を上げている。
きっと私がポーズを変えない限り、ずっと静かなままだと思う。
…亜美、私にもできたよ。あの後、亜美はひへいしきって何もできないでいたけど、私はまだ歌えるよ? 私、亜美の隣まできたよ? だから、だから。
そう思いながら、私は右手を下ろす。途端に先ほどのピークを超えた、なんていうのか、何万の怒鳴り声って言うのかな?
竜巻ができるんじゃないかってくらい、ファンのみんなの声が私の小さな体をふるいたたす。うん、もう文字じゃ表せない、それくらいの素敵な声援だ。
また、あの時の春香さんと同じように動けないでいたあずささんも動き出す。
「す、すごいわやよいちゃん! こんな素敵な歌をすぐ側で聞いていられて、私は今すごく幸せよ~!」
「わたしもいますごく幸せです! みんなも、幸せですよね!!」
まだまだ怒声に似た歓声はやまない。やまない。やまない。
あまりの事態にせっとりすとが少し変わるくらいに、歓声はやまなかった。
ようやく落ち着いた歓声のなか、あずささんが少し表情を暗くしている。あの日のこと、思い出しているんだ。

―――あれだけ心に届いてくる歌を歌えるなんて、羨ましいって思ったの。いっしょにね、自分じゃできないな~って自信を失くしちゃったの。

あずささんは、そう言っていた。でも大丈夫。あずささんの歌は、もっとなんというのかな? みんなが自信を失くしちゃうくらいすごいから。
だから私はあずさんの右腕に抱きつく。
「や、やよいちゃん?」
「大丈夫ですよ。私、あずささんの歌、すっごく好きです。だから歌ってください。あの時の亜美のように、今の私のように、それでいてあずささんらしく、みんなの心に」
マイクにも通さない二人の会話。フタリだけの秘密の会話。秘密のやりとり。少しだけドキドキする。
「…できるかしら、私に」
「できます。だって私たちはおんなじアイドルで、歌う舞台がここにあって、ファンのみなさんがいるんです。伝える場所も、伝える心も、ここにあります」
「伝える心…」
「あずささんの心も、ファンのみんなの心も、一緒です。マイクを通したあずささんの歌声は空気を伝って、波みたいにみなさんの心に辿り着きますよ」
「…」
あずささんの体が震えている。でもこの震えはもう大丈夫だって、知ってるから。怖いとかおそろしいとかの震えじゃなくて、自分をふるいたたせようとするふるえ。
うん、むしゃぶるいだ。
「…それじゃみなさん、次はあずささんのソロになります。私はちょっと後ろに下がって、でみなさんと一緒に聞きますね!」
そう言ってあずささんから離れて、少し後ろに移動する。プロデューサーがこっち見て、メロディーを流しても平気か? そう目で合図をしてくる。私はばっちり笑顔ではいとウインク。
その数秒後、ゆるやかな前奏が流れる。あずささんはまだ俯いたままだけど、あれが本来のあるべき姿なのかもしれない。
もしかしたら、私の『キラメキラリ』も超えられてしまうかもしれない、そう考えもする。でもなんでかな? すごく楽しいよ、亜美。
もうすぐ歌詞の部分。あずささんはぴくりとも動かない。会場が少しだけざわめいて、後ろのスタッフさんたちもおろおろし始める。歌いだし直前、あずささんのマイクを持った左腕が動く。

「―――空にだかれ 雲が流れてく 風を揺らして 木々が語る」
少し震えた声で、あずささんが歌いだす。私も、ファンのみんなも大好きなこの歌を。
「目覚める度 変わらない日々に 君の抜け殻探している」
うん、私にはこんなうまく歌えない。やっぱりこの曲は、あずささんだけの曲。あずささんがみんなと繋がる曲。
「Pain 見えなくても 声が聞こえなくても 抱きしめられたぬくもりを今も覚えている」
静かな声が、必死に繋がろうと声を高くする。伝えたい心をさらけだす。
「この坂道をのぼる度に あなたがすぐそばにいるように感じてしまう」
繋がるために、坂道を登る。どれだけ急でも、高くても、登りきるまで。
「私の隣にいてー! 触れて欲しい…」
ほら、もう平気でしょ?
この後、あずささんはこれまでにないほどの完成度で「隣に…」を歌う。さっきまであんなにざわめいていたみなさんの口、開きっぱなしだ。
あはは、おかしいな。ねえ亜美、見てる? 私は、私だけじゃない、他の誰かにも元気をわけてあげられるようになったよ。だから、だからね―――。

あずささんは歌いきる。5分08秒、のびやかに、きれいに、すてきに歌いきった。
「…すっごーいです! 私にはそれしか言葉が出てきません! そんなこちらの曲は、みなさんも大好きなー『隣に…』でしたー!」
会場の静寂を私一人で吹き飛ばす。あずささんは俯いたまま、お客さんも棒立ちしたまま。っと、何テンポか置いて、一つ拍手が聞こえる。
また一つ、また一つと重なって、いつの間にか拍手の大合唱が渦巻いていた。もう声すらでない、拍手しかできない、そんな感じかな。
「ほら、あずささん! ファンのみなさんが拍手してくれてます! あずささんも顔をあげてください」
そう言っても顔を上げないあずささん。少しだけ私は不安になった。私の元気じゃ足りなかったのかもしれない。そう思った瞬間、
ぽふっ。
と、私の体はあずささんの体に埋まった。
「ありがとう、ありがとう…やよいちゃん。ありがとう…」
念仏のようにそう呟くあずささんに、返事の代わりにぎゅっと抱きしめ返した。その間も拍手はずっと鳴り響いていた。
「私はなーんにもしてないですよ。だからあずささん、顔を上げてファンのみなさんに笑顔ですよっ」
「…うん」
話して、深呼吸をして、ファンのみんなに向き直るあずささん。その一連のどうさは、美術展に展示されている歴史的なちょうこくや絵よりも、もっと深い素敵な笑顔だった。
「ありがとうございます。私、本当の『隣に…』を歌えた気がします。聞いてくれたファンの皆さん、ありがとうございます…っ!」
そう言って深々と頭を下げるあずささんに、そんなことないよーって、聞かせてくれてありがとーって、声がいくつもかかる。顔を上げたあずささんは笑いながら頬に涙を流していた。
「…はぁ、はい! 三浦あずさ、落ち着きました~。さて、ではこの感動を胸に抱いたまま次の曲へ行きますよー! やよいちゃん、次の曲はー?」
「はい! 『私はアイドル』、聞いてくださーい!」

『私はアイドル』を歌い終わり、そのままもう一曲『まっすぐ』を歌い終えた。ここまで大成功のライブも、残り二曲で終り。
あと二曲でライブは終わる。『キラメキラリ』も『隣も…』も歌ってしまった。でも最後まで準備は万端。
「さて、名残惜しいですが…あと二曲でライブ終了となります!」
ええーという定番の声が上がる。叫びながらええーと言うものだから、すごく違和感だらけでいつも笑ってしまう。
「そこでですね~今回は二人で盛り上がるだけでは勿体無い、ということでスペシャルポーリーイエイ! ということでサプライズゲストがきておりまーす!」
あっ生ぽーりーいえい! あずささんが言うとすごくきまってて、かわいい。
「では、曲と一緒に出てきてもらいましょー! 今回、あずささんと私はばっくだんさーです! それではどうぞー!」
全ての照明が消えて暗くなる。そしてむきしつなテクノメロディーが流れ始める。心地いいリズムを刻んで、出てきたのはあずささんの声を聞いてふるいたったあの人。
「―Kosmos,Cosmos 跳び出してゆく 無限と宇宙の彼方」
どんな曲にもない、無限にも詰め込めるイメージ。むきしつな音から聞こえるこの人の世界。私も大好きなコスモスの歌。
「Kosmos,Cosmos もう止まれない イメージを塗り替えて」
そう、もう誰も止まれない。今この三人は誰にも止められない。そしてあの子もきっと、止まれないんだ。
「ユラリ フワリ 花のようにユメが咲いて キラリ 光の列すり抜けた二人」
この曲の主役は間違いなくこの人だけど、私も負けずに自分の世界を表現しながら踊る。私だけのオリジナルKosmos,Cosmos。誰にもまねできない私だけのKosmos,Cosmosを。
―Access to the future―
―Reason and the nature―
私とあずささんはそう呟く。二人とも同じ言葉を呟いてるのに、まるで違う言葉を言っているように感じる。さすがにファンのみんなには伝わらないかな?
…亜美、見てるかな? 私はここまでできるようになったよ? でもダンスや表現力はいまだにかな? だけど、だからこそ私は諦めない。
プロデューサーも、亜美も。どっちも手に入れようなんてずるいかな? でも私はもう知ってしまったから。
恋心を。
元から私は持っていたから。
姉心を。
亜美、ゼツボー込めるだけ込めてね。どんなに濃いゼツボーでも私のきぼうで照らすから。照らしてできた影も照らして見せるから。そしたら。
「私と一緒に踊って、歌おうね? 隣で…、ね?」

もう何度目の静けさだろうか、三人が三人とも自分の心をさらけだして歌った曲は刺激が強すぎたのかもしれない。
今回は私もあずささんも、そして雪歩さんも自分の世界をステージにほうわさせすぎたのかもしれない。すごくステージが狭く感じたのはきっとそのせい。
「はーい、そんなわけで特別ゲストは萩原雪歩ちゃんです!」
ファンのみんな、限界を超えているのが目に見えている。それでも雪歩さんに歓声を送る。目一杯、限界なんか超えちゃってなりふり構わないで、心に心を繋ごうとしてくれる。
「やよいちゃん、あずささん。わ、私っ今日のライブに出させてもらって、ほんとによかったです! おかげでKosmos,CosmosがよりKosmos,Cosmosらしくなって、えっと、その…」
「落ち着いて雪歩ちゃん。まずは、聞いてくれたファンの皆さんにお礼を言わなきゃ、ね?」
「すす、すいません! え、えーっと、萩原雪歩 16歳です! 今回は私の『Kosmos,Cosmos』を聞いてくれて、ありがとうございました!」
今日のライブは私の『キラメキラリ』からずっとピークに近い気がする。それだけのライブになったってことかな?
「はい、よくできました。さて、雪歩ちゃんの素敵な曲の余韻もありますが、次の曲に参りますね。そしてーなんとぉ? 次が最後の曲となってしまいましたー!」
また棒読みのええーっという万の声。だけど、さっきよりも本当に残念そうな声が増えたようで、嬉しくなった。
三人の持ち歌もなくなってしまった今、最後を飾る歌はなんだろう? きっとファンのみんなも疑問に思っている。でも曲名を発表されてもいまいちピンとこないと思う。
だけど、今の私ならその疑問すら払えてしまえる気がするんだ。
「次の曲の発表はやよいちゃん、お願いね?」
「はい! 次の曲は、『ポジティブ!』です!」
うん、やっぱりみんながざわめている。最後にポジティブ? そんな声色。
「あ、あのーやよいちゃん。どうして最後に『ポジティブ!』なの?」
雪歩さんはファンのみなさんの疑問を代弁し、私はこう答えた。
「私はみんなに元気を分けてあげたくて、でも私の元気は少し元気すぎるかなーって思ったんです。でもこの『ポジティブ!』はどこかぐーたらだけど、でも元気になる! そんな曲だって思ったんです! だから最後にみなさんと別れるときに、そんな元気を分けてあげられたらすっごーく名案かもって思ったんです!」
「やよいちゃんはいつも皆さんに元気をわけてあげたい、そう思っているとっても優しいアイドルです。…恥ずかしながら、私も今日はとても助けてもらいました」
「わ、私もやよいちゃんとあずささんを見てすごくがんばらなきゃって思いました!」
「だから最後に、やよいちゃんが歌うやよいちゃんなりの『ポジティブ!』、聞いてください」
「お願いします!」
あずささんと雪歩さんが頭を下げて、私も勢いよく頭を下げる。
プロデューサーから聞いた話だと、私のおじぎは「がるうぃんぐ」なんてかっこよく言われているので、今日はそれに負けないくらいの勢いでやったつもりだ。
ざわめいていた会場がしーんとなって、ぽつぽつと声が上がる。そしていつしか声が一つになる。
―――ポジティブ!ポジティブ!
そんな掛け声がライブ会場いっぱいに聞こえる。
「よーっし! 最後ですけど高槻やよい、全力フルスロットルで歌いまーす! いきますよー! みんなで一緒に曲名を、はい!」

「『ポジティブ!』」

私はステージではああ言ったけど、実は心の奥底では少しだけ違うことを思っていた。始終このライブ中に思い描いていたあの子こと。
亜美、私ね。亜美と真美が歌う『ポジティブ!』が大好きだった。無邪気な笑顔で歌う二人のこの曲は、私にとって希望だったんだって今になって気づいたんだ。
ずーっと一人でお掃除をしていて、ふと怖くなったとき、私を照らしてくれた私の希望なんだよ。亜美がゼツボーを知ってしまう前の、亜美なりに言うならキボーの歌。
それを知ってほしいから、思い出して欲しいから、この曲を歌うね。
私は、諦めないよ。どんなつらいことやこわいこと、かなしいことがあったとしても、進むから。

そう思いながら私の希望の歌、『ポジティブ!』を思いっきり歌いきり、ライブは無事に大成功のうちに終わった。
歌い終わった後、私たち三人がいなくなって終りのあなうんすが流れても、三十分ほど誰も席を立たなかったそうだ。
スタッフさんが総出で肩を叩いたりメガホンで誘導したりしてなんとかしたんだって。会場からファンが完全にいなくなったのは、ライブが終わった一時間後らしい。
さて、亜美? ゼツボーを込めるにはたっぷりかな。でもね、どれだけゼツボーを込めても私は負けない。
私は、私なりの希望を歌うから。


来た。やっとこの日が来てくれたよ。季節に一度の765ファン感謝祭。
765プロのファンクラブの兄ちゃん姉ちゃんたちからチューセンで二百人だけが入れる渋谷のホールで、亜美と真美は二つの「黎明」をハッピョーするんだ。
「センシューのやよいっちのに比べたらちっさなハコだけど、エイキョーリョクならジューブンだよ」
ファン感謝祭はダレよりも早く新曲を聞けるイベントなんだよ。有名ブロガーの兄ちゃんとかこっそしチューセンを操作して呼んでるらしい。テレビや雑誌の人たちもたくさん来てるし。
「やよいっちのブドーカンは三人、こっちのも三人。お客さんの人数はちかたないけど、ハコユレは負けらんないよねー?」
真美が元気イッパイに言うよ。うん、負けらんないよね。でもさ、
「こっちは四人だよ、真美」
私は返した。亜美と真美を入れて四人なんだよ。『アイドル双海亜美』は二人で一人だけど、ジッサイノトコロこれってずるいジャン?
「だからますます、負けらんないかんね」
「亜美、モエモエだねー? うし、真美もモエてきたよー!」
真美が拳を突き出してきたから、亜美もそれに合わせる。あは、まこちんみたいだ。
「亜美、真美、最新のチャート出たわよ」
がちゃりと控え室のドアを開けながら入ってくるのは、カガヤくおでこもまぶしいいおりんだ。
「…何だか不本意なことを言われた気がするけど、まあいいわ。今週の、って言うかこの本が出るときには先週のだけど、最新のヒットチャートよ」
ばさりと雑誌を投げてくるいおりん。開かれたページは言う通り最新のCDシングル売上で、その一位二位には0がいっぱいのキレイな数字が並んでる。
「二位の千早が今週0枚で通算百万枚、一位のやよいが今週十二万枚で通算百五十万枚。わかってはいたけれど消化率百パーセント、初版が掃けちゃったわ。ショートによる機会ロス額がいくらになるのか、計算したくないわね」
「そっか。やっぱりやよいっちは百五十万枚行っちゃったか。スゴいね」
いおりんが言うムツカシイことはムシして、私はわかることだけに返した。
「亜美真美いる? やよい初版完売よ、って何だ伊織も来てたの」
またまたがちゃりとドアが開いて、今度はりっちゃんだ。
「ダブル『黎明』の初回プレス、百五十万はもう手配済みよ。今日のライブの感触が良ければさらに五十万追加する。二人の希望通りの、初版二百万」
りっちゃんが亜美と真美を見る。ちっと怖い顔だけど、怖くないな。
「ダブルミリオンなんて、もう何年も出てないわ。あずささんも千早も、魔王もサイネリアも届いていない。やれるの?」
まありっちゃんはそう言うよね。そう言うだろね。でもさ、
「イケるよ。トリプルでもいいくらいだよ」
あはは、トリプルでも足りないよ。いやあウヌボレだけどね、ワリに合わないんだ、トリプルでも。
「亜美は『黎明』に命をかけたよ。ココロをスリツブシた。おじちゃんは泣きながらアレンジしてくれた。シャチョーやぴよちゃんはヒッシにスケジューリングがんばってくれた。兄ちゃんは」
ちょっと言いヨドム。いいコトバじゃないからね、セケンテキには。でも、いおりんとりっちゃんになら通じる。通じるって信じるよ。
「兄ちゃんは、亜美に『スターレス』のココロを教えてくれた。ゼツボーを教えてくれたんだよ。ハッキリ言って、トリプルでもワリに合わないよー?」
テンビンのこっち側に乗せちったモノはハンパ無く重いんだ。バランスを取るにはあっち側に、
「トップオブトップス、アイドルのてっぺんくらいには、ならないとねー?」
それくらいは乗せないとね。
「…たいした自信ね。それなら良いのだけど」
りっちんは首を傾げながら片目をつむった。
「でも、流行が変わったのよね。ボーカル特化は変わらないけれど、悲しくから楽しくに。影響少ないうちに売り抜ければ良いけど」
…ライブ前にフキツなこと言うなあ、りっちゃんは。

ざわめく客席の気配が舞台ソデまで届いてくる。200席はトーゼン満員。兄ちゃん姉ちゃんたちが暴れ出しそうなココロを抱えて、キバクのシュンカンを待ってる。
「亜美たちが、ヒダネなんだよね」
ライブの熱気は私も知ってる。キョーホンの空間を私も知ってる。アレを起こすんだ、亜美たちが、亜美たちの歌で。
「怖い、ね」
怖い、怖いよ。スゴんだりっちゃんの顔は怖くなかったけどね、ライブ前はやっぱり怖い。私はホントに怖くてフルエてる。
「ま、リラックスしてなさい。あんたの出番はまだ先なんだから」
「あ、いおりん」
ピンクのボーカル衣装を着こんだいおりんが舞台ソデまで来てた。ウサギの頭をなでてる。
「…知ってると思うけど、私は今日新曲を、『DIAMOND』を発表するはずだったわ」
んで、ウサギの頭なでながら亜美から目をそらしながらソンナことを言ってくるよ。
「そしたら私のプロデューサーが、あの変態がそれを止めようって言ってきたわ。私が新曲を投下しても、あんたたちの添え物にされかねないからって。私は反対したわ。猛反対した。私は水瀬伊織なんだから」
うん、そーだったね。でも先週あたりから何も言わなくなったよね。どしてだろ?
「でも、やよいとあずさと雪歩の武道館ライブで考えが変わったわ。あの三人は私より上の世界に行った。私はまだその準備ができていない。私はまだ飛び立てないわ。だから今は」
いおりんが亜美を見る。スルドい視線で亜美を見るよ。
「亜美を打ち上げる。あんたの歌の歌詞のように宇宙に飛ばすわ。今の私はやよいのようにはなれないけれど、それでも私は最高のステージパフォーマーよ。私が、私だけが最高のステージを創れる。私の創ったステージを発射台にして、あんたは宇宙に行きなさい」
いおりんはウサギを抱えてない方の手の平をぐっと握った。
「そしていつか必ず、私もあんたたちと同じ世界に行くわ。私は『DIAMOND』なんだから。それまで、空の彼方で待ってなさい」
いおりんは言い捨てるとウサギをパイプイスに座らせて、ステージに出て行った。まっくらなステージのまん中に立ってポーズをとる。
影くらいは見えるのかな、ライトもついてないのに会場のテンションが上がった。くらやみのまま曲が流れだすよ。セットリストの一曲目、『私はアイドル』だ。
♪基本的には一本気だけど 時と場合で移り気なの♪
ぱんとスポットライトがともって、いおりんの姿を照らす。そこにはカンペキな笑顔があった。昔テレビで見てうらやましいって思ったカンペキな笑顔が。
♪そんな柔軟適応力 うまく生かして綱渡り♪
踊りながらずんずんとステージの前へと進むいおりん。リハはそんな振り付けじゃなかったジャン。
でもライブのディレクターもいおりんのプロデューサーも何も言わない。わかってるからね。ダンドリなんて全部ムシするくらいがいおりんの本気。
いおりんは今夜、最初からアクセル全開だよ。
♪好きな人にはニコニコして そうでもない人もそれなりに♪
いおりんが跳ねる。ステージの最前列をなめるみたいに走って、お客さんたちに手を振るよ。一人一人を見つめながら。
ここにいる二百人の兄ちゃん姉ちゃんたちは根っからの765のファン。きっといおりんは全員を覚えている。覚えているつもりでいて、知らない顔も覚えるつもりでいるんだ。
♪外面良くて内弁慶 世渡りだけは上手♪
あはは、何度聞いてもいおりんのためにあるよな歌だね。私は昔、いおりんをこの通りの人だと思ってた。でもチガウ。いおりんはウチベンケーこそがシンライのアカシだからね。
♪器用と才能だけで軽くこなせる仕事じゃないの♪
うん、そうだね。キヨーさもサイノーもいると思う。でもそれじゃアイドルはやれない。いおりんだって。もちろん亜美だって。
♪だから人に見えない努力なんて白鳥並以上!♪
ドリョク、ドリョク、ドリョク! ああもう、気が狂っちゃいそうだったよ。きっと亜美は狂っちゃったよ。ゲンカイなんて何度も超えた。
だから亜美は今ここにいるし、いおりんもここにいる。いおりん自身もそれを知ってる。だからいおりんは、
♪きっと私が一番!♪
ああ、こんなとびきりの笑顔ができるんだ。笑顔のカガヤキが一段上がったよ、いおりん。サイコーだね。やっぱりいおりんはサイコーだね。

「はーい、みんなのアイドル、水瀬伊織ちゃんでーす!」
歌い切ったいおりんは割れそーな拍手と歓声で迎えられて、そのままMCに。まだ一曲目なのに会場は熱く熱くなっちった。
「それにしても、ここのみんなは本ッ当にラッキーな人たちよね。今日の私は、デビュー以来最高のテンションでステージに立ってるわー!」
熱気が返る。いおりんの熱気を受けとめた兄ちゃんたち姉ちゃんたちが何倍にも熱気をふくらましていおりんに返す。ばちばち言いそうなくらいに。
「…さすが伊織ね。いきなりからあそこまで暖められるのは、伊織しかいないわ」
「あれ、りっちゃん」
りっちゃんも舞台ソデに来てた。りっちゃんの定番の緑色のダンス服を着てる。そっか、いおりんのトークの次はりっちゃんだったね。
「あれがアイドルなのよね。伊織こそが真のアイドル」
「どしたのイキナシ?」
ステージをまっすぐ見ながらつぶやくりっちゃんのほっぺたに聞いてみる。
「うん、私アイドル辞めようかって思ってて」
「へ?」
な、何を言ってんのかなりっちゃんは。ライブのサイチューなのに。
「私、事務員バイトで765プロに入ったのよね。でも人がいないからもったいないからってアイドルさせられて」
うん、そのへんのジジョーは知ってるけどさ。
「しばらくして春香が来てあずささんが来て。今じゃ十人超えの大所帯で、その全員がトップアイドルかトップを狙い得る場所にいるわ。勉強にはなったけど、そろそろ潮時かなってね。やっぱり私は、アイドルじゃないわ」
「そんなー、りっちゃんもったいないよー!」
りっちゃんだってトップアイドルなれそうジャン? それなのにさ。
「そんな顔しないの」
亜美はどんな顔してるんだろ。りっちゃんは亜美の頭に手を乗せた。
「765を辞めるわけじゃ無いんだから。私には千早みたいな声は身につかなかったわ。亜美みたいに歌にすべてを込めることもできない。真みたいには踊れないし、伊織みたいなカリスマも無い。でも代わりに、みんなには示されてない別の選択肢があるの。私以外の誰にも無い選択肢が」
「りっちゃん…」
どうしてソンナコト言うのかな? どうしてソンナ笑顔で言うのかな?
「亜美、先輩アイドルからの、アイドルとしては最後のレッスンよ。私のステージを見てなさい。今の亜美にはできないこと、意図的な会場の盛り上げ方を見せてあげる。才能が無くても、技術だけでもこれだけハコを揺らせるっていうのを、見せてあげるから」
りっちゃんは歩幅も広くステージに出て行った。
「伊織ー、しゃべりすぎよ。ちゃんと進行の確認してる?」
「あら律子。もうそんな時間なの? ファンのみんなとお話しするのが楽しくて、すっかり忘れてたわ」
りっちゃんが時計着けてない右手首をつつきながらいおりんに声をかけて、いおりんは猫かぶって返す。客席からはまたバクショーが上がった。
「仕方ないわねえ。それじゃひとまずステージから引くけど、私はこのままラストまで突っ走るわ! みんなも着いてらっしゃいねー!」
伊織は客席に手を振ると、笑うとこっちのソデに歩いて帰ってくる。トチューでりっちゃんと手を叩き合った。
「お疲れ、いおりん」
「全然疲れてないわ。次の出番まで二十分もあるのがいやになるわね。もっとテンション上げて行きたいのに」
亜美が言ったら、いおりんは肩をすくめて返した。パイプイスに座ったウサギをカイシューしてる。
「私は着替えがあるから行くけど、亜美、律子から目をそらすんじゃないわよ」
んで、亜美に背を向けたまま言った。
「気合いが半端じゃ無かった。火花が散りそうだったわ。会場、まだまだ上がるわよ。律子が上げる」
いおりんも感じてるんだ。亜美はだまってうなずく。って、答えなきゃ伝わんないじゃん。いおりんあっち見てるんだから。
「うん、すごいライブになるね」
「すごいライブどころじゃ無いわ。そんなものは目指さない。目指してないわ。私も律子も」
くるりと振り返ったいおりんには、フテキな笑顔。
「目指すは先週の武道館超えよ。私はやよいには勝てないわ。律子もあずさには勝てないでしょうね。でも私たち四人ならあの三人に勝てる。亜美真美、あんたたちをトップにしてあげるわ」
いおりんは言い切ってから、ばつが悪そうに顔をしかめて早足に逃げてった。
「アリガトね、いおりん。ゼッタイにトップに立つよ」
私はケツイを口にする。コトダマ、だかんね。
…あれ、りっちゃんの『いっぱいいっぱい』が流れだしたよ。
♪La La La…♪
およ、りっちゃんどしちゃったの? この歌の入りはもっとちっさな声だったよね? 亜美がシンパイになってりっちゃんを見たら、りっちゃんもうステージなのに亜美を見てにやりって笑った。一秒くらいだったけど。
♪無意識 いつもあなたを見てるの 気付いてすぐに落ち着きなくなる♪
りっちゃんそのまま歌声おっきくした! 間違えたワケじゃないのかな? でもその大きさで最後まで持つの?
♪もう 我を忘れて 私だけですべてが完結 恥ずかしい♪
ツキススムりっちゃん。ダンスもいつもより動きがおっきい。いおりんみたく前の方のお客さんたちに手を振ったりもして。
いおりんもりっちゃんも、あんだけセカイを開いてそれでも歌もダンスもハズさないんだからスゴいよね。
♪話せば話題尽きないくらいに 楽しく二人の時間過ごせる♪
たった二百人の会場のあちこちを、ダンスの振りに交えてりっちゃんは指差す。その後はヒジから先の腕を上下させる。もっともっとテンション上げて、のサイン。
みんな自分を言われてるように感じるのかな、りっちゃんが指差すたびにそのあたりが盛り上がる。
♪ああ どうして私 心構えなしでは『さあ、みんなもいっしょにー!』
「ひょえっ!?」
りっちゃん歌を止めてそんなこと言っちゃった。まだ二曲目だよ? しかも『いっぱいいっぱい』の最初のコールなのに!
りっちゃんがマイクを客席に突き出す。りっちゃん、やる気だ! 兄ちゃん姉ちゃんたちにブン投げるつもりだ!
『いっぱい、いっぱい、いっぱい、いっぱい』
♪あなたの声を そう♪
…あ。
『いっぱい、いっぱい、いっぱい、いっぱい』
♪聞かせて欲しい『もっともっとー!』もう♪
すごい。
『ぜったい、ぜったい、ぜったい、ぜったい』
♪他の人より うん♪
会場が、応えた。
『ぜったい、ぜったい、ぜったい、ぜったい』
♪好きだと思う まだそんなこと 言えないけど♪
「やっぱりりっちゃんはスゴいねー」
りっちゃんのステージにぼけっとしてたら隣に真美がいた。黄色のビジュアル衣装がキラキラしてる。
「りっちゃんハジメっからブッ飛ばしてたからダイジョブかなー、って思ってたけど、これでソーサイするつもりだったんだね。りっちゃん一番ノド使うところ、あんまし歌ってないジャン?」
そっか、そうだ。こうすれば休めるんだ。りっちゃんダンスだってしてないしね。マイクを客席のあっちこっちに向けて、後は手を叩いてるだけ。
ステージは、っつーか会場は二回目の『いっぱいいっぱい』を始めた。
『いっぱい、いっぱい、いっぱい、いっぱい』
♪私のことを そう♪
「スッゴい盛り上がりだねー。会場アゲアゲで、ケーカクどーりじゃん」
真美が言った。うん、ケーカクどーりだ。アップテンポな曲を並べて、とにかくアゲアゲに。
盛り上がりに盛り上がったところで、亜美の『スターレス』でオトす。今日はそういうセットリストだ。
「じゃ、『双海亜美』の一曲目行ってくるから。真美のスペシャルを亜美はここで見ててねー」
真美はちょい聞きにはフシギなことを言って立ち上がった。舞台の方じゃなくてバックヤードに向かう。
「いーなー、亜美もやりたかったなー」
私はもちろんそのワケを知ってる。ウラヤマしい。真美は今からホンっトにオモシロそうなことをやるんだよ。
「んっふっふー、カナシー歌にトッカしちゃってる亜美にはできないねー。まあ、いつか亜美にもチャンスがあればいーねー」
真美はニンヤリと笑って舞台ソデから消えた、

「それじゃー次の歌にいきましょっか。次は双海亜美で『スタ→トスタ→』です。よっし時間ちょうど。時間厳守とタイムリードの正確さに定評ある秋月律子、秋月律子をよろしくお願いします!」
りっちゃんは何だかセンキョっぽいことを言って反対の舞台ソデに入ってった。一度会場の照明が消えて、少しばかし静かになる。
でもすぐにスポットライトがステージに灯って、一気に客席は元のボルテージを取り戻し、かかったんだけど。
―――ええ?
兄ちゃんたち姉ちゃんたちがとまどってる。まあそーだよね。スポットライトの中には真美も誰もいないんだから。
でも構わずに前奏が流れるよ。三本のビーム以外はまっくらやみのままだから、真美がどこかに隠れてるんじゃ無いかってみんな探してる。ザンネン、ステージの上にはいないよ。
♪タリラン たりな  無敵! チカラ 無から 無限 いぇいえい!♪
真美の声がどこからか降ってくる。まるで降り注ぐような声、じゃなくてホントに降ってくるんだよ。だって真美は、
―――上だっ!
うお、兄ちゃんたちの誰かが叫んだ。チョクゴにライトビームが天井の方を照らして真美の姿を映し出すよ。ビジュアル服の真美は、何と天井から吊るされてるんだよー!
♪元気 げりおん 激論 地球 無休 夢中♪
真美はゆっくりとゆっくりと空を滑る。昔こんなの見たな、何かのミュージカルで。真美は地上に手を振って楽しそう。客席もイッキにヒートアップだよー!
♪アハハン らいじゅあはん 素敵! 期待 いっぱい 2倍 『hu! hu!』♪
わ。前フリなかったからりっちゃんのには負けるけど、けっこうhu! hu!が客席から入った。スゴいスゴい!
♪適当 てきおん 適温 野望 陰謀 レインボー♪
ゆっくりと客席の上をセンカイしてた真美がステージに降りる。私たちしかわかんないけどトーメイなワイヤを外して、そのまま走り出す!
『いっくよー! ♪み、ら、くーる♪』
マイクは持ってないけど、左手をめいっぱい開いて客席に突き出した。ウソ! 真美もやっちゃうの!?
♪スタ→トスタ→♪
『スタートスター!』
♪スタ→とスタ→♪
『スタートスター!』
♪ハッピーになるの ゼッタイ♪
真美がステージのはしっこを右から左に走ってく。会場がドッカンドッカンだよー!? 亜美、こんなライブはハジメテだ!
「やよいっちたちのブドーカン、ホントに超えちゃうよ?」
ハジメっからこの盛り上がりで、ラストには亜美の「スターレス」があるんだから。

その後は三人での『キミはメロディ』、りっちゃんの『魔法をかけて!』、真美で『ポジティブ!』、いおりんのキセツチガイの『リゾラ』、また三人で『My Best Friend』、も一曲三人でやよいっちの『キラメキラリ』と続いた。
どの歌もスゴかったけど、やっぱり『キラメキラリ』かな。やよいっちのミリオンハーフ曲をやよいっちじゃない人がハジメテ歌ったんだし。
兄ちゃん姉ちゃんたちはこっちがシンパイになるくらいネッキョーしてた。
「それじゃ、お名残惜しいけどあと二曲で最後ね」
『えー!!』
「…いっつも思うんだけど、どうしてこのタイミングで『えー』なわけ? リストはパンフにもホームページにも載っけてるじゃないの」
「伊織ー、ネタにマジレスしないの。それに早よ終われって言われるより良いじゃない」
ステージじゃいおりんとりっちゃんがナゾなトークをしてる。会場はバクショーだ。スッゴいライブだった。センシューのやよいっちのブドーカンライブにも負けないくらいの。
「だけど、ブッ壊すよ、亜美と真美が。二つの『黎明』で」
うん、ブッ壊す。ノルかソルかしかない。モチロン亜美はノせるつもりだけんどね。
「ラスト二曲は通しになります。双海亜美の新曲『黎明スターライン』、そしてトリは同じく双海亜美で新曲『黎明スターレス』。亜美の新境地、みなさん楽しんでください」
りっちゃんといおりんが手を振りながら反対側の舞台ソデに消えたよ。次にライトが映すのは真美、『アイドル双海亜美』だ。さ、やっと亜美のデバンが来るよ。ジュンビしないとね。

舞台の下に亜美は移った。リフトの上でタイキなんだ。上からは遠いカンセーが聞こえる。真美の「スターライン」、ゼッコーチョーみたいだね。
「サスガだね、真美…」
あれだけアゲアゲノリノリのナンバーが続いてるのに、この盛り上がり、スゴいね。あ、ちっとだけ静かになった。歌が終わったみたいだ。ショーコーキの上の窓が開く。
ショーメイはゼンブ落とされてるからまっくらだ。そこにブルーとレッドのビームが注ぐ。二つの色が混じってバイオレットになるところ、そこが亜美の真上だ。
ショーコーキが動きだす。亜美はポーズをとるよ。曲が流れだす。さあハジマルよ。ゼツボーのウチューと、それでもユルガナイ亜美を、見ててね。

リフトが上がった。くらやみの中でブルーのビームが亜美の顔を青く照らすよ。レッドのビームは亜美の腰のあたりに。まっくろなダンス服に赤く映り込む。
♪ふわり シジマをつらぬき♪
亜美は歌いはじめた。カクゴを込める。兄ちゃんのユメをかなえるために、兄ちゃんすらをフリ捨てたカクゴを、も一度。
♪空の 色が変わってゆく Deepviolet♪
デイライトなんて注がない。亜美に太陽なんていらない。欲しいのは深い深いバイオレット、ウチューの色だよ。
♪目指してきた 大圏 飛び立て♪
アコガレてた? ジョーダンきっついね。アコガレだけでコンナトコまで来れないよ。亜美は目指して来た。ここに来たくてここに来たんだ。
♪胸に湧き上がる 気持ち 最高?感動?♪
ここまで来るのはわかってたよ。来るベクシテ亜美は来たんだかんね。でもやっぱりカンドーだ。サイコーだよ。
♪いつか 約束した軌跡 Shootingline♪
サテライトならよかったのにね。兄ちゃんのまわりを巡るエーセーだったら。でもチガウよ。亜美は流星だ。何十年何百年かかっても太陽を回るスイセーですらない。
♪突き進んで今 崩壊 こぼれはじめる Break down,apart!♪
ウチューをどこまでも進んで、壊れて。それが亜美だ。でもタダじゃ壊れないよ。ここまで来たのは、かなえたいユメがあるから。
♪さあ! ここから星へ 贈るよ声を♪
声を贈るよ、歌を贈るよ。ここまで来なければ歌えない歌を、みんなに、兄ちゃんに!
♪どこまでも青く響く ヨロコビ♪
ああ、何てケシキなんだろ。青いチキュー、青いウチュー、青い青い亜美の歌声。ウレシイよ。やっと歌えた。ウレシイ。やっと亜美はこの歌を歌えたんだ。
♪僕たちはそこで 君と出会った ミタサレた ココロ♪
遠いチキューを見る。兄ちゃんと出会ったチキュー。あそこにはすべてがあったよ。兄ちゃんに出会って、亜美はミタサレたんだ。
♪到来 黎明 Swing-by! Starless's Day♪
だから、亜美は来たよ。兄ちゃんでスイングバイして。兄ちゃんに近づいて、近づいた以上のスピードで兄ちゃんから飛び立って、ウチューへ。星すらないウチューへ。
兄ちゃんのユメをかなえるために!
♪聴こえるよ 君と僕の夢が照らす 地球の光♪
亜美にも聞こえるよ。ここらでも見えるよ。兄ちゃんのユメが。ユメのかなった兄ちゃんの姿が。ああ、キレイだね。遠い遠いチキュー。兄ちゃんのいる星はなんてキレイなんだろね。
♪さあ! もっと彼方へ 飛ばそう夢を♪
だから行こう。もっと先へ、ウチューの果てへ。兄ちゃんのユメをおっきくするために。亜美が進めば進むだけ、兄ちゃんは、シアワセになれる!
♪いつでも確かめられる カガヤキ♪
ダイジョブだよ。もうちっぽけにしか見えないチキューだけど、兄ちゃんだけど。振り返りさえすれば、亜美はいつでもカガヤいてる兄ちゃんを見つけられる。
♪新しい波で 君に届ける 切り開くよ 時代♪
だから亜美は行くんだ。ここからしか歌えない歌を、亜美にしか歌えない歌を、もっと探すよ。兄ちゃんに届けるから。新しい歌を、新しいナニかを。
♪共鳴♪
-ダイジョブだよ、亜美は兄ちゃんとどこでも感じあえるし-
♪欣快♪
-兄ちゃんのユメをかなえられること、亜美はウレシイよ-
♪幸甚♪
-だから亜美はシアワセなんだ。ダレがナンて言ったってね-
♪連綿♪
-亜美はずっとずっと兄ちゃんがスキ。スキでいられるんだから-
♪感応♪
-亜美は兄ちゃんに出会えてホントによかったよ-
♪広大♪
-兄ちゃんは教えてくれたしね、このセカイを-
♪汎愛♪
-亜美が兄ちゃんにアイサレなくても-
♪悠遠♪
-亜美は、兄ちゃんをアイシツヅケルよ-
「♪飛びこめ! 果てまで!♪」
ああ、歌えた。亜美は歌い切れたよ。ママ、ママ、亜美はアイシ抜けたよ。アイシ抜けるよ、兄ちゃんを。兄ちゃんが亜美をアイさなくても、
「アイシテるから! ずっとずっとアイシテるから!」
ああ、こーゆーことだったんだね、ママ。亜美が兄ちゃんをアイシテ、兄ちゃんがやよいっちをアイシテ、やよいっちもまたダレかをアイシテ、アイは巡ってゆくんだ。うん、きっと、
「亜美は! ミタサレてる! こんなにも! ミタサレてるよー!」
亜美のゼッキョーが、チンモクの会場をツラヌいた。

…その後のコトは、実はあんまし覚えてないんだ。しーんとしちった会場だけイメージが残ってる。
後からりっちゃんに聞いたんだけど、あの日のライブは765のファン感謝祭でハジメテ一度もアンコールの入らないライブになっちったんだってさ。
「…でも、デンセツのライブにもなったんしょ?」
これもりっちゃんが言ってたんだけどね。亜美にはよくワカラナイな。ただ、亜美はマンゾクだよ。亜美の底の底まで歌えたから。歌い切れたから。
「ダブルミリオン、行くかな。行くといいな」
もうあんまりこだわってないんだけどね。二百万枚焼いちったって兄ちゃんが言ってたから。売れるとよいな。たくさんの人に聞いてほしいから、亜美のココロを。
ゼツボーと、ゼツボーの先のアイの歌を。
2012.12.25 Tue l アイドルマスター l COM(0) l top ▲

コメント

コメントの投稿












       
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。