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2012/12/25 (Tue) 私たちの物語 ~コイバナ~ 四

セカイがユレた。足元はぐらぐら、頭はくらくら。立っているのもタイヘンなくらい。この歌はたった一曲で私のセカイをフルワセた。
うちゅうのほうそくがみだれた。やよいっちの新曲、「キラメキラリ」。自分の今をコーテーして、明るくて楽しい未来を歌う歌。
真美がすごいすごいと繰り返してた歌を、亜美は初めて聞いたんだ、今。
「初版百五十万枚プレスだってよ亜美ー。アリエナクナイ?」
両手を頭に当てて真美が言った。うん、アリエナクナイね。千早お姉ちゃんの「inferno/arcadia」は発売日に百万枚並べて足りなかったから、やよいっちの「キラメキラリ」は急いでツイカハッチューして、発売日に百五十万枚並べるつもりらしいよ。ぴよちゃんが教えてくれた。
「…千早お姉ちゃんの百万枚ならおどろかないけどね」
千早お姉ちゃんの新曲はそれくらいのデキだった。百万枚を初週完売。再版出荷待ちのファンがあと三十万人いるらしい。
千早お姉ちゃんは賞とかにはキョーミが無いって参加を断ってたんだけど、アイドルアルティメイトのウンエーイーンカイがお菓子の箱持ってウチのジムショにあいさつに来てた。
千早お姉ちゃんがいないとアイドルの頂点決戦にならないってさ。サイキンはアイドルアカデミー大賞に押されてるしねえ、アレ。千早お姉ちゃんも千早お姉ちゃんのプロデューサーもイヤそーな顔してたけど。
「その『inferno/arcadia』より売れると思ってるんだね、シャチョーも兄ちゃんも」
やよいっちの『キラメキラリ』は確かにすごい歌だ。ううん、歌だけなら千早お姉ちゃんどころか亜美でも勝てるよ。
でもこのヒョーゲンリョクはいったいなんだろね? ワカルんだよ。伝わってくる。
「たいへんなこともたくさんだけど、やよいはこのせかいがすきですよ。みんなだいすきです。みんなをだいすきなわたしも、わたしはけっこーすきかなー、って。えへへへ」
ソンナコト言って笑ってるやよいっちが見えるんだ。ひっろいステージをちっこい体で走り回って跳び上がって笑いながら歌ってるやよいっちが見えるんだよ。
こっちまで楽しくなっちゃうよな、そんな歌だった。こんなにもあったかくなる歌を、やよいっちは歌えるんだ。
「クル、ね」
やよいっちの歌がココロにクル。やよいっちが追いかけて来る。私が持ってたちっとのアドバンテージなんてイミ無かった。やよいっちがブチ抜いて行くよ。
私はもちろん、はるるんやいおりんも、千早お姉ちゃんやあずさお姉ちゃんすらも置き去りにして、駆け登ってく。トップアイドルの階段をゼンリョクで笑いながらゼンリョクでカケ登ってくよ。
「…兄ちゃんと、イッショにね」
てっぺんまで。誰もツイズイできないところへ、亜美じゃトドカナイところへ、兄ちゃんと二人で!
「さすがね。高槻さんの実力もそうだけど、高槻さんのプロデューサーの力かしら」
亜美の背中から千早お姉ちゃんのケワシイ声が聞こえた。そっか、千早お姉ちゃんもジムショにいたんだ。私は振り向く。気になる言葉があったから。
「兄ちゃんのチカラって、千早お姉ちゃんナニソレ?」
どして兄ちゃんが? タシカニ兄ちゃんはイロイロとスゴいけどさ。千早お姉ちゃんは少しだけ考えて、答えてくれた。
「ずっと悲しい歌が流行っているわ。辛くて悲しい恋の歌が。私の『inferno』もあずささんの『隣に…』もそちらの曲調。他の事務所もそんな歌ばかり。別に流行を意識していたわけじゃ無いけれど、良い流れだとは私も思っていた」
うん、そうだね。シャチョーがマイシュー教えてくれてた最新の流行も、ずっとボーカル特化で悲しくだった。
はるるんは「かなしく、ですね」とか言いながらゼンゼン悲しそうじゃない顔で表現力レッスンやってた。
「ファンの皆さんはもう飽きて来ているのかもしれないわ。流行が切り替わるタイミングを高槻さんのプロデューサーや社長は読み切っているのかも。その揺り返しはきっと、ものすごい大波になるわ。そこに高槻さんのあの歌が発売する。波に乗ったら、百五十万枚でも足りないかもしれないわ」
千早お姉ちゃんのブンセキ。うん、ワカルよ。カナシイコトツライコトだらけじゃ生きていけないもんね。そんな歌ばかりじゃ。
「…でも、亜美はカナシイ歌しか歌えないよ。明るい歌も歌えないことはないけどさ、亜美がココロを入れられるのは、カナシイ歌だけだよ」
明るい歌は、真美の担当だ。真美もやよいっちみたく自分が好きみたい。スゴいなって思う。亜美はあんまし亜美が好きじゃない。
「私もよ。♪元気に歌えたらオールオッケー♪ …素敵ね、そんな風に歌えたら。私はそんな風には思えないし歌えないわ。だから」
千早お姉ちゃんが息を吸った。千早お姉ちゃんハイカツリョーあるからね。息を吸うとすっごく吸える。
「私は私の歌を歌うわ。あの『inferno』は私のトップポテンシャルだった。私の歌える最高の歌だったし、間違い無く感触もあった。私は次も私の歌で、私の歌い方で戦うわ。高槻さんがどれだけの歌を歌おうと、それがどれだけ売れようと、私は超えてみせる」
千早お姉ちゃんはスッキリとした顔にケツイを見せて言った。うん、きっと今の亜美もおんなじ顔だ。
「そうだね。亜美は亜美のやり方で、やよいっちに挑むよ」
兄ちゃんがいっしょにいたいのは、亜美じゃ無いのかもしれない。やよいっちなのかもしれない。でも、それでも、
「トップアイドルになるのは、亜美だよ。亜美が兄ちゃんをテッペンに連れて行くんだ」
私は言って、千早お姉ちゃんはシンケンな顔でうなずいた。それがどーゆーイミかは、亜美にはワカンナイけどさ。

「ふいー」
私はレッスンから帰ってきて、ジムショのくたくたなソファに体を投げ出した。今日もちかれたねえ。
「…でも、見えてきた。見えてきたよ」
ハクヒョーのバランスが見えてきた。歌にココロを奪われたあとのカラダをどうにか持たすギリギリのバランス、抜けガラみたいなカラダでも生きていけるゲンカイのバランスが。
さすがに死にたくないからね。
「やよいっちのおかげで、歌はココロで歌うモノってのにカクシンも持てたしね」
千早お姉ちゃんはギリョーがダイジだって言う。うん、確かにギリョーもダイジだと思うよ、亜美も。私は歌がヘタだからダイモンダイだ。
でも亜美よりもヘタなやよいっちは、それでもあれだけの歌をレコーディングできた。
「ギリョーはサイテーゲンでもいいんだ。やっぱり歌はココロなんだよ。ココロをどう込めるか、ココロをどう映すかがダイジなんだ」
これなら亜美にもチャンスがある。やよいっちができたんだから、亜美にもできるよ。
「あれ、亜美?」
ソンナコトを考えてたら、事務所の入り口にやよいっちがいた。おどろいた顔をしてる。どっかから帰ってきたみたいだね。私はカラダを起こしてソファに座る。トナリをばんばん叩いた。
「なにそんなトコに突っ立ってんのさやよいっち。こっちに来て座りタマエよー」
やよいっちはおどろいてた顔をもっとおどらかせた。目、おっきいよねやよいっちは。
「いいの、亜美?」
「いけないリユーがあるのかーい、まどもわぜー?」
私はまこちんが出てるコントのマネをする。まこちんは白いスーツを着たイケメンホスト役なんだよ。
「もしそっちに座ってはいけないリユーがあっても、こっちには座ってほしいリユーがあるんだ。まどもわぜーは亜美を亜美と一目で見分けた。お礼を言わないとね」
うんうん、まこちんのモノマネもうまくできてるし。私はも一回トナリをばんばん叩いた。
「…今日の亜美は、髪の毛縛ってるの亜美の場所だよ? 一目でわかるよ」
やよいっちはそんなことを言いながらも、こっちに来て私のトナリに座ってくれた。もしかしたら真美が『アイドル双海亜美』してだけかもしれないのにね。
「よかったー。私、亜美にきらわれるんじゃないかって思ってた」
座るなり、やよいっちはウレシそうにハズカシそうに言った。何を言ってるのかな、やよいっちは。
「何のヒガイモーソーだよやよいっちー。亜美がやよいっちをキライになるはずが無いジャーン?」
やよいっちの顔の前で一本立てた人差し指を左右にユラす。やよいっちの顔が笑顔になった。
「うん、そーだよね! 亜美は亜美だよね。よかったー、昔の亜美だー!」
やよいっちは亜美に抱きついてきた。おおう、ジョーネツテキだねやよいっち。…うーん、やよいっちもけっこーぺったんだよねえ。
「私ずっとプロデューサーを独り占めしちゃってたし、さいきん亜美のようすがおかしかったし、ずっとしんぱいだった。もしかしたら」
やよいっちは亜美から離れた。やっぱりハズカシそうに、でも亜美の目を見つめながら聞いてくる。
「もしかしたら、私の歌が、届いたから?」
キタイしている目。何てカワイイんだろって思う。セカイがスキで、ミンナがスキで、そんな自分もスキなやよいっちの顔。カワイイね、やよいっち。
「やよいっちの新曲だね? もちろんだよー。すっごい歌だったねー?」
だから、私は答えた。何にもウソは言ってないよ?
「うっうー! ありがとう、亜美ー」
ほっぺたに両手をあてて。おっきなヒトミウルウルさせてるやよいっち。オカシイの。そんな泣くことなんてないのにさ。
「あの歌聞いて思ったんだけどさー、やよいっち兄ちゃんにめっちゃアイサレてるねー。そーゆーカンジがしたよー!」
「あ、あいされてってってってっ!」
泣きそうだったやよいっちの顔が、今度はまっ赤に。ぶしゅーって湯気出てるよ湯気。オモシロイねー。
「やよいっちはそのまま、兄ちゃんとナカヨクしてるのがいいと思うなー。やよいっちにはそーゆーのがにあってるよー。おにあいだよね、やよいっちと兄ちゃんは」
「な、なかよっ! お、おにっ?」
あはは、やよいっち何言ってんのかさっぱりワカンナイよ。何を言いたいのかはワカルけどね。
「…その間に、亜美はトップアイドルの中のトップアイドルになるから、さ」
「…え…?」
ウレシくてハズカシくてたまんないってめいっぱいだったやよいっちの顔が青ざめたよ。あれれ、亜美何かヘンなこと言ったかな? ま、いっか。
「やよいっちは兄ちゃんと楽しくアイドルしてなよー。亜美はトップアイドルになるから。亜美が兄ちゃんのユメをかなえるからさ?」
「あ、亜美…?」
やよいっちがボーゼンと言う。リカイフノーってまっ白な表情が言ってる。ナンデかな、ナンデかな? ナンデやよいっちは、また泣きそうな顔をしてるのかな?
「ただいま帰りましたー、ってやよいに亜美か。何してんだ?」
その時、事務所のドアが開いて兄ちゃんが帰ってきた。兄ちゃんは両手に重そうな荷物持ってる。
「兄ちゃんお帰りー。やよいっちの新曲がスゴいねって話してたんだよ、兄ちゃん」
私が答えたら、兄ちゃんは歯を見せて笑った。いい笑顔だね。ホレ直しちゃうよ、兄ちゃん。
「だろう? めちゃくちゃ売れるぞ。マーケティングも打てるだけ打った。売るための準備もバッチリだ。やよいをもっと忙しくしてしまうけどな」
やよいっちシンパイされてるよ。やっぱりアイサレてるよね、やよいっちは。
「亜美も、も少し待ってくれな。やよいのがミリオン確定ぐらいしたら、亜美真美の相手もちゃんとやるからな」
「そんなん気にしなくていいよ、兄ちゃん。それよか兄ちゃんにお願いがあるんだけど、いい?」
私は兄ちゃんに尋ねた。兄ちゃんの目をのぞきこむよ。兄ちゃんは簡単にうなずいた。
「うんとね、亜美たちのサードシングル、A面は真美で『黎明スターライン』だけどB面がまだ決まってないジャン?」
そうなんだよ。B面はまだカゲモカタチモナイんだな。
「おお。亜美向けのバラード用意するつもりなんだがな。いつまでも亜美に人の歌ばかり歌わせるわけにもいかないしな」
うんうん、兄ちゃんは前にそう言っていたね。でも、亜美に考えがあるんだ。
「B面、亜美も『黎明』を歌いたいんだよー」
亜美がそう言ったら、兄ちゃんは眉をひそめた。
「…いや、たいていのことなら聞くつもりだったけどそれは無理だ。A面とB面同じ歌なんて聞いたことが無い」
「それならダイジョブだよー」
私は指を鳴らした。兄ちゃんとやよいっちが私を見ている。
「A面は真美が元気に歌う『黎明スターライン』で、B面は曲同じで歌詞変えて、亜美がゼツボーを込めて歌う『黎明スターレス』なんだよ! 同床異夢ならぬ同曲異歌、ギョーカイ初! きっとバカ売れだよー? 真美の『黎明スターライン』でミリオン、亜美の『黎明スターレス』でミリオンで、千早お姉ちゃんもやよいっちもブッチ切ってダブルミリオンなんだよー!」
いい考えっしょ、いい考えっしょ? あれれ、いい考えだと思うのに、兄ちゃんは黙ったまんまだ。やよいっちも。亜美は次のシングルで、トップアイドルになろうって思ってるのにさ。


私もプロデューサーも言葉が出なかった。あっけらかんとそう言った、違う、言ってのけた亜美を見続けた。何も言葉がでなかった。
私の歌を亜美は聞いてくれた。それは嬉しい。素直に喜んでいいことだと思う。さっきまでの亜美の反応だっ、飛び跳ねちゃうくらいに嬉しかった。それは私のホントの気持ち。
亜美にも届いたはず。それもたぶん私の思い違いじゃなくて、届いていると思う。私が描いた過程はまったくその通りに、なったんだと思う。
違ったのは、一番大切なはずだった結果、あるいはりあくしょん。私が歌って、亜美の心に届いた、その先の結果。これが違っただけ。
それがあまりにも違いすぎて、思い描いていたキャンパスの色とはかけ離れていた。輝かしい色たちではない、濁り気のない黒? いやグレー? それとも紫?
…黒い透明。きっとおかしい言葉。そんなものあるはずないから、私が勝手に考えた妄想の色、あるいはもの。そう、この世界にそんなものはなかった。
あってはいけないものを作ってしまった。それが今の亜美、そして私の歌『キラメキラリ』はそれの発端になってしまった。あ、頭が痛い。
自分でもびっくりするくらい難しい言葉が出てくる。こんな難しい言葉をどこで覚えたのか、それすらわからない。でも濁流のごとくまだ溢れてくる。
だめだ、こんなの私じゃない。せっかく私は私を思い出したのに、取り戻したのに。またいなくなってしまうのは嫌だ。絶対に嫌だ!
「亜美、無茶だ。スターレス? 曲が一緒で歌詞は違う? 無茶苦茶だ、そんなの」
「やよいっちは、ムチャしたじゃん? 兄ちゃんはお願い聞いてくれるって言ってくれたよね? ナニがダメなの?」
耳をふさぐ、亜美の声が、音域が、存在が、全部が、私を切り刻んでしまうようで、怖い。ああまた私が、違うの、だめ、もう嫌、私は、私を。
「お、おい! やよい、どうした!? そんなに震えて、大丈夫か!」
プロデューサーの手が背中に触れた。その瞬間に私はまるであっついお湯をかけられように飛び跳ねる。そして見た。当然、目の前にいる亜美を。
―――ねぇ、やよいっちだけ、ズルいよねえ?
笑顔で、そう言われた気がした。
自分のものとは思えない大声で叫んで、その場から逃げ出した。一目散に逃げ出した。なりふり構わず逃げ出した。
事務所を抜けても大通りに入ってもよく知らない道になってもくたくたになっても足が壊れそうになってもひたすらに走って逃げた。

気が付けば、知らない公園のベンチで横になっていた。あたりももう陽を潜めて夜にバトンタッチしようとしている。
体を起こすと節々が痛くて、寒さに体を好きにさせていたせいか体の震えが止まらなかった。辺りを見ても、ここがどこだかはさっぱりわからなかった。
ベンチに、ブランコに、滑り台に、砂場。それしか遊具はないのにこの公園はやたらと大きくて、隙間だらけだった。
まるで今の私の心のように思える。上からだって下からだって右と左からだって、今の私には何でも入り込める。だからここに誰もいなくて、本当によかった。
公園から目を離し自分の体を見てみると、傷だらけだった。擦り傷が一番多いけど、中には青く痣になってる部分もある。痛いはず。
それまでぼんやりとしていた気分もなくなってきた。そして当然のごとく思い出す、私がここにいる理由。私が逃げ出した原因。
どうせなら覚えていなくてよかったのに。私の体も頭もちゃんと覚えていてしまった。寒さだけではない震えが加わり、私の体はもっと揺れる。まぐにちゅーど8くらいには。
―――やよいっちだけ、ズルいよねえ?
あの時私は耳を塞いでいたから本当にそう言ったかはわからない。でも耳で聞いていなくても、頭がそうにんしきしていなくても、心でわかることもある。私たちはアイドルだから。
亜美が、亜美じゃなくなっているように思えて仕方なかった。亜美の言葉が私にとってとげとげになっていった辺りから、すごく怖くて、泣きそうなのを必死に堪えて。
でも一番怖いのはそうじゃなくって、亜美が、亜美のまま、その無邪気さのままにとげとげした言葉を言っていることがすごく怖くって。
弟や妹たちがけんかするときはそうじゃない。純粋な感情のぶつかりあい、ひどいときは手や足がでる。そんなまっすぐでわかりやすいもの。
亜美もそうだ、まっすぐわかりやすい感情をありのまま私にぶつけてくれた。
でも何て言えばいいのかわからない。こう、まっすぐなんだけど折れ曲がってるみたいな。…そんなことはありえないはずなのに。
今の亜美ならありえないこともありえることにしてしまいそうで。
とにかく私が知っているけんかの始まりじゃなかったんだ。でも亜美自身は、これっぽっちもけんかしようとなんて思ってなくて。むいしき、って言うのかな。
それも怖かったけど、やっぱり一番怖かったのは最後だ。私の恐ろしい、今日の記憶の末端にある情報。…どっかにいってほしい。
―――亜美も『黎明』を歌いたいんだよー
―――亜美がゼツボーを込めて歌う「黎明スターレス」なんだよ!
ゼツボー れいめいすたーれす
れいめいの意味は知らないけど絶望やれすという漢字と英語の意味は知ってる。たまたまあずささんに教えてもらったれすの意味。
何かを失くす、そんな意味。それら全部あわせて考えたときに、れいめいすたーれすは私の『キラメキラリ』のような歌なのか?
…きっと違う。それどころか正反対の、そんな曲だと思う。
それを、とびっきりの笑顔でプロデューサーを見つめて亜美は言った。無邪気なまま、自分の言った答えが合ってると自信満々に、きっと褒められるだろうって思う子供のように。
私よりも一つ下の女の子がそんなことを平気で言ったんだ。当たり前に、誇らしげに。
千早さんならわかる。しつれいかも知れないけどすごく言いそうだ。でも言ったのは亜美。少し前まで、亜美と真美と私の三人、事務所で笑い合っていたその亜美なんだ。
「れいめい、すたーれす」
プロデューサーもそれはだめって言ってたけど、亜美は押し通しちゃう。『アイドル双海亜美』の三枚目のCDは前代未聞、曲が一緒の不思議な円盤。
…また難しい言葉が溢れてくる、やだ、でてこないでよ。
普通じゃおかしいそんな発想を、亜美は迷うことなく考えついて怖がることなく突き進む。そして言ったとおりにするはず。
ブッチ切ってのだぶるみりおんを。でもそれで歌って、CDにして、売れてしまったら。
もう二度と私の大好きだった亜美がいなくなってしまう気がするんだ。亜美が、消えてしまう気がして。怖かったのはそれが原因。
…それだけ? 本当にそれだけ? 他に何か原因がある? いやそんなはずは、そんなはずは。
…やよいっちだけズルいよね? その言葉は私だけに向けて言われた言葉だった? 確かに私の名前を言っていた。でも見方を変えれば私だけじゃなくなるんじゃ?
ならあそこには誰がいた? 私と、亜美と。
―――そんなん気にしなくていいよ、兄ちゃん。それよか兄ちゃんにお願いがあるんだけど、いい?
…ああ。
―――やよいっちは兄ちゃんと楽しくアイドルしてなよ。亜美はトップアイドルになるから。亜美が兄ちゃんのユメをかなえるからさ
…あああ。
―――やよいっちはそのまま、兄ちゃんとナカヨクしてるのがいいと思うなー。やよいっちにはそーゆーのがにあってるよー。おにあいだよね、やよいっちと兄ちゃんは
ああああああ
―――やよいっち兄ちゃんにめっちゃアイサレてるねー。
「う、ああ、あああああああああーーーーーーーーーっ!」
心も頭も、私の全部が悲鳴を上げる。叫び声が止まらない。気持ち悪い、辛い、悲しい、重い。吐き気が止まらない。
「ああーーー!ああああああああああああーーーーーーー!」
だめ、耐えて。耐えてよ私。このままじゃまた叫び声と共に私が、私でありたい私が飛んでいっちゃう、だから叫ばないで!
「ううううーーーーーーーー!ううううううヴヴヴーーーーーーーーーー!」
必死に両手で自分の口を閉ざす。ありったけを力を込めて、顎も頬も押しつぶしてしまうくらいに押さえる。
でも、お腹から出てくる叫び声が止められない。感情の奔流、濁流。違う! そんな難しい言葉は知らない! 私じゃない、そんなの私じゃない! 返して! 私を返してよ!
「やよいっ!」
そんな言葉が聞こえた数秒後に、強い衝撃が私を包んだ。どんなものよりも優しくて、強い衝撃。
「大丈夫か!?」
…ああ、来てくれたんですね。来てしまったんですね。私を助けに来てくれたんですね、手を差し伸べるために来てくれたんですね。その代わりにあの子を置いて来たんですね。
「平気か!? 誰かに何かされたのか! 気分が悪いのか!?」
違います、でも違わないです。誰かに何かされました。気分もすっごく悪いです。プロデューサー。
「ううヴヴヴヴヴ…!」
「平気だぞ! 俺がいる、もう平気だからな!」
そうですプロデューサー、あなたがいるからもう平気です。でもあなたがいると平気でもなくなるんです。きっと気づいてくれませんね。だってあなたは、プロデューサーだから。
「ううう、ううう…!」
「いいぞ、その調子で落ち着いて…落ち着いて」
落ち着いてほしいなら、離れてください。きっとそっちのほうが落ち着けます。でも今はだめですね、きっとまた抱きついてしまいますから。
「ううう…うう…」
「うん、そのまま、そのまま…」
本当に、あなたは、プロデューサーですね。きっと花丸です。亜美も、多分知ってるんだろうな。ずっと私よりも前に、ずっとずっと前から。
「…落ち着いたか?」
「…ふぁい」
「そうか…とりあえずベンチに座ろうな」
正面から抱かれたままで移動させられる。さっきまではわからなかったけど、本当にこの人の臭いは濃い。走ってきたであろう今は更に。
それがたまらなく心地よかった。お父さんって感じ、かな?
「よいしょっと、もう本当に平気か?」
私の顔をそっと胸から離して、返答を待つプロデューサー。汗だくだった。私を探すために走り回ったんだろう、あの子を置いて。
「…」
「よし、ちょっと隣に動かすぞ」
返事も待たずにプロデューサーは私を自分の膝の上からベンチに移した。もう少し膝の上で濃い臭いに包まれていたかったけれど、そこはうん、プロデューサーだから仕方ない。
「落ち着いたか?」
「…はい」
本当はプロデューサーに抱きしめられたときから不思議と心は落ち着いていた。ただ体のほうの制御が利かなかっただけ。もうとっくに落ち着いているんですよ?
「…まったく、いきなり走り出すから驚いたぞ? もう勘弁してくれよ?」
「すいません…」
「いいよ、ちょっと亜美の発言も行き過ぎてたしな」
やっぱりプロデューサーも少し怖いんですね。あんなことをへっちゃらで言ってしまう亜美が。ちょっとだけ膝、震えてますよ。
「れいめいすたーれす」
「ああ。無茶中の無茶、というか無謀だ」
「でも私のときはしたじゃないれすか」
「あれはあくまで、いけると確信してたからだ」
「亜美のすたーれすには確信がもてないんですか?」
そんなはずはないです。だって私でもわかるんですから。プロデューサーなプロデューサーならもうわかっているはずですよね? ただ少し怖いだけなんですよね?
「…正直怖くてな。すごい勢いで成長してくれるのは嬉しい。だけど今の亜美がどこへ行きたいのか、それがわからなくてな。って担当アイドルに愚痴なんて、プロデューサー失格だな」
「…簡単です」
「えっ?」
「亜美はアイドルの頂点を目指しています、ほら、簡単な答えでしょう?」
少しお姉さんぶって言ってみる。なんだか恥ずかしいな。でもプロデューサーだし、いいよね?
「そうかな? 俺にはそう見えないんだけどな、やよいにはそう見えるのか?」
「はい、目指してますよ。怖いくらいに、だから」
「?」
「すたーれす、歌わせてあげてください」
「…本気で言ってるのか? 曲は一緒の歌詞だけが違う、それも絶望を込めた歌、だぞ? 正気の沙汰じゃない」
まったくもってその通りです。さっきまでの私もそう思って、叫び声が止まらなかったんですから当然の思いですね。でもプロデューサー?
「でも亜美はやっちゃいます。今の亜美ならぜーったい! やっちゃいますよ。そして成功させます」
「千早や今回のやよいも抜いてのブッチ切ってのダブルミリオン、か」
「はい。プロデューサーだって二百万枚、やってみたいと思いますよね?」
うん、だってあなたはプロデューサーですから。
「そりゃそうだけどー…ん、ちょっと考えてみる。でもやっぱり今はやよいのほうが先決だな」
「『キラメキラリ』ですね」
「それもある、が一番はこの状況だっ。おかげで冷や汗と運動の汗をかかされた。次からはなしにしてくれよ?」
「大丈夫です、もう逃げませんから」
知ってしまいましたから。あの子の気持ち、全部じゃないけど。逃げられないだけ、知ってしまいましたから。
これから先の私が進む道も明るいものだけじゃないと思います。でも、それでもですね。
一つだけ譲れないもの、できちゃいましたから。あの子がゼツボーで染めるなら、私はきぼうで照らします。
「…うん、いい目だ。今回のことで休業も考えてたけどなくても平気そうだな」
「はい、それに休んじゃったら亜美にも迷惑かけちゃいますから」
「亜美に? 何で?」
「それは秘密です」
「なんだよそりゃ、あれか? やよいにもついに乙女心でも芽生えたのか」
「んーちょっと、違います」
「…わからーん! ともかくもう夜になる。その前に帰ろう」
「はい、あ、でもその前に一曲だけ聴いてもらっていいですか?」
「えっここでか? 事務所に帰ってからでも…」
「今じゃないとダメなんです」
「…一曲だけな」
「はいっ!」
そして私はベンチに立つ。このベンチの広さが私にとっての最高の舞台。月明かりが照明で、観客はプロデューサーだけ。ちっぽけならいぶ。でも何よりも大切ならいぶ。
プロデューサー? さっき私に聞きましたね。私が休んだらどうして亜美の迷惑になるか。それは私が休んだら、亜美はれいめいすたーれすにゼツボーを込められなくなるからですよ。
ゆっくり息を吸い込んで、心の中のメロディにあわせて私は歌いだす。何を? もちろん私が私らしくあるための歌。誰かのためじゃない、自分のための歌。

「―――フレッフレッ頑張れ、さっ行こうフレッフレッ頑張れっさいこっ」
プロデューサー? さっき私に言いましたね。乙女心でも芽生えたのかって。
惜しいです、心は合ってます。でもきっとあなたにはずっとわからない、だってプロデューサーだから。
芽生えたのは乙女心じゃないんです。
芽生えたのは、
恋心ですよ。


いつもの事務所で私はまっ白なノートを広げてる。隣には真美の『黎明スターライン』の歌詞カードを拡大コピーしたのを置いて。
私は目をヨせて「スターライン」の歌詞をにらんでる。片っぽだけ耳に差してるイヤホンからは「スターライン」の歌無しバージョンをエンドレスに流して。
「…亜美、亜美」
イヤホンしてない方の耳から兄ちゃんの声だ。シャチョー室でカイギしてたんだけど、終わったみたいだよ。私は目を動かさずにガンキューだけ動かして兄ちゃんを見る。
「社長の了解取り付けた。作曲家の先生が了承したら、って条件付きだけどな。やるぞ、亜美。次のシングルは『スターライン』と『スターレス』のカップリングだ」
親指を立てた握りコブシを兄ちゃんは私に突き出してくる。兄ちゃん、がんばってくれたんだね。ウレシいなあ。
もちろん兄ちゃんは兄ちゃんのユメのためにがんばったんだろけどね。私もサムズアップを返す。
「ありがとね、兄ちゃん。サッキョクカの先生のセットク、亜美もいた方が良い? それともいない方が良い?」
私は兄ちゃんにお礼を言って、んで亜美が何をするのが良いか聞いた。
いや、亜美が今やるべきなのは「スターレス」の作詞だとは思うけどさ、歌は亜美ヒトリで創るわけじゃ無いジャン? オトナノツゴーもあるだろしさ。
「…いや、とりあえず俺一人でやる。風当たり強いだろうしな。亜美を風避けにはしたくない」
ああ、ああ、兄ちゃん。兄ちゃんはヤサシイね。もしかしたら、もしかしなくても、兄ちゃんは次のCDをうまく売り出すためだけにヒトリでやるって言ってるんだろうけど、それでも。
「ココロがヨロコんじゃうよ」
「ん、何か言ったか亜美?」
私のココロからこぼれ出た言葉に気付いて、んで聞きもらす兄ちゃん。ああ、兄ちゃんだ。ニブくてボクネンジンな兄ちゃんだ。サイコーだよ。
「…ちゃんと直に会うしか無いんだろうけど、まずは軽くジャブってみるか」
兄ちゃんはつぶやくとケータイを開いた。何度かボタンを押すと耳に当てた。
「あ、765プロです。先生今電話大丈夫ですか? ええ、『キラメキラリ』ありがとうございました。えらい予約数ですよ。正確な数字じゃないですけど、予約だけで消化率六割近いです。増刷分含んで」
おお、兄ちゃん行動早い。さっそくサッキョクカの先生に電話してるよ。それにしても、やよいっちの予約だけで六割、九十万枚か。
「…いいね。テキニフソクナシ、だよ」
すごいねやよいっち、すごいね兄ちゃん。本当に千早お姉ちゃんを超えちゃうね。
「でも、『アイドル双海亜美』はさらに上に行くよ」
何しろ亜美と真美の二人だかんね。負けるはずが無いんだ。
「はい、『黎明』も良い歌ですね。来月には発売まで漕ぎ着けたいんですけど、まだ裏面の曲が。あ、いやそんな。急かしてるわけじゃ無いですよ。ちょっと相談がありまして。亜美が作詞したいって言ってるんですよ。つーかもう始めてます。ノート真っ白ですけど」
…まっ白はヨケーだよ兄ちゃん。でも私が作詞してるって兄ちゃんが話したら、何かサッキョクカのおじちゃんヒートアップしちゃったみたいだ。
イミはわかんないけどおっきな声がここまで聞こえる。楽しげな声かな、亜美の耳に聞こえるのだと。
「あ、はい、ありがとうございます。評価してくれるのは嬉しいですが、亜美も喜ぶでしょうけど、その」
兄ちゃんがごくりとツバを飲み込んだ。あ、言っちゃうんだ。さっきは直接会って、とか言ってたのに。
「先生の『黎明スターライン』のアレンジバージョンを、希望とか未来とかじゃ無くて、絶望を込めた『黎明スターレス』ってタイトルの歌を作詞して歌いたいって言うんですよ」
電話先の声がぴたり止まった。何秒かして、何かぼそぼそと言ったよ。兄ちゃんがため息をついてケータイを閉じる。
「…切られた。すぐ来いってさ。事情を話せって」
あちゃあ、ヤッパリそうなっちゃうかー。
「ゴメンね、兄ちゃん」
私はアヤマった。さすがにモウシワケナイ気持ちになっちゃうね。兄ちゃんには悪いことをしてるよ。
「気にすんな、これでも亜美のプロデューサーだ。作詞の許可もらって、絶望アレンジのお願いしてくる。それじゃな、亜美」
兄ちゃんはカバンを引っつかむと事務所を出て行った。がんばってね、兄ちゃん。兄ちゃんと亜美のユメのために。さ、私も作詞がんばんなきゃ。

「とゆーわけでゆきぴょん、亜美に作詞を教えてよー!」
「ふ、ふえぇ!?」
とゆーわけで、ジムショに帰ってきたゆきぴょんを捕まえた。モジドオリね、右手首をがしりと。
「な、何? 亜美ちゃんいったい何?」
あはは、オドロイたゆきぴょんシリモチ着いてがたがたフルエてる。うーん、オドロイてしりもち着いて、びくびくしながらそれでも両足ぴっちりそろえているのは、なかなかにやるねえ。
「今度、亜美が作詞をすることになったんだよー。でもムツカシくてさ。確かゆきぴょんポエム創るのスキだったっしょ? 亜美にポエジー? 作詞のココロを教えてほしいんだよー」
「へえー、雪歩ポエムなんて創るんだ。さすが雪歩、女の子っぽいね」
ゆきぴょんといっしょに帰ってきてたまこちんが、右手をあごに当ててカンシンしてる。そーだよねー? イマドキ趣味ポエム創りとかテンネンキネンブツだよねー。
「ま、ままま真ちゃん!?」
ゆきぴょんのヒメー。ゆきぴょんは急に立ち上がると、あれれ、亜美を抱え上げちったよ。
「真ちゃん、すぐ戻ってくるから!」
ドノーみたく亜美を肩に担いだまま、ゆきぴょんは事務所のドアを開ける。そのままかんかんと外の階段を屋上まで駆け登って。力持ちだねえゆきぴょん。
「ううう、絶対真ちゃんに変な子だって思われた~。こんなダメな私は穴掘って埋まってます~」
屋上までやってきたゆきぴょんは私を下ろすとすみっこでイジケ始めちった。うん、ここまでテンプレってやつかな?
「ゆきぴょんのソレはダイジなコセーだよー?」
私はゆきぴょんの背中に声をかける。うんうん、他のダレももってないよソレ。
「…ありがとう、亜美ちゃん。うん、そうだよね。ダメダメな私も私だもんね」
おお、すごいホーコーセーのカイシャクだ。さすがだねゆきぴょんは。
「ええっと、それで詩心を教えてほしいんだったね。詩の作り方、かあ」
むむむってうなりそなイキオイで考え始めるゆきぴょん。
「…むつかしい、かも。私は憑依系だし。それに私が創ってる詩と歌の作詞ってけっこう違いそうだし」
「ヒョーイケー?」
ゆきぴょんのヒトリゴト?の中にわかんないコトバがあったから聞いてみた。ゆきぴょんはナンデかあわあわしてるよ。
「あ、あのね、憑依系って言うのは、まるで何かに取り憑かれたみたいに詩を創る人たちのことなの。気が付いたらがーって書いちゃってる感じの」
…ああ、うん、あれのことか。ワカルよ。詩と歌とじゃチガウかもだけど、きっと亜美もヒョーイケーだね。
「でも、それじゃがーって書けないときはどしてるの?」
私はけっこうカンタンにがーってなれるけど、なれないときもあるしさ。
「私は趣味で書いてるだけだから、書けないときは書けなくても良いのだけれど。でも亜美ちゃんが今やろうとしているのはお仕事なんだよね? それなら、何とかしないとね」
ゆきぴょんがまたむむむむ考えだした、ゆきぴょんはヤサシイよね。亜美のことなのにさ。
「…今の亜美ちゃんとは少し違うけど、どうしても書きたい気持ちがあって、でもどうしても書けないときが私にもあったの」
「あ、それ今の亜美と同じだ。作詞はオシゴトだけど、どうしてもやりたいことなんだよー。ゆきぴょんはその時どうしたの?」
私はキョーミシンシンに聞いてみる。
「考えたの。ひたすらに」
「へ?」
ナニソレ。ひたすらに考えた? ソレダケ?
「私はいったい何を書きたいんだろう、どうしてこんなにも書きたいんだろう、って必死に必死に考えたの。私のこの心の理由を、この激情のわけを、気が狂いそうなくらいに」
…ああ、そうか。そういうことなんだね。ようするにさ、
「ココロを、ジブンを見つめたんだね。まっすぐに、すみずみまで。良いとか悪いとか、スキとかキライとか、そんなんカンケー無く、何もかもを」
きっとソウイウコトなんだよ。見たいものも見たくないものもミスエたんだ、ゆきぴょんは。
「そう、それだよ亜美ちゃん!」
ゆきぴょんがぱちりと手を叩いておっきな声を出した。ゆきぴょんにはメズラシいね。
「…それなら、亜美にもできるかもね、作詞」
亜美のココロを私はずっと見つめて来たから、ね。

「黎明」、ハジマリのこと、スタートのこと。スタ→トスタ→。ハッピーになる、絶対。
「私のハッピーは、兄ちゃんのユメをかなえること。そのための『黎明スターレス』」
星一つ無くても、ううん、星一つ光一つ無いから、亜美のシアワセがあるよ。だからDaylightはおかしいかな。
「セイソーケンだっけ? 前にガッケンのキョーザイに載ってた紫色、きれいだったな」
フタリの記憶。夢や希望打ち砕かれて。ボクが守るよ。見守っているよ。
「兄ちゃんのユメ、打ち砕かせない。亜美が守る。空からでもカマワナイから」
兄ちゃんのトナリにはいられない。でも亜美は兄ちゃんを守りたい。だから憧れてたはチガウんじゃない?
「空は、空のもっと上に行くことは、亜美の目標だよ。目標だったよ、ずっと」
目と目が逢う瞬間。スキだと気付いた。もう戻れない二人。
「戻るヒツヨーなんて無い。亜美は兄ちゃんがスキ、それがすべてだから」
戻らない道に帰りのキップはいらないかな。亜美が持ってるのは片道のキップだ。
「チキューを離れて空へ、空の向こうへ。チョクセンのキドー。これはサテライトじゃないよね」
Day of the future。壊れた絆。走り出す未来。夢を現実にするため。
「ゲンジツにするよ。亜美ならできる。亜美だけができるよ」
繋がらなくていいや。亜美はそんなんほしくないよ。ただ届けたいだけ、知ってほしいだけ。
「結び合ってなくていいよ。確かめ合えなくても。ただ、ソレを見れれば。兄ちゃんがユメをかなえるのを見れれば」
ポジティブ。悩んでも仕方ない。自分で切り開かなくっちゃダメっしょ。
「亜美が切り開く。もう迷わないよ。もう悩まない。行かなくちゃわかんないしね」
でも、兄ちゃんはコンナトコには来なくてよいや。兄ちゃんはカガヤいてて。アッタカでいて。
「亜美は、もっと先に行くから。空の向こうのウチューの向こう、行けるトコまで」
…ああ、アフレる。ココロがアフレるよ。キラキラした闇に亜美のココロがミタサレてアフレる。そうだよ、そうだったんだ。亜美は知らなかった。やっと気付いたよ。
「『黎明』から『スターレス』だったんだよ、亜美は。キボーなんて無い。ゼツボーしか無い。でも」
口がにやけちゃうな。ウレシイ、ウレシイ、ウレシイ。亜美はやっとわかったんだ。
「亜美は兄ちゃんがスキ。でも兄ちゃんは亜美をスキじゃない。このゼツボーこそが亜美のチカラ。兄ちゃんのユメをかなえるためには、キボーはジャマだったんだ。このゼツボーが、ゼッタイに亜美は兄ちゃんにはアイサレないってゼツボーが、亜美を『黎明スターレス』にミチビいたんだっ!」
亜美は行くよ。「スターレス」でトップに立つ。兄ちゃんをてっぺんに連れて行くよ。亜美は、亜美は、こんなにもミタサレているよ。

私は歌った。サッキョクカのおじちゃんの部屋で、私が創ったばかりの「スターレス」をおひろめする。
バックに流れてる曲が「スターライン」なのがアレだけど、まだこれしか無いからちかたないね。おじちゃんは目をうんと開けて、歯をギリギリとクイシバってた。
「…どうですか。先生。亜美の創った歌詞は。この歌い方は」
兄ちゃんがスワッタ目付きでおじちゃんに尋ねるよ。
「…僕は、音楽が好きだ。だから、良識や社会理念に逆らうような作品を、世に出したくは無い」
カミシメた歯のスキマからおじちゃんはうなる。そうなんだ、おじちゃんは亜美のセカイがキライなんだ。
「…だが、音楽が好きならばこそ、完成させてみたい。『黎明スターレス』、きっとすごい歌になる」
固く固く目を閉じて、何か放り捨てるみたくおじちゃん。
「では」
問い詰める兄ちゃん、おじちゃんはうなずいて返す。
「『黎明スターライン』の『スターレス』アレンジ、引き受けよう。いや、やらせてくれ。他の誰かにされたら、僕は一生後悔する」
「ありがとうございます」
兄ちゃんはおじちゃんに頭を深く下げた。おじちゃんは、その下げた兄ちゃんの髪の毛を握り引っ張り起こす。
「だが、僕は君を許さないぞ! 僕は君のとこの子たちが本当に好きだった。亜美ちゃんもやよいちゃんも本当に好きだったんだ。亜美ちゃんをこんなにした君を、僕は絶対に許さないからな!」
兄ちゃんの耳元で大声でがなった。亜美の兄ちゃんに何するのさ!
「…おじちゃん、手、離してよ」
私はツトメテ冷たい声で言ったよ。
「いいんだ、亜美。先生が怒るのは当然なんだ」
でも兄ちゃんはされるがまま。それ、チガウよ。
「亜美がこうなったのは、亜美が望んだからだよ。亜美は、トップアイドルになるんだから」
「…そうだな。そうだ。すまんなプロデューサー君。悪いことをした」
おじちゃんは兄ちゃんの頭から手を離した。その手を兄ちゃんに突き出す。パンチじゃ無いよ。手の平を開いてね。
「今週中にはアレンジのプランを出す。雰囲気はもちろん亜美ちゃんのやつから変えないが、歌詞も少しいじる。『スターライン』と対になることをもっと強調したい」
「はい、ありがとうございます。よろしくお願いします」
兄ちゃんはその手を取って握手した。それでもおじちゃんは兄ちゃんを怒りの目で見る。
「亜美ちゃんをトップにしよう。『黎明スターレス』をトップに立てる歌にしよう。それくらいで無ければ、亜美ちゃんも誰も浮かばれん」
んで、そんなことを言ったよ。ちょっとスジチガイだよね。亜美はこんなにもミタサレているのにさ。

「亜美、駅貼りポスターの校正来たぞ」
事務所でレンシューしてたら兄ちゃんがおっきなつつを持ってきた。コーセーって、何ソレ?
「渋谷駅とか新宿駅の通路に貼るB0、って言ってもわからないな、とにかくでかいポスターの見本だ。亜美がいろいろ提案してくれただろ?」
言いながら兄ちゃんはそいつを広げる。うわ、ホントにおっきいね。
ポスターの左側にはキラキラ銀色のバックに銀色のダンス服の真美が立ってて、右側にはまっ黒なバックにまっ黒なダンス服の亜美が立ってる。
まあ、どっちも『アイドル双海亜美』なんだけどね。キャッチコピーは「『黎明』から始まる、二つのストーリー」。
「カッコよくできたジャーン! これならやよいっちにも勝てるよー!」
うんうん、カッコいいカッコいい。もうすぐやよいっちのシングルが発売だけど、やよいっちがどれだけ売っても私は、私たちは上を行くよ。
「…それじゃ、俺はやよいの方に行くから。亜美は引き続き事務所でレッスンな」
「わかってるよ、兄ちゃん。シンパイいらないから、行ってらっしゃーい」
私が手を振るのを見て、兄ちゃんは事務所を出て行った。
「シンパイいらないよ、兄ちゃん。亜美はゼツボーを溜め込むからね」
サイコーのゼツボーを、レコーディングに乗せるんだから。

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書いたり書いたりしている流ぬこです。
ピクシブなんかでも同じく流ぬこで書いています。
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